受験シーズン
そろそろ中学、高校で言う学校祭の季節だ。
私の通っている小学校ではそれをこども祭りと言っている。
今日は5時限目を使って学級会を開き、クラスの演し物についての話し合いだ。
色々な案が出された。
ボーリングコーナー、ダーツコーナー、お化け屋敷、何かの展示物などだ。
お化け屋敷に票が集まる。
まぁ子供ってなんかお化けが好きだよね。
お化け屋敷をやりたい人が圧倒的に多く、クラスの演し物はお化け屋敷をやる事になった。
次は誰が何のお化けをやるか、が議題だ。
主なお化けを各々で挙げて行くと、お菊さん、ぬりかべ、鬼三郎、ろくろ首、猫女などなど以下省略。
いつもの如く私は余った役でいい。
出来るだけ楽をしたいなぁと思うのが本音な所だが。
う〜ん…想像通りと言うか…。
余ったのはぬりかべだった。
…仕方ないぬりかべでいいか。
まぁ、他のお化けに比べたら作る物は簡単だからこれはこれで良かったと思う。
この日は帰宅した後早速近所のスーパーでダンボールをいくつか貰い、翌日学校に持って行く。
学祭の準備を進めていい時間に美甘ちゃん達と集まりながら各々の必要物品を作って行く。
美甘ちゃんは猫女、凛子ちゃんはろくろ首をやるそうだ。
2人とも絵が上手いな。
こう言う時に絵を描ける人って凄く有利だと思う。
羨ましい。
順調に準備も進み、
―当日―
年に一度しかも授業がなく、遊びに来ているようなものであるお祭り当日はクラスの皆んなのテンションも高く、朝から友人とやたら戯れあっている人もいるくらいだ。
朝のホームルームが終わり早速こども祭りが始まり、私達も準備を始める。
各々の作ったお面や衣装に着替え、絵の具でメイクも始める。
そしてお化け屋敷が始まった。
私は他の木の幽霊の役の人と並んで立って通りかかった人をおどかすのが役目だ。
お!あれは低学年くらいの子かな?
小さい子達が
「ヘン、怖くねぇよ、こんなの平気さ!
幽霊なんかいねぇんだからな!」
などと言いながら仮装された教室の中を歩いて来る。
お化け屋敷らしく私は横から
"ワッ"
と声を出しておどかしてみた。
その瞬間低学年の子らしき少年が
「ギャーーー」
という声を上げたかと思ったら次の瞬間、
「このやろう!
幽霊なんかやっつけてやる!」
と言いながら意気込んだ少年に思いっきりタックルをかまされて
「ギャーッ」
私が悲鳴を上げて後ろにひっくり返ってずっこける。
痛った…。
ちょっと勘弁してよ…。
今のめちゃくちゃ痛かった。
思いっきり尻餅をついた挙句に、倒れ込んだ時の衝撃で後ろの方のセットが壊れたのだった。
私は盛大に打ったお尻と腰をさすりながら壊れたセットを並べ直して引き続きお化け役をやる。
今日一日しか使わない物だから許してね、などと心の中でこのセットを作った人に謝る。
それにしても身体が若くて良かったな。
もし身体の年齢も実年齢だったら身体中の骨がバラバラになってたかもしれないわ!
お化け屋敷ってかなり危険な催しだと思う。
ねぇ、本当これ思うんだけど生きてる人間の方がよっぽど強いと思いませんか…?
そしてその後、手の幽霊役の人が
「ゔぅ…」
とゾンビのような声を上げながら絵の具で真っ赤に塗りたくった手を横から伸ばすと、
「幽霊なんか怖くないよ!
何さ、えいっ!」
と意気込んだこれまた低学年くらいの女の子に思いっきり手を叩かれていた。
手を伸ばしていた手の役の人は即座に手を引っ込め、ダンボールで作られた壁一枚隔てた裏側で
「いってぇ!!!」
「思いっきり叩かれたんだけど!!」
「ぷっ…、ドンマイ」
とか言っているのが聞こえる。
この声は…。
どうやら被害に遭ったのは新道らしい。
一緒にいるのは何となく声の感じから鴨居っぽいな。
やっぱり生きてる人間の方がよっぽど怖いよね…。
とりあえず今年の催しは幽霊の方が被害に遭っていたお化け屋敷だった、という感じで終了した。
学校祭も終わり、気づいたら季節も冬になり今年もまた冬休みの季節がきた。
―冬休み―
私がいつもの日課をこなしているとリビングの方から朝から怒鳴り声が聞こえる。
ま、私の知ったこっちゃないよね。
引き続き勉強をしているとリビングの方から
「オイ!!
