破け、砕け、壊て
俺は一族の汚点だった。
学校を一度変えただけ。
それだけで、名の知れた一族にとっては十分過ぎる程の汚点。
「悪いのは自分」
そんなのはわかってる。
何度考えたって、必ず答えは
「悪いのは自分」
何度その結末に至ったんだろう。
たけど、憎かった。
俺はこの一族...バーベナー家が憎かった。妬ましい、壊したい、殺したい。
と思っても行動はしない。
したら、死ぬ。
死ぬのは怖い訳じゃない。
ただ、こんな一族に殺されるのが嫌なだけ。
そんか、クソみたいな日常の中で俺はある決断をした。否、強いられた。
「軍...か」
それは癖になりつつある深夜徘徊中のことだ。
街の貼り紙に
『国を守る為に!』
と大きく書かれていて、その下には敬礼した軍人達の写真が4枚。左下には電話番号と住所。
「こんなデカデカとスローガンを掲げて、集まるのか?」
正直疑問であった。
このくらいなら、今時小・中学生でも作れる。本当に募集しているなら、もっと凝った物を作るだろうに。
「私が見張っているからな」
背後から声がした、気配すらなかった。
「ほぉ?ふふん。私がこうして見張って、お前みたいなクズ野郎を一人一人拾ってやってるんだ」
「拾ってやってる...ということは軍人か」
「あぁ、そうだ。お前は見込みがある。どうだ?来ないか?私はお前を調教したくてたまらない」
体をうねらせながら、上から目線で言われても。正直今は、イライラするだけ。
「えーと、すみません。僕はただ、通りかかっただけなので。では、これで」
嘘をついて、この場を立ち去る。
めんどいことはお断りだ。
「そうして、感情を殺して生活するのもいい加減疲れただろう。お前には、感情を殺す。いや?コントロールできる力がある。並の人以上にな」
「...」
顔に出でいたか?普段からポーカーフェイスを心がけているが...
「お前は見込みがあるから、私直々に仕込んでやろう。どうだ?こんな幸せはないだろ?」
「皮肉でしょうか?」
目つきを変え、拒絶する。
「おお、怖い怖い。第一お前のことなんて知らん。皮肉と言われても、いまいちピンと来ん」
あざ笑うかの如く、まるで知らないフリ。
「そろそろ、こんなひ弱な体で軍になんて行ったら笑い者ですよ」
「ダウト。お前は痩せているように見えるが、実際良い筋肉で覆われている。筋トレでもしているのか?」
体を見ただけで分かるのか?
数千人も見てくれば分かるのかも知れないな。
「筋トレはしていない。遺伝だ」
「遺伝ねー、活用する気は?」
「無いね。あいにく面倒ごとは嫌いでね」
「生きることを考えているか?」
「突然なんだ」
「生きることを考えているかと聞いている」
「考えている。人間だからな、同然だ」
「ダウト。まただ、見え見えだぞ」
こういう上から目線のヤツは。うちの兄貴と同じで苦手だ。
「だからなんだよ、というか第一なんでそんなこと聞く?そもそもあんた誰だ」
「おやおや、質問は一つづつ欲しいな」
相変わらずニタニタ笑っている。
そろそろ沸点を超えてしまいそうだ。
「そうだな、確かに自己紹介がまだだったね。私は、アージス。階級は大佐だ」
「大佐...」
それは、思いもよらぬことで。そんなクラスの人間がこんなところをほっつき歩いていて良いのだろうか。なんて、皮肉。
「さてさて、君の自己紹介が欲しいなぁ」
「知ってるんじゃないか?」
「さぁ?しーらない」
「わかった。俺は...」
「どうした?なにかあったか?」
「いや、なんでもない。俺はアネモネ。アネモネ・バーベナーだ」
「バーベナーか。それにしてもアネモネか...お前に皮肉という言葉が合う人間は他にはいまい...まぁいい。で、どうだ?軍にくるか?まぁ来ないなら来ないで...」
アージスが腰に右手を回す。
銃を出す気だろう。ここで死ぬのも悪くない。
「まぁ、軍に入るだけで一族を見返すことぐらいはできるだろうな」
「...どのくらい知ってる」
「さぁーね」
「わかった。入る」
「いいのか?」
「それで、忌々しい一族を見返せるなら」
「さて、褒美だ。これをやろう。お守りにでもしたまえ」
