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子役もかなり、大変です。  作者: ほっかいろ
第一章~子役、始めました!~
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5、初レッスン

 楽しみですね!

 今日はいよいよ初レッスン!と言っても、体験で何となくわかっちゃったんだけどね。


 ちなみに、事務所の名前は、グランディールアカデミーっていうらしい。レッスンは週一の毎週日曜日で、特待生制度とかもあるんだけど、それは小学生からだそうだ。


 パンフレットの情報を、エレベーターで復習してると、あっという間に四階についた。年が上がれば上がるほど、階が低くなっていくようだ。

 四階につくと、左側の廊下に進む。ここの、第二十三レッスン室に入る。


 「おはようございます!」


 この業界であいさつは命、それが例え誰であろうと、あいさつを心掛けなさい。

 ふと、前世の恩師の声が蘇る。

 加賀先生。

年はもう若くはないだろうその人の厳しい眼差しが脳裏に浮かぶ。

加賀先生はいま、何をしているのだろうか?この世界でも会える日が来るのだろうか。


 私はてきとうにその辺に座った。


 「じゃあ、これで皆そろったので、出席を取ります。」


 先生がどんどん名前を読み上げていく。

 私、一番最後だったんだ。遅れてないはずなんだけどな。


 「場緒 凜々さん!」


あ、本名場美緒 凜々花 だけど、呼びにくいかとおもって、事務所の芸名希望の欄に書いといた名前ね。一応、芸名ということになる。


 「はい!」

 「じゃあ、これで全員ですね。」


 って、あれ?


 「先生、今日は美香ちゃん居ないんですか?」


 仕事かな?売れっ子だし。


 「ああ、まだ凜々さんと小雪さんには言ってなかったわね。小学生からのクラスには、四組があるでしょ?四組は特待生クラスで、美香さんはそこのクラスなの。

 特待生クラスっていうのは、演技が上手い子たちのクラスね。

 まあ、それは小学生からだけどね。

 昨日は、年に五、六回の、お姉さん、お兄さんが遊びに来る授業だったの。」


 なるほどね。でも、ちょっと待ってよ。


 「先生!でも美香ちゃんは五歳だから、小学生じゃありませんよね?」

「美香ちゃんは、とても演技が上手だから、先週、特別に小学生の、しかも特別クラスに入ったのよ。」


 美香ちゃん凄っ!

 わたしも、いつかは……。

 期待と想像を膨らませている間に、自己紹介が終わってた。しっかりしろ自分。


 「じゃあ、今から台本を配るので、三人グループになって、配られた台本を暗記してください。」


 暗記とかな……。

 今時の幼稚園児凄すぎでしょ。

 それはいいとして、三人グループ?あの二人を誘うっきゃないな。

 「小雪ちゃーん、佳苗ちゃーん、一緒に組まない?」


 人生の先輩として言わせてもらおう。少しでも接点があれば、すぐに話しかけるべし。これが、友達生活花色への近道なのだ!いや、私にはそんな時期無かったけど、周りの子はそうやってやってたしね……。あ、また黒歴史が…………!!


 「うん。」

 「うん。」


 おっと、もう考えるのはやめよう。

 二人とも少し恥ずかしそうにしている。


 ……まあいいや。

 三人で三角を作るように座ると、すぐに台本が回ってきた。

 って、台本両面かよ!

 やばいなー、と思いながら台本を読む。


 「美和:ねえ、やっぱりやめようよ。

  佳凛:ええ。今更なにいってるの。

  美紀:そうだよ。本物の墓場で肝試しなんておもしろそうじゃん。

  美和:でも。

  佳凛:大丈夫だって。ほら、行こう。

  美紀:意外と、雰囲気でるね。

  美和:ねえ、もうそろそろ帰らないと怒られるよ。

  佳凛:もうちょっとで半分まで行くんだから大丈夫だよ。

  美和:うん、でもさ、

  美紀:わっ、何あれ。

  佳凛:木の枝だよ。驚きすぎだよ。

  美和:ねえ、もうそろそろ

  美紀:しっ。今、何か聞こえなかった。

  佳凛:おもしろそう。行ってみよう。

  美和:ねえ、やめようよ。

  佳凛:美和ってば子供なんだから。

  美紀:か、佳凛

  佳凛:何。……うわ。

  美紀、佳凛、逃げ出す。

  美和:え、何、待ってよ。」


 と、こんな感じだった。幼稚園児が練習する台本なのに、明らかに美紀と美和と佳凜は幼稚園児では無いだろう、というツッコミは置いておいて、台本について少し考えた。?とか!とかがないのは、表現しろということだろう。なんというハイレベルな。


