11、個人レッスンと特別レッスン
ちょっと話がコロコロ飛びます。
あれから二週間。又しても放課後に先生に呼び止められた。
事務所に送られてきた「僕たちの夏」(私が出演する事になった映画)の台本を渡された。また、映画の演技指導のため、放課後?に、個人レッスンを付けてくれると言われた。これから放課後に一、二時間のレッスンを付けてもらえる事になった。こういう特別レッスンは、この事務所では珍しくないんだとか。それはありがたいな。質のいい先生がいいなーっなんて、生意気な事を考えていると、先生に紙を渡された。見てみると、特待生クラスの人だけが受けられるたくさんのレッスンの参加申込書だった。
「あまりにも提出が遅いからもう一度渡しておくわね。」
とのこと。怖いな、圧力。確かに忘れてたけどさ……、あ、提出期限先週だったんですか。
帰りは、特別レッスンの何を受けるのか考えていた。全部受けることもできるんだけど、七個もあるし、週一のレッスンらしいけど、特別レッスンが決まった今では、四個が限界だな。一応中身大人なんだし、4個ぐらいがんばってみようかな、とか思っていたら、時々話す、小学校三、四年生の特待生クラスの先生に、話しかけられた。怒られて泣いてる子とかをよくはげましているので(自分の担当のレッスンが無い時は基本廊下をうろついてる)、他のくらすの子供達からも人気の先生だ。私も二、三度、話した事があった。
「なに熱心に見てるの?」
「あ、これです。」
私が紙を見せると、納得したように頷いた。
「ふーん、やっぱりまだ小学校行ってないんだし、皆みたいに全部やるの?」
...マジか。みんな全部やるのか。確かに無料だから、未就学の子供達は全部出来ることにはできるしなぁ。
「あー、みんな全部やるんですかー。凄い。」
「うん、まあ、お仕事が忙しい美香ちゃんとかは、流石に全部はやってないけどね。」
「へぇ~。」
「じゃあ私レッスンあるから、またね。」
はい、さようなら!」
そう言って先生と別れた後、私は決めていた。全部のレッスンを取ろうと。よく考えてみれば幼稚園行ってなくて暇だし、そこから自分の好きな事とか見つけるのも悪くないと思った。前世みたいにほとんど毎日演技ばかりしているのもどうかと思うし。みんなやってるんだったら、多分私にもできるだろう。
「凜々花、行くわよ。」
そんな事を考えていると、お母さんが迎えに来た。帰りの車で申込用紙見せよう。
「今行く!」
お母さんに駆け寄って紙を見せると、
「ぜ、全部!?まあ、いいんじゃない?でも、無理だったら言うのよ。」
と、『子供の成長を見守る親』みたいな顔になってた。お母さんが紙を覗き込んでいたので、私改めて紙をまじまじと見つめた。空手、ピアノ、方言、礼儀作法、国語(文字とかの練習)、体操、美容。美容ってなんだよ。子供だよね!?っていうか、国語はいらないかなぁ、あ、でも字汚いからやってみてもいいか。
レッスンについては決まったので、次は映画の台本を見た。なんたって、メインキャストだからね。頑張らなきゃ。
話の内容は…、洋平と佳凛という兄妹は、ある日突然同じ年頃の幽霊に出会う。その幽霊の頼みをききながら、幽霊の謎について迫っていく、笑いあり涙あり(八対二位の割合だけど。)と、言う話で、地方公演なのにロケは多いし監督は有名でもないのに厳しいし……、って、先生が愚痴ってた映画だ。
でも、いい経験になると思うけどね。
佳凛はちょっと抜けていて、ボケ担当、って感じだった。こういうのやったことないし、頑張ろう。
「お兄ちゃん、早く!」
「はい、そこまで。まず和樹君、はきはき言うのはいいんだけど、台詞っぽさがでてるから、そこ練習して。あと凜々ちゃん、子供っぽい言い方を意識して。声のトーンとか調節するように心がけてみて。」
「「はい。」」
「じゃあ今日はここまで。お疲れさまでした。」
「「ありがとうございました!」」
あ、今日は特別レッスンの初日だった。部屋入ったら、個人レッスンっていわれてたのに小三位の男の子がいてびっくりした。彼は映画のお兄ちゃん役で、国民的な人気とまではいかないけど、ファンクラブがあるほどの人気子役で、地方公演だけど、幽霊役の女の子とのダブル主演の役を見事勝ち抜いた、同じ事務所の先輩だ。
「お疲れ、凜々ちゃん。」
エレベーターに乗っていると、和樹さんが話しかけてきてくれた。
「お疲れ様です。」
「今日は凄かったね。年下なのに参っちゃったよ。」
「いえ、和樹さんこそ。」
「そんなことないよ。これから長いんだから、本当のお兄ちゃんみたいに接してね。」
「はい!よろしくお願いします!!」
こんな会話をしていると、一階に着いた。
「ありがとうございました。」
「こちらこそ、じゃあね。」
和樹さんと別れて、お母さんの所に行く。
「何、あのかっこいい男の子。」
行ったとたん目を輝かすお母さんに呆れながらも、和樹さんを紹介する。
「へえ、共演者ねえ。良かったじゃない。」
「優しくて、よかったよ。」
優しくて、ね。
あ、でも和樹さん、かなりイケメンだけどね。小ヒットしたのもCMが『なにこのかわいい子!』って話題になったからだとか。優しくてイケメンなんて最高じゃん!
