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遠神の帝国Ⅰ  作者: ペコ
16/60

16 宵闇

 日の沈む前にはかぜよみが殊勲の高価な試作凧も階下に運ばれ、天蓋広場はいつもの情景を取りもどしていた。幾組かのつがいがちらり、ほらり、西空に鮮やかだった柑橘色の残照がまだ消え去らずほのかに残る宵のうちから、尾を絡め体ひとつに身を寄せ合っていた。


 ひときわ高い監視塔に黒く群なすひとならぬ夜の見張り、夜の支配の集合知性の無数の無機質な闇が自分を見おろす気配を感じた。独り身がなぜそこにいる、たぶんそういぶかしがられ、わけを知りたがられている気がした。


 ほんの日ひとつ早く塔に帰任したなら、早朝の飛び立ちを見送ることができただろうか。


 かぜよみとの縁、尾の約束を果たせたなら、偉業の重い代償に臥せるかぜよみのそばに付きそうことができたかも知れなかったのに。


 いや、それはない、それは自分の職務がひとり駐在である限り、付きそいなどかなわないこととわかっていた。


 それでも記憶の中のかぜよみはなんどもなんども繰り返す。

『あとでね、あとで、尾をかけての約束ですよ』


 かぜよみと言葉をかわした部屋にいることがいたたまれなかった。それでかぜよみが連れ去られた天蓋広場に戻ってきたが、部屋を持たない番達の逢瀬の刻とあれば、さらにいたたまれなくなるだけだった。


 高度新記録で大尉に昇進した、さぞやかぜよみは喜んで約束に応じてくれるだろう、なんて愚かな思いこみ。


 かぜよみは、あの娘は一人で、より高みを目指して、竜の飛翔では並大抵の工夫では重ねても届き難い遙かな空に昇った。もし帝都での栄華に溺れず、早々にここに戻っていれば・・・


 女達の誘惑の据え膳を拒まず、快楽に溺れたつけで焼きが回った。

 自分に許した落ち度で、かぜよみに無理のある試みまで許してしまった。


 今宵は小さな白い月、りんも沈む真夜で、すでに中天のある赤火星が薄いむらのある雲の流れに見え隠れする黒のとばりの主だった。あれが自分の心臓なら、それこそ破裂して燃え上がってしまえばいいのに。


 そう思い患いやむなく部屋に戻ろうと身を翻した時だった。


 気配は全く無かった。目の前すぐにいつまにか黒く人がたが立っていて、その驚きに先んじるとばかり、記憶にある声が告げた。


「 その願いは度し難いの、とてもこまることなんじゃがの 」


 突然の予期もしない再会だった。


「・・・匠師?・・・」


 年4ぶりだが、自分を軍学校に放り込んで消えた魔法屋の主人である匠師であるらしいことは一言でわかった。こちらの心の内は今も見通されている気がした。


「 落ち込んでおるものがいる、じゃが、まるで落人のようでは役にはたたんものじゃ、滞りものではうんたぶんそうじゃ 」


「・・・匠師は、いつこちらにいらしたんですか」


「 いつ、いつとな、この吾の所在の相は・・・今の時は暦ではいつじゃ。残すところ年5か6の間が限界の頃あいじゃ、ほれあの赤火星をみるにそうに違いないて 」


「赤火星が何か」


「 災いじゃよ災い。天照す厄災に備えねばならぬからの。わしが確かなうちに言の葉で言うことをよくきいてくれんかの。弟子ならちゃーを椀ひとつ所望しよう、帝国謹製特級を嗜むくらいの時一は保てるはずじゃ 」


 居場所はいつのまにやら出てきた部屋に移つっていた。無詠唱で所作もなく転移とは本当に出鱈目な年寄りだった。


 煎れる茶の匠師の湯温の好みは忘れてはいなかった。


 単身赴任武官の大尉たる資格のひとつで軍時機密に接したことがあった。匠師はその対象の枠のうちにあり、軍令部将官の指示無くして接触ならびに調査に類することはこれにいたることを厳に禁ずとだけ記されてあった。それを目にしたどきりも忘れてはいなかった。


