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同窓会

 同窓会は周りの人に服装を見られる手前、数日前に普段は全く服を買わない私がこの日の為に数年ぶりに服を買った。


 流石(さすが)に普段職場に着ていくような、散々洗濯されて色褪(いろあ)せていたり生地(きじ)がヨレてクタクタしている服を着て行く訳にもいくまい、と思ったからだ。

 我ながら自分が生物学的に女と言う性別に該当(がいとう)するとは思えなくなってくる。


 勿論(もちろん)私は低収入で一人暮らしをしている貧乏人なので特別に高い服を買った訳ではない。

 久しぶりに市の中心部に行って手頃な2〜3000円価格で最低限小綺麗(こぎれい)に見えて、無難(ぶなん)に普段でも着回せそうな物を購入して来たのだ。


 こう言う時に普段着ないような個性的な服を選んでしまうと今日着ただけで服をお蔵入りさせてしまう結果になってしまいそうなので、"普段でも着回せそう"と言う所を重点的に考えて真剣に選んだ。


 経験的な所から言うと"可愛い"だけで洋服を選んでしまうのは割とそう言う落とし穴があったりするからだ。

 我ながら日本人ならではの"勿体(もったい)ない精神"をここで発揮できたような気がする。


 今日もいつものように仕事を終えて職場のロッカー室で私服に着替えていると、同じく仕事を終えてこれから着替えるであろう同僚と一緒になった。


「お!相瀬さん、何か今日はいつもとちょっと感じが違う気がするね?」


 と早速新しい洋服に目ざとく同僚が気付く。

 どうしてこうも女って言う生き物は人の持ち物に敏感(びんかん)なのだろうか?

 と言ってる私も一応女なのだが…。

 それにしても一々(いちいち)説明するのが面倒臭いので、


「あぁまぁ、たまには新しく買う事もあるよ」


 と適当に答えた。


「まさか…この後デートとか〜?」


 と軽く冷やかす同僚に、


「もしそうだったら今頃もっと嬉しそうな顔してたと思うよ…。この顔が楽しそうに見える?」


 と人差し指で自分の顔を指す。


「…あぁ、そうだよね。なぁ〜んだ」


 つまらなそうに返事をする同僚。


「まぁ、そう言う事なんで…」


「うん、お疲れ〜」


 と軽く手を振る同僚に


「うん、お疲れ様〜」


 と同じく手を振り返した。

 会社を出た私は例の目的地へ向かう。

 例の居酒屋に着いた私は店の店員に、


「すみません、熊田で予約の席はどちらですか?」


 と聞いた。


「はい、ご案内致します。こちらへどうぞ」


 と店員は方向を手で示しながら案内してくれた。

 御一行の席に近づいた時、


「こちらの席になります。ごゆっくりどうぞ」


 との店員の言葉にて、集まっていた集団の中の数人が私の存在に気付く。


「え?誰か来たの?」


「あぁ、あれって相瀬さん?意外にあんま変わってないね」


「ってかあの人友達いたっけ?」


「さぁ?いないんじゃない?」


「居ないのに来るって凄い勇気だよね」


「プッ…。ま、どうでも良いんじゃない?」


「そうそう、カンケーないカンケーない」


「まぁね。私達別に親しい訳じゃなかったしね」


 わざわざ聞こえると分かってるボリュームで私に当てつける元クラスメート達。

 こう言う人っていくつになっても言う事とやる事が万年一緒だよな。


 いい歳こいてもまだ学生時代にあるあるな(いじ)めの様な嫌がらせをする人間のクズは放っておいて、私は幹事の熊田を探した。


 5〜6人で集まっている女性軍の中に熊田と思われる人物を見つけたので私は


「熊田さんいる?」


 とそのメンバーに話しかけた。


「はぁ〜い。熊田は私で〜す。今は高橋ですけど♡」


 と軽く既婚者である事をアピールする熊田。

 自慢はどうでも良いのでスルーして


「会費3000円だっけ?今払って大丈夫?」


 と重要事項だけ話す。


「あ、そういえばまだ皆んなからお金もらってなかった〜。皆んな今会費集めていい?」

 

 と今更慌て出す熊田。

 開始の時間から考えてもう1時間以上は経ってる筈なのにまだ集めてなかった事に驚いた。


 計画性がない所は昔から変わってないね。

 見た目は当時の面影はあったものの一瞬誰か分からなかったくらい太っちゃってたけど。


 そういえば昔、熊田が学級委員だった時学祭でクラスの演し物の制作に使う牛乳パックやペットボトルを予めクラスに呼びかけておらず、

 ギリギリになってから慌ててクラスに呼びかけて、それでも必要数集まらなくて担任に他のクラスの先生に協力を仰いで呼びかけてもらってやっと集めたって言うエピソードを今思い出したよ。


 今はあの時のように何かがあっても助けてくれる大人や親はいないのだからいい加減しっかりして欲しいものである。

 私は自分の手帳のメモ部分を2〜3ページ破って


「あとで揉めたくないから貰った人の名前をこれに書いていって欲しい」


 と渡した。


「キャ〜♡流石相瀬さん本当真面目♡ホラ、私大雑把(おおざっぱ)だから何も準備してなくてさぁ、ごめんねぇ。」


 自分の計画性の無さを開き直る熊田みたいな人を見ると虫唾(むしず)が走るのは私だけだろうか?

