表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠神の帝国Ⅰ  作者: ペコ
8/60

08 久場島事変

VEI(Volcanic Explosivity Index 、火山爆発指数、Christopher G.Newhall &Stephen Self、1982年)

 火山爆発規模を降下火砕物の量で0~8に区分するもの。溶岩の量は考慮しません。

 VEI5は、79年のポンペイ全滅や1980年の米国セント・ヘレンズ山体崩壊や1707年の富士山宝永大噴火がこれに相当します。

 VEI6は、1991年のピナトゥボ山(予知避難成功)や、900年ごろの長白山(白頭山)の噴火がこれに相当します。

 9万年前の阿蘇山最大噴火、2,2000年前の姶良カルデラ、8400年前の鬼海カルデラの噴火はVEI7 です。もっとも最近のVEI7の噴火は1815年インドネシアのタントラ山です。100キロ以内生存無理のようです。

 米国イエローストーンはVEI8だけでも220万年前と64万年前の2回噴火してます。もっとも最近のVEI8の噴火は2、6500年前でニュージーランドのタウポ湖です。VEI8ともなれば全地球大規模気候変動で全面核戦争なみかそれ以上に文明維持至難ではないでしょうか。


 ざまあ展開ですが、大津波の描写があります。苦手な方は読むのをご遠慮ください。


 TLタイムライン情報の精度がかぎりなく100%に収束する一瞬がきて、TL情報がかぎりなくはずれて欲しかった一瞬が過ぎた。


 尖閣諸島には、最大面積を有する魚釣島より東北方向28キロの位置に複数の火口を有する差し渡し1キロに少し足りない小島がある。冬期、アホウドリの営巣地となる久場島くばじまである。

 10時間ほど続いたわずかな火山性微動の先行が徴候だった。

 それがにわかに激しい加速度の揺さぶりになり、面積0.91平方キロほどの全島が立ち上る硫黄濃い黄色み帯びた粉塵で覆われた。そして次の瞬間、そのマグニチュード8に近い震源の身震いとともに、数万年ぶりに有史に残る記録のない活動を再開した。


 その起点は海面下400メートルだった。そこを中心に久場島の海中の北西斜面が突如全面崩壊、数十立方キロの容量の灼熱のマグマが音速の数倍の初速度で北西方向に噴出を始めた。


 あろうことか、高温高圧のマグマ溜まりの頂上が露頭していた。

 膨大な量の海水が水蒸気爆発しながら一気に音速を超えて北西方向に向かって押し上げ押し出される状況となった。その圧力は海面に達して比類ない爆発的水柱の立ち上がりとなり、その頂点は4000メートルもの高さに達し、なお厚い梅雨の雲中にあった。


 そこからさらに並外れて巨大なマグマ爆発由来の噴煙が現れ、猛烈な速さで湧き上がり、膨大な噴石と火山雷を纏って対流圏を越えて最高高度は30、000メートル、すべての雲を見おろして昼なお空が黒い成層圏に達していった。


 VEI(火山爆発指数)の表記は同じ6だが、噴出物の総量で前世紀最大、1991年のフィリピンのピナトゥボ山の大噴火を2倍以上上回り並外れた巨大規模となった。


 190キロ離れた石垣島地方気象台に揺れ開始のP波がおよそ30秒後到達、それにつづくことおよそ20秒後、主揺動のS波の大きな横揺れが到達、緊急地震速報とほぼ同着の震度5強だった。わずか2分後、超音速の激しい衝撃波が石垣島を含む先島諸島を通過、そして10分後噴火の体の芯まで響くおどろおどろしい轟音が到達、さらに15分後引き波なく、津波第一波がいきなり押し寄せた。


 石垣市街地に防災サイレンと海岸部からの避難を呼びかける広報がなり響いていた。石垣港では海面がにわかに上昇して岸壁をこえ、浸水がはじまった。


 黒潮の本流はその時、観測記録に例のない異常な状態にあった。

 石垣島と台湾の間を抜け、沖縄トラフを大陸棚にそって沖縄県の西側を北上、奄美大島と屋久島の間のトカラ海峡で太平洋にもどる、その流れの主経路に変わりはなかったが、流速が平年の倍以上の11kt時(時速約20キロ)、深度500メートルでも5kt時もあった。潮位の高さもながれの中心に沿って最大5メートルも海面が上昇していた。


