13、初撮影
ちょっと予定が入ったので短めになっちゃいました。
「本番入りまーす。」
あ、話が飛んだけど、今は出張初日で、着いて間もなく初シーンの撮影!ほんとはランスルーっていう、カメラを使った本番みたいなリハーサルがあるはずなんだけど、出張の期間が短いので、ドライっていう動きと台詞の確認って感じのリハーサルを二回して、本番を撮ることに。ちなみに私がちょっと苦手な梨花さんはまだ登場しない。シーンは、家族で朝ご飯を食べるシーン。
今は丁度ベッドにスタンバイしている。寝ぐせをセットするのに時間がかかったから、早目に終わらせたいところだ。
「三、二」
一、とカメラマンさんが指を立てると、母親役の女優さんの台詞が入る。
「起きてー。今日から夏休みでしょ?ラジオ体操行くんじゃないの?」
あ、妹とお兄ちゃんは共部屋ね。
「え?ラジオ体操!?行く行く!」
早速台詞!だけどカメラがこんなに近くにいるなんて思わなくて演技しづらい。マイクとか、すぐ頭の上にあるし、感情が入らないし。地方放映だから、練習だと思っていいって先生に言われたけど、やるんだったら全力で取り組みたい。
そのままベッドを降りてお母さんの周りをぐるぐるする。でもちょっとぎこちなかったこかな。
和樹さんは練習と変わらず演技している。流石だ。先生の、経験が大事、っていう言葉が何となくわかったきがする。
「ほら、顔洗って着替えてきて。」
「はーい!」
そういってドアを駆けだす。
「カット!」
「カットー」
「カットです!」
カットが入り、次はだいぶシーンが飛ばされて撮影が入る。今は昼時なので、朝や夜のシーンは飛ばされるので、シーンが飛ばされて、雰囲気が作れないから、頑張らなきゃいけない。
けど、それからも演技は上手くいかず、休憩に入った。
「良かったねえ、凜々ちゃん。この調子で頑張って。」
と、監督さんには褒められたが、すっきりしない気分で、差し入れられた冷たいジュースを飲んで休憩した。椅子に座って、ジュースを飲みながら台本を確認していると、和樹さんが声をかけてきた。
「おつかれ。」
「お疲れ様です。」
「今日、調子出てなかったね。大丈夫?」
隣の席に座った和樹さんに、近くにあったテーブルのジュースを渡しながら、カメラの事を相談した。
「あー、僕もあったよ。ドラマの小さな役だったんだけどね。それまでエキストラしかやったことが無くて、チョイ役でそこまでカメラが近かったりしたわけでもなかったけど、それでもNG連発しちゃってさ。でも、なんていうか、女優さんの演技見てたら、素って感じだったんだよね。だから思い切って、それまではカメラ目線にならないように、とか気を付けてたのを全部止めてさ。そしたら台詞が自然に出てきたんだよ。もちろん今では台詞とかに注意を払いながら自然に演技する、って事もしてるけどね。」
おー、まさしく私かも。私も、意識しないで、ってやってみようかな。慣れるまでは。
「ありがとうございます!やってみます!」
「撮影入りまーす。」
お礼を言うと、早速休憩が終わった。
「頑張ろう。」
そう呟いて、撮影に向かった。
和樹さんのアドバイスを参考にして、自分なりに改良して、やっていくうちに、「カメラを気にしない」演技が出来るようになってきた。五回目ぐらいの撮影の時だった。次は梨花さんがでるので、気は抜けないけど、本物の道具や場所があるんだから、練習以上を目指したい。
あと、和樹さんは演技は上手いけど、かなりNGシーンがあった。私も、二、三個出してる。梨花さんの前ではプレッシャーが重いので頑張ろうと思う。
まずはリハーサルだ。一度に撮るシーンが長いし、アクション部分も若干あって、難しい部分なので、リハーサルも念入りに行う。アクション部分は、逃げ回って転ぶシーンなんだから、大したことはない。ちなみにそれは私がやる。梨花さんは、アドリブをバンバン入れてきて、なにか小さいトラブルなら、アドリブでなんとかしちゃう。すごいなー。私みたいな凡人には到底できない。加賀先生に、
