20、加賀先生のドラマ
100pt分です。皆さん、どうもありがとうございました。
「あと二週間よ!準備は出来てる?!」
レッスンの部屋に入るなり先生が意気込んでいた。三次審査まであと二週間だからなんだろうけど…、なんかちょっと引くわ。
「あ、はい」
緊張もなにもあったもんじゃない。逆に、このオーディションに落ちたら自分に失望すると思う。十歳ぐらいの子も参加するらしいけど、逆に十歳まで、っていうことなので、負けるわけにはいかない。私の十年間+約一年分の血のにじむような努力をしてきたのだ。自分でも性格悪いと思うけど、負けるはず何てないと思っている。いくら才能があっても、努力を簡単に上回るのは不可能……なはずだ。
ただ…最近、ある疑惑が浮かんできている。もし、もしも、あの女神様(?)に会った人は私以外にもいるのなら。もし、オーディションで負けたら、もしかしたら、勝った人は、同じように生まれ変わった人なのかもしれない、そう思うと、ちょっと不安だ。あの人が変な言葉を喋ったいたせいで、何言ってんのかわかんなかったけど、私だけが特別ではないはずだし、もし、私だけが特別なら、なにかの意味があるはずだ。代償があるかも知れない。背筋がゾッとした。だから、出来る限りのことはして、いつ終わるかわからない世界を生き抜かなければ、と覚悟を決めた。この幸せな人生がいつ終わるのかわからない、というのは、想像以上に恐い。恐怖で押しつぶされそうな時も、多々あった。
「何?怖い顔して。緊張してるの?」
「え?あ、いや、考え事です。」
「まあ、緊張して当たり前よね。もしも受かったら、第二の加賀 雪美って言われるんだろうし。」
え?加賀先生の下の名前って…………?
「あれ?ああ、加賀 雪美さんっていうのはね、先生と同期の子役だった人で、今はもう引退しちゃったけど、最近東京に帰ってきて、連絡よこしてきたのよ。ライバルで、親友なの。もうオバサンでね、老けたんだけど、昔は凄かったのよ。それで、その加賀っていう人が、六歳ぐらいに出て、デビューと同時に大ヒットしたのがこのドラマなの。本当は美香ちゃんをその役にするつもりだったんだけど、美香ちゃんは、明るい役のイメージが固まっちゃったから……。」
「どうしたの?」
「マ、ジ、カ!!」
うわっ。いやだよ。加賀先生に演技見られるかも知れないじゃん。だめだ。このままじゃだめだ。絶対おこられる。なんかさっきまでの恐怖だ吹き飛んだ。
「今日は本気でやりますから、いつもよりも厳しくしてください!」
今まで、力試しとして、天才、な子供を演じてきた。でも、最悪バレてもいい。師匠に恩を返さないと。そのためには、もっと、上手くならなくてはいけない。撮影の時だけ、なんてことができるほど器用じゃない。いまから、この役の演技の仕方を掴まなくてはいけない。
『もう、卒業ね』
フラッシュバックでして蘇ってきた。加賀先生の一言。もうそろそろ家を出なければいけない、その焦りにまかせて、実力を、それ以上を総動員して行ったレッスン。今でも、あの演技はそうそうできない。でも、あの演技をして、恩を返すのが、私の義務だと思う。本気、あのレッスンのような本気を全部出して、ドラマの撮影に挑もう、心に決めた。
「駄目ね、私…」
寒気がした。あの子のまえでは言えないけど、職員室なら、だれも聞いていないだろう。
さっきレッスンが終わったばかりだが手も足も出なかった。平然を保っているのがやっとだった。
雪美に、そっくり。いや、あの演技は、雪美以上だ。私が知っている雪美は、十二歳までだけど、もし成長したら、あんな演技になっていただろう。
「何者なのかしら。」
認めたくない、だけど、認めないわけにはいかない。あの子は、私を…越してしまった。小物、ね。私は、小物だ。この事務所の中ではそこそこ演技がうまい方だけど、そこそこそれでも雪美の十二歳の頃と同じぐらいだろう。
「手に負えないわ。」
これは、どうすればいいのだろう。あんなところを他の欲望にまみれた先生に見られたら潰される。私より演技の上手い先生たちの性格なんて知らないし。取り合えず、オーディションが終わるまでは私の下で指導しながら、良い先生を探すのが一番だろう。