表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遠神の帝国Ⅰ  作者: ペコ
31/60

31 ゾルの戦歌、トMワ潜行戦

 (わたし)古骨(ふるほね)は覚えている。


 その昔、口伝(くでん)もとうに絶えるほどの昔、大乱(たいらん)の時代があった。


 神々の争いが続いていた、その()て、数多(あまた)の神は支配する民に信者に(なんじ)の神のみを見よと()いた。


 (おのれ)を見ることができない民は、自分の非も悪も全て相手にかぶせた。小が勝算なく大を(あなど)り、そして攻め、大が応じて、大乱の時代があった。


 焚殿抗神(ふんでんこうしん)のやり合い。神という神がこの世の()(しろ)(うしな)放逐(ほうちく)され、忘れ去られ、擾乱(じょうらん)の海に消えていった。


 戦火の末、灰跡(はいあと)に残ったのは、いとと()とき共通言語(バベル)(つかさ)()を言い立てることのなかった普遍(ふへん)だけだった。


 そして今の時代、神殿はあるが、後代(こうだい)に帝都の皇宮内(こうぐうない)建立(こんりゅう)を許された遠神殿ひとつだけとなっている。



 目の前にその歴史に仕切りを入れるものがどんと鎮座(ちんざ)していた。


 異世界の神の依り代を、(こと)もあろうに自分を遠き神の代理人、使徒(しと)と仕立てられた被害者と思わないでもない私があずかることになった。


 このトMワの地に異世界の神の伏神殿(ふくしんでん)が許されるというのか、私がその祭司(さいし)(つと)めるのが遠き神意(しんい)なのか。今度は神二(ふたがみ)に使えよというのか。


 なんて破天荒(はてんこうな。



(おも)白いN0、()も白いN0』


 遠くのどこか彼方(かなた)幻聴(げんちょう)とも(つぶや)きとも判別つかない声がひょっとしたら聞こえた。


 人の(さが)(いとな)みに決して()いたわけではないが、若返りごとの痛みは尾に白くない層輪となってより閉じ(かさ)なり、(おも)く覚えていく久しいことか。


 ならばこそ天の未開の()れを破り、未踏に至れと、ひょっとしたらその(そそのか)しに聞こえた。


 これは亜神への(いざな)い?


 その階梯(かいてい)の界への仕切りの道祖(どうそ)が、天をさして(りっ)する目の前のそれというのか。


 私はこのトMワの礎石を使いこなして見せよと、またもやいじられてるのだろうが。


 まどろこしかろうとも、躊躇(ちゅうちょ)するまでも無かった。


 こき使い回されのブラックからの解脱(げだつ)に通ずるのなら、(さかい)の魔女足る誰ぞ迷う。それを面白尾白と(はや)したてるなら、こちらもそのお相伴(おしょうばん)にあずからせてもらおう。


(いただ)きます」






 古骨はそう言うとふわっと礎石に抱きつき、唇を寄せちろりを舌をのぞかせて、その硬質を()めあげ始めた。


「貴女ねえ、ご神体に何てことしてくれてるのよ」


「あたしを礎石の守りに任じたのなら、にわかは黙っていてくれるかな、見て(おぼ)えるのはかまわないよ」


 にわか扱い、若いって言われるの、いやじゃないけどぽっと出と(あなど)られるのはいや。


 言い返すかどうか(わたくし)逡巡(しゅんじゅん)しているまにも、豊穣(ほうじょう)を願うに相応(ふさわ)しい巨大な張り型を、両の手指に限らず尾でもしなやかに撫で回す。


 過激だ、kミエにまして過激だ。


 いつのまにやら、尾から牝焼(めすや)けの色が抜けて、(うい)々しい白に桃色の乙女色(おとめしょく)になっているし、見守るこちらの方が(たま)まれなくなってくる。ん~交ざりたい。



