42 やらかしのリインカネーション2日目
・・・・・・
・・・・・・よし・・・
よしよし・・・・・・夜通し眠れて・・・熟睡できている・・・
・・・おきてからしばし寝ぼけていられるほど、熟睡できている・・・
・・・感動的、なんて感動的な熟睡だろう。
日の出 寸前の目覚め。
白々(じら)というにはすでに明るい、東の稜線の向こうから黄色い光が透過していく青空。薔薇色の雲が浮かんでいる。
夜のとばりのなごり、濃い群青が天幕の反対側に見えている空の果てに引いている。
前の僕なら願うに違いない、前の僕のいないきっと素晴らしい朝だ、きっと素晴らしい一日の始まりだ。
なんて素敵で素晴らしい、夢。素晴らしい朝の目覚めの夢なんだろう。
天幕だけの屋外は冷えるな、微睡みすら、しゃきっとするのはそのせいだろう・・・。
あれっ?
そして温もり、ひとり寝じゃない、同じ毛布にくるまるにわか連れの温もりが心地良い。
あれっ?
これ夢じゃない?!
同衾を強いる女子は、僕の苦手意識を蹂躙して、背合わせで今も尻尾を絡めている。
なんてこれは!
他にはなにも・・・なにもないが、女子との親密経験値加算が昨日スタートしてほどない僕は戸惑っている。
なんて贅沢な状況!
甘い考えだろうけど、にわか連れとの縁は一夜だけでおわるものとは考えたくない気分。
エロい期待・・・いや、それはない、アッシー使いの女子に捕まっているだけだ。
しょうもない甘々な勘違いをどうにかしないといいようにされるだけだ。
はは、夢じゃない、夢じゃないんだ。
夢の様でも夢じゃない。
そもそも言葉通じず名前も知らない相手になにを期待しているんだろう僕・・・ ・・・
とりあえずの暫定名をふろうか・・・ニワカと命名する、ニワカ・ストーカ、なんちゃって。
はっ。ははは、僕よ現実を認めよう、いや現実に僕が認められたのか。
それで、僕とニワカがいる武装集団はいったいなんだろう。
どこに向かっているのだろう。
そしてそれより、それより問題なのは昨日の戦闘だ。
どこを相手になぜ交戦、そしてそれはどんなふうに、見る限り、武器はさほど長くない槍に3門の車輪付きの小さな砲だけのようだ。それでどうやってあの空飛ぶらしい砲船に勝っている?砲船の船橋に大穴を開けている?
わからない。
何があれば、斜面の木々があれほどまでに、一面、裂かれなぎ倒される。
またそんな戦いがあるとしたら、怖い、それは怖い、切実にそこにある恐怖だ・・・
厄介な。それはもう厄介な、わからない、とにかくわからない、わからないがいっぱいだ。。
ニワカのこともわからない。
なぜ僕を毛布にひっぱり込む。
介助者たちもいるだろうに、なんでそんなに僕をアッシーにする。
言葉がわからない、言葉が通じないからわからない。
言葉と言えば、介助者たちは無言。
あれはいったいどう言う存在だろう。
むっ、介助者のひとりがこちらによってくる。
昨日と同じ、女の介助者・・・が、もぞもぞしはじめたニワカを助け起こして肩をかす。どこかに連れて行く。用足しだなあれは、帰ってきたら僕も行こう。
こうして僕の新しい現実で迎える初めての朝は、スミレ色の小花を髪に飾りかわいらしげなニワカを連れに、はじまる。
”完”
・・・ ・・・
・・・ ・・・
目を閉じる、目を閉じて深呼吸する、目を開ける。
また目を閉じる、目を閉じてもう一回深呼吸する、目を開ける。
両の頬を両の手でパンとはたく。
終わってない。
現実か。夢落ちでなく、現実だ、これは現実。よろしい、これは現実。
ならあの不思議、不思議の力は、不思議の力も現実か。
ニワカのさらっとする後ろ髪をひとすじ、そっと持ち上げてみる。
えっなにというふうに、後ろをふり向くニワカ。
すぐに僕のちょっかいと気づいたようで、もうっという感じ、ダメでしょという感じだろうか、にらまれる。
「ごめんなさい」というと、何か驚かれる。
そういえば、僕この尻尾のからだで声だしたの初めてだ。
意味が通じているとは思えないけど、なんでか、にかっとする笑みを返される。
