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遠神の帝国Ⅰ  作者: ペコ
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60 群竜の高巣(ドラゴンズ ハイヴ)

 寒波だ、コロナだ、冬眠したい、けど、なんとか第49話から分岐して第59話の文末へ合流する支線を開通させました。

 領都からも見える東西に延びる南の丘の稜線の上、ちょっとした高所の草原に領軍の南部方面隊サウスガードの駐屯地がある。そこからさらに南方、眼下に、晴れれば彼方、ヘイズに果てるまで広がる平坦な大湿地帯、小中の冷涼な湖沼の点在する手つかずの原生の風景を一望のもとにおさめることができた。


 秋も半ばを過ぎて、毎未明の冷えた風と冷えた雨に、春に芽生え夏の間に人の背丈を越えて繁茂した緑の魔境も勢いを失いくすんでいた。もうすぐ霜が降り茶色に変じ、しおれ折れるその上に雪が重くつもり、地面に圧される。その巡りを万年を越えて繰り返し、腐朽した植物の遺物が、湿しめる燃える泥、泥炭でいたんの万を越える厚い積層となっていた。


 丘がおわり湿地が始まる境界に沿い、監視哨の小塔が間隔をおいて点在していた。そこでは、羽虫をはじめ湿地からいてくる大群の虫に悩まされる季節を再び迎えることはないと知らされて、急遽きゅうきょな領都への退避の準備もあらかた終ったところだった。





 ふいにゆるく南から一陣の冷たい風が吹いた。鼻の良い予見の権能持ちなら腐葉の湿るにおいのなかにかすかな腐肉につくあおかびの臭いをぎ分けたかも知れない。だが、すぐに事態はどの兵、どの士官にもわかる良からぬ方向に進展した。揺れ、小刻みな揺れ、ビリビリと断続するその揺れは遠くない地面の異常の知らせだった。


 狭間という境界を広げ、そこを渡る侵略の前工程、狭間とせめぎ合い、地盤が割れる。それで伝わってくる揺れは道具で計らずとも体感できる震度だった。


 各監視哨から急の警報が南部方面隊の指揮所に伝えられ、その集計で具現化してくる狭間の推定侵略線の概算が領都に至急報で送られた。


”大規模な狭間の励起と侵攻。コルプスは一体いかほどの代償をはらったと言うのか。過去最大規模を大きく超過する攻勢にさらされては監視哨は鎧袖一触がいしゅういっしょく、全滅を避けられない”


 そのような指揮官判断で指揮所から監視哨に即時撤退の指令が下された。





 監視哨をあとに、炎槍を手に、詰め込めるだけ詰め込んだ重いぱんぱんの背嚢を背負い、丘の稜線上の駐屯地に息の続く限り急ぎのぼる途中だった。


 見返る背後ではいつになく狭間が厳として存在をあらわにして、広大なはずの湿地がずいぶんと手前まで呑み込まれ、こちら手前側の幅4、5キロ残すばかりになっていた。そして目の焦点のあわない彼方のかすみとは違う重い霧、地を這う冷湿なたなびきの中から、これはくっきりと見える黒い無数の点が次つぎわらわら現れうごめいていた。恐れることを忘れた烏合うごうの大軍は戦列を整えることもなく前進を始めていた。


”畜生、あんなにも☓重兵やつらが湧いていやがる”

”全力強攻か! 方面隊で抑えきれるのか”


 あせり浮き足立つ心、それが撤退者たちの丘の上りを急がせていた。それが何よりも彼らに幸いした。





 頭上全天、白く激光の唐突とうとつ


 痛いほど目のくらむ白い輝きがのぼる途上の丘の向こうから突如伸びて広がった。稜線とその上の駐屯施設が真黒い影となって、見るものの目の奥に焼きついた。鍛錬たんれんが日々の鍛錬の反復が身を地に投げかけさせ、頭を守る姿勢を取らせて、背嚢を首の上にずらせることに成功したものもいた。


 はだの露出部という露出部に押しきざままんばかりの放射の白熱。一瞬のあぶられる痛みがさらに彼らの身を小さく縮こまさせた。


 次をまたない瞬間までに、あとにしてきたばかりの湿地に膨大な熱量が注ぎ込まれていた。


 表土蒸発、超高温プラズマ光球, 大衝撃波球爆誕。


 鼓膜破り超過の大強度の衝撃インパクトが空中の音速を越える速度て地中を拡散、近接の大地を大きく震わす。人も土も瞬時耕され、そこへ空中を拡散する衝撃の大波が追いつき、丘の斜面上方に吹き飛ばした。


