8、特待生クラス
ついに?ついに?
ちょっとオネエっぽいおじさんに助けてもらってから、一週間が経ち、新しい先生でのレッスンの日がやってきた。楽しみだな~。早く美香ちゃんと同じ、小学生の特待生クラスに上がりたいな~。本気出しちゃおっかな~。と、いうことで、今日も本気出しまーす。
まあふざけたけど、あの日本気を出てから、私の中で演技の楽しさを思い出した。心がぐって掴まれるみたいに苦しくなって、お腹の辺りから幸福感が湧き出てくる。前世でも納得のいく演技をする度に感じていた。そして思った。全力でやらなければ、何事も楽しくなんかないのかもしれない、と。
といっても、ちょっと今のはかっこつけてて、流石に園児が女優のような演技をしたら何かとうたがわれそうなので、抑える時は抑えようと思う。
「本当に良いの?」
お母さんは凄く心配なようだけど、先生が変われば別にどうってことない。というか、楽しみなぐらいだ。なぜなら、レッスンが終わったら、写真撮影の予定が入っていて、これが、かなり楽しいらしい。最初の時は、ただ撮られて終わりだったけど、小雪ちゃんによると、本当の写真撮影では、すごい髪のセットとかしてくれて、めっちゃ可愛くなるらしい。オシャレに興味は無いけど、自分が化粧とかでどこまで顔が変わるのかは興味がある。
「凜々花?どうしたの?本当に大丈夫?」
「 うん。」
お母さんの声で我に返り、事務所に行く準備を整えた。
事務所に着くと、
「見学しなければ気が済まない!」
と言い張るお母さんを車の中に押し込んでレッスンに向かった。見学は構わないらしいけど、私的に恥ずかしいんだよね。私の演技力で泣いたふりして帰ってもらった。やっぱり泣き落とし使えそ…ゴホン!別に何でも無いよ?
ということで、教室に入ると、生徒さんはまだいなかった。先生もおらず、水やタオル(ダンスの授業用)の入った鞄をフックにかけて、適当に体育座りする。今日は新しい先生の初レッスンなので、台本も宿題はないし、暇~に写真撮影の事を考えてた。
どういう雰囲気の写真にしよう。恩師の加賀先生は、役の雰囲気を交えて演技しなさい、とかよく言ってたから、服装は勿論、ある時は化粧したりと、雰囲気作りには力を入れた。まぁ、あまり器用なタイプではないので、メイクは初め先生に笑われる位下手だったけど。今も田舎のjk(田舎のjk=都会の中学生)ぐらいしかできないけど。
そしてその写真は、オーディションの時の履歴書みたいな、名前とか出演したドラマやCMなどが書かれてる紙に載せられる。ちなみに一年ごとに変わるんだって。
と、いうことで、役にあった雰囲気の写真にしたい。け、ど、何の役をやるか分かんないしな~。有名になれそうな役は何かなあ。
ひとしきり考えてると、他の子たちも続々と入ってきた。
「おはよう!」
物思いにふけってた私を現実に引き戻したのは、小雪ちゃんだった。小雪ちゃんは、初めは恥ずかしがっていたものの、慣れるとよく話すようになって、私や佳苗ちゃん以外にも、友達が出来てた。
まあそれは置いといて、
「ねえ小雪ちゃん、有名になれる役って、どんな役かなあ。」
小雪ちゃんに訊いてみよう。
「え?そんなの決まってるじゃん!悲しい役だよ。美香ちゃんも、悲しい役で有名になったんだよ。」
なんでも、美香ちゃんは、ホームレスの親子の子供役をやって、有名になったらしい。そのドラマなら、私も見たことある。母親と子供というテーマで、母親の葛藤とかも描かれてて、面白かった。
シリアスで、子供ながらに悲しい役が設けられてるドラマか。できれば母子系かな。そういうのでヒットした子役、言われてみれば多いよね。
「私もそういうドラマに出てみたいな~。」
「私も~。」
二人で喋ってるうちに、新しい先生が入ってきた。
「おはようございます。」
茶髪の二十代くらいの若そうな女の先生だった。
「「「「「「「「「「「「「「おはようございます!」」」」」」」」」」」」」」」」
あ、実際にはこんなに揃ってなかったけどね。
「はい、元気があっていいですね。」
と言うと、自己紹介を始めた。皆も一人ずつ自己紹介していく。
この先生は、二十八歳の新米で、昔は俳優やってたんだって。それしか言ってなかった。
自己紹介が終わると、出席を取った。なんか普通に佳苗ちゃんの名前が呼ばれてなかったけど、まだ来てないし、今日は休みなのかもしれない。
「これで出席取りを終わります。じゃあ、さっそく授業に入ります。」
そういうと、紙を配りだした。
「二分あげるので、台詞を覚えてください。スタート!」
当たり前のようにそう言うと、タイマーをセットしてさっさと始めた。
前の先生の時は一人芝居はやった事無かったので、皆少し戸惑いつつも、時間を気にして、いそいそと紙を読み始めた。
内容は、遊園地に行きたかったのに行けなくて泣いて母親に怒る、という、とっても教育に悪そうな内容だった。
口ずさみながら台本を読む。前世では、一日で覚えて来いと、十ページ程の薄っぺらい台本を渡され、覚えてなかったらこっぴどく叱られるので、宿題なんか後回しにして台本を一生懸命覚えた。そのおかげで、記憶系の社会や理科はできたものの(朝覚えた)、算数や国語(漢字以外)は苦手科目になってた。
それはさておき、この物覚えがいい体と、私が見出した最強の暗記法さえあれば、こんなもの三十秒、、、五十秒で終わるさ!
