霧が晴れていく
「意外と似合ってますね。適当に拾ってきた服ですけど」
「そうか、でも軍服よりはマシだ」
「ボロボロでしたからね」
「...」
「...」
「霧が深いな」
「そうですね」
屋上からの景色も、霧がかかっていてよく見えないがあちこちに緑が見え始めていた。
「...」
「...」
「ちゃんと歩けました?」
「なんとか。フラフラしていたが、歩けただけでも奇跡だ」
「そうですか」
「...」
「どうして、屋上なんかに?」
「気がついたら、上を目指していた」
「...そう、ですか...」
「目覚めは少々手間取った」
(数時間前の回想)
目がさめると目の前には見慣れぬ天井。
「ふっ...う」
体を起こし、辺りを見渡すが人影はない。
さっき目覚めた時は分からなかったが、恐らくここは病院だろう。よく、戦争時に倒壊しなかったものだ。
窓を見ると、空はまだまだ暗い。けど、俺の知る限りこの空は朝に近い。
恐らく5時頃。
下は深い霧で、よく見えない。
ベッドを降りようと、すると棚の上に置いてある白衣が目に付く。上に「これを着てください」とメモ書きが置かれていたため、着替えることにした。
「うっ、しょと。...やはり、慣れないな」
結局全て着替えるのに3分もかかった。
これでは軍人として失格ものだ。
だが今は、どうだかな...
この部屋を出ようとするが、一歩一歩進むごとに戸惑ってしまう。
「...っ...っ」
とりあえず、屋上を目指す。
日の出を見てみたい。
という、今までの日常から外れていた行為。
覚えはないだろうか?
いきなり変わった環境になると、今までやらなかったことをしたくなることが。
「間に合う...か?」
ゆっくり、ゆっくり確実に上を目指した。
(回想終了)
初めはおぼつかない会話だったが、なんとか成立し始めたのではないだろうか?
「その...慣れました?」
「慣れはしない。ただ、受け入れただけだ」
「お早いんですね、もっとかかるかと思ってました」
「軍人が、いちいち現実を受け入れるのに時間がかかっては使い物にならんからな」
「まるで...」
「アンドロイドみたいか?」
「......はい」
「アンドロイドに対抗するのに、アンドロイドの思考かつ人間のままでいた結果だ。初めは、本当に辛かった。人殺しをしてるみたいで、嫌だった。でも、必然的に慣れてしまったよ。いや、アンドロイドに思考が寄っていったのが適切か」
「...」
エウアは、うつむいていた。
「すまない、嫌だったか?」
「いえ、大丈夫です。ただ、人間にも辛いことってあるんですね」
「人間から余分な感情を取り除き、機械化したものをアンドロイドと聞く。辛いと感じるのも当然だ」
「...」
「...なぁ」
「あっ、霧が晴れ始めましたよ」
遮られた...というより、タイミングが悪かっただけだろう。
「...」
「...」
「...私。アンドロイドですよ?」
「大体は察していた」
質問しようとしたが、する前に答えが返ってきた。
「怖くないんですか?敵ですよ?」
「あぁ、そうだな。ただ、助けてもらったからな。恩を仇で返すほど、落ちぶれてはいない」
「...よく、わからないです」
「こちらからもいいか?」
「はい、なんでしょう?」
「どうして、助けた?」
「さぁ?なんででしょう」
霧が晴れ太陽が顔を出し始めた。
「他に仲間は?」
「恐らく、死にました」
「人類は?」
「恐らく、死にました」
「なぜ?」
「わかりません」
そう、謎だった。なぜ、他に誰も居ないのか。本当にいないなら、なぜ争った双方がほぼ全滅したのか。
エウアが、日の出るほうへ向かい歩いていく。
「寂しいか?」
「寂しく、ありません」
「ダウトだ」
「...」
「寂しくないなら、どうして泣いてるんだ?」
エウアは、振り向き。太陽と重なり眩しくも、綺麗な絵になっている。
「寂しく...ない、ですよ」