 大地から大劫火と大爆煙のもろもろを猛然と積み上げ積み上げ巨大な巨大な火球がすさまじい速度で地を排し空に昇って行った。下に残されるは急激な減圧。それで周囲に圧された大気たいきが方向を真逆にかえ爆心にむかう強大な突風となった。吹きこむ尽きない空気に泥炭の地は大炎上、灼熱の地と化した。


 大火災爆心へ向かう大気の流れは強風として止むことなく、衝撃波の起こした塵芥を内方向へ吸い上げ、すぐに視界を晴れあげさせた。そこには見ても、見上げても、さらに見上げても追いつかない、高き空の巻雲シーラス穿うがちそびえ立つ、巨大な柱が姿を現していた。そして柱の先にさらに巨大に傘開く頂きは、上彼方の頂きは、そこより真下の足もとを睥睨へいげいし、幾条ものかみなりまとわり付かせ、そびえ立っていた。

 

 音を失っても口を開けるものはだれもが、吸い込んでしまった爆風と塵芥に咳き込みながら、悲鳴をあげ、さけばすにはいられなかった。


”あああ、群竜巣ドラゴンズ ハイヴだ!”


 数多あまたの竜、乱舞する炎竜、煙竜、雷竜らがもつれる大群に頭上から見下ろされる恐怖。そのとりこらは再度、登坂とはん懸命やっきになっていた。





 背を丸め、尻尾も丸め、ほう々のていで急な登りを道をはずれてでも駐屯地に急ぐ士官に兵ら。その上を、逆方向に飛ぶかげが越えて行った。丘をかすめる低い高度であったので、轟音さえ塞がれた、鼓膜破れの無音の状況でなければ質量魔力変換ジャイロの慣性駆動の耳に慣れることのない音ですぐに気がつかれただろう。


 それでも後ろを振り返らずにはおられなかったものには、突風を追い風に爆心方向へ進む飛空船の姿が目に入った。


”冗談だろ、あんな小舟で大火煙の竜地獄にむかうなんて”

”よくこんな風竜らの間を飛べる、あんな小舟で”


 船体は決して小さくはなく最小の砦ほどはある飛ぶ武装構造物なのだが、成層圏から亜宇宙をうかがう途方もない爆発が背景にあっては、全長をとってもその百分の一にもすこぶるみたない。それでこの状況で初見の遠見とおみには鮮やかな橙色の船橋と暗い黒い緑の船体の塗り分けでおもちゃ然とした見ためもあって、無力な浮いた小舟とだまされたものが多かった。


 丘の上の大きく半壊した駐屯地、そこで方面隊の指揮に口出しする騙す、もとえ言いくるめる側の一人は違った。


”自分のとっておきを真似まねるにもほどがある。なにが「環礁実験の再現なし、爆発なし、ぜったいなしといったよね」だ。どの口がそう言う、そんな口はとっつかまえて絶対泣かせちゃる”


 泥炭に精密点火しじっくり火攻めで手数をかけての攻勢防御の段取りが、味方から予期せぬ駐屯地大破の洗礼とばっちりを受けご破算。憮然ぶぜんとしてため息をかみ☓す副官がいた。


”あれらを挙一に焼却してしまっては後続の難民らが早々に現れるではないか”


 領の副官としての立場ではなく、帝国公子の矜恃きょうじ的にはコルプスの困窮民とて保護すべき帝国の民。この大難事に、いや大難事だからこそ、押し付けられぬよう遅滞戦術で時間稼ぎを狙っていたところはあったのだが。


”しくじった。本意でなかったと言うのも未練がましい。皇女にまんまと出し抜かれた。これも裏か、裏があるのか、何を目論もくろんでいる。工作体の出力をけた一つ見誤った、ほかにも見落としてしたものもあるかもしれん・・・ 

 とにかくこれの結果で偽善をなすにも今さらだ、面倒見かねるぞ、どうしたものか”


