想い
鈴華は全く眠れなかった。
明日からは忙しくなる。
体調管理のためにも、今日は休まなければ行けないとわかっているけれど、なかなか寝付けない。
目を閉じれば、浮かぶから。
あの人の横顔が。
5年間、会えなかった。
でもその間、鈴華が泰雅のことを忘れることはなかった。
会えない時間が長いほど、会いたくなる。
そんな人と、明日、会えるのかもしれない。
その期待と不安で、心が落ち着かなかった。
眠れないまま横になっているのが辛くなり、鈴華は起き上がった。
もう随分暗くなっている。
そういえば、と鈴華は考える。
あの日、初めて都に出た日も、こんなふうだった。
暗くて、静まった村は、少し怖くて。
それなのに都は、あんなに明るかった。
……もしあの時、都へ行かなかったら。
泰雅様に出逢わなかったら。
美麗さんを追いかけなかったら。
今頃、どこで何をしているだろう?
畑の手伝いをしている?
それとも、どこかに嫁いでいる?
どれも、歌い手としての今の自分より、いい生活だとは思えなかった。
私は、歌い手になって、よかった。
旅に出て良かった。
……泰雅様が、私の歌を、聴いてくださったらいいなぁ。
まだまだ美麗さんには追いつけないんだけど。
鈴華はもう一度布団に入って、目を閉じた。