来週のレッスンも楽しみだなあ。
「おきな…さ……早く、遅れちゃうから起きなさい。」
その声で目を開く。
「んん?今日は火曜日でしょ?」
最近子供という立場を使って、レッスンのある日曜日以外はたっぷり寝てるから例え今が八時であろうと寝てるんだけどな。
「今日は追加レッスンの日でしょ?」
「あああ!」
そうだ!今日は追加レッスンだった。
そこからはもう早かった。顔洗ってご飯食べて歯磨いて着替えて。
これだけで一時間。朝弱いから時間かかるんだよね。
それで、ここから事務所まで車で三十分。レッスンが始まるのが十時なので、二十分位時間に余裕がある。
自動販売機でジュースを買ってお母さんと一緒に飲んだ。
「週一ならまだいいけど、これから週四だもんねえ。引っ越そうかしら。」
とかあきらかに金銭感覚がズレてる発言をしていたのが気になったけど、特別レッスン初日の緊張をほぐしてたので、突っ込まないでおいた。
十分前位になって、普段は使わない、一階の和室に行った。
今日は礼儀作法と方言のクラスがある。礼儀作法は、ただの言葉遣いや、あいさつだけじゃなくて、着物の着付けとか着物を着た上での動きとかも入ってるし、バラエティー番組の対処法とかもやるらしい。方言は昔の言葉とかも習うからこの和室を使うんだって。
方言は前世の田舎の方言は知ってるけど、他は全然知らない。着物は、おばあちゃんに教えてもらって着付けはできるけど他は全然。
部屋には、低学年の特別クラスの子達が集まってる。同じ顔合わせだ。美香ちゃんは仕事なのか、ここにはいなかった。
しばらくすると、先生らしき人が入ってきた。予想通りというか、お婆さん先生だった。
「礼儀作法のレッスンを始めます。まず、挨拶ですねえ。これは重要ですよ。」
レッスンが始まった。それからは挨拶の大切さ、とか熱弁されて、そのあとにひとりずつ挨拶の練習とかさせられた。
「じゃあ次は着物の時間にしましょう。」
と言って、先生が大きな籠を持ってきた。
「好きな着物を選んでくださいねえ。」
と、籠の中の着物を出していった。舞台とかに使うんだって。でも流石にこの量はないでしょ、って思うかもしれないけど、なんでも昔からずっととっておいたとか。だからボロボロの着物もあればあんな華やかな着物もあるんだね。まあどうせこの大群に入っていけない私にはボロしか回ってこないんだろうな。
一通り皆が着物を決めたので、着物の山(もう数着しかないけど。)に向かった。横には、私と同じような子がいる。なんか仲間意識湧いちゃうな。
ボロ着の中から、色あせた無地の黄色い着物を選んで、近くに座ると、すぐに男女の部屋分けされた。
女子は先生から着付けを習った。
さっき一方的に仲間意識してた子が戸惑っていたので助けてあげると、ありがとう!と、元気よく言われた。小雪ちゃん程ではないが可愛かった。まあ、幼女補正のついてる今の小雪ちゃんにかなう可愛さの子(人)はいないだろう。
着物を着ると、次は着物を着た時の歩き方や、座ってから立ち上がる方法などを教わった。といっても、三年生の子しか完璧にできていなかったけど。
私も例外ではなかったので、さっきの子と一緒に練習した。ちなみに名前は華憐というらしい。その名の通り、通った鼻筋や、明るい性格とは対照的なきりっとした目をもつ、同い年の子だった。この目で睨まれたら絶対怖い、というような目力もある。
しばらく練習していると、和樹さんが声をかけてくれて、練習のアドバイスをしてくれた。特待生クラスの時は気づかなかったけど、和樹さんも同じクラスだったのか。
一通り練習すると、着物を着換え、方言の教室になった。といっても、数人が帰り、先生が変わっただけだったけど。
方言は、地元が福島のド田舎だったので、板についてる。加賀先生の初レッスンは標準語だった気がする。
でも、おあいにくさま、今日は方言じゃなくて古い言い回し、って感じだった。時代劇の台本とかも使って、意外に楽しかった。
華憐ちゃんとも仲良くなれたし、大満足だった。
あ、でもその日は帰ったらすぐ寝たよ!いつもなら今起きた時だからね!
これからこんな感じの生活です!忙しいですよね。