 それが久場島から沖縄トラフを越えて押しよせようとする津波の勢いをそいだ。先島諸島の距離では10メートルのはずのところが5メートルの海面上昇に減じた。その5メートルの津波は実質3メートルの高さの水流となって海岸よりすでに無人と化していた石垣市街地に流れ込んだのである。


 早朝からの特別臨時訓練、それがそのまま本番に移行していた。

 石垣市、宮古市のライブカメラから配信される映像に全世界が震撼した。


 気象庁の地震火山部はNSA(国家安全保障局)経由の予知情報のあまりの精度に震撼していた。

 NSA自体からしても、TL情報室が成功させて見せた天災の発生場所と時刻の正確な予知に今更ながら震撼していた。

 ネットの掲示板は、訓練ができすぎの偶然なのか、予知の結果の手配なのかを巡って大炎上した。神様少女、おれのヨメが知らせてくれたとする、当たらずとも遠からずの書き込みが相継いだ。



 中国海警局の偽装工作公船は、魚釣島の古賀村時代の船着き場、和平泊のすぐ近くで、もくろみとおりの座礁に成功していた。その位置は魚釣島の南海岸中央で、標高300メートルを越える奈良原岳から屏風岳をむすぶ稜線に遮られて北東方向の久場島は晴天でも見通せない場所だった。


 僚船ともども、おろしたボートに海軍陸戦隊の先遣隊が移乗中のその時、久場島よりおよそ6秒で到達した震度7の揺れが魚釣島を襲った。


 葉が細かく裂けて垂れ下がるヤシ科の常緑高木、蒲葵びろうの深緑の密林が一斉に激しく揺れ、あちらこちらで斜面が大きく崩落していった。それをみて移乗作業は大混乱に陥った。


 すぐ目の前でも雲に隠れた山頂が巨石の奈良原岳の急斜面が尋常でない揺れで崩落、それが海に達し、船にとどくかのように思えた。それでなくても地震に続く津波の恐ろしさは、インド洋と東日本の映像記録で、党将校も十分承知していた。それゆえ船長を差し置いて作業中のボートの即刻切り離しと沖合への待避を命令した。


 中国人民解放軍では、北朝鮮と同様に、党将校の命令が現場指揮官より優先であり、陸戦隊の命運無視で直ちに刻実行された。


 そして5分後、島陰の東西より新幹線以上の高速で襲ってくる海水の高い壁が現れた。


 津波第一波、その位置では波高40メートルから逃げおおせるはずもなかった。

 3隻は本部に無線連絡するまもなしに次々と横転、船底をさらしてながされた。


 魚釣島に取り憑け、巡視船に後日救助されて生還をはたせたのは陸戦隊所属、少数民族の畲族シェゾクの2名だけだった。島で崩落犠牲の山羊やぎを食して生きのびたこの両名はのちに北京市中南海を揺るがす大事件にかかわることになる。



 そうりゅう型AIP潜水艦の奇襲攻撃をくしくも免れた中国潜水艦039A型2隻の艦内にも各1名党将校が乗艦していた。


 この2隻はパッシブソナーで僚艦4隻の沈没圧壊とそうりゅう型と思われる音紋の潜水艦の一隻の東方への離脱はつかんでいたが、指定された位置から身動きがとれないでいた。


 それは党軍事委員会主導の作戦で命じられた待機位置であったこともあるが、海自潜水艦単艦に4隻もやられたとは思わず、陽動に反応して動けばひそむ別のそうりゅう型に探知され先制攻撃を受ける、その当然の危険を考慮しての忍耐の待ちだった。


 しかし2隻とも党将校が先にまいってしまった。ただでさえ狭く、高温多湿で換気不十分のAIP艦のなかに閉じこめられる不遇職で、それでいて顔を知らぬわけではない4隻の同僚の死はあきらかであった。

 それら4隻の喪失報告を理由に、一隻は艦長が浮上の命令に従い、もう一隻は艦長の抗命を封じて副長に命じて浮上させた。



 4キロ南東方の魚釣島の影さえうかがえぬほど視界はよくなかったが、うねる波頭はセイルには達していなかった。

 それを聞いて党将校は狭い艦橋にあがり、見張り員を押しのけて高級タバコ「中華」の1本に火をつけた。爆発することがあるのが有名なニセモノではなく、わいろの忖度品そんたくひんゆえ勿論本物だった。深々と紫煙を吸い込み、ほっと息をはきだ・・・せなかった。


