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学芸会

 2学期も中頃に入り、そろそろ学芸会の季節となった。

 今年の3年生の演目は小公女シーラだ。

 3時限目に台本が配られ、暫し読む時間を与えられる。

 そしてその後学級会が開かれ、各々の役決めをする。

 皆んな積極的に主役や準主役と言った大役に立候補する。

 私は毎年恒例で台詞を覚えるのが面倒臭いので、村人その1やその2と言った地味な役に立候補する。


 皆んなスポットが当たる大役がやりたいのかワキ役系はあまり立候補する人がいないため、ワキ役から順にすんなり決まっていく。


 よしよし良いぞ。

 今年も適当にやり過ごそう。

 台詞が二言しか無いからもう覚えたし♪

 楽ちん楽ちん♪


 そう思っていた矢先、斜め後ろの席の飯田さんが


「ねぇ、相瀬さん?」


 と話しかけてきたので、


「ん?何?」


 と返事をしたら、


「相瀬さんってさ、毎年村人とか森の動物とかしかやらないよね?」


「あ、そうだったっけ?」


 よく覚えてるよね、人の役なんか。


「何で主役とかやらないの?」


 台詞を覚えるのが面倒臭いし、練習で放課後無駄に残るの嫌だから。

 …なんて正直に言ったらすかさず、


 "そんなのズルい!先生、相瀬さんが…!"


 とか何とか面倒臭い事を言い出しそう。

 ここは何か上手に言っておかねば!


「普通の村人とかなら衣装を用意出来てもシーラやそのクラスメートが着るようなドレスを私は用意出来ないし」


 これならいた仕方ないと納得してもらえるだろう。

 そう思った矢先、


「先生!相瀬さんがドレスを用意できないから通行人に立候補してるって言うんですけど、こう言う人も平等に役に立候補出来るように他にドレスを用意出来る人はいないんですか?」


 飯田さんが突拍子も無い事を口走った。

 え"…?

 何言ってんの?この子…。


 と言うか、どうあっても絶対何かしら教師に告げ口する子なんだね。

 面倒臭いなぁ〜。

 そもそも私が過去に一度でも主役級の役を演ってたと言うのなら覚えられる理由も分かるが、わざわざこんな目立たないワキ役の人までよく覚えてますよね、あなた。

 あなたの記憶力に感心するわ。


「いや良いよ、そんな事までしてくれなくて!」


 そう言いながら私は挙手をして皆んなにも衣装を用意できない諸々の事情を説明する。

 飯田さん本当余計な事を言うよね。

 何度も言うけど私、別にメインキャストとか演りたくないからね。


「飯田さんはこう言ってますけど、別に私は大役がやりたいって訳でも無いですし、衣装を用意出来る人が引き受ければ済む話だと思うんですが、どうでしょうかね?

 メインキャストは今の時点でも立候補者が沢山いる訳ですし、わざわざ他の役に立候補している人を無理に推薦する必要も無いと私は思うのですが、いかがですか?」


「うん、相瀬がそれで良いって言うのなら俺もそれで良いと思うよ。

 確かに衣装の問題って色々難しいしな」


 と白城も同意。

 なのに飯田さんがまだ食い下がる。


「なんか毎年同じ人達ばっかりが主役とか目立つ役をやってると思うんですよね!

 なんかズルく無いですか?」


 …要するに、私が云々と言うよりもあなたが大役を演りたかったんじゃ…。

 …面倒臭いから巻き込まないで欲しい。

 私に絡まないで最初から自分が立候補すれば良いじゃん。


「じゃあ飯田はどうであればいいのよ?」


 白城がしかめ面で耳の後ろをぽりぽりと搔いてため息をつきながら飯田さんに言う。


「…同じ人ばっかりじゃなくて今年は違う人がメインキャストをやれば良いと思います」


 取って付けたような感じで返事をしている飯田さんに


「そうやってズルいとか何とか文句を言うくらいなら飯田さんも立候補すれば良いじゃないですかー?」


 と別の女子が挙手をして言う。

 う〜ん…なんだか荒れてきたね…。

 こういう雰囲気になるのも面倒臭くて嫌だからさっさとワキ役に回ってるって言うのもあるんだよね…私。


「私も相瀬さんと同じで衣装を用意するのが難しいので誰かが用意してくれるのなら演りたいんですけど…」


 うわぁ〜。

 他力本願な子だな。

 しかもさり気なく


 "相瀬さんと同じで…"


 とか言って私をダシにしないで欲しい。

 私は別にメインキャストなんか演りたくないからね!