 その気分を(しず)めるは、魔女の私。


 抱きつくことで礎石の(くろっっく)と心拍を合わせ、触れて舐めて匂いをかいで、魔方石の魔力構成を感じる、これはrウが気喪(きそう)の大尉相手にしている手管(てくだ)と、基本は同じなのに、古骨の所作(しょさ)のなんと洗練されて無駄なく、大胆で(なま)めかしく、素晴(すば)らしいの。


「さっきはrウのことはわかっててからかったのね」 


 ゾルの群体の蹂躙(じゅうりんを避けがたいこの状況でも余裕をかますとは、魔女の中でも(さい)たる古強者(ふるつわもの)らしいのはわかったけれど、まかせて大丈夫なのかしら、本当に思わぬ援軍でいてくれるのかしら、遊ばれているだけじゃないよね。。



 やがて古骨は礎石から離れると、乱れた旅装の胸元(むなもと)裾周(すそまわ)りを直し、


「状況を把握し、マーキングもすませた、あたし預かりとなった礎石の守りが、役務(えきむ)の象徴ではないことをみせよう」と言った。


「古骨は魔犬なの」


「あんた達の神にも仕えてあげるんだ、神(God)の犬(Dog)なら上等さ、同じ神の牝犬(めすいぬ)同士、うまくやろうじゃないか。案内しな」



 主導権を奪われるのは(しゃく)なはずなのに、勝てる気がしなかった。


 格が違うとわかった相手に、尻尾が()いてくるのを、或いは振ろうとするのを、抑えるのがやっとだった。


「どこに行けばいいの」


「決まっている、あんた達とあたしの楽園の敵にご挨拶できるところさ」



 領主館の塔屋(とうおく)の最上階からの景色は、昼間のはずなのに月無(つきな)しの深夜未明のように暗かった。


 猛煙の天蓋からは青空が駆逐され、舞う膨大な火の塵灰の塵がトMワに降り積もろうとしては、古骨の結界に弾き飛ばされていた。


 炎竜の赤や橙色の大火旋(だいかせん)が外壁のすぐ外側、それも全方向からトMワの内域を熱線で照らし出していた。


 ゾルの群体は火を噴きながら防塞壁のすぐ外側まで押し寄せていた。


 ゴウゴウと大風(おおかぜ)大火(たいか)の体の奥底まで震わす轟音がゾルの戦歌だった。


 その(きわ)では会話は用をなさず、尾の阿吽頼(あうんたよ)りに領民総出(りょうみんそうで)で壁の冷却に追われていた。


「火の迎撃もそこまで寄せられると、今のガラス処理では溶かされてしまうわね、玻璃(はり)ガラス化を徹底すれば度900まではもつから、冷却も少しは楽になる。あんたの処理に上書きしていいかい」


「お願いするわ、お願いします、私も炎竜Sを退()かせるから」






「なんで、退かないの、なんで、竜らを退かせたのに火勢(かせい)が退かないのよ」


「そりゃあれさ、ゾルに取り込まれたぶんの炎竜Sまでは、あんたに従いはしないでしょうに」


 ゾルが外壁全周に押し寄せていた。(ひょう)に無数の火の穴を噴き、その身を焼き焦がしながらゾルのうねりがガラスの外壁に打ち寄せ、はい上がろうとしてはずり退いていた。


