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遠神の帝国Ⅰ  作者: ペコ
49/60

49 撃(フォイヤー)て!


 どきっとした。


 お兄ちゃん・・・と呼ばれた。カイジョに。


 前の僕の記憶は皆無ゼロではない。心に刻みこまれた深い傷痕は消しきれないで、逃がすものかと今も僕をさいなもうとする。そこに幸せな想い出なんか、まっさら、何もない。だから、僕に妹がいたとしても、その記憶は消されていてもおかしくない。


”何よ、お兄ちゃんのくせに、じろじろ見てくるなんて、最低”とか、


”吊り橋効果でもなんでもいいじゃない、それが好きのはじまりでもいいわ、恋のはじまりでもいいわ。私、いやじゃないし、お兄ちゃんを見た最初からいやじゃないし、そうでなければ尾を絡ませるなんてしてないから”とか、

 血のつながりのお兄ちゃんでなく、ご近所のお兄ちゃんということもあるか。


 でも僕の苦手な若い女子になってしまうよりは、ずっといい、むしろのぞむところだ・・・


 はっ、しまった、今度は妄想に沈んでしまっていた。


『・・・・・・だから、私にもできるんでしょ、いけないこと、おしえて』


 聞きのがしてしまった、でも、言い寄ってくる今やリア充強者っぽいカイジョに僕が無下むげに断ることができるはずもない。


 教えてほしい理由かな、それを聞き逃したのかな、いけないことがなんなのか・・・そちらも問題だ。きちんと言ってくれないと、僕にわかるはずがないじゃないか、まだ障害をひきずっている僕に・・・


『それで、どんなことができるの』


『お兄ちゃんって、僕、キミのお兄ちゃんなの』


『やだ、私、お兄ちゃんって言ってしまってた』


『どういう意味』


『知らなーい、知ってても教えなーい、でもいけない妹とか、じゃ、だめ?』


 いけない妹とかとは、何の事だろう。でも腕に抱きつかんばかりにされては、とてもいやとは言えなかった。それで押し切られてしまう僕。


『い、いいけど』


 僕のひと言の返事に、ぱあっと満面の笑みになるカイジョ。初めてみせる笑顔、それだけで、だめといわない選択をした僕、正解を選んだ僕は、幸福だ。僕はカイジョに降伏だ。


 カイジョの中のひと、おたくでブラコンっぽい。いけないというのがよくわからないけど、いいよ、カイジョ、僕、キミがいけない妹なら、それにふさわしい、いけないおにいちゃんになってみせよう。





 カイジョの相手をしているとうちに、続報がはいった。境界狭間って何だろう。領の境界のことをいっているのだと思うが、そこに異世界ならではの奇妙があるのだろうか。そこの振動というものが終息しゅうそくしてきて、本日中の強襲の可能性はまずなくなったとのこと。


 やれやれだ。


 それでも副官は士官室に残り、眼福母子は今夜は投降船で待機。晩餐ディナーは遅れて、領主と僕とカイジョの会食のような形になった。


 懐石料理やフランス料理のようなコースではなくて、初めから何皿かの飾り付けられた小料理が各人の前に置かれ、温かいものが途中で供される形。料理の内容は割愛するがどうやらこれが上級尻尾人の普通の夕食のかたちらしかった。


 美味おいしいのは美味しいけれど、旅の途中で主計がよそってくれた大鍋料理ごったにのほうが美味しく感じる僕の舌はB級。それでも料理をめるくらいのことには、たるようになっている。


「使徒殿、天使さまは召し上がらなくでも、よろしいのか」と領主。


閣下かっか、眠りの天使です、お気遣きづかいは無用です、私どものほうでまかないますので」


「さようか、眠りのか、安らかに眠っておられるかの」


 やめてくれ、縁起でも無い、まだ☓んでないし。


 話しているうちに領主が辺境伯という周辺の僻地へきちとの交渉ごとをまかされた高位の地方貴顕であることがわかった。文化的背景はわからないが領や領都がノーネームであることに誇りがあるらしいことも。そんなニュアンスまで、天啓訳は学習を重ねて自然な擬似日本語会話を僕にくれている。それがあまりにたくみで、車椅子に眠るニワカの存在に負うものであることを意識しないくらいだ。


