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神社祭り

 今は夏休み。

 毎日恒例の宿題と自由研究、そして夏期講習。

 いつものノルマをこなしながら過ごしていたある日、友人の凛子ちゃんから電話がかかって来た。


「もしもし、凛子ちゃん?

 急に電話来たからびっくりした、どうしたの?」


 私が電話口でそう言うと、


「あ、雅ちゃん?

 雅ちゃん日曜日空いてる?」


「日曜日って今週の?」


 そう言いながら何ともなく壁に掛けられているカレンダーに目を移す。


「うんそう」


「うん日曜日だったら暇だけど、どうしたの?」


 私がそう返事をすると、


「実はさ、うちの近所に小さい神社があるんだけど、日曜にその神社でお祭りがあるらしいんだよね」


「へぇ〜そうなんだ!」


「でね、さっき美甘ちゃんも誘ったんだけど、雅ちゃんも行かない?」


「面白そうだね、いいの?

 私も行って」


「もちろん!

 雅ちゃんも来てよ、絶対楽しいから!

 あんね、毎年ジュースの早飲み大会とかケンケン相撲大会とか色々あって結構楽しいんだよー!」


 凛子ちゃんが凄く嬉しそうに話す。


「うん」


「早飲み大会とケンケン相撲は子供は全部タダで誰でも参加して良いやつだし!

 早飲み大会に何回も参加すればジュースいっぱい飲めるよ!」


 さては凛子ちゃん、それが目当てなんだね。

 うふふ…。

 微笑ましくてつい笑いが漏れそうになる。

 本当、可愛いなぁ。


「うん、じゃお言葉に甘えて私も行こうかな?」


「本当!じゃあ明後日朝10時くらいに…う〜んそうだなぁ〜…うちの近くにさぁ業務スーパーってあるんだけど知ってるー?」


「業務スーパー?」


 どこら辺だ?

 困った、分からない…。


「他には何か目立つ建物とか公園とかあるかい?」


 私がそう聞くと、


「う〜んと…近くにねぇビリビリ公園ってあるんだけど、雷の形をしたでっかい銅像があって…」


 これまた随分適当な名前の公園だよな。

 きっと雷のでっかいオブジェがあるだけで、雷と公園は特に何の関連性も無いんだろうな。

 凛子ちゃんって色んな意味でツボかもしれない。

 私は笑いを堪えた。


「住所ってどの辺?」


「緑の森緑町の…」


 と教えてくれる。

 あぁ、多分あの辺…。

 何となくだけど方角はちょっと分かったわ。

 私あんまり地図読めないタイプなんだけどさ。

 とりあえず、業務スーパーやらビリビリ公園とやらを探してみますか!

 多分家にも地図くらいはあるだろう。

 そう思って私は


「とりあえずその辺の近辺まで当日行ってみるよ!

