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子役もかなり、大変です。  作者: ほっかいろ
第一章~子役、始めました!~
38/46

32、場緒 凜々

1600pt文です!明日で終わりなので,編集にかかります。

 「場緒 凜々…。あまり知名度はないようだな…。」


 調べ終わった携帯を机に置きながら、ふと、何故こんな事を考えているのかと馬鹿らしい気持ちになった。

 

 場緒 凜々、あの子と会ったのは2,3ヵ月前。俺が監督するドラマのオーディションにあの子が来た日だ。退屈なオーディションをあくびをしながら聞いていると、ずば抜けて演技が上手い子がいた。名前は確か西島 麻友、だった。その子は、あの加賀 雪美 の弟子だと噂されていて、芸能活動はしていなかったみたいだが、最近始めたらしく、テレビ業界では期待がかかっている子だ。

 だが、俺は西島 麻友 にではなく、場緒 凜々、この子に一番の期待をかけている。西島の後に見せつけられた場緒の演技は、俺の期待を大きく上回るものだった。


 それに…


 それに場緒には、何かがある。まるで生まれ持って手に入れたかのような才能。あの子がカメラの前に立ち、演技をすると、全てが変わる。初めてその演技を見た日、その数分の演技に鳥肌を覚えた。

 だが、次の日の撮影では、その何かが足りなかった。ただの、平凡な演技に戻っていた。彼女もそれに苦戦していたのは俺にも分かった。それは、役者ならだれもが突き当たる壁だったのかも知れない。

 それをたった一日で。

 そう、たった一日で解決してきた。

 彼女は、天才という言葉では片づけられない、選ぶならば、「奇跡」という言葉が相応しいだろう。

 そう、場緒が生まれて来たその瞬間が、奇跡、場緒が芸能界入りを決めた瞬間が、奇跡、だ。


 「この奇跡を、決して無駄にはしない。」


 そう決心し、電話を手に取る。

 

 有言実行だ。









 場緒 凜々。

 ある日、新人の私に期間限定の仕事が入った。

 私は、芸能マネージャーをしている。この仕事は、私が三十代手前でやり始めた仕事だ。元は結構いい仕事をしていたが、夢を追いかけたかった私は、仕事をしながら学校に行き、なんとかマネージャーという職に就くことができた。


 でも、マネージャーは想像以上に辛い仕事だった。私はまだ新人なので、あまり知名度の無い芸能人や、歌手のマネージャーを任せられていたが、まるで奴隷のように扱う人もいた。それだけじゃない、必死に働いても、その人が成功しなければ、私の成功にはならない。


 そんな中、私にも転機が訪れた。それが、場緒 凜々。初めは子役だなんて我儘だし面倒くさそうだと思っていた。そんな彼女は思っていたほど大人、というか子供気のない、礼儀正しい子だった。連続ドラマの大役も務めていて、将来の見込みも高い。出来ることなら専属になりたいくらいいい人材なのだ。


 そんな事を考えていると、私の業務用携帯が鳴った。


 「はい、もしもし。」

 「はい、えっと、こちらはですね…」


 どうやら、凜々が今役を務めているドラマの監督からの電話だった。


 「それで、どのようなご用件でしょうか?」

 「実は、折り入って話がありまして。」

 「はい。」

 「まあ簡潔にいうと、仕事の依頼です。」

 

 そこからの説明は、大体こんな感じだった。

 凜々を気に入ったので、自分の最新作に出演させたい。それも、大役を務めてもらいたい。という事だった。


 「頑張らないと…。」


 私は一人でつぶやいた。頑張らなければ、絶対に専属マネージャーにならなければ。これを逃せば、もう、2度とないチャンスだろう。














 「よし、イメージだ。」


 そう、イメージ。私が美穂に抱いているイメージを変えれば良いんだ。私のイメージは、絶対に心を開かない女の子。でも、台本のなかでは、優しくされていくうちに、どんどん心を開いていく。でも、駄目だ。私はまだ、台本の中の美穂を理解していない。だからこうなったんだ。そう思った。