僕の自他の境界はその攻撃に抵抗できない。けれど、それが心地良い。
僕はニワカのことを受け入れよう。
僕のこころにニワカの進駐を受け入れる、そして、僕のこころにニワカとの接点が機能しはじめる。
なんとなくわかる、ニワカが考えていること、おぼろげに少しわかる、そんな気がするようになる、その初めては
”おなかすいたあ”
うん、僕もすいてるよ。
”のどかわいたあ”
うん僕も。
もしかして、水ならだせないか・・・
とりあえず手のひらカップに。
ええと空気を露点温度以下にできれば、空中の水蒸気が凝結をはじめるから、そんな感じで露を集めるように念じて・・・
うっ、冷たい、でも少し湿気るだけ。
よろしい、できそうだが、空中から足りるほど水分を絞り出すなら、そうとう、広範囲の大量の空気が必要だ。
そこまですれば、ニワカにきづかれるなこれは。
介助者の目もまた刺さってくるだろう、それまずい気がする。
なにか禁忌っぽい・・・謎。
それも謎なんだけど、謎、謎、謎まみれで、そして不思議は都合の良い謎。
バレない程度なら大丈夫、問題ないか。
大丈夫、ほかにも試行してみよう。
今や僕の意識が晴れ上がっている。決して降り止むことのない豪雨の騒音のごとき雑念の邪魔がなくて、いろんな想念が自由に羽ばたいてくる。
僕のこころをあそこに見える場所に押し出してみよう。
おお、僕が見える、倒れてるな。
ニワカがあわててる。真っ青になってあわててる。
僕は生き霊か、よしっ、じゃない、戻ろう。
僕に抱きつくニワカの目から大粒の涙がぽろり。
反省。
慎重さがたりない、浮かれるのはダメ、僕、反省、反省。猛反省。
僕は女子の涙に勝てない。勉強になる。
朝食の配給の列にニワカを助けながら並ぶ。
尻尾は現状ただの飾りだが、このからだの頭脳は優秀だ、記憶に混乱がない、記憶のマップはずいぶんと精緻。だから、並びながらこの尻尾人集団の構成について整理するなど、まさに今がふさわしい。
僕とニワカはこの集団の底辺、その他大勢。トップとその直近に合わせ4人いて、介助者たちが最底辺だ。
態度と身なりでわかるトップはごま塩頭の渋中年。権力者っているよね、でも地位を振り回さず、地位に奉仕するタイプらしい。昨夕と同じく今朝も僕らと同じ鍋仲間だから、たぶんそう、な感じ。
側近の副官らしいのは、いかにもできそうなリアル臭ぷんぷん、でもどこかやさぐれ感ある30半ばの男とお堅い感じの同じくらいの歳の中性的美女。この二人は夫婦もしくは内縁関係とみた。そして二人と親子関係っぽく振るまう、10歳くらいにしても小柄な少女、この子は奇跡、究極の美ましましの奇跡の結晶。
この少女が何気でなくすごい、トップからしてでれでれだ。けしからん、けしからんことに幼げ残る少女が率先してトップを誑し込んでいる。今朝もたったったとごま塩トップにかけよると、ちゅっと唇を合わせおる。人目はばかってないし、正統派清純、類い希なる超絶美少女容姿して実は隠れやり〇んの肉食か。これだから、女子はお子様と言ってもあなどれん。これも勉強になる。
それにしても推定、両親の目の前で、ちゅっが無問題とはこの世界の倫理観はいったいどうなっているの。
お巡りさんいなさそう、思わずもげろと念じそうになりかけるも、念のため、念のため、あそこに見える木の枝先を念じてみれば生木がバキッだから、思いとどまりの僕の慎重さんに感謝して欲しい。
その他に実務を回しているキーパーソンが2人いて、配食の指揮をとる主計っぽい人と、僕ら下っ端の隊長の人、中間管理職、ご苦労様です。
そして介助者たち。最底辺なのはわかるが、その扱いが理解不能。
空気、空気みたいな扱い。直接いたぶるとか、そんなのは今のところ、見受けられない。けどね、不可触ではないけどね、無視されている。無言だし、無表情だし、痩せてやつれて、大丈夫じゃなさそう・・・存在うすくね。
戦傷の後遺症で雑務を免れているのは僕とニワカを含めて平の兵士?ばかり、多いようで9人。5人墓標の下で、現在の戦力となるのは隊長殿含め17人。