 んでビリビリ公園を探してみるわ!」


「うん、分かった〜」


 話がまとまったのでじゃあ当日ね!と互いに挨拶を交わして電話を切る。

 そして


 ―お祭り当日―


 朝8時にジリジリ鳴り出す目覚ましを止めてまだ眠いな…と二度寝したい気持ちを堪えて渋々起きる。

 低血圧気味の体質で急に立ち上がると目の前が真っ暗になるので暫し座ったまま過ごし、近くに置いてあるヘアゴムで軽く髪を束ねる。

 そして立ち上がってようやく起きる。

 適当に牛乳を飲みながら食パンを焼いて朝ご飯を食べる。


 まだ時間に余裕がある事を掛け時計で確認しつつ歯を磨きに行く。

 服を着替えて腕時計をし、財布とカバンを用意する。

 財布にはいつもは3000円だけ入れて机にしまってあるのだが、今日持ち歩くのは1000円…いや500円だけにしよう。


 沢山持ち歩いてしまうと無駄に使いたくなってしまうし、落とした時凄くショックだからだ。

 かと言って今日は一応お祭りらしいし。

 お昼とか食べ物の匂いを嗅いでお腹が空く可能性もあるし、友人達もお祭りでお昼を食べるかもしれない。

 その時に自分だけ何も無いのは切な過ぎるし。

 パン1個とお茶の1本でも買えるくらいのお金はあった方が良い。


 普段はお金を使わないように気をつけているのだがこういう、誰か人と出かけると言う機会は滅多に無いので500円くらいなら使ってしまっても大丈夫であろう。

 そう考えて500円だけ持ち歩く事にしたのだった。


 昨日リビングの隅で埃を被っていた地図に目を通して一昨日凛子ちゃんが言っていた住所の辺りを目指してその方角へと向かって歩く。

 思えばこっち方面は来た事が無かった。


 同じ町に何年暮らしていても用事のない場所って本当に来ないものだなぁと思った。

 途中途中でこの方角で合ってるよね?と曖昧ながら歩いていく。


 あ、確かこのコンビニから曲がって行った所辺りだったと思うんだけど…。

 そう思いながら不審者の様にキョロキョロと辺りを見回しながら歩くと小さいこじんまりとしたスーパーのような建物があった。

 造りも古いせいか暗く見える為、店が開いてるのか閉まってるのかすらよく分からない感じだ。

 こう言う建物を見ると自分の住んでる地域って結構田舎の方だよなと改めて思う。


 若干中を覗き気味に通り過ぎる。

 これって凛子ちゃんが言ってた業務スーパーかな?

 って事はこの辺にビリビリ公園があるって事だよね?

 私は公園と雷のオブジェとやらを探しながら歩いた。


 少し歩いて行くと何やら人の出入りが多い場所が見えた。

 あ、もしかしてお祭りやってるのあそこかな?

 そしてその近くの公園で子供達が走り回っているのが見えた。

 あ、もしかしてビリビリ公園ってここ?

 公園の真ん中には稲妻の形をした大きいオブジェが建っていた。

 公園入り口に近づくと公園の標識があって


 "ビリビリ公園"


 "公園内での花火禁止"


 "車の無断駐車禁止"


 "犬の散歩はマナーを守り、糞便は持ち帰りましょう"


 と書いてある。

 滑り台とシーソー、ブランコ、砂場、そして何か変な回るやつがあるだけのどこにでもあるような小さな公園だ。

 今日の待ち合わせ場所はここである。

 私は公園のベンチに座って時計を見た。

 約束の時間までまだ15分ある。


 思ったよりも迷わず来る事が出来たので時間が余った。

 公園で元気よく子供達が遊んでいるこの情景を見るとあと5〜10年後くらい辺りからはこんな風に子供だけで外で遊ばせる親はだいぶ居なくなるんだよなぁとなんとなく寂しく感じた。

 恐らく2000年以降の親がこの光景を見たら


 "it’s fantastic!"


 とでも皮肉を言うだろうな。

 未来Aの時代は凄く便利で何でもあるが故に凄く悲しい時代でもあるよね。

 たけどスマホも何も無いこの時代が全部良かったのか!?と言われれば不便さに困る事が多いが故に無駄の多い時代でもあったと思うし。

 どの時代を見ても全てが良い時代なんて無いんだよね。


 だって時代は人間が作っている物なのだから人間に完璧は無いのだから。

 そんな事を考えながら感傷に浸っていると丁度良い時間だったらしく凛子ちゃんと美甘ちゃんが


「だ〜れだ♪」


 そう言って目隠しをしてきた。

 声で分かるし、こんな事してくるの2人しかいないじゃん(笑)

 懐かしいな、こう言うの。


「美甘ちゃんと凛子ちゃんでしょ?」


「あったりぃ〜!」


「やっぱ分かっちゃう?」


 そう言いながらケラケラ笑う2人。


「分かるよ〜、声で分かるって!」


 私も笑いながら返事をする。


「お祭りねぇ11時からだって」


 なるほど、大人達だけがせかせかと忙しそうに出入りしていたのは出店やイベントの準備をしているからだったのだろう。


「そしたらそれまで何かして遊んでようか!」


 と美甘ちゃん。


「良いよー、何する?」


 私が言うと


「う〜ん、どうしよう?」


 と凛子ちゃん。


「3人で遊べるやつにしよう!

