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失愛園  作者: 雪水湧多
4/7

おとぎ話

1日後。

リハビリ...という名目で病院の外を二人で散歩していた時のことです。


「あの、ソエルさんは...」

「ソエルでいい、二人しかいない。だから他人行儀だと、変な気分になる」

「そうですか?私は平気ですけど」

「俺が気になる。けど、強制はしない。でも俺はエウアって呼ばせてもらう。そちらの方が慣れてるからな」

「わかりました、ではソエルさん」

笑顔で、話しかけてくるエウアはアンドロイド...もとい機械には見えないぐらい精巧にできている。

...らしい。

不用意に近づくのは、気がひけるためできない。

「なに?エウア」

「ソエルさんは、どんな子供でしたか?」

「それは、つまり。幼少期を聞きたいってことでいいのか」

「他に意味がありますか?」

無い。ただ、少々話すのが億劫なだけ。

「...わかった。昔...小学生ぐらいでいいかな」

「小学生...7歳から12歳までですね!構いません!是非聞かせてください!」

目を輝かせて、嬉しそうだ。

その目は、読んで字の如く「キラキラ星」が一番当てはまる。

これでは、断りづらい。

渋々、語り始める。

「そうだな、小学生は、とにかく不器用だった...って今もか。

まぁ、無邪気で、自己中心的で、周囲を一切考えず、なんでも自分が一番じゃないと気が済まなかった。だが、メンタルが弱く、すぐ拗ねる。言い表すなら「ガキ大将」に憧れた泣き虫だった」

家もそこそこの金持ちだった。

今思えば、小学生の頃が一番自分に忠実にで正直だったかもしれない。

「意外です。もっと、静かな子供だと思っていました。なんか、こう、教室の隅で本を読んでるようなイメージでした」

「それは、中学の頃だ」

「あはは」

「あと、カンドゥムが好きだった」

「カンドゥム?」

「カンドゥム知らないのか?機動兵器カンドゥム。アフロ・レイダーとか、知らないか。DB3が好きだったんだけどな」

知らないのか、文化には疎いのか。

「ま、まぁガキ大将に憧れた時期は、低下学年までだった」

「低学年...1から3年生のことでしょうか?」

「そうだ。高学年からは、人と触れる時間を、回数をかなり減らして過ごしていた」

「なんで...って聞いても?」

「...」

心身共に成長したから、と言ってもアンドロイドに成長の概念があるとは考えづらい。

それに...

「あ、ああ。うん。構わない。そうだな、その頃から不器用が本格的に猛威を振るい始めたから。って言えばわかるか?」

「...うーん、すみません。サッパリです」

「その頃の子供は、自分という存在を確立していくんだ。俺はその頃に、不器用で多数の相手を何度も傷つけてしまって、ほとんど一人で過ごしていた」

「...よくわからないですね、人の子って。産まれて自分が居るのに、自分を確立するって」

確かにそうだ、存在としては自分は確立している。

「言い方が悪かったか、その頃に自分がどんな人間なのか知るんだ。自分のしてきたことを振り返って」

「あぁ、なるほど。それまでをテストだとすると、採点した後ですね」

「まぁ、そうなる。結果が出た後だな」

当たらずとも遠からず。

例えが機械らしい、といえば機械らしい。

「それなのに、誰とも分かち合おうとも思わ

なかったのですか?採点して、比べたりは...」

「できなかった...というより、しなかったが正解。採点するスピードが、周囲より早くて、デキの悪い自分を知られるのが嫌で避けた。で兄貴がこの頃中学に入り、親が兄貴に程いっぱい。俺のことはほったらかし。採点の終わったばかりの子供から、本来なら親は目を離してはいけない」

「どうしてですか?」

「精神的に不安定だから」

「だから、周囲を気にしだしたわけですね。というか、お兄さんがいたんですか」

確かに、人の視線が嫌になったのはこの頃だった。

「いたよ、デキの良い兄貴が。中学に入るなり、野球部に入って未経験のくせに、スグにレギュラー入り。1年生後半では、ピッチャーまで登りつめてた。そんな、兄貴に親が目をつけて全力で応援。俺なんかにも目もくれずにね」

「野球...あの棒と玉を使ってやるベース型のスポーツですよね」

「そうだ。投げたり、打ったり、走ったりする。ピッチャーは、投げる人。相手に打たれないように上手く投げる。それなりにセンスだって必要だ。そんな兄貴を俺は、尊敬しながらも嫌っていたよ。単純に嫉妬してた。

「そうだったんですね。では、中学生の頃について聞かせてください」

嫌な雰囲気を察したのか、エウアは深くは追求してこない。

アンドロイドにここまで気を遣わせてしまって良いのだろうか?

