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新しい環境で

 とある日、両親が荷造りした段ボールを外のトラックに運びながらバタバタと忙しくしている。

 父方の爺さんが毒父の家を建てたらしい。

 私達はそこへ引っ越すのだ。


 私に部屋が与えられる!!

 これだけは爺さんに素晴らしく感謝をしたい。

 これでもう少し自由度が上がって新聞や本など暇を潰せるチャンスがあるかもしれない。


 勿論こういう時は姉が優先的に自分の部屋を選ぶ。

 私は余った方で。

 でもそれでも十分過ぎる。


 引っ越ししてから数日間姉がもう要らない教科書などを段ボールに詰めて私の押入れの中にそれをしまった。

 自分の部屋の押入れにしまえばいいのに嫌なものは全部こちらに押し付けてる。


 だが考えようによっては暇を潰せる材料があると言う事にもなる。

 今から教科書に少しでも目を通しておければ今後何か役に立つかもしれない。


 私はこの時代では少し勉強も頑張ってみようかなとも思っている。

 私の場合は勉強をしてもあまり人生変わらないかもしれないけど、この未来であの人にもう一度逢えた時少しでもいい印象与えてみたいじゃない?


 何も変えられないかもしれないけど。

 スマホもゲームも無いし、他にする事もしたい事も無いしね。


 そして数日間私は段ボールの中の教科書を(あさ)って読み(ふけ)る日が続いた。

 内容は公立の小学校の内容だから流石に大人の私には簡単過ぎた。


 だけどあまりじっくりと読んだ事の無い社会科の教科書はこの歳で読んでも中々ためになる内容だった。

 今自分がいる時代を理解する材料にもなるし、知って損は無いと思う。


 例えば水道局ではどんな事が行われて、川やダムの水が水道水に変わるまでの工程や、

 この時代の資源について問題視されている事など、まだまだ現代でも改善されてない事など世の中の話がてんこ盛りである。


 昔は読んでも全然理解出来なかった内容が今は理解出来るようになっている。

 そして何より


 "若いって素晴らしい!"


 としみじみ思ってしまう程、物の覚えが凄く良かった。

 やはり子供って頭いいんだなと改めて感じさせられた。

 この、頭がいい年頃を何もせずにただダラダラと遊んで過ごすのは非常に勿体ない!!


 だがそう思ったのもつかの間で、あちらの家にいた時は日中婆さんが私のお守りをしに家に来ていたのだが、こちらの家は前の家に比べて婆さんの家から凄く遠い。


 その為婆さんがそうしょっちゅうは来られないと言う事になった。

 その話の流れで私は保育園に通わされる事となった。

 嫌だなぁ…。


 また何も無い所に時間だけ無駄に潰しに行かなくてはならないんだな。

 この歳でお遊戯に誘われても馬鹿馬鹿しくてやる気が出ない。


 だが仕方ない…。

 現状を受け入れるしかない。

 大人の事情も今なら理解出来るしね。


 そして数日後保育園初日を迎えた。

 懐かしいな…。

 ここはかつて自分が通っていた保育園である。

 本来ならばここが私の人生で初の社交の場という事になる。


 保母さんが


「おはよう。

 よく来たね!」


 と私に話しかける。

 私も


「おはようございます」


 と返事する。


「あら、ちゃんと挨拶できて偉いね!」


 などと私とのコミュニケーションを膨らまそうと頑張っている。

 そして毒母はその間に保母さんに


「じゃ、お願いします」


 と言って仕事へ向かった。


「ここでは皆んなと元気よく遊びましょう!」


「はい」


「あらちゃんとお返事もできて、しっかりしてて偉いねぇ…」


 まぁこれでも一応大人ですから。

 もしも私の中身が本当の5歳児だったらこうはいかなかっただろう。

 過去では暫くの間誰にも懐かなくて一人で隅っこに閉じこもってて誰もが手を焼いたらしい。

 長い期間を経て徐々に環境に慣れ始めてからは友人も出来たらしいが、そうなるまでは大変だったらしい。


 弁当が入った(かばん)を置いて私はとりあえず適当な場所に移動して座る。

 する事も無いので遠目から周りの子たちを観察して暇を潰す。


 過去でも今でも、隅っこでじっとしているところはあまり変わらないんだなと思った。

 これがきっと性分なのだろう。

 心の扉は開かない。

 これぞ正しくインドア女子である。

 私は外に出ても引き篭もる女なのだ!


 理解して欲しい。

 壁を作って他者を遮断(しゃだん)する感じが私にとってこれ以上ない程の安心感を生むのだ!


