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遠神の帝国Ⅰ  作者: ペコ
46/60

46 つばつけられたった

 ニワカと話しているうち、わかってきた。尻尾人会話では相手の立場や地位はともかくとして名前が出ることはないようだ。それで支障はないのだろうか。


 その密でない距離感は、僕には好ましく思えるけど、ニワカはニワカのまま、ましてやカイジョの名前も謎のままには遠さも感じる。


 でもそんなことよりなにより大切なこと、なんとニワカは尻尾人達は、そのザ・デイを正確な期日まで知っていた。


 ニワカに宇宙について問うと天宮がどうとか、月と星のめぐりがどうとか、いう。地球でいえば天文学が生まれるより前の占星術的な知識のようだ。


 それと、あの真っ赤な星から劫火がふってくる、その期日を載せたという尻尾人帝国?の皇女さまの通達とは、ざっと数百年くらいのギャップがある。


 何か、僕をここに突っ込んだ神的が存在しているくらいだから、夢のお告げか、はたまた僕には理解不能な魔法的な予知手段があるのだろうか。


 どうせなら夢のお告げの方がいいな。ノアの箱舟よろしく、生き残れるための加護のようなものが期待出来そうだから。


 そうでないなら、超新星爆発を知らず、その凶悪極める閃光のまが々しさを知らず、隧道トンネルや鉱山にもぐりしのげば、何とかなるくらいな、情報弱者の考えだろう。


 ☓の灼熱も☓の放射線禍もその百日を軽く越える破滅の波頭を生き延びたとしても、あとに焼け残される惑星環境は生命を維持できるような状態から絶対にほど遠い。


 大深度地下で閉鎖生態系の生活環境を何百年も維持できるとは、とても思えない。惑星環境を元通りに回復させることができるとは、とても思えない。


 魔法というものがどの程度のものか知らないが、それを極めてものぞみは薄い。


 炎天下のひとかけらの氷のようにはかない。


 ああ、それで僕の出番なのか、不思議な力で補完せよ、箱船を大深度地下に造れ、生き物の楽園を再生させよ、ということか。


 だけど、物理学の知識も、工学の知識も、生物学の知識も、社会学の知識も・・・そして数学の才も、それらをひっくるめて統合する理解もない、、、ないないづくしの僕に、引きこもっていたい病の僕に、いったいどうせよと。


 間違ってます、僕を選択、間違ってます、絶対間違ってます。大声をあげてそう言い・・・言いたくない。僕、別の人と入れ替えられて消去デリートされたくない。ニワカと仲良くなれて、カイジョともいずれ・・・を目論もくろむ利己的遺伝子に支配されかねない僕、そんな僕でも消えたくはない。


・・・けど考えて見れば、太陽だって、核融合方程式を計算して燃えたぎっているわけではない。神的存在がもしも超数学的な塊だとしても、それを考えて存在しているわけではないのではないか。


 そうなら案外僕と同じ、あまねく理解して実在しているわけではないのかも。


 なんて浅く自分に都合がよい考えという自覚はあるが、それで開き直るしかない・・・でいいであってほしい。


 それでいいなら、僕は評価がほしい、ポチッとほしい。


 評価がほしい。失敗したくないから。


 僕に縁がなかった評価・・・がほしい。そこまでとても遠くてあきらめていた評価がほしい。絶対、失敗したくないから。


 僕を高く評価してもらうことは、きっと、きっと、出番の、任務の、達成にもかなうこと。今度こそ今度こそ失敗で終わりたくないから。


 それには・・・それには、まつりごとの中枢、統率者の僕への評価がきもだ。


「どういうことだ、魔法、魔力操作の余韻よいんを感じないが」といったからには、副官は魔法を使えるのだと思う。それも、副官を務めるにたる魔法であるなら、かなりの魔法の使い手の可能性がある。帝統の殿下だかなんだか、副官なのに実はとんでもないお偉方えらがた疑惑もあるし。


 そしてその副官も仕える我らが封建領主。賢女ロリにいいようにたらし込まれていても横暴な専制君主ではない。妊産婦幼児じゃくしゃを獣車にのせる裁可を下したように開明的な領主だろう。


