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遠神の帝国Ⅰ  作者: ペコ
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02 インツー ザ ウェーブ

 

 高度350で、絶対失速したくない名の海岸丘陵の上空を通過した。

 一面の笹の藪と残り雪の緑に白のパッチワークに、監視哨ウォッチ航空標識エアサインズの列びが、すぐ真下を通り過ぎて行った。朝日に鮮やかに黄金色こがねいろに染まっておもちゃの飾りみたいで可愛らしかった。あやうくおだぶつになりかけたばかりなのにそんな感想が浮かんできて、なんだかおかしくて笑い出したくなったけれど、それをこらえているうちに眼下に白波、南北に走る海岸線が現れ、洋上に出た。


 野暮ったい辺鄙な基地は、立ち上る黒煙一つを残し、可愛くない武骨な3つの離陸の大円筒ごとすでに丘陵の向こう陰に隠れてしまった。

 見えているのはそれよりずうっと向こう。はるか彼方、ゆうにキロ150を越える彼方、裾野という裾野をヘイズみのスカートで隠して天空に高く高く突き出る火山群の青い威容、千年紀にわたり大陸地に主諸島地を動かし集めつづけた幾重もの巨大な高炉の景。

 どれ一つをとっても前人未到の山頂灼熱の不穏な巨峰群で地の底の岩石を溶かし、その上に浮かせて遠神とほかみさまは大地を集めたと習った。でもなんか違う気がする。消えた朧気環ディムリングがそれらの有毒噴気でできていた説は信じる派だけど。


 普段は意識にのぼらないほど見なれた山容でも、もしかしてこれが見納めになるかもと思うと、見入ってしまった。その景色もなぜか卒業式にきてくれた孵化場仲間の生き残りのことが思い出されて滲んできた。駄目だよあたし、晴の初任務だよ。仕方がないよ、軍務だもの。十中八九も生還できるよ、上等だよ。 



 田舎の教会女学校で優等生。地頭じあたまが良い子と言われて選抜試験を受けさせられた。結果はめでたく甲種合格。最年少クラスで軍学校に女子徴用されたのが年5前。

 その当時から変わらない、なにがとは言うまでもないけれど、それを理由に専攻は空に決めさせられた。

 できちゃっての寿ことぶき留年の機会とは無縁。そんなのうらやましくもなんともないよ。学服のサイズ変えも(見栄で)1回の贅沢だけですんだのは節約になったし、おかげさまで勉学一筋で一桁順位をキープ。そしてやったね、めでたく卒業准尉を拝領いたしました。

 ほら、身軽いはよいことだらけだわ。SSサイズのぶかぶかグローブで六分儀を使うのも、ようは慣れ。慣れって偉大だわ。


 飛竜実技試験は、機動力の高い戦闘種、高く早く飛ぶ偵察種の両方で評価優等だった。それも身軽なおかげもあったが、実は脱げばすごいののせいが大きかった。

 シャワー室で「まあ」と赤い顔した女子と女教官にまじまじと見られたて、さっそく言いはやされたあだなが直球すぎて黒歴史の開闢かいびゃく


 見目とのギャップがたまんないと鼻息を荒くされてもね、桃色失礼女子にはその場で衆目のもと即、断罪。あたしのの威力を身をもって思い知らせてやったわ。ふふん、丸一日呆けて足腰たたなくしてやった。それ以来、聞いてないから、速攻で大正解。人一倍大きい心のあたしは陰でタ※ニーリ※ルと呼ばれるくらいは見逃みのがしてあげた。


 寮で夜這ナイトアタックいされるようになったけど、みな丸二日ふにゃふにゃの返り討ちにしてくれたら、すぐに学務から女子限定で通達がでた。それ以来、安眠妨害の不埒なヤカラは月に一人か二人に減ったわ。

 もちろん服のうえからはあれは見えない、わからないし、※イ※※※ト※の容姿では夜戦をいどんでくる変態丸出しな男子も男教官もいなかった・・・(涙)


 でも寝る子は育つって嘘だと身を持って証明させられた実例があたし。このまま、同性でないおつき合い知らないまま終わるのだけはやだから・・・、季節のおたより、年4のちっちゃな冷たい無精卵はもういいから、さあ婚活しよ、と思っていたら、まさかの勤務地の辞令。最極東基地ファーイーストベースっていったいどこの僻地よ。



