44 障害不具合ぶっ飛ばせ 残12日
怖い、数えるのが怖い、でも数えるまでもない。車列の5台に残る姿は4人のみ、たしか14、5人いたはず。だが、数えるまでもなく、残る介助者は4人だけだった。あとのものは・・・あの恐ろしいあれの正体はなんなのだろう、謎の闇にわけわからず隧道で浚われた、闇の中に実存が解けて、闇に融け消えていた。
僕が救えたのはひとりのみ。
動揺、こみ上げる、動揺、抑えきれない、動揺、震えがくる。
僕が救えたのはひとりのみ。
朝の光が石のようだ、白々しく白い墓石にさす硬い光のようだ。
ひとり、救えた女性の介助者ひとりが、ニワカを支えて近くの草陰につれて行く。
何事もなかったような光景。
なんだ、これは。
動揺、こみ上げる、動揺、抑えきれない、動揺、震えがくる。
介助者、介助者は、介助者とはなんだ、同じ尻尾人だろ、なんでみな平気に、こんなことになっても、そう平気にしていられるんだ。
あの隧道はなんなんだ、尻尾人らは固まった・・・停止していたみたいだったようだけど、みな襲われていたじゃないか。
なぜだ、なぜだ、なぜだ・・・襲われ、介助者の犠牲者が何人も出たというのに、しらんぷり。
だから確かめる、介助者たちのことだけでも、もしやと推測を確かめる。
介助者をひとり拘束し、偶然をよそおい、歩く隊長の経路の先に立つ。
隊長がなんだお前という目で、僕だけをみて、僕だけをみて、僕だけをみて認めて、介助者のいる分も身をかわして、通り過ぎていく。
確かめた事実は残酷だ、見えていても、見えざるものたち、普通の尻尾人には不可視の民・・・
見えていても、同じ人として見ていない、背景の構成物。どうしてこんな残酷な不条理が成立している。
僕が知る違いは、自他の境界が緩いだけの違い、まさかそれだけで人にあらずの差別がなされるのか。隧道で解けていくのか、ここでは、なんで、なんでそうなんだ。
なすすべを思いつけなかった僕。
介助者の拘束を緩めて、帰ってきたニワカのもとに戻る僕を見つめる傍観者の視線。
その目は語っていた、
”もしかして、見えるのか”
そう語っていた。
そうか主計なら、見えないとしてもわかっていてもおかしくない。
不可視、不認知の助けのものの取り分手配も、業務のうちのはずだから。
言葉が通じないのが、これほどもどかしい、苦しいと感じたことはなかった。
ニワカのそばでたたずむ介助者をみる。その容貌、女性のもの、生気抜けた目、僕を見ない眼差し。
僕が助けたことも覚えていないか、理解していない、わかっていないふうだ。
なぜ、僕のことはだめなんだ。僕はなんちゃって尻尾人、尻尾が麻痺して動かない、その尻尾のせいか? わからない。
どこか容貌がニワカに似ている。
ニワカに執着している。
ニワカにかまううち、似てきた?
それとも遺伝的な類似性?
似たところがあるような、あっても偶然似ただけだろうか、でも可能性はある。
もしかして、自他の境界がゆるい尻尾人のなれの果てが、まさか、介助者とか、まさか、まさか、なぜ、そんな可能性がありうる。どんなことでそうなる可能性がありうる。
介助者たちがカースト的被差別民層ではない可能性。
仮説だ。あくまで与太な仮説だが、なぜ、僕はそれを思いつく、思いついた。
何が僕に思いつかせた。
ニワカを介助することを好むようだからか、ニワカと血縁あり?