「匠師、自分の位階では匠師と会うのを禁じられている身なのですが」


「 覚えておる、この茶の入れよう、弟子の○〇○〇〇○だったかの 」

 匠師にしか知られていないはずの真名で呼ばれた。


「 わしからの今宵の訪問じゃ。それでも詮議されるなら、わしの令で軍学校に入る前から、わしの弟子で、その弟子たる記憶を封じられたままじゃたから、自責はないと強弁するがよい。わしの通名を出せば押し通せるのじゃ  」


「そうであるとしてもですが、弟子である身としては、匠師に記憶の多くを奪われて今も無力です」


「 奪ってはおらん、たしか、入学にいる分は免じて、不都合な分を封じただけじゃ。まあいじけたまま次の役目というのも、なんじゃからの、わしまだ匠師のようじゃしの、早くも大尉となった弟子に梃子入れも、難き道への導きもしよう 」


「はあ」


「 腑抜けた返事じゃの、そんなざまじゃから、有精の卵の数も期待より大幅に足らん 」


「・・・なんの話しでしょう」


「  かねて野性の雛子だった弟子を種牡たねおすとする我らが属の品種改良じゃたはず。手堅い手法で雛子のうちの喪失率を下げる試みの一つじゃ、弟子も思い出したかの、若い者がよくもまあ年3近くも番うことより離れおって  」


 どうりで女達から熱い誘いがあればその据え膳を拒めなかった、かぜよみとの再会が遅れることになろうとも、匠師に条件づけられたからだでこばめるはずがなかった。


 あまりにあわれな雛子の脆弱、歳3までの生存率割り一に足らず。それが自分の性質が優性でとり込まれれば、第一世代目の生存率は最大で割り二近くまで向上するはずで、そう説かれながらに自分をいじられた、その記憶にかぶせられた厚い覆いが取り払われた。


 となれば、定番へのこだわりは、尽きぬ強精を求める女達と記憶を封じられたゆえがなす歪んだ性癖の妄想であったのか・・・ 定番となり有精で産んでもらった卵のうち、歳3の雛子まで育つのがそれほどのぞみ薄ければ、思い入れがあるほどに悲嘆にくれる日々となろう。


 混乱した。混乱していてそしてにわかに理解が訪れた。


 孵化の巣は集まった卵やそれから孵った雛子を育ててはいない。

 素性わからぬ群れの割り一のさらに減っていく生き残りの世話をしているだけだ。


 盛り場の孵化の巣育ちの女達と男達が、囲いを囲われを忌避して、自分が相手にされなくなったのもあたり前だった。

 だれが自分達の有精の卵が、それから孵ったとわかる雛子が、どれほどいつくしもうが十のうち九、冷たくなるのを耐えられるものか。


 口にするにはばかられる常識すら自分には欠いていた。



「   思い出してわかったようじゃの、想い相手のかぜよみとやらも特質あるもの、弟子と掛け合わせの血筋が残せらたら、それは興味深いのう   」


「・・・匠師、自分はどうすればよいのでしょう」


「     弟子は心のなすがままに。のぞみがかなうことを祈っておるがの。ひとつ教えよう、このゆるりじわりと廻る総円周角360度越え魔法空間の塔の廻らぬ基の懐深くもぐれ、そこなら定番とやらが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「匠師?」


・・・・・・余計なしゃべり・・・がすぎたか、ううむ・・・なにを話しにきておったかの、そうじゃ、そうじゃった肝心なこと、これをなによりも忘れてはいかん、武官の弟子は白と黒の雛子の対に会うのじゃ、かの予期せなんだ・・・対の通し難き道と共にあるのじゃ、いやもう目に入れておるはずじゃが懸想相手に気をとられて気がつかなんだか・・・・・・はて。ここはどこじゃったかの・・・弟子と時空の合わせが保てん、相がずれていく・・・・・・ここがどことわからぬ・・・・からには、わかるところに遷らねば・・・ならん     」