うろ覚えでは半分近く死傷は壊滅というに近いはずなのだけど、このざまで向こうに見えている船が投降してくるって、ご都合主義の物語じゃあるまいしどういうことだろう。
それとも、ご都合主義がまかり通る世界、僕の不思議含めて、どこか、どこか、どこかでなくておかしい・・・それを追求するのは禁足事項ですのリアル音声が聞こえたらと思うと怖い。これが現実じゃないのが怖い。せっかく、僕が僕であられるのに、嘘事の夢はせつに勘弁してほしい。
まっ、まあ、それはなさそうだ。
ほら、目の前の世界は精彩でリアルに満ちて光輝いている。
順番がきてしゃがむニワカがしゃにむに立とうとしている。
首筋から背中にながれる長いストレートな髪、
その輪郭を輝かせる金色の朝日、澄んだ逆光、
懸命にバランスをとろうと、両の腕をひろげている。
倒れそうになる、すぐ後ろから細い腰をささえる僕。
振り向いて、にかっとくれる笑み。ずるい、すぎる笑み。
ああ、僕は胸いっぱい、心臓どきどき、このまま、きみを抱きしめていいですかニワカ。
なのに、”くう”と僕の空き腹はなる、リアルに、”くう”とニワカの空き腹もなる。
わかる、配食の側の主計っぽい人の、朝っぱらから何やってるんだおまえらの眼差しがわかる、わかるだけに痛い。僕にご都合主義、満艦飾な世界でなくて残念・・・
美女副官と超絶美少女は例の派手な橙色塗装ハイテク車が今や組み合わさろうと後背から絶賛合体中なのが一目瞭然の船のほうに用があるらしく、ここで眼福母子と別れる。
投降者たちが介助者含め30人以上もいるというのに、こちらは無傷の槍持ちがわずか4人だけで本当に大丈夫か。無力な下っ端の僕が心配しても仕方がないけれど。
湖沼高原の終わりは鬱蒼として下生えがむしろ疎でも見通しがさほどきかない深山の苔むす急斜面。そこの綴れ折り道を総勢40人少々で獣車5台に分乗して下って行く。
槍といえば僕もニワカも今日は持たせられる。いざとなれば乗る荷台から突き出せ、それで自衛くらいはしろということだ。僕に槍の心得があるはずもないが、気安めでも大歓迎、あるとないとでは大違いだ。
槍の丈は1メートル80センチくらいとあまり長くはない、そのうち先30センチ少々が楔型の分厚い刃をなし、柄との境がない、重量は見た目より軽く5キロもなさそうだが、重心は刃元あたりより先にある。刃先の方が黒ずんでいる謎の素材の謎の一体構造。
持つ感じ、チタンのお高い箸ではないけれどキズ無縁のそんな硬さ。鈍い銀色の表面をよくみると微細な黒点がこれぞびまん性とばかりに広がっている。巧みの品という感じはない。みため、さほど威力があるとは思えないが、サビと汚れには強そう、お手入れ簡単な実用品だ。
砲があるくらいだから、槍でなくて銃装備もありそうなものだが、砲身と砲架と車輪にばらされの3門の小さい砲以外に、武器らしいものは見当たらない。
もしかして、あれか。砲撃がおわったら、短い槍を手にうぉーとか大声で叫びつづけ、こころを空にして一斉に突撃・・・・・・全く冗談じゃない。僕もニワカも☓んでしまうじゃないか。
現に大怪我をしているし、やっぱり、僕の不思議の力は必要だ。絶対いる。なんとかするのにいる、絶対いる、絶対にだ。
ニワカだけでなく荷台から見るあたりの景色もにわかに気になりはじめる。
下生えは少なくても林立する幹、幹、幹の重なりで、すぐ近くまで☓角だらけだ。
僕がこころをあちこちに押し出して☓角をカバーすれば、ふいを襲われることはなくなるはずだが、荷台にならんで乗るニワカに気づかれないはずはない。
不安の目の前、とおり過ぎて行く☓角、☓角、☓角。緊張が途切れない。☓角の隠蔽が、場を支配している。わからない、見えない、読めない、わからない、見えない、読めない世界、これではこれではまた僕は僕は僕はまた前と前と前とまたまたなんらなんら変わら変わら・・・・・・
槍の柄を握り締める僕の手に、ふわり、柔らかい温かいものが重なる。ひどく掴んで強ばる僕の手、それを優しく包む温かい、僕より小さな手・・・
顔がこちらを向いてなくても、ニワカのこころの声がわかる。
