表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠神の帝国Ⅰ  作者: ペコ
58/60

58 銃後と幻想の前線



 僕の思考は折に触れ、負の残滓ざんさいに捕らわれて周回する。


 転生は襲い来る数々の試練を越えて俺つぇーになるまでが面白い。誰かが言った言葉らしいが、油断というものは油断していることに気がつかせてくれないものらしい。


 万事うまく行っていてもそれでふいに足をすくわれるのだと。面白いのはすぐに終わるのだと。


 そして根拠のない自信は自分を裏切るためにあるのだと。


 いや違うな。そういうのは余裕もあればこそだ。僕にはなかった。僕は日々の辛苦を耐え忍ぶために僕をだますために、息を吸い息を吐くように、嘘ごとの自信をまとい、それを吸いそれを吐いていた。


 真実は敵だった。まわりの皆が身を置く真実は敵だった。


 そんな僕が有無言わせず転生させられるなんて、なんの錯誤、それともなんの救い?


 そんな僕でも喪われて悲しんでいるだろうか。僕の喪失は罪悪感を起こし親兄弟にも残酷な救いになっているのだろうか。


 むごい。


 耐えられない試練はないのなら、それは試練でもなんでもない、いじめだ、ただのいじめ、僕をいじめて優越に浸るための、惨めないじめ。


 いじめるくそったれ存在はきっとおのれの惨めを僕に移したくてたまらないほどの弱者なのだろう。かといえ僕が納得するはずもないだろう。


 手のとどかなかった万事ばんじと、手のとどかないままの別れ。


 あの生は一体何のためだったのか。僕の生は辛い生は耐え忍んだあの辛さはいったなんだったのだよう。怒、怒、怒、慟哭どうこく


 決して見ることかなわない朝日を待つひときわ明るい特等の夜明け星、明星ルシファーよ。僕は僕は堕天した僕は・・・暁星居士、あかつきを待つ戒名かいみょうは僕にこそふさわしい。


 僕の思考はまた、負の残滓に捕らわれて周回した。その自虐に甘美さえ覚える僕、僕はまだ壊れている。


 僕の心魂は過去から放たれても、今だ弱さに甘えるほど弱い。





 窓のない暗い一室の中央に配置された黒い制御卓コンソールのような塊。その斜めの天板に光が浮かび上がる。読めるようになったばかりの異世界の文字が浮かび上がる。


>まあ、劫火が近い、今更な気がするが、そちらはどうする、下じものものどもの間にも情報が出回って抑えが効かなくなってきたが。

  >妄動の領民共には軽装備でも持たせてそちらの避難壕を襲わせようと思う、存分に処分してくれてかまわない、その方が助かる。そちらもこち   らにそうするつも りだろう。

     >そうか、そうだな・・・やむをえないな、辛い立場だ、お互いにな。


 前世のインターネットを思わせないでもない通信手段がこの封建的世界にあったとは。副官に呼び出されて見せられたのは政官吏者の間の非公式連絡を魔法的手段で構築したマジカルプライベートネットワーク、MPN。驚いてばかりいるわけにはいかない。


「掲示板過去ログを読んでの通りだ。このたびのコルプスの侵攻もこのドミノ倒しの流れにほかならない。殆どの領では避難壕が足らないどころではない。あぶれる不穏な領民を誘導し他領の壕を攻めさせて、その始末は相手に押しつけている。他領からの暴徒なら鎮圧する兵士の鉾先が逆を向くことはもない」


 表示板の下からの文字灯りが写る、僕より頭半分近く上背からじろり見おろしてくる半目を見上げると、

「さて、使徒殿ならではの見地から、お考えを伺いたい」と、身も蓋もなく直球のようで実はくせ球の投げつけられた問いに、今の僕は容赦の声色のないことがわかる。


 圧迫面接かこれは。全く嬉しくない。賢女ちゃんを僕に下賜する卵父、それも極めて高位の高官、上等な答えをしてみせろと言うことか。


 天空の劫火の日、迫るという非常事態、娘を神の庇護に使徒に託すという選択を下した妥当性の裏付け、それを示せる僕であることの言明を求められているのか。


 劫火から逃れるすべは僕の不思議な力をもってすれば実現できるという確信がある。それがここの社会的に受容できるかどうかは別・・・そしてこの世界に取り入るに決めたからには、この状況こそが目的に沿う。でも実際こうなってみれば、なんと面倒な。