と、無駄に長い時間を持て余してた。
「はい。終わりです。じゃあ窓側の子からやって。」
おお、私は最後から五番目か。暇だな。とは言ったものの、強弱とか間とかを復習してるうちに、いつの間にか私の番が来た。
「はい。」
一礼して、前に出る。
ふう。
ここは初めっから泣くような台詞だから、まずは気持ちを作る。
「どうして!?っっ…遊園、地に、連れてって、くれるって、言ったじゃん!っっっ、今日は、遊園地に、行く、って、先週っ、から、決め、てたじゃん。お、お母さんのバカ!!!(本当はここでおわるんだけど、座り込んで泣く。)えーん、っっえーん」
一通りそんなことをして、立ち上がった。
「終わります。」
私は演技でも目が赤くなるし、しゃっくりが出るので、少々恥ずかしいなあ、と思いつつ席に戻った。
「はい。ありがとう。素晴らしい演技ですね。」
先生はそう言って、小雪ちゃんに、演技を始めるように言った。
そのあとは、なんかアドバイス言ったりしてた。それで演技のレッスンは終わり、ダンスのレッスン、歌のレッスンを、いつも通りに終わらせる。
本当はこれで帰るんだけど、今日は写真撮影があるので、演技担当の先生に同行してもらって、事務所内に付いている、写真スタジオに行く。演技担当の先生が、雰囲気などを指摘するんだって。ほら、やっぱりね。あいつのせいじゃん。(かなりストレスが溜まってた。)
で、着いたら軽く化粧させられ、服を着替えさせられた。
服は自分で選べた。
髪型は、ツインテールにされそうなところを必死で止めた。ツインテールだと、元気はつらつっこって感じに見えるから、おろしたまま、ちょっとカーブをかけてもらった。
さりげなく先生とカメラマンさんに、やりたい雰囲気を伝えたら、なんかポーズとか口角とかの指摘もしてくれた。いやあ、ありがたいね。
でもそれがかなり大変で、なんか凄い時間かかった。一時間くらい。やっと出来上がったら、なんか記念にベストショットの写真をプレゼントしてもらったし、メイクも残したままだった。
自分で言うのもなんだけど、可愛いんだよ、私。クリっとした目に、綺麗なラインの二重。小さめの口。鼻はそこまで高くないけど、日本人の可愛い子って感じの可愛さ。自分で言うのもなんだけど。前世では顔がコンプレックスだったのに。本当にに感謝します、神様!(女神様?)
ベストショット写真を迎えに来たお母さんに見せて、感動されて、とっとと帰ろうと思ったんだけど、先生に呼び止められたわ。
「お母様もご一緒に、お話があるのですが…」
と、先生に呼び止められ、会議室、と書いてある部屋に入る。
会議室!!?私なんかやったっけ?と、緊張しながら入る。お母さんも緊張してる。会議室といえば、前世で、演技の練習の忙しさが絶頂期の時、授業中に何回も演技の事ばっかり考えてボーッとしていたり、何回台本取り上げられても懲りずに台本見続けてたせいで、親呼び出されて職員室で怒られたなぁ。家帰った後親に怒られるのが怖くてガクガク震えてたなぁ。あ、会議室じゃないか…、なんて事を考えて、緊張を紛らわせようとしていた。逆にトラウマを思い出して全く効果なかったけど。
話が逸れたが、会議室の中には、私を助けてくれた、高血圧のおじさんや、校長って感じの貫禄があるおばさんがいた。
「そこに座って。」
と、先生に言われ、三人と向かい合う形で、私とお母さんが座った。
すると、貫禄のあるおばさんが話し始めた。
「いきなりですが、私はここの創設者、あ、凜々ちゃんは分かんないか。えっと、社長みないなものね。あと、ちゃっかり先生もしてるの。」
創設者!うわーすげーの出できたよー。
「それで、いきなりですが、小学生の特待生クラスに入る気はありませんか?」
「「へ?」」
と、そこからは口出しする間もなく、特待生クラスの説明が延々と続いた。
なんでも、特待生クラスは、人数を少なくしたいため、一、二、三年生の低学年クラスと、四、五、六年生の高学年クラスに分かれてるんだとか。今回誘われたのは低学年クラスだ。当たり前だけどね。で、特待生クラスに入ると、いい仕事のオファーが優先的に回されるし、色々な授業が、タダで受けられるんだって。アクションシーンとかのためにも、運動系を選択しようかなーって考えてる内に、なんかドラマのギャラや、タダの授業の本来の月謝などが、お母さんに吹き込まれていた。お母さんの目が光る。私も首を傾げながら目をギラギラ輝かせていた。
「……と、いうことなのですが、やりますか?」
「「はい!!」」
「では、史上最年少ということになりますね。」
なりますの!?
え?ウソ?凄っ。
「あ、でも、佳苗ちゃんや小雪ちゃんと会えなくなるのかあ。」
独り言のように呟いた言葉に、高血圧な(高血圧そうな)おじさんが反応した。
「佳苗ちゃん、…彼女ならもういないよ。」
「え?」
「もう辞めたんだ。」
どうして?
「では、手続きは私共の方で終わらせますので。」
と、会議室を後にしてからも、結局理由は思いつかなかった。
まだこの時は、この数年後に真実を知るなどとは、思ってもいなかったのだった。
なんかミステリアスな終わり方ですねー。覚えていてくださいね!