 幹事をやってくれるのはありがたい事だけどお金の事だけは皆んなが揉めなくて済む様に責任持ってキッチリとシビアにして欲しいな。


 後で"払った""貰ってない"などと水掛け論(みずかけろん)になるのは非常に迷惑である。

 会費を渡して私の名前が書き込まれた所まで確認して私は空いている席へ座った。


 皆んなそれぞれ既に飲食を始めている様子だったのでとりあえず私もドリンクを頼んだ。

 用意して置いてあったおしぼりで軽く手を拭いてドリンクを待つ。


 勿論"久しぶりだね!元気だった?"などと会話をする相手はいないのでスマホでヤホーニュースを見ながら時間を潰す。


 本当に良い時代になったよなぁ〜。

 まだガラケーしか無かった数年前はネット環境があんまり良くなかったし、ネットを開いたところで今の時代程面白い物も無かった。


 アプリゲームやソーシャルゲームだって近年の話。

 話す相手のいない飲み会程苦痛なものは無いので、こうして一人で時間を適当に過ごす手段がある事に私は感謝をする。


 頼んだクーニャンが来たので私はそれをチビチビ飲みスマホで時間を見ながら、

 1〜2時間くらい様子を見て適当に理由をつけて帰ろうと考えていた。


 少なくとも私の会いたかった人はここには来ていない。

 この後2次会があるかどうかは分からないけど、少なくとも1次会にすら来なかったのならもう来る見込みが無いだろうし。


 今の所参加しているのは女性軍が圧倒的に多く、私を抜いても10人くらいいるかな?と言う感じで、

 男性側は隅の席で慎ましやかに3人で細々と会話をしている人達のみである。


 まぁ、普通に考えたらそれもそうだろう。

 開始時間が夕方の6時。

 私達の年代を考えるとこの年齢になったら何かしら会社の重役などの、肩書きがつくようなポストに就いている人だっているであろう。


 そうである事を考えればまず重役が残業もせずに定時に帰って来るのは難しいだろう。

 来れたとしても遅い時間帯になるのはまず間違いない。

 それでも全体的な人数で考えたら割と参加人数は多いかもしれない。


 そんな事を考えながらスマホ片手にぼんやりしていたら、後ろから何か気配がして私が振り返ると、どうやら私のスマホを覗いていたであろう人がまるで蜘蛛(くも)の子が散るかのようにササっと集団の中に帰って行った。


 私のスマホには(のぞ)き防止のプライバシーシートが貼ってあるため横から覗いただけでは見えなかったので真後ろに回って見ていたのだろう。

 プライバシーシートをわざわざ貼る理由はこう言う典型的な覗きがいる為である。


 以前会社の帰りの電車の中で向かえに座っていた若い女性がスマホをいじっていて、それを隣のBBAが覗きながら、


 "ウフッ"


 と笑ってたシーンを目の当たりにしてドン引きした事がある。


 その時から、自分も知らないうちに覗かれてる可能性がある事を考えてプライバシーシートを貼るようになったのだった。


 断じて覗かれて困るような事は一切していない。

 だけどプライバシーが守られて無い事自体に私は疑問を感じているのでこれからもずっとプライバシーシートを貼り続けると決めている。


 よく考えてみて欲しい。

 例えば自分の家を覗いている人がいたらそれは立派な犯罪だ。

 しかし、じゃあ家じゃなきゃどうでも良いのか!?と言う所である。


 家はダメで何故スマホは許されるんだ!?


 "キャ〜覗きよ〜!"


 スマホでそう叫ぶ者はいない。

 だがスマホだってプライバシーを守られるべきだ!

 と考え出したらキリが無いので、見られたくない人はプライバシーシートを貼れば良いや♪

 と言う結論に至ったのである。


「あの人一人で何見てんの?」


「分かんな〜い。なんか横から見れないやつあんじゃん?」


「横から見れないやつって?」


「ホラ、横から見ようとしたら画面が暗くて見えないやつ」


「あぁ〜!ハイハイ!」


「あの人ソレ貼っててさぁ〜」


「マジで!?キモッ!」


「んで真後ろに回ったんだけどすぐ気付かれちゃってさぁ〜あんまよく見えなかったんだよね〜」


「プッ…。てかあの人誰とも話さないで何か楽しいのかな〜?」


「キャハハハ、分かるソレ!私もソレ思ったぁ〜」


 あぁまた始まったな、私の陰口大会。

 いるよね、話す話題が無いからって誰かをネタにして陰口を言う事でしか自分の株保てない人。


 更にこちらから言わせてもらうと、わざわざ話題作りの為だけに、


 "横から見えなかったから"