 応急復旧の指揮に忙しい方面隊隊長を横半目に副官は考えを巡らせていた。





 その夜の皇女の寝屋、pillow talk 


「・・・ふう、お互い相手の身分を昔知らなかった建前で焼け木杭ぼっくいに火がついた擬態ごっこも、こう状況が詰まってきてはぐだぐだだな」


「はいってくるなりいきなりひどいひと・・・それでもあの時の私は何も知らなかったというのは本当よ。産んでから身分を知らされて大変だったんだから。貴方のが私をはらませることができるなんて思いもしなかった」


「それは同感だがこちらは知ったのは年何もあとのことだ。血統の魔女結社が皇統と帝統を合わせ持つ雛子を手中に秘匿ひとくしているというたれ込み・・・したのはそなただろう・・・があって、その裏をとってみればなんとも身に覚えのある経緯いきさつだったよ」


「ふふ、でもそれで貴方は動いてくれたのよね。行方知れずのあの子だと確かめようにも私では手の及ばないところに囲われていたもの、でも帝都まで来ていて賢女ちゃんがそうだとは教えてくれなかったよね」


「皇帝女が再略取されないよう、まずは味方から知るものが少ないほどよいだろう、副官にまで身をおとす不自然さだけでも、賢女関わりと気づかれたら面倒なことになるからな」


「でもあの子が賢女に、それも雛子のうちからあんなに才、溢れるなんて」


「うむ、せられた。そこだけは女会の魔女どもの仕込みに感謝だな、そこだけだが」


「エルFの始祖という刷り込みが気に入らないの?」


「ハーレムは逆ハーレムとかやらも執着、独占だろう、定番というものの歪んだ変形に過ぎない」


「魔女らがあの子の血統を広めるだけの価値を見出みいだしただけだわ、それにその心配はないわ、あの子は自分で自分の連れ合いを見つけるわ」


「まだ雛子だろうに、歳が大離れの辺境伯相手に盛りごとをしでかしたぞ」


「女子は雛子のうちから女子なの、それに今は別のお相手に心を寄せてるわ」


「おいおい、からだが歳3くらいは幼く雛もどりしてもか」


「あのお相手なら、賢女ちゃんの体が歳15にもどるころまで待ってくれそうだし、私は賛成よ」


「ちょっとまて、なんの話しをしている。皇帝女が願うつがい相手が・・・あの使徒か、あの使徒の若造わかぞうがか、どこの馬の骨ともわからない血統がか。魔女らにはとんだしっぺ返しだ、我らの賢女の話しでなければ笑うところだ」


「あらあら、でもね、賢女ちゃん工作体とずいぶん相性良いし、あの使徒も工作体をみても乗らせても全く平気なの」


「平気とは、どういう意味だ」


「それに泥炭地あそこぎ払う際、衝撃の襲来に誰よりも早く知ってみたいに気づいたわ」


「だからと言ってなにを言いたい。おかげでコルプスの窮鳥どもが早くなだれ込んでくるだろう」


「コルプスの今代こんだいの侯爵って領民思いなのかしら、あれだけの大軍を前衛につけるなんて」


「それをそなたが蹴一してしまった、その後始末をこちらに押し付けてどうしたいんだ。あと日何もないというのに」


「ごめんなさい、知ってるでしょ、広く民には善意を向けるがのぞまれることなの」


「やれやれ、『皇統は民に君臨し帝統は民を統治する』か。真面目まじめなことだ」


「そんな貴方だって、無碍むげにする気はないくせに」


「だがこちらにもここの領民の避難の段取りで手杯一だ、どうだ、そなたにまかせたいが」


「私は皇統の皇女、統治はしない、代わりにまかせるわ」


「・・・それは誰だ」


「もう、それもわかってるくせに・・・これだから牡の卵親は・・・賢女ちゃんが選んだお相手の話しをしているわ」


「ふん、若造か」


「貴方、あの場にいたと聞いたわ」


「ああ、復活と不可視の天使の秘蹟ひせきの場にいたな」


「ねえ、彼は何者なにものなの」


「わからん」


「私もわからないけど、賢女ちゃんがお相手に選んだのよ、あの子のお眼鏡めがねにかなったの。  恵賜(ゑみため、私より貴方より遠神とほかみに近いのは確かだと思うわ」





 コルプスの唯一の熱火力、猛火で逆に投射距離が伸びる鬼火ウイスプをしかけられた未明の領都襲撃、副官はその時その部屋の様子を、皇女にもわかるよう半目の裏でなく壁に映して透視した。起されるや、まず一番に安否を確認した賢女がまず一番にしたことがいそいそとそこに駆けつけることと賢女につけてある所在確認のしるしでわかったからだ。