 あれなんてどう?」


 私は変な回るやつを指差した。

 あれなら数人で乗れるし丁度良い。

 更に丁度良い事に誰もそれで遊んでいなかった。


「あ、良いね良いね!

 行こう!」


 美甘ちゃんが走り出した。

 凛子ちゃんもそれに続いて走り出す。

 私もそれを追いかける。


「先に私が回すから2人とも乗ってー」


 そう言って私は力一杯回す。

 良い頃合いで私も漕いでる足を止めて乗り込む。

 凄い勢いでドーム型の遊具が回り出す。


「キャ〜、ちょっと回り過ぎ!!」


「ぎゃー、アハハ、アハハ」


 私達はキャーキャー叫び声を上げながら回る遊具で遊んでいたら、他所(よそ)の子も私達が楽しそうに見えるのか羨ましそうに目線を送ってる。

 遊具が止まったタイミングで


「他所の子も乗りたそうにしてるから一緒に乗せてあげてもいいかい?」


 2人に聞くと


「うん、良いよー。

 乗りたい子いたら一緒に乗って良いよー」


 2人とも快く了承してくれる。

 回りで見てた子達も遊具に乗り込んだ所でまた漕ぐ。

 皆んな楽しそうに


「キャー、アハハアハハ」


「ギャー、ワーッ」


 などと叫び声を上げながら喜んでいる。

 そして数回繰り返した後、目が回った…。


「…ねぇ、2人とも…」


 私がそう言うと、何が言いたいのか2人にも伝わった様子で


「う…うん…、私も…」


 2人も胸のあたりを手で抑えながら苦笑いしてそう言った。

 まだ遊びたい子達に遊具を譲って私達は時間までベンチで休んだ。


「ねぇ、この状況で早飲み大会するの…?」


 と私が言うと美甘ちゃんが手を叩きながら笑う。

 凛子ちゃんも笑いながら


「私も出来そうだったらにするわ、今ちょっと無理かも…」


 私、今青春してるかもしれない。

 小学生だけど。

 こんなに楽しかった思い出は今日まで無かった。

 今までずっと何も無い空虚な毎日だったから。

 でも今は楽しい。

 人がいるってなんだか…楽しい…。


 そして時計の針も11時を回り、あちこちの出店の方も準備が整ったようだ。

 物はやはりお祭り価格。

 安くはない値段だった。


 朝ご飯を3時間前くらいに食べたばかりなので特にお腹は空いていないので見るだけで過ごす。

 そしてイベントコーナーのところに行くと凛子ちゃんの楽しみにしていたジュースの早飲み大会の準備中だった。


「凛子ちゃん体調どう?

 もうちょっとで早飲み大会始まりそうだけど」


 私が言うと


「うん、さっきはかなりキツかったけど今だいぶ落ち着いた」


「美甘ちゃんは?」


 美甘ちゃんにも聞く。


「うん、私も大丈夫そう!

 雅ちゃんは?」


「うん、私も大丈夫!」


「OK!じゃ3人で出よう!」


 美甘ちゃんは拳を軽く振り上げた。

 3人で談笑しながら待ち、その後大会は開かれた。

 飲み物は缶コーラだ。

 よく冷やされていたであろうコーラの缶は外気に触れて汗をかいている。

 普通に飲むのなら砂漠にオアシスの気分だろう。

 大会のルールは最大で1ラウンド1分、その中で1番早く飲みきった人もしくは1番沢山の量を飲めた人が勝者で、勝者にはちょっとしたお菓子の景品があるらしい。


 景品の所をチラリと見ると一袋30円〜60円くらいのミニスナックと10円の飴玉や麩菓子(ふがし)の様な物が推定100円分程詰め合わせてある袋が沢山置いてある。

 あれがきっと景品なのだろう。


「よ〜い、スタート!」


 大会の進行役のおばさんがそう言ってピーッとホイッスルを吹く。

 慌ててコーラを飲み込むも缶だからか炭酸がキツく感じる。


 "ブフッ…"


 むせかけながらコーラを飲み込む。

 今にも鼻からコーラが戻って来そうな思いだ。

 私これ絶対向かない。

 コーラは…ゆっくり飲むから美味しいんですよ…。

 心の中でそんな風に言い訳をしながら飲んでると、ピーッと試合終了のホイッスルが鳴った。


 え…もう飲み終わった人いるの!?