雅!!
ちょっと降りて来いや!!!」
毒父の怒鳴り声での呼び出し。
え…私何かしたっけ…?
思い当たる事が無い所からすると不当なとばっちりを受ける可能性が高い事を瞬時に予測した。
今度は何をされるのだろうか?
と思い、一瞬で血の気が引き冷たくなった手を握り締めながら恐る恐る階段を降りて行く。
「オイ、そこ座れや!」
毒父に指定された場所に恐る恐る無言で正座する私。
「オイ、お前今何年生の勉強してんのよ?」
今回の件と何か関係があるのだろうか?
質問の意図が分からないので、こう言う時は下手にハッタリや見栄は貼らない方が良いだろう。
「…中学2年生くらい…ですね」
「ふ〜ん…、お前速にちょっと勉強教えてやれ!」
えぇぇぇぇ!?
やだよ、ヤダ!!!
面倒臭いし、この人無駄にプライド高いから絶対言う事聞かないし嫌だ!!
絶対疲れるだけ!
「え…私は人に教えるの苦手だし、塾とか家庭教師とかつけた方が…」
「コイツに家庭教師付けたって全っ然ダメだったんだわ!」
知らないよ、そんなの。
それさ、本人の問題であって誰が相手でも解決するのは無理だと思う。
本人が危機感を持ってやろうと思わなければどうにもならないと思う。
本当、私の未来Aを見せてやりたいくらいだ。
あの時の私は今の毒姉のポジションにいたんだから。
それが気持ちの持ち方次第で現在に至る訳で…。
だから何をやっても本人に変わる意志がないと変える事は不可能だと思う。
と言う事を私は私自身に対して実証済みなんだよね。
「う〜ん…家庭教師の先生でさえ無理だったのなら私がやっても何とかするのは無理だと思う」
「いいから見てやれ!!」
毒父がキレ出す。
「うちから偏差値の低い学校なんかに出したら親戚中に何を言われるか…最低でも公立高校に入れないとよ」
自分も勉強しなかった癖に凄い発想だよな、それ。
自分だって偏差値の低い学校出たんでしょ?
まして自分は最低限の偏差値の公立高校すら入れなかったんじゃん!
蛙の子は蛙じゃないか。
アンタ達は丁度良いコンビだと思うのだが?
色んな意味でソックリですし。
「いや〜…私も受験生に教えられるほど勉強進んで無いし…」
こっちだって塾の宿題とかやらなきゃいけない事沢山あるのに何で人の面倒なんか見なきゃいけないのさ。
しかも小学生に勉強を教えられる受験生って本人のプライドもズタズタだと思うのだが。
それじゃなくても今まで散々
"私は、私は、私は"
と強く自己主張を続けてきた人なのに。
ここへ来て化けの皮が剥がれただけでも本人は恐らくショックを受けている事だろう。
今まで言い訳ばかりして生きてきてその場を上手く誤魔化せて来たとしても、最終的に結果は嘘をつきませんでしたね。
こういう事があるからやっぱり世の中結果が全てだと思うんだよね。
「良いから分かるところだけでも良いからちょっと教えてやれ!?
ただとは言わねぇ、1日見てやったら1000円やるからよ」
えぇぇぇぇ!?
絶対割に合わない!!!
だって、それ時給いくらさ?
それ単に家庭教師代ケチりたいだけじゃあ…。
しかも1時間じゃなくて1日だからね!?
ヤダ!!!
「い…いや〜…、私も塾の宿題が沢山ありまして…それをやらないと…ですねぇ…」
「うるせぇ!!!
お前の宿題なんかいつでも出来るんだわ!!」
はぁ〜!?
じゃあ代わりにやってみて下さいよ?
大人でも難しいから。
「…1日3000円やるからガタガタ言わねぇで毎日見てやれ!」
3倍に上がった!