「コルプス侯爵も領民思いのことだ、あれほどの悪政を敷いていながら予想をくうがえす軍事支援、それも我が賢女にかかっては無駄だったようだな」


 この部屋の窓からも見えた領都の火災を速やかに紅い鬼火反撃に巧みに転じた賢女を副官は誇らしく思ったが、背の君状態、すぐ後ろでくっつきすぎだろうに使徒の今一つ浮かぬ表情に気づいた。めろめろの目障めざわりなにやけ顔でないのになぜか腹がたった。使徒が復活の使徒となにやら聴き取れぬ会話をかわす。復活の娘使徒がなにやらまくしたてると、賢女が呆然として呟くのが聴き取れた。

”私の鬼火ウイスプちゃんが、コルプスの鬼火たんも消えていく”


「なにが起こっている、わからない、けしからん、どうやったのかわからんけが、本当に賢女の鬼火まで消させたというのか、全くもってけしからん。なのに賢女が使徒にみかけるなど、どんだけけしからん。なぜだ、何をした、何をすれば、何をされればそれほど気を許せるようになる」


 その時、ふと副官は自分の尻尾の逆立ちに気づいた、これは自分も見られている、どこだ、どこ・・・そして探して、確かめられなかったそこより外にはどこにも気配がなかったことがわかった。不可視の天使が眠れるという寝車椅子以外は。しかし皇女の言葉を聞いてすぐ気がれる。


「底をさがして、やっほーだわね、あの団一」


「  ああ」


「でも賢女ちゃんを託すには番一と思うの」としの皇女。


「・・・権能でも甲斐性かいしょうでもいい、託せるだけのものを示してもらおう」


「率直じゃないんだから・・・これだから牡の卵親は・・・」と同じ文言を繰り返す皇女。


「深淵に架かる橋板なら確かめ乗る主義だ」


「ふーん、なり二つを確かめられてからのっかかられた記憶はないのですけど、妾との若気(わかげ)の至りの際にお勉強できたのね」


 そのあと、襲撃被害の方は町家のボヤ程度ですんだこともあり、同衾どうきんのままの皇女ともう1戦、夜明けの焼け棒杭ぼっくいを強いられた副官だった。





”不可視の天使、あれは何だ、どうして皆気にしてない、秘蹟の露出の持続だろうに、思考にかせをはめられているのか”


 領主館の地下階でコルプスの捕虜高官ばけものとの会見の場から出てきた一行を見ながらそう思った副官だったが、思考のむく先はまたすぐ賢女の様子に逸れた。


”賢女が言い出したこと、使徒を仲介に停休戦の打診をする手はずが、あの様子では不調だったか”


 副官は顛末をきこうと賢女を自分のもとへ呼び寄せた。


「どうした、相手のあること、いつもうまくいくものではないぞ」


「いえ、それがその、使徒さまにじかに目をかけておいてくれるかとの言質はいただきましたけど」


「会見回初でそれなら上等だろう、よくやったな」


「・・・それがその」


「まだ何か」


「あのう」


「何だ」


「私、私の心の欠片かけらが使徒さまのところです。かってに行ったまま帰ってこないの。それに私、私、使徒さまたちのお言葉が急にわかるようになりました・・・これって種一のティムですよね・・・私、変、使徒さまのおそばにいたい、それがいやじゃないの、それがこうなる前からなの、変なの、いつから変なのかな」


”・・・皇女の推しは、とっくに勝負はついてた、それがためか、ははは・・・ならば、よしよかろうだ、皇帝女と番うに見合うだけの最高の甲斐性がいる。この重二帝国、遠神帝国ファーディバインを担う系譜に尾名を連ねる甲斐性が。が、日残りがない、使徒としての本気を端一でも急ぎ試させてもらう”


 副官は、一領の副官ではなく、帝国の公子として有する任官の権限をふるうことにした。


”皇帝女なる至高の賢女の関わり、出し惜しみはしない、我と皇女の意も受け、貴様にしてもらおうぞ、どこまでやれる、それとも、どこまでもやれる”





”なんてボク迷惑なお話しなのかしら” 副官は誰かの笑いをこらえた声をきいた気がするが、すぐに忘れた。

モチベーションが・・・...




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