 教育がかりのお守り曹長がついてのおかざり分隊長殿でスタートがせいぜい。基地配属ならどこでもそんな扱いと聞いてた。でもここは違ったの。


 司令部ヘッドクォーターに出頭して副司令官バイスコマンダー閣下に着任の挨拶のそうそう、

 「戦飛(戦闘飛竜)乗りは回5の合戦時間生き残ればベテランの記章付きだが、喜べ、哨飛(哨戒飛竜)は一任務飛翔時間5倍だ、きさまは一度で記章付きになれるぞ」とドンと肩を叩かれた。(痛いっちうの)

 哨戒飛竜、軍秘の飛竜種のことはこの基地に来て初めて知ったよ。


「准尉、向こうを向いて尻礼けつれいだ」

 はあ、なんで??懲罰受ける覚えはないしと思いつつ、上官殿の口頭とあっては体は自然と命令に従う。

上体30度前傾で「閣下、失礼します」と尻をぐいっと突き出す。

「きゃっ」

 服の上からだけどまさぐられてしかもぎゅっと握られた、なにをって、あれ、脱げばすごいのを。

 あわわとパニックを押さえるのに必至なあたし。

「うむ、要求どおりの仕様だな、合格だ、明日自分の後席で飛んでもらう。この命令書を持って補給厰サプライに急ぎ、本日中に飛翔装備一式の受領を完了しろ」

「あひ、あひ、あひがとうございましゅ」

 ひっひっふう、ひっひっふう。落ち着け、落ち着け、あたしのどきどき。


 明日後席にするというセクハラ変態親父の命令書を補給厰(サプライで出すと、きれいなお姉さん下士官(ペティオフィサーが現れて頭の天辺から足先までじろりと見られた。

「ここにあるのはサイズSSまで。それを詰めてなんとかしましょう。詰め幅を決めるので上着を脱いでね」

 そしていろいろ計られたのだけど、いやーな予感。

「おかしい、お尻回りがほかとあわないわ。命令書に急げとあるので肌着の中を見せてね。えっ、なにこれすごい」

 お姉さん、目が点。まるっきり未熟ろりなお尻なのにこんなの間違ってる、くっ、これ反則よとつぶやかれてもねえ。

 失礼な。これでも立派に15のレディーなんだからね。


 そんなこんやでサイズ合わせに手間以上のものがいろいろかかったけれど、哨飛隊の青より黒いと言う真っ新でSSを詰めてもなおぶかぶかの冬仕様のフライトスーツほか諸装備一式をなんとかまだ夕闇のうちに受領できた。

 ヘルメット大きい重い、(操縦用後方鏡付き)ゴーグルとマスクごっついでっかい、グローブもごっついでっかい、ブーツちょう重すぎ、それに明日一日の航空食を担ぐと、身軽いあたしじゃなくなってた。


 暗くなってきた中、よろよろと、だけど踏ん張って割り当て宿舎にもどる途中、司令部の副司令官室に灯りがついているのが見えて、装備受領の報告をしていなかったことに思いいたった。

 着任そうそうやらかすとこだった、うっかりもののあたし。でも補給厰サプライであんな目に、くっこれお姉さんと一戦を交えるはめになるとは思いもしなかったよ。わかってます、弁解させて下さい。

 扉をノックして許可を得て入ると、昼間見た副司令官閣下の書類の山との戦闘はまだ終結にほど遠いようだった。中間管理職は実質トップでもけっこうブラックなのね。


「はあはあ、副司令官閣下、はあはあ、装備一式受領いたしました」 

「閣下はいらん。どれ、ぐるっと一回りしてみせてみろ、どうだ、訓練用と違って重いだろう。よいか、その重さがきさまの任務ミッションの重さだ」

 はあ、はあ、さいですか。

 続いて明日についてのブリーフィングを受けた。


 遠神帝国ファーディバインの未来のため、尖兵となって新領土を他国に先んじ発見すること。その目的で辺鄙基地で秘密裏に特別な飛竜、デイオーバー種を開発し、さらに静電位気流制御を実用化したこと。