だが、ニワカは介助されながら、介助者の存在も、そして受けている助けにも、気がついていない、気がつけていない。
この尻尾人集団の社会的病、重篤な病、でもあの不時着船の乗員たちも今考えて見れば、同じだったような気がする。
いかれている、そうならいかれている、尻尾人社会、絶対におかしい。カースト制なくても絶対おかしい。
介助者は僕を無視するが、僕のすることは拒まない。
僕が介助者の補助者に立つのも拒まれまい。
僕のする偽善が通用するかどうか。
僕は僕の偽善をしないではいられないからがためから、はじめよう。
謎の隧道通過で、昨日の午後がいきなり今朝に通じていたが、腹の減り具合は朝飯前のそれだ。
それがわかってての昨日の早い夕食だったのだろう、恐ろしい隧道だが、通ったことがある可能性が高い。
それでどこに向かっているかが問題だが、今は、それを知るより優先することがある。
朝の配食の盆に、二人分載せられたところで、指3本をたてる。配食を指揮する主計の目を見ながらもう一人分の追加を要求する。
いっしゅん、逡巡される、その緊張、そして僕の要求はとおった。
不可視、不認知の助けの取り分の差配も、主計の業務のうちのはずだから。その推測はあたったとわかった。
主計の視線を背中に浴びながら、座り込むニワカのところに戻る。
僕はニワカの前に配膳の盆を置き、されるがままの介助者の彼女を、僕ら3人で車座になるように、腰を下ろさせる。
ニワカが食べ始める。僕も食べ始める。だけど介助の彼女は食べ始めない。
僕は雑穀乾パンを蒸してもどしらしいそのひとつを、介助の彼女の手に持たせる、そして彼女の口元によせる食事介助を実行する。
ニワカは僕のしていることに気がつかない、気がついていない、気がつけない。
だけど、不自然だろ、いくら何でも、目の前でパンが一つ食べられていくのだから。
そういう、不可視、不認知への圧迫ストレス・・・。
ニワカの食べる口がとまらない、とまらないけど、ニワカの目がうるんでいる、まぶたにしきりに手をやる仕草は食事が終わるまでつづいた。
試みは僕の試みは足りなかったが、全くムダではなかった。不可視、不認知でも感じさせるところはあったようだ。
向こうで主計の顔がこちらを向いていた、口をへの字にして、僕らは見られていた。
簡単な事でどうにかなるようなら、とっくにどうにかしてるぞと、気のせいだろうが、もしかしたらそんな感じで、見られていた。
そのとおりなのかもしれない。
それでもつかみ所もやりようもあるだろう。
この世界の命運よりは。
起きてしまったと知らされた3連星の爆発的融合・・・超新星化・・・
迫りくる☓の激光、超衝撃波拡散・・・
不穏当極まりないこれは、超越者、神?の告知、否定の余地なし。
最大規模の超新星爆発がもし数百光年以内におこれば、地球の生物は一掃されるとよんだことがある。不運をきわめてガンマ線バーストの射線上にあれば地球そのものも蒸発しうるとよんだこともある。神ならぬ天文物理学者の解説だけど、それを告知とあわせれば・・・
僕は、代理の代理のそのまた候補、という告知とあわせれば・・・
ああ、そうか、終わる世界の見届け役。
やっぱり、僕なんていないでかまわない存在だから。
そう、見届けが仕事の代理人。それも代理の代理の候補って泡沫。
ぐちゃぐちゃで落ちて行く気分。
はあ、せっかく、せっかく、僕のための奇跡の世界で蘇ったと思ったのに、とんだ勘違いさせられた。
はあ・・・最悪。
不思議な力で障害のない脳で、自在な僕の夢を見させられて、それが残りわからない期限があってとは、ひどい、ひどすぎる、ブラックすぎる。
でも、だが、それでも、気落ちしないよ、僕、僕は、もう僕だけのための僕ではないんだ。
ニワカと介助の彼女もほろぶとしたら、手をこまねいたままではいられない。
偽善かもしれない、やはり偽善でもだろう。そんなやれることにしないでいて、やっぱりいなくてよい僕に、どう耐えろというの。
僕は消さない、消さない、儚い夢でも、ニワカと介助者の彼女がともに歩むことを、せめてそれがかなえられれば、僕の偽りのいまひとたびの生は短くてもほんものになれる、なぜかそんな気がする。
尻尾以外、ごくごく人似の体っぽいし、気にならない娘とも出会えて、リア充で人生やり直せる奇跡の世界だと思ったのになあ、あきらめよう、無双の未練もさよなら。
谷川の流れの絶えない音のなかにも、聞こえてくるどこか聞き覚えのあるかすかな遠い轟音。それで中断する決別の思考。
トップが副官が隊長が主計の人が、ほかの尻尾人もみなが空を仰ぎ目でおっている。
僕も見上げれば、昨日きた方向よりはるか高空へのびて行く細い白い雲、その先頭、かすか橙色の点がみえる飛行体。
離陸した不時着船に違いない、その引く白い飛行雲の行く手に明日か明後日がある。
それを追うがごとく、今日の車列の運行が始まる、慌ただしく。
残りの時間はどれほどあるのだろう、行く先よりもなによりも最優先でまず知りたい。