 と、わざわざ真後ろに回ってまで覗きをしに来る人のメンタルの方が"マジで!?キモッ!"である。

 まぁ、こんなのは昔から慣れているが。


 何故スマホでヤホーニュースや日本新聞しかみていなかったかと言う理由はこの状況を予測していたからだ。

 覗かれる事は既に想定内で、覗かれても良いものを開いていたと言う戦法である。


 例えば、例えがちょっと時代遅れだが、仮に誰かとメールをしていたとしよう。


 "あの人誰かとメールしてた(笑)しかも内容が…"


 などと自分の個人情報だダダ漏れな上に、相手が大喜びしそうなネタを一方的に与えてしまう事になる。

 アプリゲームだったとしても同じだ。


 "あの人〇〇ってゲームやってた。〇〇って言うハンドルネームだった"


 などとこれもまた大事な個人情報がダダ漏れだ。

 しかも運が悪い事にたまたまそのメンバーの中に同じゲームを遊んでいる人がいたらもっと最悪である。


 自分の知らないうちに勝手にフォローなりブクマなり(おとり)でサブ垢などから友人申請をされて後々の人生もログイン時間の果てまでチェックされてネタにされる可能性だってあるからだ。


 そしていつかその人の憂さ晴らしの為に


 "あの人ゲームではこんなキャラ演じてるけど現実では…"


 などと私の知られたく無い個人的な事や、本名などの個人情報をゲームでの絡みがある人間にバラしたりされる可能性だってある。


 だからメールでもラインでもゲームでも同じ事だが、本当に大切な失いたく無いものほど隠しておかなければならないのだ。


 もうどれ程ニュースを見ただろうか?

 いい加減に読むのもずっと座っているのも疲れてきた所である。

 スマホ片手に溜息を吐いていると、何やら女性陣がガヤガヤと騒ぎ始めた。


「キャ〜!お疲れ様〜、久しぶり〜♡元気だったぁ〜?」


「うすっ!」


 浅黒い肌に身長が180㎝はあるであろう体格で、ガッチリした腕の筋肉は見るからに


 "体育会系です!"


 とでも良いたげな印象の男が登場した。

 最初は誰だっけ?と言う感じだったのだが、よく見たら当時の面影もあったのでこの男の事を少し思い出した。


 この男は当時熊田が一方的に熱を上げてたっぽい人物で、香川と言う男である。

 女性陣にキャーキャー言われてる所を見ると、この人結構モテてたんだなと今知った。


 奥の席で(つつ)ましやかにしている地味ー(ジミィ)トリオには誰も"キャー"ともスンとも言ってあげないんだなと思うと少し不憫(ふびん)に思えてきた。


 世の中結局、顔ですか…?

 とりあえず来たのが私の待っている"あの人"ではないことは分かったので、再びスマホに視線を向き直すと、


「相瀬さーん!!ホラ!香川君来たよー!!何か話しかけないの!?」


 と熊田が大きな声で私を呼ぶ。

 何故私が今突然引き合いに出されたのだろうか…?

 と言う疑問から、


「えっ???」


 と私はまごまごしてしまった。


「相瀬さんの好きな人って香川君じゃないのー!?」


 香川が好きなのはお前だろーーーーーっ!!!!!

 と心中激しくツッコミを入れた。

 これは真面目な話だが、残念ながら香川は私の想い人ではない。

 と言うか仮にそうであったとしてもこんなに公然の場で大きな声で言うとか、虐め以外の何者でもないな。

 私が溜息を吐いていると、


「オイ、お前そういうの勘弁しろよ!オレそう言うの困るんだって」


 何を勘違いしたのか香川や香川を取り囲んでいる皆の衆が、

「ヒューヒュー〜」


 などと何とも今時冷やかしにも古めかしい声を上げながら勝手に盛り上がり出した。

 もはや馬鹿馬鹿しすぎて否定するのも面倒臭いんだが、

 ここは面倒に巻き込まれた分の恨みと言う事で、

 相手の鼻っ柱(はなっぱしら)を折ってやろうと思った。


「えぇ〜……コホン。大変盛り上がっている所大変申し訳ないんだけど、単純にタイプじゃないんだ♪

 勘弁して欲しいのはこっちも同じ、大喜びしてる所ガッカリさせてゴメンね」


と、私は作り笑顔の満面の笑みを浮かべながら反論した。


 えっ…


 何コイツ…


 相瀬の分際で…


 などとヒソヒソ声が聞こえる。

 さてと、そろそろ帰り時だろう。

 そろそろニュースも見飽きて退屈していたところだったし、丁度良い具合に現場も凍りついた。

 熊田の言っていた"あの人"は熊田が好きだった人、(すなわ)ち香川の事だったと判明もした。

 私はこの辺でお役御免としよう。


 (ほとん)ど氷だけになったクーニャンの最後の一口を飲み切り、


「じゃ、私明日早いからそろそろ帰るね、お疲れ様」


 と言って居酒屋を後にした。

 当時の私のカムフラージュは上手く行っていたようで安心した。

 誰もが私の好きな人は香川に違いないと思っていた様子だった。


 何故そんな誤解を与えてしまったのか分かり兼ねるが、きっと何か連絡事項でも伝えるのに話かけた瞬間でもあったのだろう、程よく勘違いしてくれたようだ。

 人によって物事の見え方がこんなに違う、と言うことを改めて実感した。











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