別に値段の交渉したかった訳じゃ無いんだけどな…。
まぁどちらにしろ断れない空気だし、小学生で1日3000円は凄いしなぁ〜。
まぁ、これでも割には合ってないとは思うんだけどね。
進学費貯めるためにちょっと頑張るか…?
私の時は毒姉の時のように甘やかしては貰えないから。
こういう時第一子って無条件でやたら特に出来てるよね。
世の中本当、不公平だわ。
「…はい…」
嫌々ながら私は断れず小さく返事をした。
「オイ、速!
お前が普段からちゃんと勉強しねぇのが悪いんだから雅の言う事ちゃんと聞けよ!?」
毒父が毒姉に怒鳴る。
「…はい…」
毒姉も嫌々だが事態が事態なだけに嫌とも言えない空気なので小さくそう返事をする。
「分かったら2人とも早く部屋に戻って勉強しろ!」
毒父がそう言って私達をリビングから解放する。
さて、どこから始めさせたら良いのだろうか?
言っておくが私は人に教えられる程理解をしている訳でもないし、どう教えて良いのかもそもそも分からない。
本当に何をやって良いか全然分からない。
私を頼るよりもやはり毒姉には家庭教師でも雇って欲しかったものだ。
とりあえず今は冬休み。
休みが明けて3学期になったら受験シーズン真っ只中。
つまり学校のテストは3学期末テストがあるくらいで、しかも言っちゃいけないかも知れないけど、それの勉強を必死こいてまでするメリットがあんまり無いんだよなぁ。
同じく必死こいてやるんだったら受験対策を必死こいてやった方が良いと思う。
要するに学校の勉強はほぼ捨てた方が速い。
そりゃあ普段から勉強をしていて両方やれるのなら学校の成績はランクに直結するからやった方が良いけど。
ここまで何もやらずに来たのならもう付け焼き刃じゃ無いけど、ひたすら受験対策で過去問を解いたり過去問の勉強した方が良いような気がするんだよね。
結局は当日の点数が重要な訳だし。
まぁ、あくまでも個人的な意見なんだけどさ。
毒親に受験対策用に過去問を書店で買って来たいと言う旨をリビングに戻って話し、その代金を受け取る。
そして毒姉には宿題が終わってないのならそれを先に終わらせてしまうように言っておき、私は買い物に出かける。
受験過去問と書いた問題集をパラパラとめくる。
懐かしいな…私もこういうのをやっていた事があったな。
過去を懐かしんで黙読しながら問題を解いてみたりする。
あの頃の自分と比べて今は圧倒的に学力がついたんだろうな。
不思議となんでこんな問題が解けなかったのだろう?と思ってしまうほど今は解けるようになっていた。
我ながら頑張ったな…。
自分の日々の努力に対して少し自信が持てた。
過去問は5教科の去年からの3年分が総集されている物を買った。
何を買って良いかもよく分からなかったけど、とりあえずこれでいいだろう。
家に帰って過去問を毒姉に解かせる。
「出来たら教えて?
答え合わせするから」
そう言って姉の机スペースの横にローテーブルを置いて私は塾の宿題を進める。
そして推定30分後くらいの時
「…出来た…」
そう言って私に答えを書いたルーズリーフを差し出す。
私は解答を見ながらそれの丸つけをする。
…ぇ…ヤバくない!?
と言う言葉が出そうなほど点数は絶望的なものだった。
受験まであと2ヶ月くらいだと言うのに、これはマズイわ。
とりあえず社会科とか暗記物は教えるも何も無いと思うので、毒姉には今日間違った所はちゃんと明日には覚えていられるように暗記しておいてね。
とだけ言っておいて数学に取り掛かった。
「まず三角形の合同条件は3つあるんだけど、それに関してはどうして?も何も無いから合同条件ちゃんと覚えてね!
3組の辺がそれぞれ等しいか、2組の辺とその間の角がそれぞれ等しいかもしくは1組の辺と…」以下省略
などと諸々の問題の解説が終わった時毒姉はムスッとした表情をしながら
「ちょっと知ってるからって本当、偉そうに…。
どうせアンタ私の事馬鹿だと思ってるんでしょ?」
とブツブツ文句を言いながら問題をやり直す毒姉。
うん、思ってる。
自覚してんだったらもうちょっと人に迷惑がかからない程度まで努力しろよ。
大体こんなのも解けないでよくぞ今まで私の事を散々馬鹿にしてくれたね!