「あ、あぁ、わかった。...中学生は、さっきも言ったように本をよく読んでいた。夢は詩人。部活も入って、副部長にまではなったが兄貴の足元にも及ばない。その頃から、比べられるのが嫌いになり、勉強もほとんど勉強しなかった。いつも順位は全体の中間程。

友人関係もそれなりに築いた」

「今の感じに近づいてますね。中学時代が基盤ですかね」

厳密に言ったら小学生高学年だろうが、意識し始めたのは中学生から。つまり、問題なし。

「高校生から、いや、高校生も紆余曲折だった。せっかく受験して受かった高校をわずか数ヶ月で辞め、通信制の高校に転入」

「受験ってなんですか?」

「どれだけ勉強が身についているのかのテスト。実力があればほぼ受ける高校は自由だ」

「自由なのに、テストするんですね。ほんと、よくわかりません。自由にしたり、拘束したり。規則性がありません」

機械脳。

機械にほとんどの優劣がないからこその考え方。

「そもそも側から見たら、人間は人間ですよ。人間が決めたルールに乗っかって上下関係を作られても、見た目は変わりません。人間は人間。それを超えられないってわかってるのに、優劣をつけたがるんですね」

「人間は、自分より弱い奴がいないと気が済まない生き物」

「そういうもんですか?」

「そうだ」

「で!そのツウシンセイ高校では?」

「通信制高校は、不定期的に学校行ったり、レポート出したりしていた。性格も中学からあまり変わらず。無事卒業する頃には、戦争が始まった。この歳に成れば、戦争に駆り出される。そこで、中学時代の友人に会ったりもした。名前は、ロキト。ロキト・モリーン」

「ロキトさんですね。どんな人だったのでしょう?」

「ロキトは、自分に正直で、他人に口出しするくせにいざ自分のこととなると、行動力がないヤツだった。そんなヤツが、俺と同期で、同じ階級まで登りつめた」

ロキトには、中学から助けられることも多かった。一方的に思ってるだけかもしれないが、当時本音で話せただけでも十分な救済だったためだ。ただ、傲慢ワガママな男だった。それが功を奏してきた人間なのかと軍人になってから、よく思っていたものだ。

「きっと、面白い人だったのでしょう」

「本人の趣味により主に、女性に嫌われていた男だ」

「セクハラですか?」

「いや、よく美少女ゲームばかりしていたため妄想が...発言が...」

「あっ、そこまででいいです」

今亡きロキト。大儀であった。

「それで、軍のことも話すか?」

「どうしましょう......ここまできたら、全部聞かせてください。今に至るまで」

少し、エウアの表情が硬かった。先程までの明るい話ではないから。

無理もない、これから多くの仲間を殺した集団の話をするのだから。

「軍では初陣で偶然勝利を収め、家柄がそこそこ良かったために最終階級は少佐。軍部がやけに気に入ったらしく、小隊の隊長をしていた。小隊名はDF小隊。ドラゴンフライ小隊」

エウアの顔が強張った。

それでも、続ける。これも、覚悟していたことだろう。

「DF小隊。その特徴として、隊員全員がゴーグル装備、ほぼ全隊員がクセ者。夜戦が主に任務。遊撃をしていたがため、トンボ(ドラゴンフライ)の名前がつきました。そして、アンドロイドを一番多く殺した小隊...ですよね。DF小隊の二つ名は...