今も山間のここから見える空に太陽は一つ、3連星ではない。この体になって昼間は3日と立っていないがどの方角にも衝突切迫のやばすぎる光球をみた記憶はないし、仮にもし光輝く降着円盤を持たない見えないブラックホールと太陽でおきてしまったという過去形なら、とっくに無事でなくなっている時間を過ぎている。
いったい3連星はどこ、超新星爆発はいったいどこで、その致命的な破滅の光と衝撃波はどこまで迫っているのだろう。
昨夜の、いや違う一昨日になってしまった記憶の空の夜景に、心当たりがないわけではない。
宵の空の天頂、赤い赤いひときわ赤い星、火星が全く比較にならない深紅で、金星も比較にならない燦然と輝く、全天全天下を睥睨する、いっとうの大綺羅星、これ見よがしに輝く紅玉。
あれが実は3連星で、衝突寸前の近さで一つの強い星の輝きに見えていたのだとしたら・・・その可能性が高い、いや直感が断定している。あの星までの近さはどれほどのものだろう。
どうも一光年も許されてなさそう。それどころかずっととても近い気がする。
仮に一光年でも超新星爆発なら致命的に近すぎる、まず助からない、この惑星世界は助からない。その終末を僕という使い捨ての代理の五感を通して観察しようというのか。
痛みより速いのだけが救い、僕もみなもあとかたなく一瞬で跡形も残らず無くなる、文字通りの無残、この上ない最後をとげる。
ああ、また別世界で蘇るとか、ないだろうか。二人と一緒には、ないだろうか。
僕という実例がある。可能性はゼロではない。
そのためには、僕が代理の代理の候補とやらの役にのぞまれる以上に、勤めを頑張り上げれば、願いがかなう・・・と思いたいが・・・そんな都合の良い流れにもっていけるだろうか。
・・・そもそも、何をもって頑張れるというのだろう。
僕が何をしたら、評価の鐘を鳴らせるのだろう。
特別になにもせず五感供与でその時をまつ。それではぜんぜん頑張ってない。
その逆、なにもせずの反対で、行動する、それがドラマチックであるほど、評価の鐘が鳴り響くのではないだろうか。
退屈の反対で行こう、例えそれが見当外れでも、少しは評価に近づける気がする。
僕に不思議な力が与えられたことからして、滅びに逆らえない世界に一抹でも対抗の波風を起こせたら、それがのぞまれることプラスおおいなるアルファではないだろうか。
その延長線上に究極の可能性がある。僕が、僕がですよ、この僕がなんと救世主に大化けするって言うハチャメチャ行きシナリオ。不思議な力を重ね掛けしつづければ・・・とどくかもしれない限界、大それた極限。
でも敵は超新星爆発、光が満ちるのに何百年もかかる広大な宙域を焼き尽くす死の放射線の光球。万余の奇跡をかき集めて対抗するとしても時間がなさ過ぎる。
意思の疎通があっても、そう言うのは年余の企画、どんなに短くても何ヶ月の仕事。必要なその期間をどう圧縮せよと、無理筋。
なら、
”代理の代理の候補にそこまでは期待してないし、やらかしうざいし、後始末めんどーなのもなしで。生まれついての障害脳で傷心ものの小心もちが正真ものに生まれ変わる範囲で頑張ればの、それなりイージーモードで”
そういうのり、もしかして、そういうのりでも、いいのだろうか?
夢の様な今、さらに、超新星爆発に巻き込まれるなんて、なんと非現実的な事態だろう。そのせいか不思議とあせりは感じない。不思議については僕の不思議な力だけで満腹して、あきらめきれないくせに、その力を使いあぐねている。
ニワカと介助者たちが僕の力の見え見えに、ネガティブっぽい反応を見せたことも忘れてはならない。なぜだろう、そして、そんな力をどう尻尾人達の前でふるえあばよいのだろう。
ところで尻尾人達はこの世界が終わることを知っているのだろうか。星の大爆発についての知識があるだろうか。
装備の槍には驚くしかないが、ほかに高度な知識とか技術をうかがわせるものといえば・・・プレートかな、主計とか隊長さんとか副官とか首からぶら下げている。
あれ、情報処理端末に相当する品かなんかではないかと思うけど、そうなら天文学の知識もある程度ありそうな。空を飛ぶ船があるくらいだから、あってもおかしくない。
おかしくないけど、天文の宇宙の知識は必ずしも必要じゃないから。地球でも宇宙とか超新星爆発とかのことが知られる前から飛行機が飛んでいたし・・・
やはり言葉が通じないのが一番の問題だ。僕ら下っ端には筆記のペンもノートもないのに、どうしたものか。
考えあぐねに捕らわれる。ぐるぐる、考えが廻る、考えが止まる。
障害の過去から持ち越しの悪い癖が出てしまう。それは、狭い谷間から空が開けた少し大きな湖の畔に出るまで続いた。
初めて見る、この世界の村。
川沿いに広がる畑作地、波打ち際までのつづく木の柵、電線もアンテナの類いもない、レトロな苫葺き屋根、古い白黒写真に見るような背の低い簡素な木造の小屋の寄り集まり十数軒、怖がるふうもなく、獣車の列に目をみはる小さな尻尾の子供達の横ならび、可愛い。それだけで寂れたふうでもこの小村の地の治安が悪くないことが見てとれる。
集落のたぶん長を交えて、車列真ん中の装甲獣車で話合いがはじまった。
なんの話し合いだか、言葉がわからないなりにシリアスな雰囲気。長の尻尾がぷるぷる震えている。
尻尾ってもしかして意思疎通に大切?
