多数決の力
3年生の新学期が始まった。
クラスの面々も過去とは違う。
何だか凄く新鮮だ。
そして担任も違う。
ここからの未来は本当に予想が出来ない。
全てが初めてになる。
教室の黒板に各々の名前が逆コの字型の図の所に書いてある。
その席順に座った。
席は7人ずつの班で分かれていて男女が交互に座る様になっている。
班によっては前列3人で後列4人の所か、前列4人で後列3人というようになっている。
4人の所は男女が交互に座り、3人の所は男子に女子が挟まれている場合もあるし、反対に男子が女子に挟まれているパターンもある。
こんな変な席順になるのは小学校くらいだろう。
中学、高校じゃ男女がそれぞれ出席番号順で一列になり、その列が交互になってるか、なって無いかの違いくらいだ。
まぁ私は隣が静かな人である事を願おう。
大抵この年頃辺りだと隣の席の人のヴィジュアルや人気度を気にする人は多いが、私は相手のヴィジュアルなどはどうでもいい。
私コミュ症だからあんまり人と話をしたくないし。
要は無駄に授業中に騒いだり人のやり方を一々観察して横やりを入れてくる様な煩わしい人でなければ、ヴィジュアルがキモかろうが性格がキモかろうがボッチ男子だろうがどうでもいい。
別にその人と恋愛しろと言われている訳ではないのだから。
体臭が凄くキツい人だったら悩み所だけど…。
でもまぁ好きで臭くなってる人は居ないから差別をしてはいけない。
ちょっと運が悪かったんだな、と思うしかないのだ。
そう自分にそう言い聞かせる。
予め言っておくが私は決して良い性格ではない。
故に正義を歌うつもりも一切ない。
嫌な物は嫌だと口で言わなくても心では思う。
これだけはご了承願おう。
…て誰に!?
と自分にツッコミを入れておく。
ゴチャゴチャ妄想している間担任が来てホームルームが始まった。
毎年の如くに廊下に背の順で並び体育館へ移動する。
新任の先生の紹介と各々のクラスの担任の紹介が終わる。
そして長い長い校長先生の話を欠伸を噛み殺しながらボンヤリ聞く。
校長先生の長いスピーチが終わり全校で校歌を歌う。
そして始業式が終わる。
教室へ戻って担任が来るのを待つ。
皆んな新学期入って初めてのクラス替えに興奮しているせいかやたらとテンションが高い人が教室を走り回っている。
担任が来て3時限は自己紹介の時間となる。
出席番号の関係でいつも1番最初にやらされる。
こう言うのいくつになっても緊張するよね…。
「相瀬雅です。
去年はB組でした、皆さん宜しくお願いします」
とどうでもいい情報をとりあえず言う。
なにぶんコミュ症なので他に何を言って良いのか何も思いつかなかったのだ!
他の子達は色々ちょっとずつ違う事を言おうと頑張っているもよう。
「好きな物はバナナです」
とか。
安上がりでいいね♪
歯医者の麻酔みたいな味がするから私はバナナ嫌いだけど。
給食にバナナが出たらこの子にあげましょう♪
そんなあなたはきっと大人になったら違うバナナが好きに…やだやだ♡
でもよく考えたら本当にバナナサイズの人が初めてだったら大変だろうなぁ…。
条件反射で股間が痛くなってきそうだ。
もしも未来で初めての瞬間が訪れるとしたらなるべくSSサイズ〜Sサイズくらいの殿方の方がいいのかもしれない。
そもそも私の未来にそんな瞬間が来るかどうかは想像もつかないが。
もしも相手がBIGサイズだったら…。
まぁ、日本人は割合的にSサイズの殿方が多い筈だから多分心配無いだろう。
と言うか、Sサイズであれば誰でもいいって訳ではないからね!
いや、そもそも私にそんな相手が出来るかどうかも分からないものだし、考えるだけ無駄だな…。
やめようやめよう。
全く私は何を考えているのやら…。
「将来の夢は海外旅行に行く事です」
おぉ!