文句があるんだったら自分で勉強しろよ。
こんなものも分かんないでアンタの方が偉そうだわ!
言い返したい事は山ほどあるが無駄な労力を使いたくないのでなるべく争いは避ける事にし、毒姉の言葉を無視して私はさっさと続きを進める。
「じゃあ次英語ね!
え〜と…和訳が
"これはボブが昨日買ってきた飴です"
これは関係代名詞+主語+動詞の形が入るって覚えるしかない。
まずThis is the candy which Bob bought yesterday ってなるんだけど、因みに関係代名詞ってwhichの事ね。
まずこれは飴ですという文を作った後にどんな飴なのかを説明する文が関係代名詞で、先行詞が物の時は…」以下省略
「…何でtheなの?a candyとかじゃ駄目なの?」
「…どんな飴かが限定されてる物だからでしょ。
文にボブが買ってきた飴だって書いてあるじゃん。
こう言うtheの使い方って中1で習わなかったっけ?」
ため息をつきながらやっていると毒姉が
「…さっきから随分態度がデカイよね、アンタ!?
ちょっと勉強出来るからって調子こくなよ?お前!」
「そんなに文句があるんだったら自分で勉強しろよ、自分でそうやって親に言えよ!」
毒姉の横柄な態度についに私も堪忍袋の緒が切れた。
何も言い返せず黙る毒姉。
言い訳ばかりして踏ん反り返って生きてきたアンタのハリボテ人生もここで終わりだな!
自業自得だ。
そして毒姉は文句を言えなくなったのもあり、ムスッとしながらも私に勉強を教わっていた。
そして私も精神的に凄く疲れたのであった。
ある程度で切り上げ、宿題を出して今日の勉強を終える。
そして
―翌日―
朝毒姉の部屋に行く。
今日はお昼から冬期講習があるのでそれまでの小1時間の間ちょっとやろうと思ったのだ。
毒姉は気持ち良さそうにまだ寝ている。
私が起こすと
「勉強は昨日沢山やったから今日はもうやらなくて良いよ」
よく分からない理由だった。
昨日この人の得点が低得点だった理由がよく分かった。
ま、この人の受験がどうなろうと私の知った事では無いので放置する事にした。
私が自室で自分の勉強をしていると毒父が突然部屋に乗り込んできて
「オイ、速の勉強どうなったのよ!?」
知らないよ。
と言う本音を飲み込み
「寝てるよ。
さっき起こしたけど昨日勉強したから今日はもうやらなくて良いんだって」
毒姉に言われた事をそのまま報告する私。
「アイツ…!!!」
毒父はキレだし毒姉の部屋に勢いよく乗り込む。
「オイ!!!
速!!!」
毒父の怒鳴り声に毒姉はビックリして目を覚ます。
「…は…っす…すいません…。
い…い…今…べ…勉強を…」
寝起きですっかり頭がテンパっている毒姉。
滑稽だ。
「自分の事だべや!!!
ア"ァ"!?
お前、うちから偏差値低い学校に出していいと思ってんのか!?
ア"ァ"!?」
そう怒鳴りながら毒姉を殴りつける。
し〜らない。
我関せず。
この人には同じ思いを散々させられて来たからね。
しかもアンタの場合は私と違って因果応報だから。
冷ややかな目で現場を見つめる。
はぁ〜やだやだ面倒臭い。
そもそも私は普段からちゃんと勉強してるんだから巻き込まれる筋合いも無いんだよね。
ま、恨むんだったらDVをする毒父を恨みなよ。
毒姉は泣きながら毒父に
「ひっ…すいません…今やります…ひっ…ひっく…」
泣きながらそう言う毒姉。
「ちゃんとやるってよ、雅早く勉強見てやれ!」
…はぁ結局押し付けられるんだね。
ため息を噛み殺しながら過去問のテキストを開いて毒姉の机に置く。
そしてこの日から毒姉は大人しく勉強をするようになった。




