シャープペン盗難事件②
まぁこれを言うのは教師の仕事であって私の仕事では無いから置いておいたとして…。
どうやら給食の時まであったと言うのは間違いないらしい。
…となると給食の時間は皆んなが教室にいる訳だし、この時間での犯行はまずあり得ないだろう。
そうすると、その後の昼休みの間はどうなのだろう?
そう言えば今日の昼休みはクラス全体の親睦曜日と言う事でクラスの人間が集まって全員一緒に遊びましょう、と言う日だったのだ。
何故親睦曜日を設ける事になったかと言うと、ある日の学級会で誰かが
"友達がいると言う事は良いことなんですけど、いつも決まった人達だけがグループになっているので、たまにはなかなか関われない人達との交流も大事だと思います。
なので親睦曜日を作ったらいいと思います!"
と言う意見を挙げた人がいたからだ。
これには脱帽した。
そんな面倒臭そうで勇気のいる事に挑戦しようという思想に辿り着いたその子の好奇心と社交性に頭が下がったのだった。
私はコミュ症だからわざわざそんな事に挑戦しようなどとは自分からは思わないし、自ら挑戦しようなどとという勇気も湧かない。
それは置いておいたとして、状況としては掃除当番以外は全員体育館に集まった筈。
だけど、掃除中の犯行はまず不可能に近い。
言うまでも無いが当番は同じ班のメンバーと言う複数人で当たるものだから当然掃除も複数人で行う。
よって複数人の目がある所でわざわざ犯行を行う様な阿呆な犯人はいないだろう。
私はまた挙手した。
「では昼休みの間はどうですか?
今日はクラス全体の親睦曜日という事で皆んな体育館に行っていたと思うんですが」
そう言うと中神さんは
「…そんなの私だって体育館に行ってたんだから知らないよ」
ん?
つまり…?
「と言う事は昼休みの間は見てないという事で間違いないですか?」
「…それはそうだけど、下田君と松本君以外の人は皆んな体育館に行ってた事は変わらないんだから同じ事じゃない!
大して何も変わらないと思うんだけど。
だって結局昼休みの親睦に参加してなかったのだって下田君と松本君しか居ないんだから」
確かにそういうふうに話を聞くと一見大して変わらないようには聞こえるだろう。
だけどよく考えたら状況次第によっては話の展開が変わるかもしれない。
何故そう思ったかと言うと松本君の体育を休んだ理由が頭痛だからだ。
因みに下田については腕を吊っている所を見ると恐らく骨折で休んだのだろうと言う事は一目瞭然なので特に問題はない。
だから今は松本君が体育を休んだ理由について焦点を当てて考えてみる事にしよう。
考えてみると仮に自分が頭痛がしだしたらまず1番先にどうするか?
薬を予め持参しているのならその薬を飲めば済む話だが、薬を持参してない人の方が割合的に多いだろうと考えると、まず担任に
"頭痛がする"
と相談に行くか、もしくは保健室に直接行くか、もしくはその両方が考えられる。
そう考えると松本君は昼休みの間保健室に行っていたのではないかと考えられる。
つまりずっと教室にいた訳ではない可能性があるのだ。
それを確認してみよう。
そう思って私はまた挙手した。
「下田君と松本君に聞きます。
昼休みの間も2人はずっと教室に居たんですか?
お昼の掃除の間はどのようにしていましたか?」
これは凄く重要な事である。
「僕は保健係だったので先生に松本君に保健室について行ってやれと言われたので一緒に保健室に行きました」
「僕は頭が痛かったので給食が終わった後先生に"頭が痛いです"って言いに行って、そしたら先生が"下田が保健係らしいから保健室行く時に下田に付き添ってもらって"と言ったので、僕は下田君に付き添ってもらって一緒に保健室に行きました。
保健の先生が"あまり辛かったら今日は体育を休んで良いよ"と言ったので、その後職員室に行って先生にその話をしに行きました」
「あ、そうだ!
思い出した!
僕も松本君に付き添って職員室まで行きました」
今の所、お互いが証人と言う感じか。
「里中先生、2人の話に間違いはありませんか?」
私がそう聞くと眉間に皺を寄せて腕組みをしながらパイプ椅子に腰掛けて踏ん反り返っている里中は無言で頷いた。
「では松本君と下田君にまた質問ですが2人が教室に戻って来たのはいつ頃ですか?」
「え〜…。
いちいち時計見てないから分かんねぇよ」
下田が渋い顔をしながらそう答える。
「う〜ん。
例えば戻ってきた時は掃除当番の人とか教室にまだいましたか?