 回旋する煙竜Sがその炎を吸い取ろうと顎口(がくこう)でするどく食らい付くが追い着くものではなかった。


 逆に、炎を白く蒼く透き通らせ、ごうとばかり吹き出しを強めて煙竜を焼こうとまでする。


 ゾルの捨て身の戦術の火禍(ひか)が黒煙の黒ひといろのはずの天蓋をほの赤く染めて、その熱線のわずかばかりがトMワにふりそそぐ光の全てだった。


 その闇寸前の地獄の中で、冷却にあたっている領民が(あえ)いでいた。炎竜の咆哮(ほうこう)が絶えたぶん、方四方八のあちらこちらから上がる悲鳴が細く聞こえていた。


「ん、ここらが限界か」


「限界ってそんな」


 おぼろげな光の下でも領主の(あせ)りの色はうかがえた。


「任せたのだろう、あたしに、なら任せな」


「どうするの」


「あたしは(さかい)の魔女、突破者(とっぱしゃ)じゃねの自覚くらいはあるさ。その本領(ほんりょう)のかけらくらいは披露(ひろう)しようじゃないか」


 捲いていた尻尾がほどけて振れてくるのを抑えきれないでいる、このツンデレ()。私のお気に入りに登録ナウだ。


覚悟(かくご)はいいかい」


「何の覚悟?」


「あの坊やからあんたの姉魔女だかの(げき)を伝え聞いただろ、ここを帝国から切り離す」


「どうするの」


「こうするのさ、嬢ちゃん」


 私は礎石を基点に開始した。


「トMワ礎石、発進!、蹂躙(じゅうりん)せよ、なぎ払え、なんちゃって、あははははっ」


 年100ぶりだろうか、小なるとも遠慮無しの魔力の放出、すごい快感、開放感。


「きもっち、いい、あははははっ」


 邪魔であろうがなかろうが情状(じょうじょう)なんて酌量(しゃくりょう)はしない。


 徹底して実行あるのみ。


「生きる古骨に()きものはむしろ常識、むしろ名物。あははははっ」


 幾多(いくた)任務尾生(にんむびせい)のたびに幾多の人格が涵養(かんよう)され、今の私は彼女達の残香(ざんか)の抑えが効かない。魔女領主が私を(おそ)れ恐怖する尾感さえ心地良い。


 救援要請(たすけてー)の魔女領主につけいる(すき)は私が戴いた。


 そうする策謀(さくぼう)托卵(たくらん)でいないはずはない地底の連中は、(おく)りものの降臨(こうりん)にさぞや(あわ)てふためくであろう。






 トMワの礎石、その巨大な魔法石の内部でなにかが(うごめ)いた。


 始め低い振動があった、それはすぐに可聴域の極低音をとなり、強さを増し、周期の数を増し、耳をつんざく高い強音をへて、可聴域を越えた。


 敏感なものはなおも強く耳をふさいで不快を訴えただろうが、万10の周波数を越す頃にはそれもなくなった。あるのは、灰の反射ひと色から、(きら)めく白光と深黒の闇のモザイクのオブジェに変じた魔法石だった。


 部屋の空気が帯電して、刺激的なイオンがピリピリとにおった。接する構成原子分子混合の結合力は弱体化され、置かれた床は液状化し、魔法石の物理的構成は(おのれ)質量子(ヒッグスボソン)を引かれて無音の沈降を始めた。


 あとの過程は(ほとん)どのところ純粋に惑星重力(グラビティ)の物理仕事だった。


 地下の構造物の天井が抜けて落下し、ズシンと床に激突し、その床に沈んで、さらに下の階の天井を抜ける、その繰り返しの過程で、さまざまな配管などを巻き込んで破断していく。水に汚水、蒸気、そして魔力線が噴き出して、混乱と追加被害の坩堝(るつぼ)が垂直に下方に伸びていく。


 そうして落ち行く礎石の軌道修正は微小。それも当然、それはもとより(ひそ)かに直下にあったのだから、礎石は、行く()ての空間座標の垂直軸上に、重心の軸上に配置されていたのだから。




