50 最終的防衛陣
ペコの書きものにもお約束。あちらこちらに要修正箇所がひそんでいます。
見つけ次第、処理してしまいますが、敵もさるもの、隠れ上手です。
おおかたの人の人生は経験の廃棄物だ。知ってはいても経験しないと、知を行動に残せない。僕の障害はさらにそれにも劣る。知る価値に背をそむけ、知ろうともせず、的外れな行動をとって自爆してしまう。
僕の障害人生は産まれついての廃棄物だ、産廃。のぞむところとはまず逆のまずい結果になる。ただの素人より始末に困る。根本のところで誤る修正至難な障害、それで僕は孤立し無駄にあらがって孤立を深めた。お荷物な異物と化した僕がいじめの対象となったのは想像がつく。
若い女子にいいように振り回されたり、反駁できないのは、さぞや、いろいろ、ディスられて、ディスられて、ディスられつくされたせいではないか。それがビンゴな気がする。
転生このかた、まだ数日だけど、ここではまじでディスられることはない。その意味では僕に優しい世界・・・救いたくなって当然の良い世界なのだ。
けれど、良いが善とはかぎらない、悪いが悪とはかぎらない、幸福になるなら善、不幸になるなら悪である。
僕とてそのくらいのことはわきまえているつもりだけど、その実、傍観者の甘ちゃんのままだった。
今は巻き込まれて傍観者ならぬ当事者であると、僕なんかに絡んで教えてくれる美ロリ、小悪魔系女子でも、根は情け深い、悪い子ではないのだろう。彼女は彼女なりに、子に僕の形質も取り込むという方法で僕に幸福を恵むということに疑いを持っていないのだろう。基本、善意の子、僕をからかってもそこに陰湿な悪意は感じない。
それでもね。
もとの世界なら1ヶ月は週刊誌という週刊誌の表紙を総なめに飾れる、容姿この世のものならぬ端麗清楚たおやかな佳人中の佳人、お姫様中のお姫様、そんな未成年女子が僕を僕なんかをお相手に誑し込もうなんてね。
だれが、はいそうですと信じられるものか。
二親も生まれからしてこの国のエリート中のエリートらしい。その落とし胤がなんで幾山を越えるこのど辺境で賢女という領主にも重用される地位にあるのか、そして天才級に優れているのは僕の存在が証明しているけど、歳若すぎるのに、なんというか男を求めすぎる、尻尾人のことはまだよくわからないが、どんだけ自分の子孫を残そうというのか、その裏にある闇、それはやはり女子会か・・・。
美ロリの名は見た目通りなんだけど、なんかセクハラっぽいし、相応しくない。名の余念で侮っては、振り回されてしまう。僕もこの世界の言い方、たぶん彼女が誇りをもっているに違いない重役職、賢女、日本語では賢女と呼ぼう、でも小っこいので賢女ちゃんだ。見くびってしまう容姿に惑わされないよう、逆だ、あえてそう呼ぼう。
眼福母はどうかな、眼福母も御姫様だし、おばさんと言う見た目じゃないし、うーん、賢女母・・・賢母でいいか。僕まで、悪い子ねえと言いつつべたべた甘やかしてくれそうな雰囲気のある尻尾麗人だけど、あの一撃、薙ぎ払え姫の火遊びに付き合うのは怖い。
組まれたままの僕の腕が美ロリ、もとえ賢女ちゃんの腕とからだが触れてくる心地良さを訴えてくる。
でも僕は腕を強く引き抜き片膝をついて苦しむカイジョの介抱を優先する。有頂天になって何度泣く目にあったことか、その折れ目がなくなっても僕の魂にはしっかりと刻みこまれている。
賢女ちゃんはあまりにまぶしい。
賢女ちゃんは僕がいなくても大丈夫。
カイジョは僕がいなければ、これはだめな子だ。ニワカはさらにそう。僕は必要とされ、裏切られることはない。
「優しいのね」
「・・・・・・」
僕は無言を返事としてカイジョの介護に没入する、ふりをする。