それとも戻って来てからどのくらいでチャイムが鳴ったとか、分かる範囲で構いません」
私がそう返事をすると
「あ!そういえば俺さっきトイレの話をしたと思うんですけど、トイレ行く時に時計をチラッと見たのを思い出しました。
保健室に行ったら保健室が混んでて思ったより結構待たされてたからずっとトイレ行きたかったのを我慢していて、教室に戻ったらトイレ行こうと思ってて、教室の前まで戻って来た時結構時間ギリギリだったから職員室で先生に渡された自習用のプリントを松本に"俺の机に置いといて"って言って渡して急いでトイレ行ったのを思い出しました」
「…ということはつまり、戻って来た時は休み時間終了のチャイムが鳴るギリギリ前辺りだったと言う事で間違いありませんか?」
「う〜ん…確かねぇ37〜8分くらいだったと思う。
時計の針が7の所は過ぎてたから多分そのぐらい」
なるほど。
突然下田君が"あっ!"と何か思い出したような表情をしながら発言する。
「あ!そういえば沢辺お前一回教室に戻って来たよな?
トイレから戻ってくる時お前が教室から走って出て行く所見たぞ」
おっと!?
今度は沢辺君の名前が出てきたね?
下田君に突然名前を出された沢辺君は慌てた様子で挙手。
「俺体育帽取りに来ただけなんだって!
俺じゃねぇよ!
俺が体育帽取りに来た時、松本だって教室に居ただろう!?
俺じゃないって所を松本が見てるだろうが!!」
と慌てて沢辺君も強く反論。
そして石垣さんが
「松本君どうですか?」
と松本君に当てる。
「あっ!そういえば沢辺君教室に一回来ました。
僕は机に突っ伏して寝てたから沢辺君が何をしていたかはあんまり細かくは見てないんですけど、沢辺君が僕が教室にいたからどうしたの?って話しかけて来たのを今思い出しました」
「あ!そうだぞ!
松本が一人で教室に居たから何してんのかなと思って松本に声掛けたんだよな」
と沢辺君。
松本君の頭痛事情を知らなかった沢辺君からしたら当然の反応だろうな。
「なるほど、その時松本君は自分の席で寝てたと?」
「…少なくともその時は。
体育帽取った後俺は直ぐ体育館に戻ったからその後の事は知らないよ?
でも少なくとも俺じゃないって事は分かったしょ?」
なるほど。
まぁわざわざ人に声を掛けてるくらいだから十中八九違うと考えて良いだろう。
下田君と松本君が教室に戻って来たのはチャイムが鳴る2〜3分前くらい。
丁度下田君がトイレに行っている間に沢辺君が来た事を考えると、沢辺君が教室に来たのもチャイムが鳴るギリギリ前。
急いで走って教室を飛び出して行った理由はチャイムが鳴るギリギリ前だったから、と言う所だろう。
…そう言えば、
「下田君、トイレなんだけど…長かった?」
「はぁ!?
う◯こじゃねぇからな!?」
若干キレ気味な下田君。
まぁ仮にそうだったとしてもこんな大々的な場所でう◯こって言い辛いよね。
「あぁ…」
適当に相槌を返した私に
「お前何なのよ!?
疑うんだったら隣のクラスの奴に聞いて良いよ!?
俺個室の方に入ってないから!
隣のクラスの奴とたまたまトイレで会ったからそいつが俺がしょ◯べんしてた所見てるから!」
あぁ、じゃあきっと間違いなく直ぐに戻って来たと考えて良いだろう。
「…と言う事はさっき沢辺君が出て来たところを見たって言ってだけど、下田君と沢辺君は入れ違いで松本君と教室に居たって考えて良いんじゃないかな?」
「…さぁ?
それは知らないけど…じゃあそうなんじゃね?」
と先程のう◯この話題で若干ヘソを曲げた下田君がムスッとしながら答える。
「先生!