 始めに侵入警報がするどく鳴った。すぐに警報に警報が重なる状態となり、壁面の大管制盤、そこの異常灯の点滅の拡大が止まらなくなった。


 上方の各所から次々悲鳴のような報告が殺到した。情報は錯綜し、それが対処が間に合ってないことを告げていた。


 侵入物の正体が、暴走する魔法石の落下と判明した時には上方に残された階層は少なかった。



「あれが(ごう)すれば増殖制御の限界を越えてしまう、密度と量で臨界域を超過してしまうぞ」


「緊急停止、急げ、すべての制御外筒のロックを解除し落とせ、急げ、担当規則の非常項事態だ、排出系全解放、安全弁もすべてだ、急げ。補完緊急放出系起動、手動弁も全てだ、巣全域に魔爆警報」


 管制員が矢継(やつ)(ばや)に出した指示は間に合わなかった。



 蒼い臨界の魔光が消えぬうちに、監視窓の目の前で、天井から吊り下がる制御系を押し落とし、それは落下してきた。


 次1吸収材の粗エリクシルのプールに飛沫(しぶき)()てず、吸い込まれるように突入した。


 細い魔石棒の密な林は礎石を中心に押し倒されていく、制御外筒にまだおさまらない、おさまりきれない魔石棒の露出部分が礎石の光と闇のモザイクに(おかさ)されて融合していく。


 瞬間、悪夢のような(まが)々しい形態の魔力泡の爆発が生まれ、瞬間、排出系は過負荷を越え、瞬間、すべての制御は意味を成さなくなった。次の瞬間は、爆散のはずだった。逃れようのない、大爆散で、何もかも手の施しようのないない最後(ビハインドモースト)になるはずだった。


「・・・なぜ、爆散しない、そこで止まる」


「見ろ、渦流(かりゅう)が、増殖炉に顕現の魔力泡に渦流が、集束して点1に吸い込まれているようだ」


「何が起こっている、何が」






「・・・変わった。蒼い光放射の(そら)?、低い奇妙な閉塞の空?、空に何が起こったの、何が」


「この塔屋(とうおく)の頂きがその(ふち)すれすれの、真球結界」


「真球結界?」


「そう、完全なる球の結界。(さかい)の魔女たるあたしの仕業(しわざ)だよ」


「範囲は」


「たいしたものじゃない、ほんの直径キロ2ばかし」


「大きい・・・径というなら中心点があるのでしょう、それはどこ」


「キロ1直下の魔力増殖炉、魔石から魔力を増殖してとり出すための炉、あれは土鉱の固有の魔法技術だと思う、それを流用(のっとら)させてもらった」


「初めて聞くわ、そんなもの」


「整地ずみの町用地の真ん中に使えとばかり巨大な魔法礎石が置かれてたのだろう。不審に思わなかったのかい」


「そんな余裕は当時はなかったし、土鉱の町、町っぽいのは初めから丘鉱山の向こう側にあった」


「それほど、あんた達は今もちょい昔もちょろ若い」


「その大きさだとゾルも取り込まれているはずだわ」


「結界で分断したので、今やただのアメーボイド、組織化されていない群れだわね」


「ねえ、古骨の魔女さま、(わたくし)はトMワの主座(しゅざ)を貴女さまに禅譲(ぜんじょう)した方がいい?」


「冗談じゃない、あたしはそんな面倒ごとを引き受けはしないよ。


 約束したのはここの守り、行きがかり上、大きな土台(どだい)ごとになっちまったがね。領民とそれに土鉱とも気ままによろしくやらせてもらうよ、領主殿」


「結界の外は」


「ゾルがあたしの無窮(むきゅう)の結界を丸呑み、取り込もうとうねる大海か山塊になっているだろうよ」


「いつになったら結界を解けると思う?」


「さあてね、帝国がゾルをそのままにしておくとも思えないが、とりあえず、年1後が目安(めやす)


「それまで持久が可能なのかしら、自身はないわ」


「なに心配はいらないさ、あそこにあたしらが生きていくための、水に肉もある、放っておいたら限りなく単性生殖(ひとりエッチ)するし」


「まさかそれってゾルのこと」


「ご名答(めいとう)、あたしらを喰らえるのなら、あたしらも喰えないはずはないだろう。


 とりあえず年1の間、トMワは結界球ごと、ゾルが地を穿(うが)ってできる肉海の奥底に大深度地下に自沈(じちん)させておこう。そこなら帝国の探査の手も届きにくく、何処(どこ)よりも安寧(あんねい)だ、いっそそこ、(そこ)で、建国したらどう」