”だいじょうぶう”
ああ、ニワカ、きみっていう人は僕のことをよくわかっていらっしゃる。
悪夢のフラッシュバックから救ってくれる。本当に僕ごときにもったいないくらいの連れだ。
通じなくてもいい、「ありがとうごさいます」と声に出すと、ニワカの横顔が緩む。
そのニワカの横顔の視線がふいに緊張を孕む。いそがしく動く。
ニワカが何か、警告の言葉を発する、短く叫ぶ。切迫した声。
道の反対側を見ているものらもすぐそれに呼応する。
僕も周囲に視線をさ迷わせば、なんだろうベタ塗りのようにま黒い躍動する四つ脚が見え隠れしている。
獣車の速度に合わせついてきてる、いったいなにが何匹、いや何頭いるか、いつの間にか道の左右、木立の間に見え隠れしている。
ほかの獣車からも呼応する叫び。騒然として荷台から側方につき出される槍、槍、槍。
これは襲撃を受けているのか。
ふと陰る気配上方、見上げれば、頭上をおおう紅葉の天蓋からふってくる。
ふってくる、これが本命の攻撃、その先に・・・ニワカ!。
一瞬の判断、脚が不自由なニワカにかわせるはずがない。咄嗟にニワカに覆いかぶさり押し倒す。僕の背中が代わりだ。
僕の不思議、不思議な力、そらせ、僕からそらせ。僕らからそらせ、落ちてくる攻撃を荷台の外へそらせ。
力、物理的な力、作用と反作用、敵は外に僕らは内に。
すぐ目の前を真黒いものが荷台をかすめて外に落ちる。僕らは内に押しやられる。
それでも荷台のふちに外からとりつこうとする黒ベタの禍々(まが)しい大爪に、姿勢不自由だろうが間髪をいれず、やーっと槍先を突き立てるニワカ。
立ち直り、はや。ほんわかしても歴戦の槍兵。
だが、リスペクトすべきはそれではない。
ジュッだ、ジュッ。
煙、焼ける血肉の臭い。
なんだ、
なんなんだ、この槍は、
ただの量産の支給品ではないのか、
ほかのものにいたっては、つき出す槍先から火炎を吹かせたり、火炎の塊を飛ばしているものもいる。
怒号、獣のうなり、使役獣のいななき、混乱、悪態、阿鼻叫喚。
背中の痛みが遅れてやってくる、外に追いやり足らず、あの爪が僕の背中にとどき裂いてえぐっている。
背中から腰が生温くびしょ濡れて、尻尾まできっと血まみれだ。
狼狽える僕。
力がからだにはいらない、
弱る僕。僕を捕食にかかる襲い手。そうはさせじと守る、懸命に槍をふるうニワカ。僕の戦乙女。
だが多勢に無勢ではないか、このままでは二人とも・・・
どうすればいい、考えろ、考えろ。
なにか途轍もない脅威が姿をみせれば、襲撃側はひくはず。
あせりが思いつきに飛びつかせる。
そうだ、あれだ、夕べのあれ、あれだ、あれ。
ごう、ごう、ごうと、耳をふさぎ、腹の底まで震わす轟き。
戦いが凍る。
凍る戦いの場に上から、ばきばきばきと折れる音がきこえんばかり、梢という梢の枝と葉が激しく降ってくる。
あるものは発火して、あるものは焦げて、あるものは煙の尾をひき、深山の険しい下り道と濡れ苔と濡れ落ち葉のうえにも降りそそいでいる。
頭上、樹林の天蓋を後方から前方へと圧して行くものがある。
赤く黒い巨大な何かが、とんでもない放射面の熱が肌をひりつかせる何かが、
蛇腹?大蛇の? いやそんな生やさしいサイズではない。
延々と果てなく続く何かが、終わらない黒く赤い何かが、
ずるずる、ずるずる、どこまでも長じて行く。
ずるずる、ずるずる、
そしてついに、ついに終わる、ついに顕現する、並ぶ大剣の扇をひろげるごとく、空を漕ぐ巨大な炎の末尾が、ついにそのものの正体を告げる。
戦うみなが一様に呆然として、
一様に同じフレーズの悲鳴を、
止まっている息とともに吐き出す。
「((放火竜!))」
炎龍、それを意味するフレーズに違いない。
使役の獣らが、泡を吹いて白目をむき、失禁の汚物のなかに四脚くだけになる。
恐怖、恐慌が、襲撃の混乱を一蹴する。
僕も白熱ます背中の痛みに一蹴される、龍の一過で限界。
そして、龍の効きめは一過で充分。
黒ベタ獣どもは、一呼吸するまに林間の☓角のなかに退いて消えさる。