 その眠るニワカの賄いについては考えがある。


 消え残り、うろ覚えの知識の残りかすで、手当たり次第、十数人、ひそかに、たしか交差試験とかいうのをしてみた。


 少量血管内から、赤血球と血漿を別々に転移させてものを交互に混ぜ合わせて凝血ぎょうけつしないということは、おそらく尻尾人には血液型はないっぽい。


 カイジョが健啖家おおめしぐらいになってもらおう。飲食後の栄養あふれるフェミニンな血を寝たきりニワカの血と、等量遠隔交換していけば、なんとかなるはずだ。


 僕が口で咀嚼そしゃくした飲食物をニワカの胃に転送して、しもの方から出る寸前にトイレかどこかに飛ばすよりはスマートではなかろうか。


 四肢のリハビリと同じく、消化器官が衰えないように全く飲食物なしというわけにはいかないだろうが。


 カイジョの血をとってニワカの血とあわせて凝血しないことを確かめることの了解は、部屋に戻ってからとれた。


 はじめ、えーっと気乗りしないようすだったけど、いろいろ食べても太らなくなると言ったら、えーどうしようかなっと逡巡しゅんじゅん


 僕の血では血の中の男性ホルモンまでニワカに注入されてしまうので、やむをえない。いやなら僕が噛み砕いて口のなかのものを直接と言ったとたん、やると即断された。


「だめ、そんなKスよりすごいの、たとえ間接Kスでもお兄ちゃんのは私のなの!」


 K、Kスって、栄養補給、昏睡のニワカに水分と栄養の補給だよ。ブラコンはブラコンなのだろうけど、それだけではない、もしかしてやんデレというところもあるのではないだろうか。なんてことだ、リア充にも油断ならない闇墜ちのネガがあるのか。


 でも、それでも、カイジョのそんなを否定する気にはならない。僕の障害が個性であるなら、それがカイジョの中の、中の人たる個性だから。本当に妹なのかどうかちょっとあやしい気もするけれど、僕は、”妹”、思い込みでも幻想でもその言葉の持つ優しい親密感にぞっこんなのだ。


 いろいろありすぎて、こういうものだと割りきるしかない。人と関わるということは、ここまで大変なのか。それより、戦火が迫っている。今夜のところは免れたようだけど、明日のことはわからない。


 カイジョまで守り切る自信などあてにならない。カイジョに自衛手段を持たせなければ。


 夜半すぎまでかかった。それでもなんとかなった。いや、いやなものはいや、ぜったいいや、そんな力、拒絶する力、否定する力、そんな感じの力を獲得ゲットさせた。


 お兄ちゃん、ひどいとすねられた。カイジョの中の人の苦手、ゴキBR転送の負荷スパルタが過ぎたようで、そのつぐないだそうだ、『だめお兄ちゃんのだめ尻尾さんのリハビリ』とか言われて僕の尻尾はカイジョの尻尾に密にからみとられている。そのまま眠られて、僕は抜け出せない。


 初めての女子とのオーバーナイト。


 僕、リア充になれているのだろうか。なんか、思ってたのと違う・・・


 寝落ちのカイジョの頬に涙にけて見える・・・平気なふうの妹プレイで気丈きじょうよろいよそおっても、ある日突然こんな状況に落とされて辛くないはずがない。僕だって本当は・・・・・・僕もそのまま、もらい、泣き寝落ちしていた。





 置き去りにしてきた、避難民キャラバン化した帝都からの領軍は次の日の夕刻に到着した。そのなかに、ニワカの姿もカイジョの姿もなかった。ならここにいるニワカとカイジョもコピーではない、かえのないオリジナルとわかる。でもその大事なことが小事に思える大変な1日だった。


 日の出直後、領都までとどいた、どーーーんという遠くからの振動、空振に地震に地鳴り。領境界の打通。コルプスの奇襲は強襲のような形ではじまった。


 あわただしい朝食もそこそこに士官室に呼ばれたあと、3人一組であの改装投降船に放り込まれた。


 強靱きょうじんな軍艦構造ではないが、船橋部分は実質、あの橙色塗装の謎ハイテク車仕様。「ここにいれば船体が大破してもね、大丈夫。最悪、取り込まれて大丈夫よ」と、指揮する眼福母が保証する。取り込まれるってなんだろうが、そんな事態になったらワラでもすがる自信だけはあるので、「お願いします」と言っておいた。