 衝撃波は北東方向からきた。それは視認できたが、見通し不良の視界内ににわかに現れてから1秒たらずの超音速で通過した。見張り員だけが反射的にすばやく身をかがめ、転落を免れた。そして我に返ったときには艦内の指令所に警報を送って頭上のハッチを閉鎖していた。


 もう一隻も同様な状況だったが、そちらの党将校は吹き飛ばされず這々の体でハッチをくぐり艦内に転落、骨折で済んでいた。


 この2隻はそのまま海中で巨大津波の数波をやりすごし、そのあと母港への帰還を果たすことはかなわなかったが、喪失は波間に行方不明の党将校1名ですんだ。

 浮上の際に僚艦4隻の喪失は報告されたが、続く異常事態の大混乱の中にその情報は埋没した。その後もそのまま、日本国は国内事情で中国は指導部と軍の面子のために、事実は双方ともに非公表の流れとなった。




 魚釣島上陸の本隊を載せた東海艦隊とは途中から別の進路をとって先行した小艦隊があった。

最新の旅洋II型大型防空ミサイル駆逐艦(中華イージス艦)一隻と江凱-II型(054A型)大型ミサイルフリゲート艦二隻の姿が北西方向より久場島の接続領域を越え、荒波を切って領海に突入していた。


 魚釣島上陸作戦の陽動、久場島を書類上射爆場とする米軍の反応の偵察、そして当然ながら占拠が目的だったが、海底の巨大新火口にあまりに近く正面近すぎた。


 準戦態勢にある3隻のCIC(戦闘指揮所)のレーダー画面に突如巨大な反応が現れた。不良な視界で目視のかなわぬ艦橋に連絡する数秒もなかった。高度3000メートルを越えてなお急速に増大を続け、警報を出そうとした時、破局的な衝撃波と爆発の高圧の水煙がほぼ同時に到達した。


 マストは一撃で吹き飛んだ、艦橋操舵室前方向の防爆ガラスも一撃で粉々に破られた。CIC(戦闘指揮所)は強固な仕様でかろうじて損壊を免れたが、ほぼ正面からVEI6の爆発のエネルギーに衝突し、艦首が持ち上がり、艦尾が沈み、縦に転覆する加速度変化に3隻とも船体構造が耐えられなかった。いずれも折れて割れた船腹が浮上を果たすことはなかった。ようやく熟練の域に達しようかという艦より貴重な乗員達も全て冥府の兵となった。



 別動隊3隻との通信リンクの突如の途絶は艦隊の本隊に混乱をもたらした。もしもこれが晴天下であれば40キロ離れて接続水域を航過中の久場島の大噴火に目を見張ることができただろう。

 それでもレーダー画面で止まることをしらない爆発の拡大と押し寄せる巨大な波の陰影に、警報を出すのには間に合った。そして間に合ったのは警報だけだった。


 十数秒後、左舷前方からの衝撃波でマストは折れ、折れずともおおくの船上の装備が吹き飛ばされて、艦隊は通信手段を失った。


 爆発の巨大な水煙がここまで直接とどくことはなかったが、西北方向におおきく押しやられた海水は5分後艦隊に到達した。左舷前方から100メートルをおおきく越える秒速で押し寄せ、水深500メートル地点にもかかわらず、波高40メートルを越える大障壁となっていた。船体が折れぬよう斜めにやりすごそうにも、あまりに波は高く、船速重視と重装備でトップヘビーがちの構造を選択したつけの請求は厳しかった。



 この時期の高度8000メートルを越える濃密な雨雲の視界不良と乱気流が空軍力の投入を阻んでいた。それでも中国人民解放軍空軍のAWACS(早期警戒管制機)KJ-200は雲上の天空を飛んで、東方の作戦海域を監視していた。

 はるか彼方の久場島の日本国の領空に現れ、自機よりもさらに途方もない高さに上昇していくとんでもない大噴煙に、機長はすぐに気がついた。オペレーター達は、機上レーダーの画面でにわかに現れ増大する見たこともない反応が噴火のそれとはわからず、機長からの連絡でそれと知った時には別動隊の最新艦3隻が巨大な陰影に呑み込まれていた。そして大津波の弧状に進む強い反射波が数分で艦隊本隊や魚釣島の海警局公船の反応と交わり、判別不能となっていった。


 中国東海艦隊の本拠地は尖閣諸島よりおよそ500キロ北西の浙江省寧波にある。AWACSから報告をいれるまでもなく、基地の作戦室でもデータリンクで視えていて、艦隊との通信リンクの途絶とともにただちに北京にも伝えられた。


