12、読み合わせ
いよいよ初仕事(?)です!
「本当に大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ、行ってきます!」
今日はいよいよ映画の、の……、読み合わせです。いや、ちょっと地味だけど、ここから始まるからね!うん。しかも感情入れて読まないといけないから、大変だし。あ、ちなみに読み合わせというのは、感情を込めて台本を読む事で、読み合わせで役のイメージとかを作って行って、本番に備えるらしい。(最近まで知らなかった)
読み合わせは、この近くの建物の一階を借りてやるんだとか。で、今はその建物の前まで送ってもらった所。お母さんは凄い心配してたけど、保護者同伴ともいわれてないし、お母さんに待っていてもらうのは気が引けるし、恥ずかしいし、今日は一人で行く事になった。非常識って思われたら怖いけど、恥ずかしさには勝てないからね。
「じゃあ行ってきます!」
と、建物のドアを開ける。
『僕たちの夏』って感じいう立て札がついているはず。あ、ちなみにこれ題名です。
立て札はすぐに見つけられた。
「失礼します。おはようございます!」
と、ドアを開けると、もうすでに大体集まってた。十分前じゃ遅かったかな。
「おはよう、元気いいね、凜々ちゃん。」
監督さんが上機嫌ににこにこしてる。
「おはようございます、星宮監督。」
と、どこに座ればいいのかな?
「凜々ちゃん、ここ。」
見計らってか、和樹さんが隣の席を指さしてくれた。
「ありがとうございます。」
台本と水が入ったバッグを隣に置いて、五歳児には高い椅子に座る。台本を取って、てきとうに読んでいると、バンっと音がしたかと思うと、
「遅れてすみませ~ん。」
という声と共に、綺麗な女優さんが入ってきた。
「いいんですけどね。次からは気を付けてくださいよ。」
監督さんは、何か言いたげだったけど、ぐっと押しこらえていた。確かこの監督さん厳しいって有名だったはずだけど。お?えこひいきか?若い子大好きエロおやじか?それともそこまで厳しくないとか?
「遅れてすみません!」
「何をやっているんだ君は!?もう開始五分だぞ!どんな面下げて遅刻なんかしてるんだ!?」
あ、ただのエロオヤジだったわ。次に遅れてきた俳優さんによって監督の性格が明らかになった。
なんだよ、やっぱりただのエロおやじか、気持ち悪いな。ロリコンじゃ無い事を祈ろう。
「じゃあ読み合わせを始めます。」
監督の一言で、流れるように初めの台詞が始まる。雰囲気の変わりように戸惑いながらも、なんとかついていく事ができた。
「はい、じゃあここまで。」
でも、読み合わせが終わった頃には、精神的に疲れてた。
なるほど、監督は厳しかった。でも、私は小さいから特別扱いなのか、あんまり怒られなかった。得だな。あ、でも和樹さんは怒られてた。私も今しかひいきされないよね。小学校にあがったらもっと怒られるかもな。
読み合わせが終わって、建物の前のベンチでお母さんを待っていると、和樹さんが話しかけてくれた。
「お疲れ様。」
「お疲れ様です!」
私も挨拶すると、和樹さんが隣に座った。お母さんを待ってるのかな?
「監督、厳しかったですね。」
無言は気まずいので、世間話をする。
「でも監督、凜々ちゃんの事は可愛がってたじゃん?(※可愛がってた=えこひいきしてたって事なのか?ああ?)」
「そんなことありませよ。私は小さいからで、どちらかといえば山白さんの方が可愛がられてたじゃないですか?」
あ、山白さんっていうのは、あの遅刻してきた女優さんね。
「違うよ、あれはけんりょ…礼儀みたいなものだから。山白さんは偉い人なんだよ。」
はあ、けんりょ…権力、ね。なるほど。
「へー、そうなんですか。」
ここは意味が分かってるような分かっていないような顔をしてやり過ごした。
「あ、お母さん。」
ちょっと気まずかったので、お母さんの車を指さして、近くまで駆けて行った。
「じゃあね、凜々ちゃん。」
「さようならー!」
大きく手を振って、ちょうど止まった車に乗った。
ああ、これがあと二回、その次は撮影が週三、週四のペースで入るし、その次はロケ。でまた撮影……。あーあ、これからも頑張らなきゃ。
「え?撮影現場って、隣町なの?」
お母さんの言葉に、一瞬耳を疑った。隣町だよ?毎回毎回電車で行かなきゃいけないのかな。
「泊りがけの出張だって!」
「出張!?」
と、いっても、隣町に一週間泊りがけで行くだけだった。でも、小学生の和樹さんや幽霊役の梨花さんは学校休むしかないよね。私は幼稚園行ってなくてよかったー。
寝泊りするのは撮影現場でもある空き家で、ご飯の配給もあるんだとか。とはいっても、監督さんやスタッフさんの奥様が来てくれるんだって。お母さんも参加するんだって。うわぁ、絶対撮影現場見られたくないなぁ。
準備は、台本、歯ブラシ、着替え、位で、後は大体なんでも持ち込みOK。なので、最近ハマっているトランプと、ボードゲームを持って行った。テレビはあるらしいけど。あ、あと、行く前に差し入れも忘れないようにしないとね!近くで有名なシュークリームとか?でも何個位買えばいいんだろ。読み合わせまだ二回あるし、和樹さんに聞いてみよう。
「差し入れ?そんな事考えてるなんてえらいね、僕は煎餅にするけど、必要最低限のスタッフさんしか来ないから、三十個位かな。でもシュークリームは難しいね。」
「プチシューなんてどう?」
突然後ろから声がした。振り返ると、幽霊役の梨花さんだった。サラッサラの真っ黒いロングヘアが美しい、まだ話しかけた事がない高嶺の花的存在。
「あ、いいんじゃない?梨花は何にするの?」
なぜ和樹さんがフレンドリーなんだろう。
「お二人はお知り合いですか?」
「やだも~うっ!子供なんだから敬語なんか使わないでよぉ。」
言ったとたんバシっと叩かれた。
「えっと」
「私達は、こ、い、び、と。」
えっと、
「あー、そうなんですか。」
そういうことね。
「ち、違うよ!ただの同級生。」
「学校の?」
「うん。」
へー偶然だなあ。
「それが偶然でもないのよ!」
「え?私の心読みま」
「だって私、和樹君追いかけてここまで来たんだもん!」
いや、今私の心読みましたよね?あ、そこじゃなくて、
「追いかけてきた、ってどういうことですか?」
「だ、か、ら、追いかけてきたの!うふっ」
うふっとか初めて聞いたわ。
梨花さん、なんかマイペースというかなんというか。ちょっと近づきにくいな。
「凜々花ー!」
最近聞きなれない本名に遠くを見ると、お母さんの車が見えた。
「あ、じゃあ失礼しま~す。」
一礼してお母さんの車に走った。いよいよ来週からは出張だ。がんばろう!
内容薄かったので色々かきました。バラバラになちゃってすいません。