とりあえずここまで結論は出ました。
まず1点目中神さんのシャープペンが無くなったのは昼休みの可能性が高い事。
細かく説明させて頂きますと石垣さんと中神さん本人の証言により、シャープペンは少なくとも給食の時間も存在していた事になります。
その後掃除の時間が始まりますが大半の人は体育館に行っているものの、掃除当番は教室に残っている状況になります。
ですが、掃除の間は掃除当番の人達が数人教室にいるので掃除の時間の間もシャープペンは恐らく無くなっていないと考えられます。
何故なら掃除当番と言う複数の目があるところで犯行に及ぶ人間はまずいないものと考えられるからです。
一人変な事をしている人間がいたら凄く目立ちますからね。
犯人だってそこまで馬鹿じゃないと思います。
そしてその後掃除当番の人達も全員体育館に行っている事を考えると、おおよそ掃除が終了すると考えられる時間帯の12時20分くらいから下田君と松本君が戻って来た時間、12時37〜8分までの17〜8分間この教室はずっと無人だったという事になります。
2点目に沢辺君と下田君の目撃証言により松本君が教室で一人になったと言うタイミングは無くなりました。
何故なら下田君と松本君は掃除の時間帯と昼休みの間という、下田君がトイレに行っている瞬間以外はずっと一緒だったという事になります。
その上、下田君がトイレに行っている間は沢辺君が松本君と一緒にいたという事になります。
その時2人が互いに会話をしていた事を覚えているので間違いは無いと思われます。
下田君がトイレで席を外していたのは下田君の証言からトイレの内容が大ではなく小だった為、殆ど一瞬の出来事だったと考えられます。
その証拠に下田君は体育帽を取りに来た沢辺君の姿をトイレから戻ってくる時に目撃しています。
もしも大きい方だったら下田君が戻ってくる時間が小の時より遅くなると考えられ、沢辺君の姿を見る事は出来なかったものと考えられるからです。
つまり下田君と沢辺君の2人は偶然にも丁度すれ違いのように松本君と居たと考えて間違いないと考えられます。
よって、松本君が教室で一人になったタイミングは無くなったと言う事になりますし、体育を休んだからと言って松本君が犯人とは言い切れなくもなりました。
そして3つ目に教室が無人だった時間帯に沢辺君のように途中で体育館から戻って来た人間がいる可能性だって考えられますし、他のクラスの人がこっそりこの教室に上がり込んでいたとしてもおかしくはありません。
つまり松本君や下田君だけでなくこのクラスの全員が容疑者になりえますし、他のクラスの人にだって犯行は可能だったと考えられる為、松本君だけを疑う事はおかしいと言う事になります。
従って今の段階で誰が犯人だ!とかこの人が怪しいと結論付けるのは時期尚早である、という結論に至りますががいかがでしょうか?」
実は本音を言うならば犯人は恐らく女子だろうと思っている。
誕生石やハートのアクセサリーが付いているようなキャラもののシャープペンなんかを欲しがるのは女子ぐらいだと思うからだ。
かと言ってこんな理由だと根拠が薄いので大勢の前で軽はずみな発言はできないが。
そういう理由があってなるべく思想に偏りが出ないように色んな人から話を聞きながら話を纏めようと考えたのだ。
とりあえず誰が犯人かというよりも冤罪される人間が出ない事の方が重要だし。
「…まぁいいんじゃない?
そんな事俺に言われたって分かんねぇし。
そういう結論になったんだったら今日はもういいんじゃない?」
さっきまでは散々松本君の事疑ってた癖に何!?
今のこのどうでもいい感たっぷりの面倒臭そうな態度は。
本当、何でこんな人が存在するんだろう?
こんな人クビになってしまえば良いのに。
本当理不尽な世の中だわ。
「じゃ石垣、学級会閉めて?」
里中がそう指示を出す。
石垣さんもそれに従う。
「じゃあ、これで学級会を終わります」
そう言って石垣さんは自分の席に戻った。
そして里中が
「明日の連絡事項も特に変わった事もないので授業の忘れ物だけして来ないように!
じゃあ今日はこれで終わるから皆んな気を付けて帰れよ。
起立!」
皆んな里中の号令に立ち上がる。
「礼!」
「さようなら」
クラス皆んなが同時に言いながらお辞儀をする。
「はい!じゃ解散!」
里中の指示により皆んな帰り仕度を始め、下校する。
結果的にシャープペンも見つからなかった上に犯人も名乗り出てこなかったが、とりあえずは松本君達の冤罪を避ける事が出来たし物事はひと段落したものと思われた。
…だがしかし、この事件は今後予想だにしない大事件へと発展していく事となるのであった。