「ここは灰の魔法の塔です、匠師。帝国も東の果て、遠辺境の夜のとの領域のひとつです」


「     ・・・そうか集束され・・・・ここでなせ・・・・・・終った・・・・・・・・弟子よ、茶は・・・・・・まだまだ・・・じゃの・・・・・      」


 かすれていく声で話す間にも目の前に見えていた人がたの現実感が薄れて、遠く遠く彼方へ限りなく小さくおぼろげになり消え去った。


 飲みほされたばかりの空の茶碗がひとつ残されて、手に取れば温もりも残されていて、それが匠師との再会が幻影でなく実際にあったことの証しだった。


 得心がいかない話しは相変わらずだったが、かっての魔法屋で心得たものは隠されから戻りはじめていた。そして自分の心は梃子入れされていた。


 やはり、かぜよみ、きみに会いたい、早く面会がかなうように、回復を祈ろう。


 そう決めると、心がすとん落ち着く気がした。



 自分用に番二茶でがらしを入れた。それで今日は終わりにしようと再着任の引き継ぎほかを書き記す業務日誌に取り掛かった時だった。


 ジリィリン、ジリィリンと、帝国が塔から分限したここの呼び鈴を鳴らすものがいた。






 つけられるのをいくら警戒しようが足りはしない気がしていた。あの魔法者が相手ではそもそも無駄な気がしていた。


 心の底に刻み決まれた伝手つての構造。


 その防壁は磨いたばかりの魔法銀のようにつるりとして前後逆の私の姿を返すばかりで、つけ込める手がかりになるあるに違いない接続の部分の類は心をいくら鎮めても見つけることができないでいた。


 呼べば伝わると言うことは、鏡が晶板になり相手の影絵でも現れるとでもいうのか。まさかそこまではなくても向こうからはこちらの心象の風景が見えていてもおかしくない仕様だろう。たぶん、そうだろう。自分が何をしていようと魔法者にのぞむがままにのぞかれる、なんて嫌らしいつきまとい。


 だからといって、出し抜ける可能性が全くないわけではなかった。


 自分は土鉱、そして土鉱どうしとなればこそわかり、土鉱ではないものには思考の埒外、例えば盤落とか、理解の及びがたい符牒はあった。


 それで秘密の拠点に直行せず、刻一も早く監視されていることを含め魔法者に気づかれずに知らせようと探し回ったのだが、領都の通りや路地のどこにも、情報収集と称して出入りの多い酒場にも、同胞の姿は見つからなかった。


 こういうときに限ってなぜ誰とも出会わないという焦りに駆られた勢いは、じきに冷えた。冷えて避けられているという確信に変わった。



 なぜか、敵に内通する者であると、すでにそう見られているに違いなかった。


 味方の拠点が死地に思えた。


 それでも、雛子の脅威はぜひに伝えねばならなかった。


 心が萎えて脚が萎えた。


 自分自身にわかるほど悄然として、気がついたら拠点も目前の人気のない路地裏だった。


 そこで出迎えを受けた。


 後ろからいきなり無言で容赦なく羽交い締めされて首もとに刃を突きつけられた。



「しっ、しくじりました。で、でも緊急の要件です。例の灰の魔法の塔の長への書状持ちの雛子の対の件で至急緊急なんです」


 報告を続けることを許される余地がある気がした。


「あ、あの雛子の対はとんでもない化け物です。念のためつけて区界峠を東に越える直前になって、見たんです。し、しくじりました、キロ一、キロ一も離れて隠れているのに見据えられて威圧されて。本当です、キロ一離れているのに竜よりはるかに、うっ」


