恋の二重奏 ソロとデュオ
まだ、足が慣れない。
...実際は慣れたくないことが本心。
手も同じく。
だから、リハビリをしている。
慣れなく無いが、少しでも使えるように。
そんな俺は今。
汗水流しているわけだが。
二人は...
「ルシルちゃん、これどうぞ」
「わーぁい!花かんむりだ!じゃあね、これあげる!」
平和...だ。
「きゃぁ!ルシルちゃんやめてぇ〜蛇は!蛇は苦手なのぉ〜」
平和...なのだろう。
「うっへっへ、これでもくらえ!」
「きゃぁぁぁ!誰かぁぁ〜」
蛇を両手でムチの如く振り回している。
平和...なのか。
「たしゅけて、くだしゃい、しょえるしゃーん」
耕したばかりの土を平気で踏み荒らすエウア。
「...」
...知らないことは仕方ないのかもしれない。
更にその場で足踏みするエウア。
だが、限度がある。
「エウア、畑を踏み荒らすのはやめてくれ」
優しさなど微塵もかんじられない冷酷な注意をしてしまう。
「ふぇっ?うう、しゅみません」
畑から出てくれたが。
その顔はしょんぼりしている。
これから生活するのに関係を大切にしたいが、どうも優しくできない。
こういう時どうすればいいのだろうか?
よくわからない。
上手い人ならフォローするのだろうか?
「あぁ、その?あれだ、わかればいい」
「はい...」
もっと他に言い方があるのではないのか?
なんて、希望論。
現実の俺は現実主義。
希望なんて、夢物語。
不器用な俺には、優しくできない。
天気は快晴、時刻は太陽がちょうど真上時。二人は疲れ果て寝ている。
ルシルは、既に木の幹に横たわり。
エウアは、俺の膝を枕がわりにしている。
畑を耕し、種イモを半分にして埋め、その上から水をかけ、一応のジャガイモの量産体制は整った。
「しかし、このクワ意外に持つな...」
拾い物だけで制作されたこのクワは、言うまでもなく即興品なのだが...
「えへへ...」
俺の膝で寝ているエウアが様々な改良を施し、即興品とは思えない程の耐久性持っている。
クワといい、俺の四肢といい、エウアは一体どのような目的で作られたアンドロイドなのだろうか。
遅かれ遠かれこれから知ることになるだろう。
これからは、必ず隣にいるのだから。
俺が、戦線に送られてすぐのことだった。
その戦線は既に壊滅状態。
負け戦だった。
何度もライン上げを試みるが、仲間が無駄死にして、逝くだけ。
ここは物資や、援軍輸送をするためのバギーを数多く置いている輸送基地。
放棄すれば、味方の援護が難しくなってしまうだけでなく、弾薬補充までもが難しくなってしまう。
何としてもライン上げに成功し、付近に存在するであろう敵基地を壊滅させなければならない。最低でもライン上げには成功しなくてはならない。
辺りを見渡すが、生き残っている兵士はほぼいなかった。
肉片と化し、ヒトの形を留めてさえいない。
こんな状況で、成功するわけがない。
もう何もかも諦めている。
「おい!生きているか?」
生き残りが、話しかけてきた。
頷き、耳を傾ける。
「この戦局だと、突貫しても意味ないな」
「...」
こいつの目はまだ、死んでいない。
諦めていない。
「どうする?下がるか?」
下がれない。
下がれば、軍法会議モノ。
良くて、晒し。悪くて、死。
八方塞がり。
「いや、今すぐ仲間を集めてくれ。俺はその間、輸送基地に連絡を取る。ダメ元でもやらないよりはマシだ」
居てくれるだけでも支えになることを、この歳になってようやく気づいた。
考えがまとまる。
「了解だ、できる限り集める。あんたは、その間大番狂わせの方法を考えくれ」
「了解、頼むできる限り集めてくれよ」
「わーあってるって」
この安心感。
今まで、集団生活の中で一人だった。
さっきまで戦地で一人だった。
このスケールの差は大きく、強い不安に駆られていた。
しかし今では、隣にあいつがいた。
それだけでいい。
たったそれだけの情報でここまで、変わるとは思いもしなかった。
生きてきた中で、こんな安心感はなかった。
「さて、逆転の一手は...」
結果として、本当に大番狂わせをしてしまった。
ライン上げだけでなく、敵基地まで占拠。
この快挙は瞬く間に広がり、勲章の授与までされた。
それから、3階級特進。
少佐となり、小隊を持つことができるようになった。これですら異例の快挙。
最短で少佐へ昇格。異例の中の異例。
そしてあの戦線にいた生き残りが、初代DF隊の隊員となった。
DF隊は主に、戦地を転々とし劣勢状態を改善することが主な目的である。
DF隊が訪れた戦地は、9割で改善成功すると噂が立つぐらいには自軍に広がり、二つ名としてThanatosと名付けられた。
本来はトンボのように戦地を駆けたい思いでつけたが、Thanatosと愛称が付けられてからはDF隊と呼ばれることが減った。
このようにして、俺は毎日毎日戦地に足を運んでは大番狂わせを成功させていった。
それと同時に、寂しさを紛らわせていた。
あの、寂しさは一生忘れない。
トンボって日本語だど、のほほんって感じだけど、英語にすると急にかっこよくなってる気がする...