「なにを考えているの」


「共和と土鉱の民が交じり合えば、普通に血が濃くなり過ぎる弊害(へいがい)もないなと思って、それに」


「それにって」


「異世界からの転生の民はあたしが見事(みごと)にゾルの脅威より隔離した。あたしも伝説になれると思わない」


「否定はしないわ、古骨さま」


「あんたの戦略にしていいわよ、あんたが支配の眷属ならあんたの選択に文句を言い立てることはない、地底に逼塞(ひっそく)、それにつきあわされる土鉱の不満の方は、あたしが抜いてあげる、みな骨抜きにしてあげる」


正直(しょうじき)いうと、今は貴女さまが(おそ)ろしい。人でなしの古骨さまは亜神さまになるの? いつまでお味方(みかた)してくれるのかしら」


「せいぜい心配するがいいわ、どうせあんたの番がきたら、どんなにあたしの快楽が情深く優しいか、尾の先まで堪能(たんのう)することになる、あたしは味方の期待を裏切ることはしないし、嘘は言えないたち、あたしの(なが)らくあり続けるということのうちにはそう言う(しば)りがある」


「本当かしら」


「容易に信じず用心深いのは長たるに正しい資質の一つ。それに突破者のあたしがあんたの導きをしてやろうというんだ、信じられる間はあたしに()かれていればいい、泣いて喜ぶほど可愛がってあげるさ」


「そのもの言いも内容も、なんかすごく逃げ出したいのですけれど」


「ふふふ、手遅れでないとでも」


「い、いいですわ、それも私の悪業(あくごう)贖罪(しょくざい)になるというのなら、この身を古骨さまの食材に(ささ)げます」






 それは極遠距離でも双方向の秘匿画像通話を短時間成立させる、高コストで脆弱(ぜいじゃく)な魔法飛翔体による仮想通信線の構築によるものでなかった。


 そして高度緊急事態発生の非編集生記録を搭載した超高速弾道通信弾の早朝弾着の(うわさ)は、領1消滅を告げる続報の次弾弾着の目撃証言も多数あって、抑え消しきれるものではなくなっていた。


 諸領、属国の間に、不安が野火(のび)のように広がり、(あお)り立てられていた。帝都のしかるべき部門にしかるべき強い風が当たっていた。


 軍兵器厰(ぐんへいきしょう)広報

「かの事故兵器の起源は、当厰にあらず、その不安定の瑕疵(かし)の責は当厰にあらず」


 軍輜重局(ぐんしちょうきょく)反論声明

「かの瑕疵兵器と称されしものは、もとは糧食で開発の、兵器にあらず、不祥事(ふしょうじ)にいたる転用の(せき)は当方にあらず」



 関係の者以外、気にもとまらないにように配慮されていた辺境の小領であっても、帝国の庇護(ひご)の対象であるはずのものが、帝国軍の準戦略兵器の事故で壊滅したという情報は広く諸領の不安不穏を(あお)り立て、政治問題化した。


 不運な小領の謎に充ちた成り立ちの背景が帝国秘で明かされなかったことと、関係各位の責任の押し付け合いが、帝国による陰謀論まで呼び、(かしま)しい論争に輪をかけていた。



 帝都の状況は、観測地から皇宮(こうぐう)に帰還を急ぐ、天文博士が閣下と呼んだ高位皇族の将星(しょうせい)にも届いていた。


『それどころではない天の厄災が訪れるというのに、地にも厄介ごと。遠神(とほかみ)恵賜(ゑみため)、我恵賜。生き残りがかかる手筈(てはず)の妨げにしかならないというのに。