 広くはない船橋はニワカのリクライニング車椅子の嵩張かさばりもあって、けっこう3密。美ロリが僕に体を寄せてくるのがつらい。カイジョに身をつままれるのがさけようがない。


 機関のものらしい微振動が伝わってきて、その音がキーンと一段と高くなると、ゴーという轟音が加わってふわっと離床した。


  領主館の壁がさがり、壁上の行き来できる平坦な屋上の環が見えて、四つの塔とあわせて、やたら広い円い中庭を囲んでいるのがわかった。


「使徒さまあ、こちらの方がよく見えますよ」と腕を組まれてひかれる。僕はつまむのを止めようとしないカイジョをひきつれてそちらに移動する。


 それが庭が広い理由だった。直径100mほどもあろうか、石の並びの円環。環状列石というやつだ。中央にモノリスとかいう巨大な石碑のようなベタ黒が、ひとつ天を突いて起立している。そんなものがなぜ、中庭にあるのだろう。その疑問は美ロリの言葉で断ち切られる。


 「わたし、たくましくて、あれ、好きなんです」うっとりした口調で美ロリがいう。そういいながら僕にしなだれてくる。吐息が甘いんですけど、朝っぱらからフェロモン出してませんか、このにせ10歳児。


「この子、すごく可愛いでしょう、ここの女子会に特別な血統種として仕込まれたの、ごめんなさいね、こんな見ためで戸惑うかもしれないけど、お相手をしてあげてね」

 眼福母が僕に謝るように言いながら、ドキリとするお姫様ウインクをくれる。


 血統種という言葉をまたきいた、なんのことか、ニワカからもきいていたこととあわせて、さすがににぶちんの僕でもわかってきた。


 これはそうあれだ、秘密の女子結社が交配で子孫の形質を操作するやつ。僕はこの子に遺伝子を狙われている。領主に対する度はずれな親密ラブラブも、領主のも狙いのためかと、納得できる。


 さそがし高度な魔法であったに違いない、それを駆使して蘇生させたからだに僕が宿ることをなさせた張本人。だからといって、失った歳のみかえりを求められても、10歳くらいまで幼女化しては無理だろう。


 うん、無理無理、たしかニワカが言っていたように無理だとは思うけど。


 女子の体のことはよくわからないというか、縁があった記憶がないし、それこそ全くわからない。


 ましてや異世界の尻尾のある魔法少女、たぶん卵生、の生理のことなんか、お手上げ、をしようにも、片腕かたうではすでに美ロリの細い腕なのにしっかりと拘束されて、もう片腕もカイジョにとられた。


 カイジョのつまみがつよくなる。カイジョさん、僕に怒こられても、困る。

これも修行か、リア充の代償か、痛いです、痛い。いたたたたたっ。


 声をあげたら、ぎゅっと強くつまむのはやめてくれたが、二人とも放してはくれない。お願いだから、僕に優しくして下さい。





 船の高度が上がると、丘の向こうのほど遠くないところに、いきなり、眼福母が御姫様の権威で攻撃を命令した。


「特別皇族権限☓☓☓☓にて工作体制限コードを時間一無効とします。南正面、狭間境界線上、幅m2000走査。判定脅威をぎ払いなさい。アハトゥングえ、フォイヤーて!」


 一瞬のうちに、一瞬だけ可視化した空気の白熱の扇が、無数の紫電のとげをはやし、船橋前面と遠くない地平線のようなところをまばゆくつないでいた。目がくらむ。そして同じ一瞬のうちにも近すぎる大爆発の巨大な壁がせり登り上がって行く。


「わあ、すごいです」と、美ロリの歓声。

「えっ、ちょっとそれまずいって」と、重なる僕の声。


 爆裂の衝撃波が白く厚い雲の球壁となって真正面から逃げるも避けるもかなわない速度で視界いっぱいに迫り来る。


 棒立ちのカイジョに『つかまれ』そう言いたすのがやっとだった。


 強大な爆風との衝突。ぐわっと、押しのけられるように横転、いや、その寸前で復元する船体。片舷かたげんの窓の外は直下の被曝の光景が気分が悪くなるほどすごい速度で流れていた。


 投げ飛ばされたり、なぎ倒されたりしても、けっしておかしくはないというのに、そうはなっていないというおかしさ。眼福母がだてにここにいれば大丈夫と請け合ったわけではなかった。