突き出したアージスの右手には、写真。ついさっき、俺が拒絶した時の表情を真正面から撮ったものだった。
「...いつの間に」
とりあえず手に取り、ビリビリに破く。
「ああ、いい顔だったのに」
この人には敵わない。本当。
あれから数年が経った。
アージスは未だ変わらず俺の上官。
ただ、変わったことはアージスの姿をあまり見れていないこと。
DF小隊ので着々と戦果を挙げている頃、ある話が持ち上がった。
それは、DF小隊が敵を一機鹵獲したのだ。
これまでは、アンドロイドを鹵獲しても自爆システムが作動し情報すら得ることができなかったため、この話は直ぐに上の人間の耳に入った。
「久しぶりだな、アージス」
「そうだな、お前の武勇伝を読むたびに私は嬉しいさ。ありがとう、アネモネ」
「いや、そんなことないさ。あんたがいなきゃ俺はあの家で一生自分を殺して生きてたんだ。これくらいしなきゃ恩は返せない」
「随分丸くなったじゃないか。で、こんな話をわざわざしに来た私じゃないことぐらいはわかるよな」
「あぁ、この扉の向こうにいる。気をつけろ...なんて、あんたに言っても無駄か」
「失礼だな、まぁいいさ。お前じゃなきゃぶん殴ってるけどな」
ジョークを飛ばし合いながら、アージスはドアを開ける。
アージスが入ってから俺も入室。
「こんにちは...お嬢さん?」
待っていたのは、椅子に縛られ下を向いている女型のアンドロイド。まるで何処かの国のお姫様のような服装。正直理解ができない。
『...』
「呼びかけに反応はなしか、尋問は?」
「しても意味ないだろ、痛覚がないんだ。それに心も無い。しようがないさ」
「それも、そうだな」
『...』
「上の奴らはなんて?」
「さぁ?今でも会議が行われてる。そんな中、私が様子を見てこいって来たわけ」
「そうか」
「まぁ、あんたの顔を見れただけでも良いんだけどさ...さて、どうする?犯す?」
「そんな趣味はない...」
「アンドロイドとは言え、機構は人間を模している。子宮ぐらいは あるんじゃないか?」
「ねぇだろ、だってアンドロイドは文字通り手で作れる。だから、いらないだろ生殖器なんて」
『...』
「どうだか...よし。脱がすか」
「おい!聞いているのか⁉︎」
「どうしてそんなに慌てるんだよ、本物じゃないんだ。童貞じゃあるまいし」
「とった奴が言うな!」
「わーったよ、私が見る。それなら構わないな?」
「脱がさなきゃ良いってわけじゃないだろ...って」
もうスカートに潜り込んでしまった。
「...はぁ」
ため息をつく。この人といるとため息をしないことがない。
「これはっ!」
アンドロイドの目が動いた気がした。
「...?まぁいい、どうした?」
スカートから這い出て来た上官はやけに深刻な顔をしている。
「...」
「...どうしたんだ」
「ない...」
「ほら言ったろ?子宮なんてないさ、第1...」
「話を聞け、子宮はなかった。そう、子宮"は"だ」
上官の雰囲気から固唾を呑む。
「子宮口がある、そう、子宮本体だけが取り除かれた人間のようだった」
「...にん、げん...」
「アネモネ」
「な、なんだ」
「アンドロイドは私が来る直前に自爆した。そう伝える。これは、私が処理する。いいな?」
「...」
「いいなッ!」
「了解」
「この基地は私が使う、構わないな」
「構いません、我々は次の作戦に参加するためここを離れます。そのためこの基地の権限はアージス准将に譲渡します」
「うむ、ご苦労」
「では、失礼します」
敬礼し、拷問部屋から出る。
それから、次の基地についた頃に非主回線で俺宛に留守電にメッセージが届いていた。
「ありがとう、今度呼ぶことがあるだろう。その時はよろしく頼む」
いつも通りの声色に安心を覚える。
受話器を耳から離そうとした時
「..............し......い。ごめん」
慌てて耳に当てたためよく聞こえなかった。
ただ、ごめんとだけは聞こえた。それが何を意味するのか正直見当がつかないまま俺は戦場に足を踏み出した。
全体的にみたら短め?