 魔法の諸塔の手応(てごた)えは悪くはなかった。だが我が帝国の中枢と諸侯と諸国の長宛(ちょうあ)ての情報の通知は(かんば)しい反応に繋がったとはとても思えなかった。このままでは、魔法の塔に従うほんの万数(すうまん)の幸運の民以外は天の劫火に焼かれることになるだろう。


 やむをえない、共同歩調はあきらめよう、有力諸侯への働きかけに集中しよう。もともと生き残るためのリソースをかき集められるものは限られている。そこに正義も悪もなく、むしろ悪で蓄財をなしたものが多いだろう、それら徒党(ととう)らの我欲(がよく)、身勝手な自分可愛さにすりよるしかないか。


 m100越えの大深度要塞化命令を付与した略奪赦免状が効くだろうか。早い者勝ちの欲に(つの)る恐怖。不正義を働こうが月二で終わりの、何という世の末。戦乱の引き金を引くのが(わらわ)となるとはな、妾の真名(しんな)()む焼け残りがいてくれれば、本望(ほんもう)だ』。


 将星はトリアージ、生き残り優先の選別、その戦火の覚悟を決めた気でいた。


『その昔、遠神殿をひとつのみ皇宮内(こうぐうない)に置くとしたのは誤りであった。当時としては神と神官の暴虐、神荒れの古き時代の再来を恐れたのはやむをえない配慮であったのだろうが、遠神も皇族も暴走などせぬ、それゆえの今の帝国に(つな)がったというにな。


 顕現神の親政であれば為政の神殿を(つつ)(うら)々まで行き渡らせ、全ての臣民に劫火に備えさせることができようものの、遠き大神(おおかみ)ではそれはかなうべくもない。


 ()しき者こそむしろ生き延びさせよというのが神意なのか、妾も悪堕(あくお)ちせねばならないのか』


 正面の雲を(はら)い有視界の晴れ間を翼12を広げ悠然(ゆうぜん)と魔力加速で飛ぶリムジン種飛竜。その背にあつらえられた豪華なお召し座に(また)がる高位皇族の将星、皇女は、周囲を飛ぶ近衛(このえ)軍魔法者の翔飛隊に溜息(ためいき)を見られまいと口と尾を魔1文字にして(こら)えていた、


 それを()めた。


『もし(よこしま)ならざるが、(きよ)らかのままなるがむしろ罪ならば、ならば滅ぶやも知れぬこの身が容赦(ようしゃ)を求めて果てない劣情もまた神意か、おお、


 おお、(すめらぎ)なる統の立ち女のうちにも牝の肉ぞある、誰憚(だれはばか)らず自由に(つがい)たいぞ、思うがまま自由に(ぬく)々とした卵を産んで産んで産みつくしたいぞ』


 危機を察すれば命を繋ぐ種が増えるは自然の摂理。傾命のハナミズキは枝を花芽で賑わす。

如月の秋桜(コスモス)よ、なんじは冬花にあらざるに、いつまでも咲いて、いつまでも種を撒き続けるというのか。そうして天変地異の先触れを気取るというのか。


第20話より抜粋、稚日女かく語りき

「生き物は鏡也が思うよりしぶといの、深海まで蒸発して干上がろうが地殻の奥底ではなにかしらが

生き延びていつか神格に達する可能性が全くのゼロではないの」

 主星ではなくて近接恒星起源の致死輻射ですから、多少の距離、64光日が空間の拡散で緩和してくれるのです。海面からさぞや煮え立ち沸騰はするでしょうが、それで湧く雲の反射に遮断で、激光は深海までは及びがたいでしょう。地下も少々潜るだけでけっこう安泰です。それでもたぶん、衝撃波と輻射圧で宇宙に流される惑星大気は10の乗数倍の規模で彗星を凌駕するみごとな尾をひくことでしょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