 私のその姿を見て保母さんが近くにいた女子4人組に


「あそこにいる子、雅ちゃんって言うんだけど、まだここに来たばかりで不安だと思うの。

 皆んな遊びに誘ってあげてくれる?」


 と声をかけている。

 うーん…どうやら一人でいたから心配されてるらしい。

 申し訳ないねぇ…。


「うん、いいよ」


 4人の良い子たちは快く引き受けている。


「遊ぼう」


 と声をかけに来てくれた。

 ここまで気を遣ってくれてるのだから申し訳ないので素直に応じよう。


「うん」


 そう言って立ち上がった。


「おままごとしよう!」


 一人がそう言う。


「いーよー。やろーやろー」


 あとの3人がそう言って園内の外に出た。


「私邦子(くにこ)って言うの」


「あたし翔子です!」


「私は〜(しおり)です!」


「じゃあねぇ、私は泉です」


 4人が自己紹介をしてくれた。

 良い子達だ。


「私は雅です。よろしくね」


「うん、仲良くしよう」


 お互いに自己紹介を終えたところで


「じゃあおままごと始めよう」


「あたしお母さんやるー」


 と翔子ちゃんが手を挙げる。


「邦子ちゃんが、えぇ〜ずるい!

 邦子もお母さんやりたい!」


「皆んなで順番に交代しようよ」


 と冷静な泉ちゃん。


「いいよー」


 合わせて栞ちゃん。


 私も


「いいよ」


 というか私は寧ろ隅っこで見てて良いですか?


「じゃあまず邦子ちゃんがお母さんで泉ちゃんお父さんね」


「うん、分かった」


「ただいまー」


「お帰りー、今日お仕事どうだった?」


「うん、今日のプレゼントは上手くいったよ」


 誰に!?


「あらあら良かったじゃない。じゃ今日はお疲れでしょう。

 ご飯ももうできてるから手を洗って来て下さいな」


 そこスルーするんだ!?


「あぁ…すまんな。

 いや〜、ずっと何ヶ月も前から温めていた企画で、会社からもこの企画を何としても成功させて欲しいって期待が寄せられていただけに、

 取引先に上手く説明出来るか凄くプレッシャーを感じていたから、不安で昨日は全然寝れなかったよ」


 なるほど!!

 察するにプレゼントとは…プレゼンの事だったのね!

 ホッとため息をつきながらネクタイを(ゆる)める仕草をする泉ちゃん。


 う〜ん…リアルだ…。

 どうやら泉ちゃん家のお父さんは仕事が順調らしい。

 プレゼン上手くいって良かったですね、おめでとうございます。


 次は邦子ちゃんがお父さんでお母さんが栞ちゃんだ。


「ただいま」


「あ、お帰りなさい」


 ネクタイを緩める仕草をしながら


「母さんビール」


 と邦子ちゃん。


 なるほど、晩酌をするお父さんなんだね。


「はい、どうぞ」


「あぁ、ありがとう」


 グビグビ飲む仕草をしたあと


「ハァ〜プハァ〜やっぱり仕事終わった後はコレだよ、コレ!」


 典型的なオッさんタイプか。


「いや〜今日も職場のババァがさぁ、手も動かさないくせに口ばっかり動かしてペチャクチャペチャクチャと…」


 まぁ、仕事してたらどの職場でもそう言うのあるよね…。

 BBAとはそう言う傾向にある生き物なんですよ。

 諦めましょう!

 そしてお疲れ様です。


 次は栞ちゃんがお父さんで翔子ちゃんがお母さんだ。


「ただいまー」


「お・か・え・り・な・さ・い♡」


 そう言いながら栞ちゃんに抱きつく仕草をする翔子ちゃん。

 おぉ〜。

 何とも情熱的な…。


「やめなさい。

 子供が見ている」


 ほほぅ…。

 続きは?


「いいじゃな〜い♡()()()()()()の関係でしょ♡」


 大胆だな…。

 翔子ちゃん家のお母さん。


「全く…お前はいくつになっても子供っぽいんだから」


 …ん!?

 栞ちゃん家って両親は若い時からの付き合いの末の結婚なのだろうか?