「「Thanatos」」

「知ってたか。有名だから知っているもの当然か。あと遊撃以外にも、暗殺もかなりした」

「...」

「...怖いか?」

「正直に言えば、怖いです。でも、今のソエルさんからはThanatosとどうしても結びつかなくて」

「俺はただ指揮と、狙撃をしていた。そこまで、アンドロイドと顔を合わせていないから無理もない。よく言われた。Thanatosと結びつかないって」

Thanatosと言うたび、エウアの肩に力が入るのがわかる。

言ってみれば、たまたま話しかけた人がシリアルキラーだった。みたいな感じなのだ。

ただ、今は状況が違う。

「少しずつ、受け入れて欲しい。俺も許されようとは思っていない。ただ、知っていて欲しかった。殺したいなら、殺せ。俺はエウアに殺されても文句は言わない」



衝撃的なカミングアウトから、数時間。

私は受け入れることにしました。

ソエルさんは、優しい人だから、不器用な人だからあんな風にした伝えられなかったんだと思う。

だから、私も...いつかは言わなくてはいけませんね。

受け入れてもらえるでしょうか?

...きっと、受け入れてくれると信じてます。

あぁ、動力炉が痛い。

今までこんなこと無かったのに。

なんだか、怖いはずなのにふわふわする。



ソエルさんに受け入れることを話してみると。

「そうか、お前は優しいな。そして、強いな」

ソエルさん程では、無いと思います。

ソエルさんが異常なだけです。

そう返してから、数日。

いつものようにリハビリをしていると、ソレは突然現れました。

「お、おい!そこの下郎!」

「...誰を指している?」

「お前だよ!そこの白いの!」

私は、青い感じなので『白いの』というと。

白衣姿の...

「俺か。そもそも、全滅したんじゃなかったのか」

「よかった...他にも人がいた...」

見た感じ、ただの幼い人間の子供に見えます。

「下郎と同じにするな!あたしは違う!」

どうやら、小さいのは外見だけのようです。

ソエルさんは、少し嫌な顔をしてます。

「あたしは、なあ!...」

「いいから、で。用はなんだ」

それでも、冷静に対処するソエルさんはやっぱり軍人です。

「そ、そのだな」

「な、なんでしょう?」

「食料をだな」

...

「得体の知れないやつに、分ける食料は無い」

わかってはいました。この状況下、食料の話題なら...

「まだ何も言ってない!」

まぁそうなりますよね。

「そんな...イジワルはやめません?」

一応、仲裁に入ります。

「甘いよ、どこかの馬の骨かもわからない幼女にやる食料なんてない」

スパッと切られました。

「あのな、節約して2ヶ月分。普通なら1ヶ月しか持たない貴重な食料なんだ」

この病院は小さなもので、そもそもの備蓄もあまりありませんでした。そこに、戦争が始まったことで備蓄が貴重になってしまいました。

「うぅぅ...食料を」

「断る」

アンドロイドでも、食料は必要です。

ただ、人間よりも少量で倍の活動ができるので2日に一回でも問題ないはないと言えばないです。ただ、ひもじい感覚はあります。

...とりあえず、助け舟を出しておきます。

「ソエルさんは、見知らぬ人にやる食料は無いと言っています。なので、知人になって見たらどうでしょう?」

ソエルさんは、根は優しい人です。なので、きっとわかってくれるはずです。

...露骨に嫌な顔しないでください。

でも、言動は。

「そういうことだとさ、でどうする?」

「...うぅ」


名前はルシル。

種族は妖精...らしい。

年齢は不明。見た目は8歳ぐらい。

性別は女。

「で...」

特徴。

「食欲旺盛」

「ですね」

参ったものだ。食糧庫を確認したが、残りを二人で計算すると3週間分。もちろん、節約した場合の話。

「間違えたことしたのか...俺は」

「あは、あはは」

エウアも苦笑い。

どうしたものか...

「これからどうやって生活しようか、エウア」

「どうしますか?これ...」

だから、嫌だった。

昔こんな上官がいた。

そのときもそうだった。

ロクな結果にならなかった。突撃するときも、明らかに突撃し過ぎのはずなのに突撃。

もう、特攻部隊となんら変わらないぐらいに突撃。味方の半数が死に、撤退を余儀なくした。

「残った食料は...」

ぱっと見。

水分が抜けてシワシワになった人参。

芽が出ているジャガイモ。

比較的問題なさそうな玉ねぎ。

「カレーか」

そして、ルシルが食べている...訂正。

飲んでいるのは、スープカレー。

絶対抜いただろ。野菜。

...一応、他にはカロリーメイクとレトルトカレー。ドライフルーツに、缶詰。

これで...何日もつのだろう。

斯くなる上は...

パロディ...かも?

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