 後ろからいきなり無言の容赦ない蹴りを受けて前のめりに飛ばされた。


 刃に触れた首の皮が切れたが、それより肋の骨を数本やられたとわかるひどい痛みに息を継ぐのも難儀だった。それでも赤い血が喉にこみ上げることはなく、折れた骨が肺の臓に刺す致命の傷ではないとわかった。わかったが今ので左の足首もねじくれてすぐには身動きもとれず、両の手と膝をついてすえた臭い地面に這いつくばり呻きを堪えるのがやっとだった。


 浅く息して終わりを待った。しかし追撃はこなかった。


 それはほんの秒数の間のことだったろうが、とても長い秒数に感じた。


 そして短い言の葉が心の奥底まで突き刺さった。


「お前は灰の魔法の塔へ下れ」


 そう言うなり重質な嗄声の主の気配は失せた。ひとり放っておかれ、目の前がじわり滲んだ。




 首は黒く乾いた血の瘡のところでひりついた。

 背中が広くひどくやんで浅く息を吸うのもはくのも辛さがつのるばかりだった。


 とぼととぼと、とぼととぼと、歩いた。体を預けられない腫れ上がった左の足を引きずって歩一、また歩一、歩一を歩む午後の時間だけを積み重ねていった。


 敗残の傷兵、落人もかくや、それが自分だった。


 心は鉛より重く、重いままならぬからだにひどい痛みだけが同行するものだった。


 じりじり日照る午後の輜重の曲がり道、山塊に沿い延々と続く往来絶えた登り道。とぼととぼと、とぼととぼと、息もひと継ぎ、またひと継ぎ、跛行を続けてふと気がつくと、自分から前に長く長く影が伸びていた。


 いつのまにやら右へぐるり左へぐるりと曲がる道がわずか平らで、そこが区界の峠上だった、ちょうど日の暮れだった。


 彼方で灰色の塔が夕の日をうけてなお色をこばんでいた。手前からその塔のすぐ下まで、黒くこちら山の端の陰が迫っていた。


 そこより先、取り残された昼の支配が追いつめられていた。


 突き抜ける黄色い日の光に染まった継ぎはぎ細工の畑作の丘陵と湖とさらに彼方の山影、その全てを静かに見おろす赤い火雲の舞。


 目に貼り付けたままの遮光の隠しグラスを通しても鮮やかな景色は、そのすべてが向こう正面の東の空に昇ろうと待ち構える宵と闇の獲物だった。



 きょうの日ひとつで、回3。回3もそのまま死んでもおかしくない目にあった。いや、回3も生かされた。いや回3目で自分というのは死んだ。


 雌雄など関係ないと、自分は自分だとその自称からして、持たされた暗器ひとつで思い上がった奢ったもの考えだった。そのあげく、たぶん孵化の巣仲間にももう二度と仲間にしてもらえない。


 土鉱の娘のこのからだひとつが自分、いやおろかなあたしだ。

 自分は、いやあたしはただの土鉱の娘。いやただにも到底およびもつかない、討ち捨て置かれのはぐれもの。


 敵と教えられたものに下れと、捨てられた。攻めようと目論む相手に攻める前に下れと捨てられた。行く宛てがあるとするなら、捨てられた先、そこしかないのに、攻められるそこしかないのに、そしてあたしにはこのからだしかない。それしかない、売り物になるのは。


