提案
うそぉ……と、鈴華はまた同じ声をあげた。
「……こいつに、そんな素質があるんすか?」
礼貴の言葉は、少し失礼な気もしたが、鈴華も同じ気持ちだった。
「ええ。私が保証するわ。この子は素晴らしい歌い手になる」
「へぇ……」
礼貴は半信半疑のようだった。
「親父はこの話聞いてたのか?」
貴徳は頭を掻いた。
「いや、今初めて聞いたよ。まさか歌姫と呼ばれる美麗さんに認められるなんてね。凄いじゃないか」
「じゃあ親父は鈴華が旅に出るのに賛成だってのか?」
不機嫌そうな礼貴に、貴徳は穏やかに言った。
「鈴華次第だ。俺は鈴華のことを心配しすぎて、鈴華に辛い思いをさせた。それを繰り返すのは嫌なんだ」
そんな二人の会話を遠く聞きながら、鈴華は美麗と話していた。
「鈴華は、なんのために歌の練習をしようと思ったの?」
鈴華は以前、美麗に同じことを聞かれた。
なぜもう一度聞くのだろうか。
「都で美麗さんの声が聴けなくなると悲しんでいた人に、自分の歌で元気になってもらいたいと思ったからです」
とはいえ、半分以上は美麗への嫉妬と憧れなのだが。
「そうね、そして鈴華はその人に恋をしている」
なっ……!と顔を赤くする鈴華を見て、美麗は「分かってるわ」と笑った。
「そして、その人は青がかった長い黒髪に金色の瞳だったってこの前言ってたわね?」
覚えてるんじゃん。
「いいことを教えてあげるわ。その人、泰雅というお名前なのよ」
「なんで知って……って、えっ?」
雅。
その字を名前に付けられるのは、帝とその子孫だけ。
そして、泰雅様といえば……
「皇太子様……!?」