 「役、どうする?」


 小雪ちゃんが私をみる。

 正直なんでもいい。でも、せっかくのレッスンだ。挑戦するのも悪くないだろう。


 「私、美和かな。」


 私の答えに、二人は驚いた顔をしていた。確かに性格は反対だ。でも、それはこの二人にもいい経験になるだろうし。

 二人は、しぶしぶという感じで頷いて、どっちが佳凛で、どっちが美紀をやるかを相談してた。

 私は早速台本を読み進める。


 「ねえ、やっぱりやめようよ。」


 声に出しながら、頭でイメージする。こうするとすごい覚えやすい。

 セリフの暗記に熱中していると、役が決まったらしく、小雪ちゃんが佳凛で、佳苗ちゃんが美紀をやるそうだ。

 ふたりとも早速セリフを覚え始めた。


 バン

大きな音がして、びくりと顔を上げた。

先生が手を打ったらしい。

いつの間にか5分が経過していたのだ。


 「はい、じゃあ、このグループから順に発表していってください。」


先生が手で教室の右手前のグループを指さした。

 位置的に、私達は最後だった。

 このグループには新人が二人いるから、先生なりの配慮だろうな。

 どんどん発表が始まる。

 でもはっきり言って、あまり上手い子はいなかった。どうやら、今テレビ界の子役の座は、美香ちゃんが独占しているらしく、他の子役をあまりみないのもそのせいなのか。

 私も、いつかは、美香ちゃんの隣で演技してみたいな。

 胸が熱くなった。


 「はい、じゃあ最後の……佳苗さんのグループ!」


 先生が私達を指さす。


 「はい!」


 ペコリ。

 佳苗ちゃん(先輩)を見習って、私と小雪ちゃんもはいと言って、ペコリとお辞儀をする。

 全員がてきとうな立ち位置につくのを確認して、セリフを言う。


 「ねえ、やっぱりやめようよ。」

 消え入りそうな声で、佳凛役の小雪ちゃんの腕を引っ張る。


 「ええ?今更何言ってるの?」


 小雪ちゃんがぎこちなくセリフを言う。


 「そうだよ。本物の墓場で肝試しなんておもしろそうじゃん。」 


 さすが先輩。佳苗ちゃんはセリフも、動きも上手かった。

 いや、先輩だからではなく、この中で一番上手い気がする。この分だと、泣く演技もできるのかもしれない。


 泣く演技ができるのは、この世代では、今のところ美香ちゃん位しかいないらしい。そういうことをバラエティーで言ってた気がする。まあ、私もできるけどね。実年齢が違うから当たり前だけど。

 そんな感じで演技が終わり、先生からアドバイスを貰う。


 佳苗ちゃんは、「素晴らしい、この調子でどんどん力をつけていってください。」だった。

 小雪ちゃんは、「初めてなのにすごい演技力ですねえ。これからも頑張ってください!」

 で、私はというと、「初めてにしては凄いけど、セリフははきはき言えてないし、表情は作れてないし、動きもぎこちないので気を引き締めてください。」

 と言われる有様だった。


 は?え?表情も動きもこの中では普通に良いほうでしたよね?と心の中で反抗的な態度を取っていたが、実際には苦笑いをしてきいた。練習のため、佳苗ちゃんと同じぐらいに調整してたんだから、逆になんで私だけ?