 台本をバックから取り出した。パラパラとページをめくりつつ美穂の台詞を確認しく。何回も読み直していった。1話では気になるところが無かったので、モヤモヤしつつ、2話の台本も取り出した。最後の方に差し掛かっていった、あるシーンで、私はページをめくる手を止めた。


 そのシーンでは、朋美が美穂に絆創膏を張ってあげるんだけど、その時に、美穂が泣いてしまうっていうシーン。その出来事の後、美穂は徐々に朋美に心を開いていくので、重要なシーンなのだが、そこに違和感を感じた。私の美穂との、決定的な違和感。そう、泣いたところだ。私の中の美穂だったら、きっと、恥ずかしそうにありがとう。というだろう。でも、台本の美穂は泣いた。


 『キャン!キャンキャン!!』


 ふと、犬の泣き声が頭に浮かんだ。


 「トト…?」


 トトは山で捨てられていた子犬で、餌や水をあげて山で育ててたんだけど、1週間ぐらいで加賀先生に見つかって、(レッスン遅れてたし、金欠なのを相談したから)最終的に加賀先生の飼い犬になった。それで、名前はトトってきめた。小3から、高2までかってたんだけど、癌で7歳の時に死んじゃったんだよね。


まあ、それはともかく、その犬を見つけた時になでようとしたら、最初は威嚇してたんだけど、もっと近づいていくと、今度は小さくなって怖がり出した。そのあとトトを撫でた時に、凄い悲痛な声で泣き出した。それが衝撃的で今でも覚えている。あの時のトトは、なんとなく、絆創膏をはってもらって泣き出した美穂に似ている気がした。


「凛々花!!こんな所にいたの!?お母さん心配したんだから!」


まだ結論に達していなかったけど、私は一旦考えるのをやめた。


「あ、忘れてた!ごめんなさい。」


別に嘘って訳じゃないよ?本当に忘れてたし。まあ、ちょっと子供ぶったけどね。


「もう、車そっちにあるから帰りましょう。もう用事は済んだの?」

「うん。」


ということで、家に帰った。部屋でベットに寝転がりながら続きを考えた。そうだ、あの時トトが泣いたのは、あの鳴き声に、恐怖を感じた。あの時、明確に言葉には表せなかったけど、感じた。トトはきっと怖かったんだ。また心を開いても捨てられるかもしれないから。美穂もきっと、そういう気持ちだったのだろう。この優しさを受け取りたくて、でも、怖かったんだろう。また、2度と戻ってこないかもしれない幸せを掴むのが。


「よし。」


分かった。やっと理解出来た。あとは、美穂のイメージを塗り替える。ただ不器用な子じゃない、本当は、誰かに愛して欲しいんだ。


とりあえず、台本通りの美穂の気持ちになって台本を読み返す。こうすると、少しずつイメージが変わるのを知っていた。いや、加賀先生が教えてくれていた。「もし納得いく演技が出来なかったら納得いくまで台詞を読むのよ。」って日常的に繰り返してた。


「全部分かっていたのかな…。」


もしかしたら、加賀先生は、私がいつかスイッチの存在に気づいて、苦戦する事を知っていたのかもしれない。今気づいたけど、加賀先生のレッスンでは、いつも、イメージを固めて演技するように教わってた。私には当たり前のこととして根づいていたから違和感を感じなかったけど、そういえば他の先生はイメージを持つように教えてくれたことは無かった。


「はぁー」


泣きそうになった。なんと言うか、虚しくなった。まるで、加賀先生がそばにいるみたいに感じられたからだ。でも、実際は違う。加賀先生はもういない。これからは、思い出というヒントがあっても、私に明確な答えを教えてくれるひとはもういない気がした。これからは、1人で答えを見出さなければいけないんだろう。

今日はスマホを使ったので,誤字があったらすみません。ちなみにいつもはpcです。

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