 ぼくとニワカの仲を引き裂くなという温情ぬるさもポイント高い。相手のとしが親子以上に離れていても、賢女の男趣味は上等でいらっしゃる。


 まずはこの、きもの二人に取り入る必要がある。人を動かす二人に取り入る必要がある。


 僕の不思議な力は、信頼なきままでは、脅威と表裏一体。


 あの炎龍の直上通過、じつは僕がやっちゃったんですよ、ぺろぺろてへてへは、通用しない。


 戦時というし、へたにデモンストレーションして、警戒マックスにさせてしまっては、本末転倒になりかねない。


 なによりもまず第一に信頼を得ることが大切。


 だが、どうしたものか・・・前の僕と変わらず、根っから人付き合いは超苦手ちょうにがてな確信があるのに・・・絶対に好き好んで引きこもり絶賛体質だったわけではないのに。


 それでも僕が考えつく範囲を越えることが勘案されて、ここに送り込まれての今だろう。スケジュールというのがあって、引きこもり剥がしの強制イベントが起こるのではないか・・・その対象者が言ってどうなるわけでもないけれど、客観視は正しく覚悟するにも大事だよね。





 それは思いのほか早く、思わぬ形でやってきた、いや、のぞまぬ形で襲ってきた。


 未明みめいの急襲。闇に近い乏しい灯りのなかだった。僕は士官の女に小突かれて起こされた。ニワカは・・・熟睡中のようで声をかけようかとまごつくうちに有無を言わせず強制的に僕は天幕下から連れ出されて、領主と副官が搭乗ずみの獣車、箱がいつのまにかオープントップになって荷も減らされたものに乗せられてしまった。


 領主、副官、隊長さんが首から紐でぶら下げたプレートを手に僕を見ながら厳しい口調でなにやら言っているが、ニワカなしではもちろん意味不明。状況不明。


 そのまま、残る隊長さんに見送られる形で、あっというまに一台だけの深夜の出立しゅったつとなった。


 車上には僕を連れ出した小柄な士官が務める馭者ぎょしゃを含めて4人。領主、副官、士官に、それに、どうしよう、なしくずし的にニワカのもとから拉致されたも同然、困惑の僕。


 冷たく吹きつける夜の風の中、一寸の先も闇の道を前を照らすあかりもなしにがらごろと音をたてて獣車が駆ける。隣で馭者を務める士官の目を覆う不気味な仮面、その昆虫のような奇怪な複眼は、暗闇を見通すためのスコープとしか思えない。


 どう言う仕組みだろう。赤外線のようなものを投光するところは無いように見えるから、ごく微弱な光でも見える高感度カメラのようなものか。


 光を増幅するにはどうすれば良いだろう。弱い光でも束ねれば明るくなるか。網膜の解像度を落として光景を荒くみれば・・・あまり変わらない。


 では網膜の細胞の感受性の域値をいじるか・・・それは思わぬ生理学的な副作用が怖い気がする。それにただでさえ、動きも感じもしないとはいえ、尻尾があるのだ、これ以上、人外になる気はない。


 なら増感か・・・目に入る直前で可視波長外の光も逃さず可視波長に変換するイメージ・・・、・・・時空をいじらずとも、いったん光エネルギー変換すれば結果が同じなら・・・そちらの別解を実行・・・


 木漏こもれの月の輝きがまばゆい、星もにじむほどにまばゆい、夜空は漆黒からどこか深い青みをおび、あたりは薄明の樹林の景色に変わった。


 視力でいえば、0.1か0.2程度だろう、それでも見えないとは大違い、車上とかほんのりとでも灯りがあるとよく解像して見えている・・・って、領主が副官が僕の顔を目をにらんでいる?いや唖然としている?