 よく分からないけど、おめでとうございます。


 最後に翔子ちゃんがお父さんで泉ちゃんがお母さんだ。


「ただいまー」


「お帰りなさいあなた」


「違うよーそこは、ご飯にする?それともア・タ・シ?」


 って言うんだよ。

 と翔子ちゃん。

 ほほぅ…。

 翔子ちゃん家って女の方が積極的な夫婦なんだねぇ。


「うん、分かったー。

 ご飯にする?それともア・タ・シ?」


「キ・ミ・だ♡」


 と言って泉ちゃんに抱きつく翔子ちゃん。

 なんなんだよ…この茶番劇は。

 …というか、ままごと恐るべし。

 プライバシーも何もあったものじゃない。


 だけど皆んなどのお宅もうちよりは平和な様子で少し羨ましかった。


 保育園での平和な日常を過ごす中、過去と同じようにマコちゃんという子が入園して来た。

 マコちゃんとは過去にちょっとした因縁がある。


 彼女が入園してきたばかりの頃は彼女はまだ環境に慣れていないせいか凄く大人しい子だった。

 風貌(ふうぼう)も可愛らしい子でいつも部屋の隅に一人で体育座りしていた。


 何となく友達になりたくてある日私が


「一緒に遊ぼう」


 と声をかけたのがキッカケで友達になったのだった。

 ところがマコちゃんはその性格を日に日に(あら)わにして行くようになる。

 とても我が儘(わがまま)な性格で自分が欲しいと思った物は人から奪ってでも自分の物にしなければ済まない性格で、

 例えば他所(よそ)の子が髪に花を飾っていたらその子の花を無理矢理(むし)り取り、自分の髪にそれを()す子だった。


 更にある時は他所の子が遊んでいるオモチャを無理矢理引っ張り、それでも相手の子が手を離さなければ相手の髪を引っ張ったり、噛み付いたりすると言う凶暴性を持ち合わせている。


 1番厄介だったのは私の当時の友人に対して


「私のお友達取った」


 と嫉妬を(あら)わにし相手の子に暴行を加えると言うジャイアニズムな行動だった。

 とにかく自分の思い通りにならなければ力で支配しようとするタイプなため、当時の友人達には


「私マコちゃん嫌いだからもう雅ちゃんとは遊ばない」


 とハッキリ宣言されてしまった挙句、4〜5人いた友人達が皆んな私と遊んでくれなくなってしまった苦い思い出がある。

 とんだとばっちりである。


 気付いたら私の周りにはマコちゃん1人しかいなくなってて、マコちゃんとの関係も


 "いじめっ子"


 と


 "いじめられっ子"


 のような関係になっていた。

 マコちゃんの気分でされるがままにされ、何も言えずに我慢をする。


 今回この時代に戻ってきて思った事は


 "友人は選ぶべきである"


 だ。


 私は今いる4人の友人を大切にしたい。

 だから私はマコちゃんには一切話しかけず、()えて目も合わせないようにした。

 触らぬ神に祟りなし。


 マコちゃんはしばらくずっと一人でいた。

 暫くしたある日、マコちゃんは別のお友達を連れていた。

 関係性はやはり親分と舎弟(しゃてい)のような様子だった。


 私が今世で請け負わなかった被害は別の子が代わりに犠牲となって背負っているようだ。

 どこへ行っても自己中な子は自己中のままなんだろうな。


 "思い通りにならなかったら噛みつきなさい"


 などと教える親はいないと思うので、親に教えられるのでもなく誰に教わるのでも無く、

 こう言う子って生まれつき人を虐める素質みたいなものがあるんだろうな。

 マコちゃんと言う人間の本質が垣間見えた。


 この光景を見て私は人生は椅子取りゲームなんだな、と感じた。

 誰かが何かの被害を回避すればその犠牲は必ず他の誰かに行くようになっているのだろう。

 椅子に座れなかった人が消えざるを得ないように、逃げ遅れた人が犠牲になる。


 理不尽なものだがこれが世の中の現実なのだ。

 世の中平等では無い。

 だからこそ戦わなくてはならないんだ。

 自分の幸せを勝ち取るために!


 子供のうちはまだいい。

 家庭によっては親が守ってくれたり、周りの大人が守ってくれるだろうから。

 だけど自分が大人になった時、自分の身は自分で守らなくてはいけない。


 守る為に戦うの!

 他人が自分を侵しに来るのなら全力でそれを阻止する為に戦わなくてはいけない。

 平凡な幸せを誰かが確保して自分に与えてくれる程世の中甘くはないのだ。


 マコちゃんの舎弟は毎日マコちゃんに泣かされていた。

 ある時は手をつねられ、ある時は髪を引っ張られ、ある時は顔を引っ掛かれ、最後には噛みつかれる。

 もはや完全に虐めである。


 過去ではそのポジションには私がいた。

 だから名前も知らない人よ、私の代わりを背負ってくれてありがとう、そしてごめんね。


 何度でも言おう、


 "友達は選んだ方がいい"


 こうして私は自分が本来請け負っていた筈の被害を回避し、良い友人達に恵まれ囲まれながら卒園し、思い出に残る記念写真を卒園式の日に撮る事ができたのである。


 良き思い出の日としてその写真は今後私のアルバムに飾られる事になるであろう。


 そして私にとって次なる社交の舞台はいよいよ小学校となるのであった。















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