 中国でも久場島を震源とするマグニチュード7クラスの発生はつかんでいた。久場島が火山島であるのも周知されていることで、なんらかの火山災害に遭遇したことの推測は容易だった。しかし全く想定外の事態が艦隊との通信が途絶するほどの常識外の規模とは受け入れらず、混乱のうちに津波第一波が寧波に到達までの所要時間90分が過ぎていった。

 そして徐々に尖閣諸島から離れた海上で津波と遭遇し幸運にも生きのびた船舶からの通報が入り始めた。


 先島諸島の石垣市と宮古市からのライブ映像につづいて台湾島北東部からの津波の映像がはいるようになった。異常黒潮に遭遇せず減じられなかった波高は10メートルだった。


 久場島から300キロ離れた浙江省温州市付近の海岸線に第一波が達したのは60分後だった。波高は最大8メートル、異常黒潮の支流に載って距離ほどには弱くはなっていなかった。


 南は福建省の福州市から、北は杭州湾と上海市、長江の河口付近にいたるまで概ねその波高だった。リアス式の入り組んだ海岸地形もおおく、場所によっては20メートルを越えて波が斜面を駆け上がった。


 上海市は全域が水没ないし浸水してライフラインが寸断、遠目には水の都のオブジェと化した。同市大同炉路の61398サイバー部隊のビルでは、自家発電が仕様書類上の発電力に達しないことが判明し、情報処理能力が低下した。そこを衛星回線から突かれ攻性防壁のブラックアイス自体がハックされて何本も裏道がつけられた。


 長江では流域沿いに100キロ以上内陸部までの遡上そじょう逆流して海水があふれた。国家重点風景名勝区なのに絶賛水質汚染中の太湖もかってのように海の清浄の進入を受け入れていた。

 

 寧波は天然の良港で台湾の開放しんこうを目差し軍拡中の東海艦隊の本拠地と海警局の東海分局が設置されていた。その入り組んだ湾に入り込んだ津波は奥の方、湾が狭まり軍港施設が増えるほどさらに高まった。波がひいたあとは一面の瓦礫山に備蓄燃料等の大火災で、陸上に流されて取り残された整備中の艦艇にも引火してそのまま横倒しの燃える墓標と化した。あちらこちらで東征作戦の補給のために集めおかれた弾薬類の誘爆が続き、手のほどこしようがなかった。


 因特网インターネットでは、日本の(実は本当に)神対応との違いを糾弾する声の書き込みが削除しても削除しても追いつかなかった。

 浙江省台州市の三文原子力発電所で浸水対策おから工事から最新のWE製加圧水路型原子炉AP1000一基が炉心溶融メルトダウン、福島の惨事の二の舞寸前にいたったことが露見してからは、削除自体を公然と批判する書き込みがあふれあがり、北京のコントロールはもはや体をなしていなかった。


 浙江閥を率いる国家主席は、太子党、上海閥と結託して共青団派を抑え込んでいた。それが浙江省と上海が大被害を受け、原子炉重大事故あり、東海艦隊壊滅で軍の上級幹部関係者も多い太子党も離反したとあっては、共青団派は国難超克を御旗にいやでも逆襲に転じざるをえない立場におかれた。


 一週間後、北京では政変が起きていた。

 それまで党政治局常務委員会序列第×位の要人を新しい主席とする共青団派政権では、東征作戦釣魚群島侵攻計画にかかわる公式文書は焚書ふんしょよろしく徹底して破棄された。

 東海艦隊の事実上の壊滅は演習中に黄尾嶼こうびしょ(久馬島)の火山爆発と大津波に巻き込まれたことになった。

 中国海警局公船にかわり、日本国の海上保安庁の巡視船団が危険を冒してまで職務を遂行し救出して送還してきた生存者は、魚釣島の二名を含めてもわずか50名ほどに過ぎなかった。この時代隠蔽はたやすいとは言えなかったが、党軍事委員会は硬軟両対応で天安門事件なみに白を切りとおして責任から逃れた。

 それでも長年の産児制限で中国とてかっての人海戦術時代のような被害の許容は無理だった。その無理を封じ込め続けるのも無理だった。一人息子を、一人娘の夫を失った親達の中にも中南海の高官がいた。


 その年、中国国家統計局は初めてマイナスのGDP値を公表した。しかし恒例のさば読みは変わらず、大幅減の統計実体からおおきくかけ離れていた。党の指導に粉飾を許すほどの権威がなければ、国がまとまらないとあっては、やむをえなかった。元祖儒教国の根の上に接ぎ木された共産主義の限界だった。