 要するに自分は大役を演りたいけど衣装を用意出来ないから、誰かが代わりに自分の衣装を用意して下さいって事でしょ!?

 そんなに演りたいなら自分で用意しなさいよ。

 図々しい。


 プラスアルファで言うと、去年も一昨年も自分は大役を演れなかったから一度でもメインキャストを演った人は無条件で役を譲りなさいって事でもあるよね?

 凄く傲慢…。

 私ちょっと飯田さん苦手なタイプかも。


 更に言うならば


 "相瀬さんは…"


 とか言って人をダシにする事によってまるで自分は悪くなくてこういう人もいるのは可哀想なんだから…みたいな感じに(かも)し出し、全てを自分の都合の良いように話を持って行こうとしてるのがミエミエ…。


 嫌な人の席の近くになってしまったものだ。

 自分のクジ運が恨めしい。


 飯田の他力本願意見を聞いて白城は眉間に皺を寄せながら額をこする。


「用意出来るって言う奴がいるんだったら俺は別に良いんだよ?

 誰が役を演っても。

 誰か飯田の衣装を用意出来る奴居るか?」


 と聞きながら右手を挙げる仕草をして挙手を取るも誰も挙手をしない。

 ま、そうだよね。

 自分の為にならまだしも、他人の為にわざわざ大変な思いをしてドレスを作ろうなんて思う人いないと思うわ。


「飯田、残念だけど誰も用意出来ないって。

 こう言う事で納得してくれ。

 衣装用意するのも手間もお金もかかる事だからこればっかりは先生じゃどうにもしてやれないんだわ」


 白城の言葉に飯田は顔を真っ赤にしながらベソをかきはじめる。


「…皆んな冷たい。

 自分達の時は用意出来るのに私には誰も助けてくれない…」


 うわぁ面倒臭…。

 大体そんなの当たり前じゃん。

 甘いなぁ。

 人間なんて皆んな自分優先に決まってるじゃん。

 何でわざわざ他人の為なんかにお金と労力を割かなきゃいけないのさ?

 する側には何のメリットも無いのに。


 自分だって逆の立場だったら同じ反応するくせに。

 本当自己中だよね、考え方が。

 そんなに演りたきゃ衣装は自分で用意しなさいな。

 あなたと同じように衣装を用意出来なくて他の役に回ってる人なんて他にも沢山いるんだから。

 自分だけ不幸みたいな言い方はやめてほしいな。


「はい!」


 美甘ちゃんが挙手をする。

 白城が


「若山、なんか意見あるのか?」


 と言って美甘ちゃんを指す。


「なんかまるで飯田さんしかメインキャストに立候補してる人がいないかのような雰囲気になってますけど、まだ主役を演った事の無い人で立候補してる人が他にもいるんですから今、飯田さんの衣装の事で決を取るのはちょっとおかしいと思います」


「確かにそうだよなぁ」


「主役演れなかった人なんて別に飯田さんだけじゃないよねぇ…」


「衣装用意出来ないんだったら仕方なくない?」


「我儘だよね…」


「自分の衣装なんだから自分で用意しろよ」


 などなどと次々に色んな人が隣の人同士で話し始め、教室は一気に騒めいた。

 これは何やら不穏な空気だね。

 白城何とかして。

 担任なんだから。


 と言うか美甘ちゃん若いのに結構冷静だよね。

 確かにその通りだと思うわ!


「おい!

 皆んな静かにしなさい!