なんて迂闊な僕。傍観者でなく当事者になっていることに、賢女ちゃんが絡んでくるまで、気がまわらなかった。カイジョはそんな僕にまきこまれてしまった被害者だ。
たぶん前の僕のように耐えるばかりの生を生きてなくて、それでも委員長タイプはだてじゃない、ここまで頑張ってきたその頑張りを夜の泣き顔を僕が知らずしらずしてだれが知るというのか。
賢女ちゃんがそばで僕の力に目を見はっているが、かまうものか。 吐物とすっぱいにおいを飛ばすため船外への転移窓を開き、汚れに沿い、つかず離れず這わせる。その先は上方の遠い高空、気圧差でバキュームは簡単だ。
そしてカイジョの背をさする。こういうときの定番文句は疎い僕でも知っている。
『だいじょうぶか』
そんな僕に賢女ちゃんが後ろから負けず声をかけてくる。
この子も僕とけっこう同じ、空気読めない、いや読まないだ。
「ねえ、わたし、使徒さまのハーレムの員一になってかまいませんから、使徒さまもわたしの子孫眷属たちの親のひとりになりませんか、ギブ&テイクです、良い考えでしょう」
?ハーレム?、何を言い出すんだ賢女ちゃん、僕のまわりに女子が群がる?あり得ないに決まってるだろ。
僕はニワカにキープされている。ほんとは無理しているところもあるのだけれど、この世界におちたばかりの何もわからない僕に損得の勘定なしにニワカは寄り添ってくれた。だから僕も損得考えないでニワカに感謝の気持ちで返したい。
つまり僕的にニワカひとり分の無理、女子と親密になる、リア充になる代償。それを払う覚悟を決めていた。決めていたところに、カイジョが復活した。
代償が二人分になることに心の奥底で困惑していた僕は、カイジョが、妹、自分から妹と言い出したとき正直ほっとした。大人のお付き合いするのとは違い、妹の有無はリア充とは直接関係ないから、いても代償がいらないから・・・妹ならいくら可愛くても代償いらないはず、だよね?・・・。
まあ、それでもその二人は僕と同じ一般尻尾人だ。
だけど賢女ちゃんは高貴も高貴、高貴すぎる殿上尻尾人。ハイパー身分違いがハイパー大加算する大きすぎる無理に僕が押しつぶされないはずがない。この世界の人々は、どこの馬の骨かわからない僕なんかの神経が耐えることを許さないだろう。僕は針のむしろの上で足をすくわれまくりで糾弾兇弾なくしても倒れこむだろう。
ハーレムなんて持つ気はさらさらない。強制されても、僕は逃げる、スルーする。裏切りとかどろどろとか、僕相手するの絶対の絶対無理。
賢女ちゃんは夢の様な美少女、すごく有能で、血筋も完璧。そんなすごい子がかけてくる粉を下手に振り払うのもあとが怖いし、万が一、有り得ないことだが本気になられたら僕の矜恃など、ないも同然だろう。不敬な返事をして、回りの聞き耳をたてているに違いない者達に、にらまれるのもありがちだ。賢女ちゃんは大地雷、僕の鬼門。
いろいろぐるぐる考え、やっと結論を得た僕の首筋に腰をかがめて・・・唇をつけられたような、寸止めのような、ぞくりとする多幸感。禁断の甘い吐息と囁き。
「わたし、つれなくされるのは初めてなの。どうしましょ、けど諦めないの。テイク&ギブ。わたしをお相手に欲しい時にはいつでもね」
考えている間に首筋の急所をとられ、追い詰められてしまった僕は、
「わかった」と呟き返すのがやっとだった。僕の中の煩悩のぱか。
言質をとった賢女ちゃんは
「ふふ」と言うと、僕の首筋を開放してくれる。
カイジョが少し復活した。
船橋の前の方で指揮をとる賢母の方へ移る賢女ちゃんを追う目がなんか睨んでいる感じ。
『あの子、』
『あの、』
同時にしゃべる、一瞬つまるが、すぐにカイジョの方が早く言い切った。
『お兄ちゃんの首の後ろに何かしなかった』
これは怒ってますね。なぜに?