 




 米国ホワイトハウスは久場島の海底火山爆発の2日前に日本国首相からの極秘の電話で予知された内容の連絡を受けていた。

 大統領自身は半信半疑であったが、補佐官の強い助言で国防長官に指示して在沖縄の米国海軍主力艦艇を日本国海自艦と同様、沖縄本島の東の海上に待避させるよう指示した。


 船体構造の耐波性を評価して折れにくい観測艦パスファインダー級の一隻だけが異常黒潮の観測をかねて沖縄トラフ側の海上にあった。

 原子力潜水艦もその限りではなかったが、これは日本国潜水艦も同様で、流速が異常に増した黒潮本流の東側の水域の海中にあった。


 日本国の50cm級合成開口レーダー衛星の一機が密かに貴重な搭載燃料を消費し、衛星寿命をおおきく犠牲にしてまで高度をさげ周回軌道を調整して、米軍や中国の偵察衛星とともに大噴火時も晴れなかった梅雨雲の下の様子を軌道上から観測していた。


 そのほか日本国のAWACS(早期警戒管制機)と米空軍の無人偵察機グローバルホーク各一機が出ていたが、グローバルホークは同時刻久場島の上空高度18,000メートルで爆発的噴煙にのみ込まれて通信を絶ち、それが米軍の唯一の直接高額被害となった。




 稚日女わかひるめはそれら本気のたたりの成果に内心では、やりすぎ、これはないわーと引いたが、

「 阿摩美久(あまみきよちゃん、すごいね 」と感心しておくことにした。


「 チュら海に津波をおこさせてしまいましたが、無神論者どもにその万倍の報いを返してやりました。米国の5000万ドルのカラクリひとつ落としましたが、これは彼らの独神ひとりがみへのささやかな意趣返し、独りよがりにこれくらいで文句はいわせません 」

 ドヤ顔も美しい女神さまだった。



 米国大統領は思う。

 我らの唯一神ではないにしても日本人達の神は確かに実在する。

 彼らは本当に神に連れられて転移するのだろう。その何が合衆国ステーツの利益になるというのか。

 中国は壊滅状態の東海艦隊の立て直して戦力化するまでに10年以上かかるだろう。

 経済の再建に手を貸すことになる、これまでのようなおろかしいまねを避ければ、それをさらに遅らせることができるだろう。

 日本国首相はカンパニーに準ずる法人形態の国家として日本国府ジャパンオフィスを合衆国とスイスの二国におくと約束した。合衆国におかれた日本国府は合衆国の国益にも多いに貢献してもらうことができるはずだ。

 よろしい、同盟国を優先しよう、平時でもサイバーテロを仕掛けてくる厚顔無法国の経済に食い込むのはあとで良い。


 方針を決めた米国大統領は2週間後密かにグアムの空軍基地を訪れ、細部を詰め確認するために、日本国首相と極秘の会談を行っていた。


 そして合意文書に署名をかわす段になって、通訳にも席をはずさせて途方もない提案が日本国側から持ち込まれた。


 米英語に不自由しない日本国首相のそばに、白人の基準ではとりわけ幼く見える黒髪の香しい少女の姿ひとり、どこからともなくにわかに姿をあらわして、その少女の言葉を首相自ら通訳して伝える形式で会談がはじまった。


 日本国は提案していた、いや日本国の神々の一柱と判明している存在が朝日のように晴れやかなおすまし笑顔で、日本国首相をとおして次のように提案していた。


「 合衆国日本国府は純金20万トン、スイスの小鬼さん達のところの欧州日本国府は純金10万トンを基金として運用するよ。それだけでも現世うつしよの世界で採掘済みの金の量よりぜったい多いよね、その気があるなら合衆国日本国府がUSAドルの金本位制回帰を保証してもいいよ。ほら仮想通貨ってあれだよね、濡れ手に粟っておかしいって、おまごさんのア○べ○ちゃんも夢の中で言ってるよ 」