 明日のフライトプランのタイムスケジュールについては、時刻0600開始でバルーン吊り下げで離陸リフトオフ後、上空で発進ラウンチすること、云々。

 「静電位による気流制御の操作も型式VKT自動調整、汎用仕様のフールプルーフ。習うより慣れろだ、番17哨飛と感応して気流制御との同期シンクロナイズ感応制御棒コントロールバーで調整すること。あれ持ちのきさまなら容易たやすいはずだ」

 はあ、さいですか、はあ。どうやらただのセクハラではなかったらしい。

 

「それから、これまで帰還できなかったのは、哨戒十のうちほんの一か二だから心配するな」

 えーっ、そこは十中八九、まずは無事に帰還できるとごまかそうよ。

「准尉、ヘルメットと糧食を足もとに置いて休め」

 それを最初に言って欲しかった。はあはあがすぐにおさまったのに。

「こんな初任務ですまんな」

 謝るのはたぶん駄目なフラグ、上が言って良い言葉じゃないでしょ。


「准尉、向こう向いて尻礼しろ」

 えー、またあ。涙目でも、命令に従ってしまう、訓練ってほんと偉大すぎるわ。

 それでも、ためらいもなくフライトスーツのお尻スリットに手を突っ込まれ、あたしのが直に握られて引っ張り出された時にはさすがに本日二度目の悲鳴が出た。

「きゃーっ」

「落ち着け」

 と言われても、無理、無理、無理だっちゅゆうの。

 だが驚愕はそれからだった。なににって言うとそれは自分自身のからだの反応に。


 うひゃー、撫でられたよ。男の手にさわさわさわって。

 驚きをスルーしてなにこれ、腹の下がじーんとして、ぞくぞくする快感の波が背筋を駆け上がってくる。ふにゃっとなって知らず肩のこりまでが抜けてきた。どうやら、気付かぬうちに随分と緊張を溜め込ずんでいたらしい。びっくりだよ、あたしのお大事が受けに弱いと初めて知った。


「落ち着いたか、きさまのこれも緊張しすぎれば役にはたたん。よし、これで良い、行け。明日に備えてしっかり夕方食を腹に仕込んでおけ」

 やっぱし、前言撤回だ、セクハラ親父の上官殿にあたしの初めてを手籠めで奪われたよう。

 しかもうぶなあたしに大人の階段を一段あがらせておいて中途で放免だなんてひどーい、冷血漢、鬼だわこの上官殿、鬼。

 その夜、もやもや気分のひとり寝もんもんもんも初めて知った。こんな大人の階段はやだ。はあー。



 昨日のこととかの黒記憶は陸影ごと流れ去る雲の向こうに、ぽいしてやった。

 番17哨飛はとってもよい子、あたしの抜群の感応に答えてくれて順調に飛んでいるわ。静電位気流制御って飛び心地快感!じゃなくって快適。噂に聞く翼8や翼12のリムジン種なみじゃないかしら、思わずハミング番3、飛んでけ乙女の純潔が出そうになるよ。


 背あわせのタンデムシートのスロットに差し込んだあたしの先っぽの敏感なところが飛竜の背に埋め込みの感応制御棒コントロールバーを越えて、前席の上官殿のそれに触れたがる。こんなこと初めて。これってこの子のせい? そりゃ、竜っていいよね、ひとじゃないもん、番いたければ番えるもん。

 あれ、それってあたしが今そういう気分だって言うこと?そのお相手というと、えー、まさかセクハラ親父、ないわー、絶対にないわー。・・・でももし・・・上官殿のあれとあたしのあれが絡んでもつれあってぎゅっ・・あわわわ、思わずきゅんときて、制御がおろそかになった。