 船が振り回されても、船橋にいる僕らへの影響は多少程度。これは、魔法か、それとも未来のハイテクか。いずれであれ、たいした防御だけど、船体への負担は大きかったようだ。


 船の姿勢がもどる途中、足下あしもとのほうで異音といやな振動がした。


 機関の音は力強いが、警報がなりはじめる。


『なんなの、落ちるの?』と悲壮な声でカイジョ。


「船橋の基部に破断があるようです、機動に制限が必要です」と、プロの判断とわからせるキモがすわった声色こわいろで船長。


「『落ちない、引き返せる』」と、美ロリの方にも通じるかもと同時翻訳バイリンガルを試してみる僕。


 通じたか、

「えっ、これくらいで引き返すの、砲撃の方はまだしてないよ」と、美ロリ強気つよき

 

 それに眼福母が応える。

「いえ、砲撃は無用、コルプスの第一波が戦力として☓に残っているとは思えない、近い戦場で使うには過ぎたものだわ、戦果を確認して戻りましょう」





 猛烈な火災の上に中破船で危険を冒し微速で近づく。ここら一帯は泥炭地だと言う。どうやって鎮火するというのだろう。いや、鎮火する必要はないか、残りの短い日々、火防壁ファイアウォールとすれば良い。当然、はじめからそれを目論もくろんでの攻撃だったか。


 群れなす火噴ひふむくろ、よく見れば何かわかる残骸ざんがいどろごと燃えている。それが見ることを拒否する、そこにあるという認識、その記憶すら拒否する向こう、狭間はざまと言うらしいところとのさかいまで続いている。


 あの一薙ひとなぎでどれだけの兵を焼いたというのか。尻尾人達は、侵略兵とはいえ、その命を何と心得ているのか。


 凄惨せいさんを極める眼下のありさまにカイジョの顔から血の気が引く。震えてしゃがみこんでしまう。僕はえずくカイジョの背をさする。


 美ロリがそうする僕に言う。

「今度も☓重兵ばっかし、きれいさっぱり焼けてくれていいの、臭いし」


「兵の命を何とも思わないのか」


「兵の命?、あっ、使徒さま知らないんだ、コルプスの☓重兵」


「ああ、よく知らないが」


「うふふ、使徒さまにこの賢女かしこめめが教えてさし上げましょう。前に捕らえた新鮮な侵犯者をわたしみずからがくわしく検案したところによると」


「新鮮で検案?、まさか生体解剖」


「違いますよ、あれは検案でした、☓体検案。☓んだ人体部品を巧みにあわせたゴーレムでしたから。防腐剤がくさいし、防腐されても腐臭を消しきれてないしで大変でした。だからこの火は浄火なのです」


「それはネクロマンシイとかいうものか、『おぞま』しい』」


「ええと『×××』しいって聴き取れないですけど、コルプスは仇敵きゅうてきでもネクロマンチーは他の追随を許さないすぐれて革新的なところがあって、それを主導したものは」


「賢女、その先は忌避抵触ですよ」と口をはさむ眼福母。


「あはっ、そうでした。ごめんなさい、使徒さま。そういうわけで今は話せませんけど、使徒さまから尾汁おしるしをいただき、わたしの尾なかのけいふにかけあわせてから、尾話ししようかな、それなら尾味方確定のあとだからかまわないですよね」


 少々翻訳の調子がおかしいけど、尾汁し、マーキングでなく汁しか。可愛い顔してえげつないことをさらっと言ってくれる、

「この10歳児が」


「悪かったですね、これでも、ちゃあんとほぼ歳15なんです。体はぜったい歳10でなくて歳12の頃までもどしましたけど、使徒さまの顔には覚えがあります、わたしのその尾かげで使徒さまなのでしょう、そうでしょ」


「ぐっ・・・ごめん、なさい」


「わかれば、いいの。魔法で歳たらずは魔法で何とかなります。賢女を見くびってるなら、見せしめさんの罰で、食べちゃおうかな、うふふっ」


 艶然えんぜんとして、み、まぶしいです。

 華奢きゃしゃな少女の体して、冗談、冗談ですよね。カイジョがそばにいるのに、勘弁してくださいよ、この小悪魔女子。


[ お盆にて ]

人偲ひとしのぶ、残暑の候、巡りくる。

の人、大切な人、息し日々の想い出、生きし日々の想い出、遠く、また遠く。




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