 イラつくなー。

っと、舌打ちは良くないね、自分。元気いっぱい五歳児設定だしね。

それに、普通に貶して伸ばそうとしてくれているからだけなのかもしれないしね。


 一人もやもやしていると、間もなく新しい台本が配られて、それをやったら、演技の授業が終わり、流されるまま別の教室に入ると、歌の授業が始まった。


 ここは、歌、ダンス、演技があるんだけど、それぞれ担当の先生が違うらしい。

 流石だ。


 私は、前世でもこの三つを習っていた。最初は舞台憧れていたし、役者は万能な方が後で苦労が少ない、と加賀先生にいわれていたからだ。でも、歌はこの三個の中でも一番苦手だった。加賀先生にもいっつも怒られてた。


 前世で住んでたところは、田舎の中の田舎で、演技教室はもちろん、ピアノやバレエなどの教室もないざまだった。でも演技が好きだった私は、そのことを近所のおばさんに話した。近所のおばさんというのは、私が小さいころからかわいがってくれてるご近所さんの一人だ。


というのも、小さな田舎町では近所付き合いが盛んで、小さい頃から近所付き合いが当たり前だと思ってたので、現世でマンションの近所さんとの付き合いが余りにもなく、驚いたものだ。と、話は逸れたが、そのおばさんに演技の魅力を熱弁した。すると、近所のおばさんは演技を教えてくれるといった。


 その日を境に、私の日常は演技に染まった。まず、「おばさん」という言い方から「加賀先生」というように言われた。気恥ずかしかったものの、演技のレッスンになると、今までのおばさんはもういないようで幼心に怖かった。(ちなみにその時小二)でも、先生に褒められたり、色々な演技ができるようになったり、演技は楽しいところもいっぱいあったので、やめたいとは百回位しか思わなかった。

 で、その百回の内五十回は、歌が原因だと思う。


 先生は軽く挨拶すると、すぐに課題を出した。


 「ライオンクイーン」の、めっちゃ有名な曲だったから、まだ舞台を目指していた頃、加賀先生ともやったことがある。

 加賀先生の濃すぎる授業のおかげで、振り付けまで覚えてるのだが、分からないといっておこう。


 「二人はこの曲知ってるかな?」

 「はい!」

 「はい!」


 なのに何で、瞬時にこんな答えが出てきたのだろう。


 「かっこいーい声で♪……」


 一通りみんなで音取りをした後、二人ずつ、男役と女役に分かれて歌う。ちなみに私は男役だ。

 あと、歌って見て気づいたんだけど、私、小さいのに凄くいい音の出方だ。この体、恐るべし。

 やっぱり才能だったのかなあー。

 前世の自分が可哀そうなほどの違いようだった。


 私のパートナーは、新人同士ということもあって、小雪ちゃんになった。

 さっきと違って佳苗ちゃんが一緒じゃないので、礼とかするのか見てみよう。

 思った通り、「よろしくお願いします。」→ペコリ みたいなことをやるらしい。

 私と小雪ちゃんの番になると、早速実践した。


 「よろしくお願いします!」ペコリ。

 小雪ちゃんも一拍おいて、同じことをしてる。私達が並ぶと、ラジオからメロディーが流れた。

 「きっとなって見せるわ♪……」

 小雪ちゃんが初々しく、緊張しながら歌いだした。

 私も歌う。


 歌が終わると、先生の評価だ。

 歌苦手だからやだあー。あの演技であんな評価だったら、爆死だろうなあ。

 とか思ってると、

 「えーと、あなたは(帳簿チラッ)場緒 凜々さん。」


 「はい。」

 「……。」

 「……(終わったな)。」

 「……素晴らしい!」


 拍子抜けた。そのあとも先生に散々褒められた。

 恐ろしい、この体。

 そのあとのダンスのレッスンでも、先生によく褒められた。

 ちなみに佳苗ちゃんは歌とダンスはまあまあだった。いや、まぁ、幼稚園児としては普通なんだけど、年上としてのプライドが光る。

 まあ?年上だし?

 そんなこんなで今日のレッスンが終わった。二時間ほどかかったみたいだ。

 宿題の台本を抱えて、スキップしながら事務所を出た。

 来週も、楽しみだなあ。

 

  


今日はちょっと長めです


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