「後席どうした」

「な、何でもありません」

「そうか、疲れたなら制御を代わるぞ」

「大丈夫です、後方異常なしです、ばっちしです」


 広大無辺な大空、その中空にぽつんと旅人二人。おそるべし、吊り橋効果。

 当たりの前の言葉が気遣いに聞こえる。

 でも気分はいい。真冬だけど天気もいいし最高のフライトだわ。

 相性がいいかもしれないのは認めざるをえないよ。ちょっぴりね。


 低い雲を避けながら洋上を東方へ進出すること時間5。予定どおり、時間1遅延で北方に進路を転じた。

 冬の月2の太陽ソラールの高度は正午でも高くない。後席のあたしにはもろ逆光になったけど、この時ばかりは遮光してお肌を守ってくれるゴーグル(後方鏡付き)とマスクのごっつさが有り難い。

 ニキビひとつないよ、すべすべつるつるだよ、あたしの自慢の百難隠しの白い肌。きれいなお嬢ちゃんと、容姿を愛でられる気分は悪くないけど、ほんとうに15だし、寿体験済みの女子も普通にいるお年頃なわけで、あたしのあれ見られたし撫でられたし、なのになんとも思ってくれててないのかな。


「・・・上官殿」

「なんだ、なにか見たか」

「すいません、桃色海蛇コーラルサーペントの一頭すら見ていませんけど、お昼をすぎました」

「よし、准尉、分15制御をかわろう。きさまから先に補給しろ」

 上官殿のがさっとのびてきて、感応制御棒からひく間も与えずあたしのの上に重ねて巻き付いた。

「きゃん」

「おっ、すまん、やり直そう」

「やっ、いや、いいです、このままで・・・上官殿の制御の仕方を勉強させてください」

 どの口がそう言うのよって、もちろんこの口、ずうずうしかったかな。

 男にあれをあたしのあれに重ねてもらうなんて初めて。お昼はもう水も喉をとおりそうにないよ。


 なんて力強く滑らかな制御なの。番17哨飛からも喜びの官能が返ってくる。すごい。うっとりして思わずひとり言が洩れてしまったみたい。なんでだか番17哨飛の話しをいろいろしてくれた。

「孵化する前からのつき合いだからな、これの親みたいなもんだ」


 お約束の分15は夢の幸福の様だった。はかなかった。永遠に続くはずがなかった。上官殿のはあたしのの上からほどけた。喪失感、半端ない。もうあたしは桃色女子を笑えない。寿留年も笑えない。


「後席どうした、制御が甘くなっているぞ」

 ここでもう一度、指導を願えばそうしてくれただろう、でも甘ったれなあたしになって溺れてしまう、 それがわかっているからいじっぱりな准尉の矜恃が邪魔をした。

「申し訳ありません、もう大丈夫です、上官殿もお昼を召し上がって下さい」


 

 破局は唐突とうとつにきた。

 

 帰投開始の予定変針を待つまでもなかった。右前方から行く手をにわかに海霧で塞がれた。高350でも見上げる高さまで白い悪魔があっというまに盛り上がって倒れ込んできた。