だとすると、僕の萎えた尻尾は尻尾人社会では大きなハンディかも。
ハードルの高さに溜息をつくと、
すぐに”どうしたの”ってニワカがいう、そんな意味のフレーズを言う。
僕とニワカの親密が確実に進展してきている。
僕になる前のこの体の人と具体的な関係だった疑いは、補強されるばかりだ。
どんな関係、血のつながりとか・・・、ええと、うらやまな大人のお付き合いとか。
僕、あと少しで魔法使いになれた記憶はあるけど、この世界にきて知らぬ間に資格喪失していたら、どんだけ僕、可哀相なんだ、そして魔法使いになれていないのに不思議な力がある皮肉。
そんな魔法的でない不思議な力があるくらいなら、言葉がわかる親切仕様にしてくれてもよかったのに・・・
・・・ニワカがしゃべっているフレーズの意味がわかる精度があがってきています、が、それを待っていては、さすがに時間切れでしょうか、神様、超越者様。
・・・降って湧いたような閃き。
ニワカを通訳者に見なせば、同行するニワカを観測する形にすれば、どうだろう。第三者達の会話の内容が多少なりともわかるようになるのではないか。
そしてこちらからの言葉もそういう不思議でなんとかならないか。
という天啓?これはもう天啓だよね。急遽補完の、後出し天啓でも、そうなら有り難い、実行するしかないっしょ。
いやあ、両手に花、こんなところで実現できるなんて、僕が女子を両手に花だなんて、夢の様、いや夢じゃなかった。
そんなわけでニワカに肩を貸し、保護することに決めたカイジョ(またも安易ネーミング笑ってくれ)の手を引いて、話合いの回りに集まってきた集落の人々に交じることにした。
人々の前に割り込むには、カイジョを自然とよけるように動いてくれるのを使わない手はなかった。どんだけ、禁忌的、深い業か知らないがそれを逆手にとってのささやかな意趣返しならぬ皮肉返しだ。
あっけない。
なんとあっけない。
ニワカがそばにいてくれるだけで、ところどころ、他人のしゃべるフレーズがわかる。気がするではなくて、わかる。いつの間にか、少しはわかるようになっているではないか。
GJですニワカ、君がずっとそばにいて寝食を共にしてくれていたおかげです。
観察対象の僕に干渉ないよう突き放していても、僕の頑張りに応じる情けもある証拠でもあって欲しいです。
・・・あか・・・ほし・・・てn・・・ひ・・・ひなn・・・どうこ・・・よ
・・・・nな・・・きゅうに・・・・・ても
天啓的手法に重ねて、さらに超訳的に聞き取ると、
「あかい星から天の火あるから、避難に同行せよ」
「そんな、急にいわれましても」
あれっ、全くわかるし、全くそれで充分だし・・・
いちいちフレーズ単位で意味を探っていたのがぱかぱかしくなった。もう、いっきに天啓超訳の自動実行、マイブーム天啓超訳でゴー。
外国語会話とか急にわかるようにことがあるらしいが、そんな感じでニワカ同行限定現地語スキルをいきなり与えられたみたいな。
そして、いきなり、いきなりな事態を把握するはめになった。
「きさま、きさまだ、きさま。
きさま、ひどい尻尾萎えが、よくぞ今まで消え去らずにおれたな」
えっええ~
「副官さま、えへへ、わたしの尾かげです、あげませんよ」