 でも、おぼこのあたしでも知っている。土鉱だろうがいかに番おうが母体と同じ種の卵しか産めない理を知っている。


 誰が敵性たりうる種を孕ませようとする。白昼捕らわれたとき、あの魔法者は殺めるどころか犯してくる風もみせなかった。からだを安売りしたいのかと手玉にさえとられた。


 それが今ではいっそあの時にと、思えるなんて、なんてこと、なんてことかしら。



 道の端に置かれたそこそこ平たい休石が目に入ると、あたしにはそれが限界のしるしだった。

 左の足が燃えるように熱く痛く、この腫れ上がった足をかばって下るのはとてもできないと思うと、登りで無理を続けた右の足の方ももう言うことをきいてはくれなかった。


「もう無理・・・あたし、よく頑張ったよ」


 独りごちて、なんとか背筋を捻らぬように腰をおろして両足をあげ、からだを石にあずけて休もうとゆっくりと横になろうとした。


 そしていくらゆっくりとしようとしてもそれはしてはいけない駄目な向きだったと思い知らされた。


 横になる中途で、蹴られた背の、肋の骨の折れ目が動いて、そこからからだの芯まで差し込む太い痛さだった。すぐにこれ以上はない飽和して白熱した、ず太い激痛になった。


 身動き取れないけどじっとしてれば息がつける痛さまでに痛みが引いてくれるかな。


 でも自分は止めて、勘違いの自分の矜恃も止めて、打ちのめされたあたしには到底耐えられない痛みだった。そして逃れるすべがあった。


 もういいや。


 その方へ、あたりより刻一早く暗い、暗い抱擁に、意識を心をまかせた。






 塔での所用をすませて、雲行きの危ぶまれる西の隣領へむけて急ぎ出立。日の没まで刻四分の一残すばかりで昼の支配のうちに区界峠に達することができた。しかし達したところに、思いもかけぬ者が臥していた。



 背中にたやすく落とせる泥を押し付けた塔のしるし。それによもや気づかずまだ残しているとは、そしてここ領の境に倒れているということは、味方に討たれたか。まさかの自分の判断の甘さだ。



 娘に意識はなかった。伝手を通して呼びかけようとも瞼をとじて浅い息をするままで、応えがなかった。血と汗と泥が乾いて臭って熱を放つからだを探ってみるに、首からの失血、腫れ上がった左足首の捻挫、2つを越える肋の骨が折れた重傷で脊の椎の並びまでずれるところがあった。



 あれから領都に戻りやられたものなら、土鉱にしてもよくぞここまで登りの道を峠までたどり着いたものだ。

 しかし伝手を逆手に利を謀る才覚すらまだなかったようで、育てるにもほんとうに若すぎた。

 素の顔をみるにおそらく十と五の成人したばかりで自分の背にも気を配れないほどの未熟な小者。

 それでも間者として出してきたとは、土鉱はいったいなにを考えているのだろう、よほど余裕無き事情か、そのみせかけの疑似餌かなにか、失態にしても討つまでもするとは理由があろう。



 急いだのはどうせなら夜の支配に知られずのうちにこの領から出るほうが望ましいからで、捨て置き先を急ぐほどの非情の用事ではなかった。そして娘の哀れな満身創痍は自分にもかかわりがあることで、責を感じていた。


 治癒領域の魔法は本分ではなくて、ないよりはましの程度の気安めをかけながら峠で刻半待った。そして日が上端まで没すれば夜の支配の見張りにわたりをつけることがかなった。


 うちで身受ける筋もあるとわかっていたが、こうなっていてはそうもいかないこじれる情勢のように思われた。それで娘を、土鉱といえど帝国の支配を受ける民である娘を塔の護民の責務にあるところのものに預けるよう依頼の言葉を暗い(くう)に告げると、いつもそのように情報が対価で、娘につけて送る要約の開示が自分の支払いだった。


 捨てられたくしゃくしゃの綴れのように横臥す見ため華奢なからだは、どこからともなくひらひらと集まってきた無数の漆黒の厚みを全く感じさせない小片に包まれて、闇の中の闇の集合に沈み、月のない真夜が始めの宵の空を塔の形がわかる煌めく明かりに向け、音もなく落ちて行った。



 娘は夜の支配に何を対価に求められ何を支払うのだろう。



 遮光の目の民相手であれこの度も情報か。土鉱の動向はもちろんのこと、それも知る必要があった。この娘は夜のなかから生きて戻り気がつくはずと、伝手に伝言を託すことにした。



  『 1//001:伝手主:あとで話しがある 』




伝手の伝言:あれです、閉域VPNの拠点間通信みたいなもの?



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