 ましまし後悔、問いを投げ返す。

「・・・副官殿、この領、無名領の避難場所の確保状況は・・・」


「賢女のおかげで中域と鉱山を合わせて収容力は足りる、糧食は限られるが」


 賢女ちゃんの発見によりあの中庭という次元延伸したような避難廻廊は昼夜に倍増、領都と周辺の領民を収容するに足るものと判明しているのだろう。


 それでもそう糧食、そして水が問題だ。僕のうろ覚えの前世知識でも、何千光年以上彼方の観測でも、超新星爆発の光が衰えるまで数ヶ月かかったはず。その際、爆心至近で被曝した惑星があればその環境はどうなっているだろうか。よほど不運ならガンマ線バーストのようなものの直撃をうけて溶融~蒸発。そうでなくとも大気が、沸騰する水域が、あまりに近すぎる超新星爆発の衝撃波で吹き飛ばされる。低下した気圧の補充は地殻から噴き出した程度ではたりない。新しい呼吸可能な組成の大気の合成と供給。そこから考える必要があるだろう。当然、地表と地表近くの生物相は、衝撃波に続く放射線を何ヶ月も浴び続けて焼滅しつくされる。糧食を水を外にもとめることはできない。


 この世界の住民の想像もはるか越えた苛酷な世界。放火竜のような、あれを生き物といえるかどうか、そんな存在なら狂宴を許されるかもしれない。


 けれどその苛酷が及ばないところがある。大深度地下の生物圏、前世の地球でもその地下5キロメートルまでのバイオマスは全人類の数百倍はあるらしい。それがこの星にある。なければ播種するが、すくなくともここの地下に探知できる状態が例外でなければ、ある。それを素材にマナ的なものに変換する。鉱物に結合した酸素と水素と炭素と窒素も大気や水の材料にできる。だろうではなくて、できる。誇大すぎる妄想でなくて、できる。


 でもそれは過ぎたる神業かみわざ。人の営みに無考慮に圧倒的に振る舞われるスケールの力は余波でも天災を越えるだろう。救いは一握りのものになっても万民のものにならない。


 僕は、僕は、救われない僕は、救われないなら、僕は救う側に回ってやる。救われないものを救う側になってやる。それまでせいぜい油断しておけ、僕をいじめてけ者にできて油断しておけ。


 すぐに僕は来る、すぐに来てやる。


 天空の劫火よりもく、必ず疾く。


 あっ、ああ、いけない、またふいの思いの急襲に断続する、ままならない螺線的に繰り返しくるフラッシュバックに捕らわれてしまっている。


 啖呵たんかで切る、啖呵で切ってそこから離れよう。億劫おっくうから一歩踏み出そう。


 思い切ったら後悔が追いつかぬうちに、迷いのつたが育たぬうちに決意を表明する。

「よろしい、コルプスの民も合わせ救って見せましょう」


 僕の大見得おおみえに副官の半目が一瞬だけ開く、一瞬だけおよぐ。副官の後ろの尾袋に隠されているが尾先のほうもこそこそとおよいだことだろう。


 ええー、なにもそんなに動揺して見せなくてもいいじゃない。


 かろうじて取りつくろったふうが、それこそ演技くさ。


 副官の問いは、この領の副官の立場にとどまらず、帝国の公子としての立場からもあっての問いなのだろう。無名領領民もコルプス領民も、半目にうつる立ち位置は同じ帝国の臣民と言うこと。


 僕が使徒として副官と同じ側に立つという表明。


 これが彼の問いへの要求水準超過の答え、使える答え、言質ゲットとでも勘違いしたか、あるいはあえてそうしてみせたか。


 しまった感、じわり。


 過大な期待をく形から高いハードルの言質にってなければ良いが。

前途多難な約束コースは避けたいのに。



「・・・使徒殿はそういうお考えか・・・・遠神とほかみ)恵賜ゑみため)いきていきたまふ・・・理解した、使徒殿の意のままに。任せよう」


 はあっ、やっぱり。こうくるか。


 策士であればこそ務まるだろう的な副官にまでこう使徒扱いされると、初めは誤解や騙りでも、本当に遠い神の意のままに踊らされて使徒をやらされている気分100%だ。


 いやらしいことにそれが間違いかどうかは別問題。


 正解をコースかどうかはよくわからないが、不正解はわかる。


 典型例はそのような面倒なことをせずに、普遍的な法則、因果律を無視する類いのこの星を隠しきる大スクリーンを展開する類いの魔法や不思議な力の力技ちからわざ、シンプル解。そのようなものは超新星爆発を受けるやさぞや華々しく輝き、或いは輝かずともなんらかをめざましく放射し、百億年はゆ