「まずい、級5の横転渦流のようだ、後席、制御をこちらにもうらうぞ」

 あたしの返事を待つまでもなく、あたしのの上に上官殿のが再び巻き付く。

 こんな際でなければどんなにステキな気分になれただろう。

 番17哨飛が懸命に飛ぶ。でも激しい乱気流をまとった渦流の回り込みにはかなわなかった。十のうちの一か二の運命に追いつかれたとわかった。



 濃い雲霧の中を飛んでいた、分30近くも冷たい視界不良に捕らわれて飛んでいた。

 静電位を止めてもなぜか磁針計コンパスは安定せず使い物にならなかった。磁極高地への方位がわからなかった。

 可哀相な哨飛は翼4とも先から凍り、羽ばたけなくなってきて怯えていた。

 再稼働の静電位気流制御でかろうじて滑空距離を稼いでいるのが現状だった。

 ヒュウヒュウと風の音まで奇妙に静かに聞こえて、あたしはゴーグルの視界いっぱいの形のない灰色の世界が後ろ正面に吸い込まれて消えていくのを見つめているしかなかった。


 怖い、怖い、あたしのが上官殿のに巻き付きついて行くのを抑えられない。

「上、上官殿、あ、あたし、あたし」

「しっかりしろ、准尉。気速と高度の読み上げ始めろ」

 上官殿のがぎゅっとあたしのに絡みなおしてくる。それに励まされて読み上げを始めた。

「気、気速100、、高度、220。気速100、高度210。気速100高度200。気速100高度190。・・・」

 気速100維持の滑空で毎秒高1にも満たない緩降下。白一色の霧中なのに上官殿の空間識は向かい風を捕らえてる。それでも氷温の海面まで何分ももたない。


「准尉、高度100で、遠距離魔送信管マジッックトランスミッターヘル打て」

「・・・気速100高度120、気速100高度110、気速100高度100、時刻1412遠距離魔送信管マジックトランズミッターヘル打ちます」

 あたしは貴重なそれを思いきりシート縁の硬いところに叩きつけた。

「えいやっ」

 一瞬、目の前に火花が飛ぶほど強い衝撃、バシーン。

「うっ。ヘル、ヘル打ちましたよ、上官殿」もういいやとため口で言うあたし。

「墜ちるはめになってすまん、准尉」

「あんなフラグ聞かされたときからなんかこんなことになるような気がしてました」

「そうか・・・フラグか」

「はい。感応尾かんのうおもっともっとぎゅっぎゅって絡めてもらっていいですか」

「ああ、そうしよう」 

「あああ・・・んいい・・・上官殿・・・も、もう一つ、もう一つお願いしていいですか」

「准尉、ひょっとして名前か」

「あたし、あたし、男の人と名前を教えあったことがまだないんです。こんな幼体同然の見ためだし・・・男のひとに感応尾かんのうおのお相手をしてもらったの、はじめてなんです」

「ああ、それは飛んでからわかった、准尉を後席に選んだ自分の判断ミスだ」

「ミスだなんて・・・夕べも上官殿がもしかして宿舎に来てくれないかなって期待してました。あたし、上官殿の温かいのをいただいて温かい受精卵を産みたかった」

「もう高度60もないか、秒60もたせられるかどうか・・・よし、本官でよいなら名前のちぎりを許そう」


 その時にわかにドシンと揺さぶられて体が浮き上がろうとした。風が逆向きの追い風、強風に変わった、霧がさっと晴れて、霧は頭上の天蓋で、霧の下に出たとわかった。

 気速を失ってガタガタ揺れ、失速してすぐに高度50を切った。すぐ下におお時化しけの海面、鉛色のうねりと白波が近かった。そして後方以外、視界が広がり、遠くに晴の空が見えた。


「左方向注意、艦影4、もとえ5! 准尉、ビンゴだ、ビンゴでかまわん、時刻1414遠距離魔送信管マジックトランスミッタービンゴ急げ」

「打ち、打ちます、打ちます。でも遠神とほかみさまにかけてちぎりは約束だよ」



 みたこともない型の灰色の巨艦が5隻、機先きせんを制するように進んでいた。

 流れる黒煙も廻る外輪もなく、一本だけそびえるマストに帆すらないのに、うねる大波を悠然と割り、蹴立てる真白い波頭もみたことがないほど強大だった。

 見つけたのではなくて、どうやってか見つけられていたのだ。それくらいは、卒業准尉で桃色女子になってしまったあたしにもわかった。

 

 番17哨飛はもう一度がんばって期待に応えてくれようとした。でも羽ばたきを止めさせた下がった体温ではどうにもならなかった。

 あっというまに翼先がひときわ高い波頭にのまれると、一瞬のうちに回転して氷温のしぶきに包まれた。

 

 ひどい衝撃、意識がとんだ。気がつくと揺れる波間で凍える潮をかぶっていた。

 堅く絡めていたのに、強く強く絡めていたはずなのに、愛しい感応尾かんのうおがほどけて力を失っていた。

「上官殿、上官殿、上官殿」

 何度呼びかけても前席から返事は返ってこなかった。

「あたしはリリdyア、あたしの名はリリdyア、ねえ起きてよ、上官殿、名前教えるって約束したよ、ねえ起きてよ、起きてよ、起きてお名前教えてよ」

 揺れと大波がシートの拘束をはずすのを邪魔してくる。

「いやだよ、こんなのいやだ、やだ、うっうっうわぁーん」


 バタバタバタバタ、初めてきく異音がすぐに轟音に変じて頭上から叩きつけてきた。

 すごい風の吹き下ろしだった。


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