「あなたは……、かなりの凡人だから、アドリブは無理よね。」
ってさらっと言われたのが今でもちょっとトラウマだ。アドリブとか苦手だけど、梨花さんの演技に呑まれないように頑張ろう。
リハーサルは順調に進んだ。二回リハーサルしたんだけど、両方とも、練習の時と同じくできた。
「本番入りまーす。」
いよいよだ。
「三、二」
カメラマンさんが、一、と、指を立てた。
「「ごちそうさまでした!」」
和樹さんと、同じタイミングで言う。このシーンは、昼食後に、兄妹が、入ってはいけない森に入って、梨花さんに会うまでのシーンなんだけど、行く道も、地味に長く撮られるから、出来るだけNG出せない。
お皿を下げて、すぐに、玄関から飛び出そうとする。
「二人とも、どこ行くの?」
母親役の女優さんが聞く。
あからさまにビクッとした様子で振り返る。
「ああの………、」
私がそう言った。和樹さんが
「虫取りに行くんだよ。ほら。」
と言って網を見せる。私も。
「そう、そう、虫取りに行くの。ほ、ほら。」
って言って籠を見せる。ここまでは順調だ。
それから、家をでて、森までのシーンは、至って順調だった。でも、ここからだ。不安な様子や、幽霊を怖がっている表情が大切だ。
森の中に入り、いよいよ演技を始める。
「なんか、暗くない?」
台詞はまあまあだ。さっきよりは断然いい。次は表情。
「今なんか動いた!」
和樹さんの台詞に、思わずビクンとなる。なんだか気持ちが見えてきて、そこからは、だんだん自然に演技がだんだんできるようになってきた。
「わ!」
梨花さんの台詞で、アクションシーン(?)に入る。
「きゃーーーーーーー!」
悲鳴をあげて、坂道を走る。
「わっ!」
足に足が引っ掛かったような演技をして(加賀先生に教えてもらったことがあった。)
「うっ」
かなり大胆に転んで、予定より、ちょっとゴロゴロ落ちて行ってしまった。
「大丈夫か!?」
和樹さんも飛んでくる。あ、まだ演技するんですね。
「えー、大丈夫?」
ってなんで梨花さんまで?
二人が私のところまで来ると、梨花さんがやっちゃった、みたいな顔をしていた。台本にはなかったもんね、こんな動き。和樹さんは動揺してるし、私もアドリブなんて思いつかないので、一瞬の間が開いた。
「大丈夫?けがしてない?」
すかさず梨花さんのアドリブがはいる。だたし、幽霊は物に触れられないから、動作までアドリブで頑張ってる。
えっと、この後は、なんか三人が意外と趣味が合って、仲良くなるんだったよね。だったら仲良くなればいいのか。
ええっと、じゃあ……。
「だ、だ、大丈夫だから!お兄ちゃん、早く虫取り行こう。」
幽霊に呪われないように、見えないふりをして逃げようとする、というシーンまで持って行った。本当は、あと四、五個の台詞と、アクションがあったんだけど。
「う、うん。」
和樹さんが背を向けたその瞬間、
「待って!虫取り、なんでしょ?私にも行かせてよ!私、この辺りのカブトムシのいる場所とか知ってるよ!」
完璧なタイミングで梨花さんのアドリブが入った。アドリブ女王と呼ばせてもらおう。
「え、あ、うん。」
必死でありがちな台詞をぶっこむと、カットが入った。
「いやー、三人ともナイスだよ。梨花ちゃんのタイミングとか、凜々ちゃんの台詞、あの、『だ、だ、 』って伸ばしてて良かったよ。和樹君も表情作れてたし。」
監督に太鼓判を押してもらい、その後の演技も、より自然にすることができた。
アドリブの練習もしとかなきゃいけないかもしれない、と思いながらも、その日の撮影は、無事成功した。
いよいよ撮影が始まりましたね!