 そう思って横を見渡すと手を挙げている美甘ちゃんがいた!

 早っ!!

 もう飲んだの!?

 美甘ちゃんは景品を貰っている。

 嬉しそうだ。


「滅茶苦茶早いね!」


 私と凛子ちゃんがそう言うと


「私ああ言うの飲むの結構早いんだよね♪」


 得意気にピースをする美甘ちゃん。

 美甘ちゃんの隠れた特技を知った。


「あれさ、早く飲もうとしたら喉痛くなんない?」


 凛子ちゃんが言うと


「そこをぐっと我慢するのさぁ」


 美甘ちゃんが拳を握りながら言う。

 隣のコーナーを見るとケンケン相撲をやっていた。


「ねぇねぇ、こっちでは相撲やってるみたいだけどやってく?」


 私が言うと


「うん、良いよー」


 2人とも頷きながら言う。

 ルールはケンケン相撲で勝ち抜き5人対戦。

 連続で対戦相手に5回勝った人が勝者で、景品はテーブルに並んでいる家庭用品の中から1つ好きなものを持って行って良いと言う感じだ。

 並んでいるものは洗面器や洗濯洗剤、台所用のクリーナーなど主婦の人なら喜ぶ品だ。


 今のところ勝ち進んでいるのは…

 あ、あれクラスの勝木(かちき)さんじゃん。

 勝木さんは同じクラスの女子で、例えるならば凛子ちゃんの身体を2人分合わせたくらいの恰幅の良い体格をしている子だ。


「ねぇ…勝てる気しないんだけどどう思う?」


 美甘ちゃんが凛子ちゃんに言う。


「うん…私もそう思う」


 3人とも顔を見合わせながら無言でその試合を見守る。


「…とりあえず、折角お祭りに来た事だし参加だけしてみる…?」


 そう言うと2人は


「まぁ…じゃあ参加だけ…」


 あまり気乗りしなさそうな返答。

 そして凛子ちゃんが先に出場。

 1回戦目は相手の子も似たような体格同士だったのもあって無事勝利したものの、次の対戦相手は勝木さんだった。

 試合開始のホイッスルが鳴った瞬間、まるでベイゴマの試合のように凛子ちゃんは飛ばされて行った。


 そして早飲み大会では活躍した美甘ちゃんも相撲においては勝木さんには及ばず場外に弾き飛ばされる。


「絶対無理だって!

 勝てる訳ないよ!」


 そう言いながら美甘ちゃんはちょっと悔しそうだった。

 そして私の出番…だったのだが、勝木さんの迫力に負けてついつい場内を逃げ回るも最終的に


「ふんっ」


 と言う勝木さんの掛け声と共に体当たりされアッサリ場外へ…。

 そんな様子を見ながら2人は爆笑していた。


「ごめん…雅ちゃん、笑っちゃいけないんだろうけどさ…何かおかしくって…ブッ…」


 そんな風に笑いを堪えながら2人は言う。


「だって凄い勢いで迫って来るからさぁ、なんかついつい逃げちゃったんだよね…」


 私がそう言うと


「うん、分かるよ、分かるんだけどさ…ブフッ…

 も…もうダメ…。

 アハハハハハ、ギャハハハ!!

 ウケる!

 苦しい!

 ハッハッハッハ…!!!」


 勢いよく2人は爆笑し出す。

 アンタ達、他人事だと思って…。

 でも凄く楽しい1日だった。

 この時代にもしもスマホがあったらカメラを撮りたかったくらいだ。

 こんなに楽しい青春の1ページの様な日は滅多にないと言うのに残念だ。


 私は今日のこの日をきっとずっと忘れない…。

 2人とも、ありがとう。

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