 あっ、僕の顔に張り付いているもの、なんちゃって暗視スコープが具現化していた。


 領主が副官に何かいうと、副官は何か命令口調でいいながら僕に槍を持たせた。たぶんあたりを警戒しろということだろう。


 この獣車はサスが特別製のようで、揺れがすくない。それと今や見える光景からけっこう急な昇り坂なのがわかるが、けっこうぐいぐいと登っていくところからして、壁天井を取り払った車体の軽量化はかなりいているようだ。


 速い、これは黒ベタ獣らの包囲や襲撃を許さない速度か、小一時間こいちじかんも警戒を続けると、何事もなく、平らな巨岩のおかげで見晴らしの良い峠に出て、短い小休止となった。


 牽引獣の湯気だつ臭う汗を手早く拭いていく士官。そばで士官に渡されたおけを抱える僕。士官が片手間になにやら詠唱?すると、どんどんと重くなる桶。初めてじかにみる魔法に目をみはる、これが魔法による水か。士官は魔法者、ひょっとして士官はみなそうなのか。


 そのまま重い桶を抱えあげて水をやれ、たぶんそんな無茶な命令。僕は知らん顔して不思議な力でずるをする。葉っぱを引き寄せた念の強化版だ。


 登ってきた方が見えていて、黒々とした深夜の山波に囲まれて、湖面がほのかに白くに光っていた。


 眠るニワカとカイジョを岸辺に残してきた心のこりの、水たまり・・・


 ニワカと少し話せたので前よりはましだけど、再び言葉が分からない状態に逆戻り、気が萎える。


 今は火急の要件で先に連れ出されただけで、あとでニワカとカイジョに会えるよね。


 問題のその至急の状況に僕はそのための戦力としてみなされているらしい。


 副官とニワカの会話では、僕は新種の魔法者ということになっていたので、それが理由だろう。


 魔法は思うより大きな軍事力なのか・・・


 確かに聞いた戦時という言葉が重くのしかかる。


 僕は魔法者、暴力装置として、領主と副官の信頼を得なければならないのか。相手は敵はあの不時着船でみたように同じ尻尾人の別集団だろう。


 彼らとは言葉が通じているようだったので、内戦の可能性が高い。なら隣領との交戦か、この世界が終わろうとしているのに、それどころではないだろうに。


 いや違う、避難場所がないか、足りないのか。あとがないなら、総力戦こそ、最もありうる。


 ☓活を懸ける☓兵の戦い・・・懸けるは深い鉱山にあとは何、ニワカがもったいぶってた何?


 きっと凄絶せいぜつ凄惨せいさんな残滅戦の顎門あぎときばをむいて待ちかまえている。逃さないと、そこに待ちかまえている。


 恐ろしい。


 生きるか、さもなくば☓、捕虜ゼロ皆☓し。


 怖い、怖い、でも逃げられない、怖い。どうしようもなく怖い。


 僕は戦火の犠牲になりたくない。


 いやだ、いやだ、戦火はいやだ。


 たぶん、そう。


 たぶん前なら、前の僕なら逃げようとする、逃げまどう、いやそれすらできず、ただ思考の陥穽かんせいに落ち、ただ固まって無為に手をこまねくばかりかもしれない。


 でも前は今じゃない。今は違う。大丈夫。


 不思議な力、今の僕にはそれがある。


 領主は副官はそれを戦力と期待して、僕のなかみが変わってしまっていることを知らなければ、僕の身分は領主の衛士隊の槍兵だもの、命令に従うと思われていても当然だ。


 彼らの期待に足りなければ裏切れば信頼されることはない。信頼を取り戻せるほどの時間もない。


 僕の不思議はたいしたことができるに違いない。だがいかなる力がふるえるとしても、僕ひとりの視点が及ぶ範囲はかぎられる。


 領主と副官に取り入り、統治のシステムに食い込めれば、あの赤い凶星大爆発の径数百光年の☓の球の中心域でも、多少なりともより多くを生き延びさせることがかなうのではないか、きっと。


 それだけに、意思の疎通に必須のニワカを残して連れ出されてしまったことが悔やまれる。



 岩の造形の妙は峠からしばらく続いた。下る勾配のきつく見通しのきかない崖縁がけふち、急カーブの連続。獣車の速度は登りの際以上に落とされていても、目の前を暗い虚空こくうが旋回していく絶景に思わず背筋せすぢこわばる。