良いね、良いねぇ♪
私も人生に一度は海外旅行に行ってみたいわ。
英語喋れないけど。
具体的にどの国に行きたいのか聞いてみたいと言う単なる好奇心が微妙に湧く。
と言うよりも何故その国に行きたいかと言う理由の方に少し興味があるかもしれない。
まぁ、私コミュ症だから自分から話しかける機会は余程重要な理由でもない限り来ないと思うけど。
色んな人の自己紹介に心中共感したりツッコミを入れたりしているうちに自己紹介も終わり授業終了のチャイムが鳴る。
さて、今日は3時間授業で帰れるが明日からはまた5時間授業だ。
今更だけど小学校って中高生のように10分休みが無いんだよね。
集中が続かなくてそれが結構辛かったりする。
中休み無くて良いから10分休みが欲しいなと個人的には思っている。
寧ろ10分休みが無いのなら昼休みも中休みも給食も無くて良いからその分早く帰りたいなと言うのが個人的な意見だ。
個人的には学校で過ごすその無駄な時間が嫌いだったりする。
待っている間退屈だし、何かをするのには中途半端な時間の長さだし。
トイレなんて大でも無ければ1人5分もあれば十分済ませて来られる。
だが、社会人になっても他人と足並みを揃え無くてはならない事は変わらない事なので我慢をする。
寧ろ学校とは勉強をしに来る場所では無くて我慢をしに来る場所なのだ!
大人になっても我慢をしなくてはならない場面はいくらでもあるし、日常茶飯事だ。
だからこそ、その数々の我慢に耐えるべく訓練を子供のうちからしに来る場所なのだ。
人は急には変われない。
だからこそ必要な習慣は予め身に付けておく必要があるのだ!
何だか説教臭い事を考えてしまった。
いかんいかん。
これではただの偏屈な人だ。
気を付けねば。
―翌日―
いつもと同じように授業が始まった。
のは良いんだけど…。
隣の席の男子が消しゴムで練り消しなる鼻糞にも似た消しカスボールを作る事に夢中で、常に消しゴムを机で擦っている。
それだけなら良いのだが隣の机が消しゴムを擦る度にキコキコ音を立てて揺れるのが気になる。
しかも隣の机が揺れるせいで私の机まで揺れるのだから何とも迷惑な話だ。
私はさり気なく机を数ミリ離した。
机が密着していなければこちらの机が揺れる事は無い。
そう思っていた矢先担任の白城が
「おい、芦河
さっきから何やってんだ?」
教室がシーンと静まり返る。
「…消しゴムで消してます」
と隣の男子。
「先生は今何か書くような作業しろって言ってないぞ?
何も消す必要ないだろう」
と両手を腰に当てながら白城。
「……」
何も言えず黙りこくる芦河。
「今は何も書かなくて良いから先生の話を聞きなさい」
「……」
「そして…相瀬」
え…私…?
「はい」
「芦河がまた授業の邪魔になるような余計な事をやっていたら隣の席なんだからお前が注意してやれ」
えぇぇぇ〜やだ。
何で私が?
やだよ、面倒臭い。
下手に恨まれても迷惑だし。
他人の事なんかどうでも良いし。
「私が言うよりも先生が直接言った方が効果があると思いますよ」
と私が言うと
「何でよ?
お前でも良いだろう?」
いやいや全然良くないよ。
そんな無責任な…。
「先生のように大人が言う分には皆んな言う事は聞きやすいと思いますが、同年代の人間が同じ事を言っても迫力も説得力も無いと思うので聞きにくいと思いますよ。
なので先生が注意された方がよろしいかと私は思います」
「そんなのやってみなければ分からないだろう?
なぁ?芦河。
お前、相瀬に注意されたらちゃんと聞くよなぁ?」
何それ。
全然理由になってないから。
しかも誘導尋問のように同意を求めないでくれるかな?
「…はい」
アナタも同意しないで。
絶対聞かないでしょアナタ。
同年代相手だと注意されても
"うっせー女だな"
とか言われて終わるだけなんだって。
だからその時間と労力が無駄なんだよね。
それが面倒臭い。
終いには
"あの女いちいちうるさくてムカつくな!