うに越えた彼方の未来の最後の観測者から科学的にはあり得ないと否定的な観測をされるおそれが残る。だから、確実にいざ発動できるかどうかさだかではないし、発動しても続けるほど、困難が無限大に拡散するだろう。



 中域はあの中庭は問題ない、あれはこの時空からじばえの棘だから、そして狭間は属性の確定していない、そもそも観測できない領域。


 そして最後の観測者の目を盗める限り、僕の不思議な力も魔法もこの星では許される。この宇宙の外縁、この宇宙の外から見ればノイズ未満。最終結果に関係しなければ、極微のマクロは僕の観測次第ということなのかも知れない。


 極小短時間なら、世界は意のままだ。けれど極小短時間ですぐに全体からの干渉を受け、変化があっても観測できない。その極小短時間が、例えば光がこの星の直径をすすむほどの時間に伸びた状態。そういうフィールドが展開されているなら、ある程度整合性が保たれる限り、不思議な力も魔法もあるよ、な的この星であり、この世界なのではないだろうか。


 ミクロとマクロを癒着させるのは時間・・・時空は幻想、意識の幻想。時間だけが絶対存在。時間は伸び縮みしない、観測者の側が伸び縮みし、その相対的な結果としてのこの時空なら、そこに観測者の意識の干渉があってもよいじゃないか、そして人の営みの都合があってもよいじゃないか。


 拙い解釈、たぶんでなくて天動説的な、勘違いもいいところだろう、それでもそれで僕が納得できれば、知ったかぶりの僕でも不思議な力や魔法のある現実と折り合いをつけられるというものだ。





 ともあれ、僕の答えは暫定であれ、一応は肯定的な評価をもらい受けたらしい、賢女を頼むとひと言言こというと、僕の返事を待たず、用は済んだとばかり部屋から足早に出て行く。その押し付けにつけいるすきも、抵抗するまもなかったが、なんとかやれたのか。





 この尻尾人社会の男女の関係はかなりゆるい、それでも血統が問題となるだろう、上級尻尾人ほど、緩くなくなるはずだ。それでも帝国と皇国の二つの血統を合い持つ賢女ちゃんのおしかけの決意。その強さを拒否するもしないも覚悟がない。僕は前世から持ち越した”良識”を盾に、郷に従わず逃げている形。


 現状、賢女ちゃんがのぞめるお相手は僕かここの領主の爺様に限られる。まあ彼女の性的成長部分が僕の一部とよろしく、あれでも精神的お付きあいだから、プラトニックと言えるのだろうか、それでまぐあっている限り、リアルの彼女の側からの接触は、当面、お子様レベル、ロリコンではない僕にはなんとか微笑ましいレベルに止まるはず、そうあってほしい。


 そして妹になったりするカイジョの相手をなんとかし、ニワカの覚醒をなんとかする。


 だけど、回避できない破局をクリアできない限り、転生僕の女子との悩ましいおつきあいバブルもはじけて、ジ・エンドだ。


 彼女らの生☓も僕にかかっている。重い。とても重い。とてつもなく重い。





 副官相手のがちんこ会見を終えやれやれと自室にもどってみれば、僕のベッドは占領されていた。


 僕の眠りの聖域にことわりなく侵入し、くうくうと眠る二つのかげ。


 前世なら烈火のごとく僕は怒りちらかしていただろう、なぜって僕が眠るところ、安らぎでしのぐところに他人に侵入されるなんて、自他の境界の障害の僕には、僕そのもののが侵害される、けがされるもおなじだから。


 そんなことで怒り心頭に発するなんておかしいと思うのなら、その考えは間違っていると断言できる。本当にそう言うのはいやなんだ、いやなことをされたのだから怒って当然だ。


 でも今は違う。この脳の僕は違う。


 未明から起こされたのだから、仕方がないと思える僕がいる。


 寝所にもぐり込まれていて、いやじゃないなんで、僕は僕の変化に驚いている。


 僕には美人とか美少女とか美幼女とかの美がよくわからなかった。前世の世間一般の常識的なところからそうなのかと思っているだけで、いくら眼福であろうとも、心の底までせられてはいなかった。