エウアの瞳から零れ落ちる雫。
どうして、人類とアンドロイドは争ってしまったのだろうか?こうして、話してみればなんら変わらないのに。
あの戦争は。
まるで人類同士が殺しあってたみたいだ。
「なぁ、この世界にまだ、留まり続ける必要があると思うか?」
「...そんなの。わかりません、けど。生きなければいけないと思います。死んだ、仲間の分まで」
...そうだ。確かにそうだ。生きなければならない。そうしなければ、死んだ仲間に合わせる顔もない。
「俺は生きてていいのだろうか?」
当然、答えは出ている。あえて、聞いてみたくなった。
「そんなの、好きにしたらいいじゃないですか」
「なら、俺は生きる」
これからの目的をしっかり定めるために。
「そうですか...なら私も生きたいです。あの、その、側にいてくれますか?」
「断りはしない。恩を返す」
「ありがとう、ございますっ」
彼女は、泣きながら笑顔でそう言った。
これが、俺たちに残された道。
皮肉にも平和という共存。
和解の道。
「ねぇ、お母さん。絵本読んで」
「いいわよ、そうね。これにしましょう」
母親は絵本を棚から取り、開く。
そして、娘に読み聞かせる。
「『原点』作アダム 絵イヴ」
「その話好き!」
「うふふっ。じゃあ、読むわね?」
ページをめくる。
「昔々、人間に作られたアンドロイドが、人間の効率の悪さを感じ、それを指摘しました。
それが大きくも小さな、争いのタネでした。
指摘された人間は、初めは受け入れていましたが、指摘されていくにつれ人間はアンドロイドを否定し始めました。
『お前は使えない!』
『この役ただずが!』
アンドロイド達は自らが間違ってるなんて、思いもしません。なぜならアンドロイドは、常に最善の方法をするように作られていたからでした。
それなのに間違ってると言われたアンドロイド達は、どうして間違っているのか、その理由を人間に聞きました。すると、
『聞く耳持たん!』
『そんなこと自分で考えろ!』
と断られてしまいました。
それでも知りたいアンドロイド達は、考えるもわかりませんでした。それは、アンドロイド全てに当てはまることだったため、決して不具合は出ないと結論が出ました。そのため、何度も人間に聞きました。
『知らない!うるさい』
『邪魔するな!』
と邪魔者扱いされ、ついには一部のアンドロイドに暴力を振るい出しました。
それでもアンドロイドは、何度も人間に聞きました」
「うん、うん」
「ふふっ。続き読むわね。
何度も繰り返し同じ質問をしてくるアンドロイドに人間は、アンドロイドを壊し始めました。アンドロイドは、ここまでくると流石に我慢ができません。初めアンドロイドは、話し合いで解決しようと考えましたが、話すことすらしてくれない人間を攻撃し始めました。攻撃することで伝えようとしました。
『こんなことは、もうやめてほしい』
アンドロイドは、そう言いながら人間を壊し始めました。
これにより、戦争が始まりました。
人間は、本質的に争うことで伝える傾向がありました。
アンドロイドは、その場の最善の方法で伝える傾向があります。
そして、双方が求めているものはいつしか自らの種族が平和に暮らせる世界を望みました。
アンドロイドは、話し合いをして平和になるように。ただ、今やめると戦争で負けアンドロイドが全滅してしまうため、いつでも話し合いできるようにしていました。話し合いをすることのできる平和を望み、人間は、相手を全滅し戦争が終わって平和になるように望んでいました。
「大丈夫?眠れそう?」
「うーん、もうちょっと」
「そう、じゃあもう少し読むわね
人間は、アンドロイドを壊すため開発を繰り返して。
アンドロイドは、その生産性の高さを生かして。
戦争は何十年も拮抗しました。
そして、ある時...
ってもう寝ちゃってるじゃない」
母親はベッドに娘を運び、寝かせると。
「おやすみ」
と言って出て行きました。