 この酷道こくどう、ガードレールのようなものはあるはずもない、うまく回れなければ真っさかさまに高所より転落、そのダイブ寸前の連続に、思わず勝手かってに獣車に制動ブレーキをかけてしまう寸前の連続。


 槍と手摺てすりをつかむ両手に汗握る難所ヘアピンを降りきると、再び夜空に開けない森の中、闇の中の曲がりくねりとなった。


 ほっとする間もなく正体がよくわからない銀色にするどく光る目の集団を遠くに見ること数度。僕はすかさず無力化する手段を幾つか飛ばしてみる。遠すぎてその試しの効果のほどは不明、確かめようがない。


 副官は僕の不思議な力を感知しないようだけど、こちらをチラチラ見てるから、何かをしていることは気づかれているか。


 でも言葉が通じないし、揺れる暗い車上で身振り手振りの説明の困難と無駄は試みるまでもない。


 丑三うしみどきの森の濃密な黒い闇の中を速い速度で移動が続いた。そうして深夜、湖畔に残してきてしまったニワカ達から離れること、およそ4時間の距離。暗視スコープを解除しても山の端の上の空のかすかな明るみで東の方角がわかる頃、素人の傍目はためにも牽引獣の限界が近いとわかる頃、森からられた畑地に抜けて、前方に動きがうかがえる小集落が現れた。




 住民達はすでに避難したあとらしく、彼らの気配けはいではなかった。僕と同じ服装の小部隊が待ち構えていて、乗換えの3頭だての大型、装甲化獣車?が用意されていた。


 その車上で3人と同じく僕にも熱い飲み物が供される。味も香りもあまずっぱい。知らず乾いていた喉がうるおされ、夜風に冷えていた体が芯の方からじんわり温まる。これにも黒い微細な紛がまざっているけど、何だろうこれ。


 ガツンと蹴飛けとばされるようにやる気を覚醒させられた精神の薬の記憶がふいによみがえる。あの薬なんといったけ”リスpdl?”。


 この飲み物にそんな賦活ふかつ薬効まではなかった。


 だるい、だるい、昼夜逆転、やってしまったかも。でもこれは自分のせいではない。この体のこの脳なら、前と同じようなことにはならないはず。辛すぎるを言い訳に、ざわつく昼は☓んだように眠りに沈み、夜の静寂しじまに息を吹き返す、そんな失意の日々の繰り返し。それは前に置いてきたはず。


 馭者を務めていた士官が目を閉じて仮眠するのにならい、左右にも振られる狭い座席、その見かけに反して小柄でもやわでないからだによりかかることになるが、僕も目を閉じる。すっと意識が飛ぶ。


 小一時間もたたず小突かれて目が覚めると群青の輝線がはいる士官の服を突きつけられた。揺れる車上で目の前で着替えろということだろう。先任ベテランの魔法者女士官の責めに受けの新人士官にゅーぴーの僕、といったところか。


 しょうがないし、着っぱなしで着替えたいと思っていたところだし、兵の服を脱いだところで、萎えたままの尻尾をじろじろ見られて手づかみされたが、気にしない、気にしない。


 鼻に近づけ、ふんっと鼻を鳴らされたが、僕の尻尾臭いのかな、風呂に入れてないので臭うかもと身を引きそうになったところでいきなり、血が滲むくらいガブッとやられた。痛みを感じないが思わず涙目の僕。


 いじめか、これはいじめか。


 何か僕、にらまれるようなことしたのか・・・よりかかって寝落ちしたのがまずかったのか。


 さすがにやり過ぎたと思ったのだろう、顔を赤く火照ほてらせてそっぽを向かれる。


 でもハアハア息荒いし、サドか、これはサドか。


 僕はべとつくものがつけられた尻尾を取り戻し、着替えた服の尻尾袋に押し込む。


 強制でも兵から上に近くなる士官に採り立てられたとわかったのは上々だけど、領主も副官も僕らを見てニヤニヤしている。


 なんだ何だ、この連中、わけわかんないし。

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