 けれど、リア充になって、その誘惑の脅威に僕はさらされている。執着しゅうちゃくというか、身近において起きたい欲求、親密になりたい欲求、触れたい、体をあわせたい欲求、子孫を残すための本能が僕にもあった。いやリア充になってからそれに気がつかされた。


 過去の記憶保持の僕のやつが、賢女ちゃんの部分とよろしくやってくれて、そのうらやまけしからん影響も大きい。朱に染まれば紅くなると言うやつの桃色版ピンクバージョンだろう。


 いとしく想うといと言うこと。


 彼女たちも、命を追い詰められる状況で、本能に動かされているのだろうか。僕も・・・けど前世の異常な潔癖けっぺきの残滓が桃色の情動の濃密になろうとする空気に抵抗させる。


 それに、いやそれより、今日は未明から寝不足なままにいろいろあっていろいろ考えるところが多くて、累積しつづけるリア充体験に消耗して、ぐじゃぐじゃに疲れてしまっている。


 考えがさっきからまとまりがなくなってきている。理路整然どころか迷路で混乱寸前、支離滅裂に崩壊寸前。これでは生前じゃなくて転生前レベルだ。意味があろうがなかろうが、ぐる、ぐるっとぎくしゃく断続的に空回からまわりしている。


 彼女らに密に混ざろうにも気力が及ばない。そんなごく甘の蜜よりも何よりも安眠できるだけのとこが欲しい。


 めざすはニワカの眠るリクライニング車椅子そばのソファ。そこに倒れ込むように、僕は沈没ダイブした。




 泥炭の地は火の海になっていた。


 飛空船から放たれた巨大な熱塊エネルギーがまる一昼夜を越えてなおも大地をほおばっていた。


 色のない、或いは黄色、或いは橙色、或いは赤、或いは深紅の、そして青や緑すらある吹き上がる炎、炎、炎。からみあう、炎、炎、炎が、いて群れなして、燃える焦土に喰らいついていた。


 それらの多彩な火炎が吠えうめく全波長ががっする轟音。

 絶え間なくおどり上がり空まで焦がし続ける大煙。


 生身ではとてもいることを許されない灼熱の地獄。


 そこにニワカと透き通ったからだで手をつないでいた。だから、これがリアルでないことはすぐにわかった。


「お疲れさま、まだまあ大変だねー」


 僕を観測してこの世界に定着させた張本人というか大恩人の、ニワカのねぎらい。


 ニワカが居ずして賢女ちゃんが修復してくれただけなら、見えてもらえない介助者たちの一員に落ちて、とてもリア充になるどころではなかったろう。


 リアルにむき出されたぼっちの引きこもりだなんて想像もしたくない、悲惨の滑稽こっけいの苛酷の、かっこうの餌食えじき。何日たとうが僕がこの僕が大勢の人の命を左右するなんて大それたことになってはいなかっただろう。


 聞かされるに違いない時折の断片情報からこの惑星が星界の眷属の大爆発に吹きさらされることくらいは理解しても、僕一人が生き残ることばかり考えていただろう。


 それがニワカのおかげで引きこもりではなくなり、それどころか数日にして僕は、そう、転生物語の主人公と言って差し支えないと、自負できるだけのものに成りおおせている。おかげさまで大変な目に会い続けている、今も、間違いなくこれからも。


 だから、

「うん、おかげさまで」と返すと、ひゅっと抱きつくように僕と重なってきた。


 温かい、暖かい、暖かい、ただただのぬくもり、ニワカのたましいの温度。


 僕の一番は、僕一番たち、カイジョ、賢女ちゃんより僕の最も一番は、ニワカ。


 まわりがいくら荒ぶる火炎の狂宴だろうが今の僕らは燃える肉を持たない。


 疲労が癒えていく、僕らは混ざっているのに、僕は僕の魂は、歪みを正されて僕は浄化されていく。


 でも、と思う。これは僕なのだろうか。悟らず操られているだけではないだろうか。自分の意思すら信じ切れない。自分のだから信じ切れない。僕は僕は、前世の僕はだまし騙し騙し、自分を騙し騙し生きてきたのだから。僕がこんなにうまくいけてるはずがないのだから。おかしい。


 やはりおかしい、こんなことが僕にあるはずが、あるはずがない。


 そう言おうとする僕の口は魂の唇は、ニワカの口にニワカの魂の唇に塞がれて・・・

 

コロナ至近弾ひとつ・・・。

旭川の大変な現状は明日の我が身、かも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