仕返ししてやろう!"
とか思われてもこっちの方がいい迷惑だよ。
頼むからクラスに争いが生まれるやり方をわざわざしないで欲しい、と切に願う。
だが、既に面倒な事に巻き込まれてしまったので、恨まれたくないので適当に今後やり過ごせるように頑張ろう。
―そして翌日―
今日も芦河は消しカスボールに熱中している。
怒られてもそこまで何かに熱中出来るというのはある意味素晴らしい事なんだけどね。
若くないと出来ない事だと思う。
キミは将来文房具屋さんにでもなったら良いと思う。
新たな機能がついた練り消しの開発でもして練り消し売って暮らしなさい。
それが一番いい!
と言う事で、昨日担任に面倒を押し付けられたが我関せず。
後ろの席の子が
「芦河止めな!
昨日先生に注意されたしょ!?」
すかさず注意を始める。
おぉ!
良いね、良いねぇ。
やりたい人が代わりにやっておくれ。
そんな風にのんびり構えていたら
「相瀬さんも早く注意しな!」
…え"?
ここでも結局巻き込まれるの?私。
仕方ない
「芦河君?
恨まれたくないからこんな事言いたくないんだけど、今はそれやめた方が良いと思う。
休み時間か家でやった方が良いよ?」
周りもうるさいので渋々私も注意を始める。
面倒臭い、こんなのやりたい人がやればいいのに。
「うっせーんだよ!ブス!」
芦河がキレる。
ほらね、やはり予想した通りだった。
だから嫌だったんだよ。
昨日何も言えずに注意に従ったのは先生に言われたから渋々従ったまでだったんだよ。
人なんて子供も大人も結局は権力やお金の様な自分よりも力のある存在にしか従わない生き物なんですよ。
人間なんて綺麗な生き物じゃないからね。
「何よ?
芦河、皆んながお前の事を思ってちゃんと注意してくれてるのにお前はそう言う態度を取るのか!?」
どうでも良いから授業の続きをやってくれないかなぁ?
「……」
芦河が無言で手を止め、俯きながら小さくなっている。
ほら、寧ろこれって皆んなで寄ってたかって虐めてるみたいじゃん?
だから放っておけば良いのに。
「オイ、相瀬。
お前も他人事のような顔してるけどこれはクラス全体の問題なんだぞ?」
はぁ!?
「お前ももっと後ろの席の飯田に言われる前に進んで注意しなきゃダメだろ?」
何でそこまで言われなきゃいけないのさ?
理不尽過ぎませんか?
ここまで言われたらちょっと黙っておけないね。
「先生、お言葉ですが少々よろしいでしょうか?」
「何だ?
言いたい事があるんだったら手を挙げて大きな声でハッキリ言いなさい」
「では」
そう言いながら私は手を挙げて発言を始める。
「個人的には義務教育のこの授業スタイルに私は常々疑問を感じています。
何故なら休憩時間もなく無駄に2時間も続けてダラダラやるから集中が続かなくて好きな事やる子が出てくるんですよ。
しかもこう言うスタイルって授業が終わっても達成感が何も得られないんですよね。
だから個々のモチベーションも上がらない。
その結果皆んなやる気も無くなって無気力にもなる。
それならば教員は1クラスに1人のスタイルのままで良いから各々に
"今日は1人ここまでがノルマでこれを達成出来たら帰宅しても良い"
と言うスタイルになれば1番理想的だと思います。
それこそ公文みたいにプリントに解き方が書いてあるシステムを導入したらいいと私は思います。
その方が教員にも生徒にも両方に利益があると思うからです。
生徒にとっては無条件で先にやり方を教師に教わりその通りに問題を解くだけ、と言う今のスタイルよりも一人一人に考える力や学ぶ力がついて良いと思うし、人に聞く前に先ず自分で考えると言う習慣が身につくし一石二鳥だと思います。
教員にとっては1度プリントさえ作ってしまえばあとは生徒が聞きに来るまで必要な事務仕事を進めて終わらせてしまえば、無駄な残業を減らせる可能性も出て来くる訳ですしこの時点で既に一石三鳥!」
ここまでの話を聞いている白城の目が揺らぎ出す。
要するに残業したくない所は自分も強ち否定出来ない所があるのだろう。
更に私は続ける。
「更に、その方が子供の1日の勉強に達成感もあるし、無駄がないと私は思います。
その上、早く帰る為に皆んな頑張って限られた時間の中で集中する努力もするようになるだろうし結果的に一石4〜5鳥くらいになるんじゃないかとさえ思います。
無駄に時間を長く確保しようとするから緩みが出るのではないでしょうか?」
クラスの皆んなは何が起こっているのだろうか?