 いつのまに、孫娘と接触、そのまさかが現実だった。

 そしてネットワークを自在に操ってみせる存在に仮想通貨は風前の灯火だった。


「 それに現世の日本国は転移するけど、ア○べ○ちゃんとはお友達のままなんだよ 」


 それを聞いて大統領は勇を鼓してじかに問うてみた。

 美しい少女の神は、はからずも涼やかな思念で、絶句する答えを直接返してきた。


「 召喚で現世の日本国が転移しようと大切なお友達、時を違えたくらいで合わないでいるはずがないじゃない。時間パラドックスは心配しなくていいよ。それと金の総量については、えっとR過程元素とかいうくくりのうち、集積ずみが金、白金プラチナ、それに分離希土レアアース、いろいろ込みで、月を目かたにひとつ分、上のお兄ちゃん、月夜見尊つくよみのみことに日蝕月蝕の仲直りの信頼のしるしに預けてあるよ、時間かけてもいいなら地球30個分のリソースはこちらの取り分だからばっちしいけるよ、これでも物々交換でない貨幣経済というのをいろいろお勉強したんだよ 」



 合意文書に付属文書が追加され神の署名の一筆が入った。

 転移のゼロ時間まで、他国の思惑そこのけで、なし崩し的に日米の経済と軍事技術と装備の一体化が進んだ。財政的裏付けが十分すぎる以上、そして最強のTL情報がある以上危ういようにみえて危うからず、それを制限するのは転移までの残り時間だけだった。


 日本国の未来への転移、召喚のことは、意図して有耶無耶なままに、巨匠達のジャパニーズ・クール・アニメでまずは日本国の国民に、そして全世界が周知することになる状況が作り出された。そして少数の反日反米国家やテロ集団を除き、二つの日本国府と全世界の間に利害又は損得、あるいはその両方を共有する体制が構築された。

 既存の世界的財閥も、秘匿回線のはずのサーバーに米欧二つの日本国府から所有する金の総量を知らせる通知がはいりその裏付けがとれると、対立しながらも共存共栄の道を選んだ。


 琉球とアイヌの神々は、残されて話しの通じない無神論者の国々の脅威にさらされるのはごめんだった。沖縄と北海道の全域とともに神が現世に回帰の日本国に同行することに決めた。


 日本国国籍を有するも何らかの事情で同行しない、のぞまない、できない少数の人々だけが米国と欧州のいずれかの日本国府の社員となり、21世紀に残ることになった。


 それを聞いて多くの在日外国人が母国国籍を捨ててまで日本国国籍を希望したが、あきつ神の審査ではねられたものが大半だった。




 エピローグ  [ 皇居にご挨拶、その夜の寝物語 ]



「 お姉ちゃんの大日女おおひるめは知ってるよね。

 天照大御神あまてらすおおみかみの御神霊の主で、その稚の分神霊で妹分が私。


 お姉ちゃんが下のお兄ちゃん、建速須佐之男命たけはやすさのをのみことと最初の仲直りした際にお姉ちゃんの勾玉まがたまからうまれたことになっているから、正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみは、現世風うつしよふうに言うと私のおいっ子ってことでいいよね。


 その甥っ子と思兼命おもひかねのみことの妹の栲幡千千姫命たくはたちぢひめのみことこと萬幡豊秋津師比売命よろづはたとよあきつしひめのみこととの間にうまれたのが天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命ににぎのみことで、現世の日の本の昔、豐葦原中國とよあしはらのなかつくにを平定したの。

 そして美人薄命で大人気の木花之佐久夜毘売このはなのさくやびめこと神阿多津比売命かむあたつひめとの間にうまれた末子が山佐知毘古やまさちびここと火遠理命ほをりのみこと


 火遠理命は大綿津見神おおわたつみのかみの娘の豊玉姫とよたまひめを娶って天津日高日子波限建鵜草葺不合命あえずのみことがうまれるの。

 この子は母、豊玉姫の妹の玉依姫たまよりびめと大恋愛して、うまれた末子が神倭伊波礼毘古命かむやまといはれびこ、つまり初代の皇族、神武天皇陛下なの。


 いいなあ、私もすてきな子孫ほしいな、お姉ちゃんのじゃなくて直系の子孫ほしいな、たくさん欲しいな産みたいなあって、あれ?!、ちょっときいてる、こんな可愛いわたし同衾どうきんしてもらいながらお手つきせず眠っちゃうなんて、ひどーい・・・よおしっ 」


 数日後、天宇受賣命あめのうずめのみこと直伝じきでん勝負踊ストリップショーりを披露ひろうしかけ、有木鏡也こと時読命ときよみのみことしかられて涙目のお日様少女だった。


 まあ、結局のところ、その上目遣(うわめづかいの涙ぽろぽろに勝てるはずがなかったんだけどね。



神の系譜で尊名がながい二柱のかた、そのままではルビがふれず、略称とさせていただきました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