『あの、気分はどう、楽になった』
僕は、あの、から言い直して転進をはかる。
『うん、もうちょっとだけど、お兄ちゃんもあの子にマウントとられないように注意してね』
バレテラ。
僕はカイジョの背のさすりを続けながら、あの猛火の説明をした。
『ふーん、そうなんだ、実は始めから生きてない兵・・・腐乱ケンシュタインみたいなもの?』
『ああ、それだそれ、ショックな光景だけど、焼かれていたばらばらは火葬で浄化ということらしい』
『マジ、モノホンの火葬戦記でしたか・・・』
カイジョの中の人、おたく疑惑の疑惑解除。それがわかる僕もおたくだったと言うこと、ですよね。
『でも私がぐあい悪くなったのは、リアル火葬炉の中の光景だけじゃないの、あれ、戦場の向こうにあるっぽい、わけわかんないもの、何、何、これ、って見ようとしたら、頑張っても目のピントが合わず、目が回ってうっときちゃった』
『あそこが尻尾人たちが「はざま」とよんでいるものだと思う。そのままでは通行不能でここと向こう側との間の境界と思うけど、見ても認識に及ばないようなもの、意識のない生きてないゴーレムならその限りではないのかも』
『これ、避難する壕の強奪戦じゃなかったの、生きて通れない「はざま」があるなら意味ないじゃないの』
『うーん、それはそうなんだけど、この世界の道にも隧道があってね、それを一回通ったんだけどその中は、あの「はざま」と同じもののような気がする。大量のゴーレムの投入は「はざま」に隧道を通しやすくする地ならしかもしれない。僕個人の憶測だけど』
『でも、なんで私たちがからまされなきゃならないの、勝手に飛空船に載せられて、オーバーキルの跳ね返りであやうく墜落の恐怖を味わう目にあって、さらにあの酷い光景を見させられて、なんなのこれ。断ることできなかったの』
でもね、ニワカことを考えると、そうなってしまったのだ。それを説明する。
『この子無防備だよ。信じられないかもしれないけどこの子は普通の尻尾人たちにはきちんと見えない異質の存在なんだ。この子の安全を考えると無下に断れないよ、まだ話してなかったと思うけど、今の君になるまえ、この子の世話に終着していた。どこか似てるし、なにか縁深いものがあるのかも知れない』
『そんなこと言われても、私わかんないよ』
『うん、僕もわからないことだらけだ。この世界、この尻尾人のからだ。ねえ、僕の尻尾は麻痺して感覚もないのだけど、尻尾どんな感じ』
『急にどんな感じかと言われても、困る。でも、お兄ちゃんとほかの人との違いは明らか・・・という感じ』
『生まれつき耳が不自由な子に音の実感を説明をするような感じかな』
『それ、そうそんな感じ、でもちょっと、違う感じ』
『この世界の理不尽な不思議もそれと同じようなものかもしれない、「はざま」だって認識困難なら、同じじゃないかな。拒絶する力、理不尽でも拒絶する気にはなれるかな』
『拒絶する力を拒絶するの、おかしいよ。お兄ちゃんに仕込まれた力、私、拒絶しないよ』
『よかった、いざというとき、ためらったらだめだよ。あの日まで9日もないけれど、助かるためには必要になる時がくるかもしれない』
『うん、わかった・・・ねえ、お兄ちゃん』
『なに』
『お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、私達の尻尾の体、血がつながってないよね』
急になにを言い出すんだこの子。
『生き延びて、お兄ちゃんと、いっしょに生きるの、だめ尻尾のお兄ちゃんの尻尾になるの。感じないと思うけど、尻尾は大切だよ』
カイジョはいつのまにだろう僕の萎えた尻尾を袋から引っ張りだして手で撫でていた。これ尻尾人的に人前で許される行為なのだろうか。
僕なんかにどうして構う、どうして構ってくるのだろう、カイジョ。そして今は眠るニワカも。
わからない、産廃な前世を引きずる僕なんかに・・・わからない、混乱してくる。いやじゃない、いやじゃないけど。
僕は怖い。僕のことをわかってるなら、わかってるはずなら、してこないはずこと、僕がそう思っていることをもしされたらと怖い。僕はそうなったらまた折れてしまうだろう。今は思い出せなくても、記憶のフラッシュバックに追いつかれるかもしれない、いやだ、怖い。僕のお付き合いの覚悟は本物だろうか。
『お兄ちゃんと私、運命共同体だよ』
そうか、そうだよな、この異世界でひとりぼっちじゃない。僕もカイジョも、ひとりぼっちじゃない。二人ぼっち。カイジョが頼れる転生者は僕しかいないんだ。