と言う様な面持ちでポカーンとしながら私の長々とした演説にも似た意見を聞いている。
この問題に関しては現代でもまだまだ解決されていない問題だ。
私が言い終わった後白城が溜め息をつきながら
「じゃあ相瀬はどうしたら良いと思うのよ?
俺にそんな事言われたってこっちだって他の教員達と足並み合わせなきゃいけないんだからこのクラスだけ特別って訳にはいかないんだわ」
「…ですよねぇ〜」
慌てて同意する私。
そう、これが嫌で私はそもそも公務員になりたくなかった事を今思い出した。
足並み合わせる為に効率を落とすとか、足並み合わせる為に新しい物を毛嫌いしてアナログにしがみつくとか…私はそう言う型にはめられるのが嫌で、学歴が云々と言う前に、学歴があってもなりたくないと遠い未来にそう思った事があった。
今考えたらこんな人が将来学校の先生目指しちゃダメな気がしてきた。
「…でも相瀬、その今言ったお前の考え方は俺も賛成はしたい気持ちはあるからお前が将来政治家にでもなってこの教育制度を変えてくれる事を先生は願ってるぞ!」
さり気なく皮肉を白城が言う。
無謀だと分かってて言ってるね?この人。
私が政治家になる事自体が無謀だし、仮になれたとしてもこのやり方を何十年も何百年もスタイル変えずにやって来たんだから今更変わるわけが無い!
日本の政治家と国民の関係性と同じだと思う。
お役人さんが国民から税金を絞っているスタイルだって今も昔もスタイルが変わっていないのだから。
「それよりもそもそもの論点に戻すけど芦河の件、どうしたら解決出来ると思うんだ?相瀬」
は…!!!
そうだった。
どさくさに紛れて芦河の事忘れていた!
さて…どうしたものか?
綺麗に話を纏めたつもりで地味に論点からズレていた事に気付き若干恥ずかしくなった。
「先生も先程見ていて分かったと思いますが同年代の人だと結局ああいう雰囲気になってしまうので、やはり先生が注意した方が良いと思いますよ」
「…そっか」
ため息をつきながら白城が言う。
「あの瞬間皆んなから寄って集って1人を集中攻撃しているかの様で良い雰囲気では無いように私は感じたので、こう言う所から虐めに発展する前に生徒同士での過剰な注意のし合いは避けた方がよろしいかと私は思いましたが先生はどう思われますか?」
「…虐めはマズイな…。
本当はクラスの問題はクラスの皆んなで解決したかったんだよ先生は。
だけど…うん。
とりあえず相瀬の言い分は分かった。
皆んなはどう思う?」
その言葉に
「……」
教室が静まりかえってる。
そして口火をきるかのように1人の女子が挙手する。
「はい、相瀬さんの言う事ももっともだと思うので先生が注意するのがいいと思います」
まだ名前も知らない女子がそう発言した。
その言葉に
「賛成〜」
と次々と言葉が挙がった。
「…分かった。
じゃあ今度から芦河には先生の方から注意する事にします」
と白城がため息混じりに言う。
多数決の力は凄い。
助かった…。
これで下手に芦河に恨まれずに済みそうだ。
こうしてまた学校での日常が始まった。