 他のクラスは今授業中なんだからな。」


 腰に手を当てながら白城が言う。

 皆んなまだ他に言いたい事が有り気な顔しながらも渋々口を閉じる。


「飯田、お前の気持ちも分かるけど衣装を自分で用意出来ないんだったらもうどうしようもないんだ。

 納得してくれ。

 衣装を自分で用意出来る奴の中から役を決めてくしかないんだ」


「…ひっく…ひっ……」


 飯田はまだ泣いている。


「役決めの話に戻すぞ!

 今立候補してる奴らにももう一度確認するぞ!

 衣装をちゃんと用意出来る奴だけメインキャストに立候補してくれ」


 白城がそう言った後に学級会の進行役の学級代表が


「希望の役を変えるって言う人いますか?」


 と聞いた。

 何人かがメインキャストを降りたもののシーラ役希望はまだ3人いる。


「シーラ役希望が3人いるんですけど、どうやって決めるのか誰か意見を言って下さい」


 と学級代表。

 クラスの男子が挙手をして


「本人同士で話し合いをして決めるか、クジで決めるか、台本を読んで上手かった人にするかどれかで良いと思います」


 賛成〜!

 私もそれが良いと思います。


「他に意見ありますか?」


 と学級代表。


「………」


 挙手も意見もなし。


「それではこの3つの中でどれが良いか多数決で決めます」


「本人同士での話し合いが良い人!」


 本来ならこれが一番理想だとは思うけど、きっとどちらも引かない事を考えたら朗読で決めるのが良いんじゃないかな?

 と個人的に思ったので朗読の方に私は挙手した。

 大半は私と同じ考えの人が多く、朗読で決める事に決定し全てのキャストがそれぞれ決まり無事終了した。


 主役が決まってからは他の役が決まるのは早かった。

 因みに私の役はシーラがマッチ売りをしている時にシーラからマッチを買う通行人の役で、台詞は


 "お嬢さん、マッチを一つ売ってくれるかい?"


 "ありがとう"


 だけである。

 衣装は普通の服に帽子とコートを着るだけでいいので楽ちん楽ちん♪


 学級会が終わって給食後の昼休みに美甘ちゃんと凛子ちゃんが話しかけて来た。


「雅ちゃん、なんか大変だったねぇ」


 と凛子ちゃん。

 夏休み明けの席替えの時に凛子ちゃんとはクジ引きの関係上別々の班になってしまったのだが、運動会のダンスの練習の一件からよくこうして美甘ちゃんと凛子ちゃんは話しかけて来てくれるようになったのだった。


「うん、まぁなんか色々あったよね…」


 私がそう返事すると


「自分で衣装用意出来ないから誰か用意してくれって言うの私ちょっと腹立ったから手挙げて色々言ったんだよね」


 と美甘ちゃん。

 それに凛子ちゃんも


「分かるー。私も思った!」


 と同意している。


「大体さぁ誰かが衣装を用意してくれるんだったら私だってシーラやりたいよ!」


 と美甘ちゃん。

 …だいぶ気の強いシーラだね。

 とは言え、そうだったんだ…。

 でも彼女なりに色々と我慢してるんだね。

 若いのに偉いよね。

 しっかりしてるわ!


「みかんちゃん何の役?」


 と凛子ちゃん。


「煙突掃除の少年、りんちゃんは?」


「私?ニンチン先生の妹のカメリア」


 ちょっと気まずそうに言う凛子ちゃん。


「いいなぁ〜」


 と美甘ちゃん。


「う…ん、まぁなんかごめんね…」


 と更に気まずそうな凛子ちゃん。


「雅ちゃんは?」


 美甘ちゃんの質問に


「私?通行人のおじさん」


 と答えると


「…あ、ああ…」


 おじさんよりは少年で良かったと目で語ってる美甘ちゃん。

 こんな風に談笑しているうちに昼休みはあっという間に終わり5時限目の授業が始まる。

 今日の5時限目は早速台本の読み合わせをみんなでしていくと言う感じだ。


 そして暫く本番までの1ヶ月間はほぼ毎日のように演劇や学年全体でやる合唱の練習がみっちり行われたのであった。

 そして当日も無事終える事が出来、白城は満足気な表情を浮かべていたのであった。


 そして季節は冬を迎え、冬休みに入ったのであった。




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