領主館に戻る。動力をおとさないまま、さっそく修理にかしまくかかる船をあとにする。驚くことに人いらずの修復機能のようなものがあるらしい。船橋と城館屋上をつなぐ連絡橋から見おろすと、どこからか出てきた手のひらサイズの甲虫めいた機械が船橋の基部に群れなして、溶接のっぽい連続する青白い閃光がまばゆい。修理しているのは未来のハイテクドローン、それとも魔法のゴーレム。見ていてあきがこない光景だったが、下船する前に賢母に領主館内の士官室に行くよう促されていた。
僕でも考えついたことはとっくに周知のことだった。人道隧道の穿通までは一両日を要し、そのあとあの猛火の泥炭地を突破するのにもう一両日かかる、次の会敵は領都の南側防衛陣、早ければ明後日の午後になると、副官じきじきの説明があった。
勝手に観戦武官のような扱いで危険なめに遭わされたことを抗議すると、
「侵略軍をご覧になったでしょう。我らのなすことに目をつぶっていただきたいのです」と頭を下げ、半目に陰を感じる表情で、抗議をはぐらかす答えを返してきた。
「領都防衛の支援を求められたと思いましたが、こちらにも都合があります」
「使徒殿は我らを救ってくださる」と、また少しはぐらかされた感のある返事。
何を言いたいのだろう。
「それはやぶさかではありませんが」
「ならば侵略者は我らにおまかせいただきましょう。使徒殿のご一行を中域に案内させましょう。我が主がそこでお待ちしております」
「中域? 円庭のことですか、あの黒い大きい石柱が中央に配置された円形の中庭のことですか」
「否、石柱を芯に、結界が石円環で封じられ、その外郭として本城館が建てられたものです。中域を参られませ、そして御身を回して、領主閣下を訊ねられませ」
妙に古風でピンとこない。翻訳、大丈夫かな。もしかして副官の言いたいことが訳しきれないとか、強制力のような魔法が干渉しておかしくなっているとか・・・
コルプス侵攻徴候の急報で領都にひとあし先に戻ることになった際の獣車の馭者を務めた女士官に「では、使徒さまがた、こちらへ」と畏れおおい風情で声をかけられる。
僕が最良化をやらかした結果の美女にかしずかれても、僕はこの身で覚えている、素は残念系、サドのパワハラ女。マーキングされてしまったし、小心者の僕が断れなくて当然だ。
『領主が中庭の方で待っているって、そこ、ワケありで何か重要な話しがあるらしい』
『もう、でれっとしないの! また、いいようにあしらわれてない?』
おおかたの人の人生は経験の廃棄物だ。知ってはいても経験しないと、知を行動に残せない。僕の障害はなくせないかもしれないけど、せめてそこまでにはなりたい、なりたいから、あしらわれるだけならむしろ上等です。辛いばかりのハードモードダンジョンもどきの人生はもうたくさん。
長い斜路でなく、昇降機っぽいもので城館一階の通路に降りたつ。先導するは女士官。続いてニワカの車椅子を押す僕、そして僕のそばにカイジョだ。
路面、壁面、天井のいずれも緻密で硬い灰色の石材のような造り。大きめの獣車の通過を可能とする断面で、長さは20mほど。
両はじに横走式の、扉というより、大きくなくても城門らしい立派な城門があり、いっぽうは閉じていて、開いている方にすすむ。そちらが中庭で、なら閉じている方が通じるのは、方向感覚が正しければ領主館前の広場だろう。
妙な圧迫を感じ、足を止めて天井を見上げると、左右の壁面との間に、深さのわからない隙間がのびている。なんだろう。
「吊り天井です、使徒さま」と振り返った女士官が説明してくれる。
「なるほど、いざとなれば落とせるのか。それほど中庭、いや中域は大事ということですか」
「はい、我が主人の館、外郭が最終的防衛陣ですわ、使徒さま」
そう答える逆光のシルエットの向こうが、まさに中庭だった。
[プチ怪談もどき]
夏はいつの年も苦手。特に今年は、コロナのバイアスがかかる残暑でモチベーションも干上がる寸前。
そこに池の循環ポンプ、ステンレスの散水リール、Fax固定電話回線(実は雨水が原因と判明)、トイレのタンクレバーの不具合、不具合、不具合に不具合の、水がらみに偏る、奇怪な四連続。
ため息も、かけ四で・・・おっとととと、喉から魂がぽっくり抜け出るところだった。
ちなみにうちの池にはいるんです。おでこにくっきりと赤いハートマークのインスタ映え鯉。地元紙にネタ提供してみようかな。でもだれでもアクセスできるところに池つくっているので、GoToトラブル怖い。




