裏切り~処刑~地獄での出会い~
俺は、勇者ジークフリート。
暗黒竜ファブニールを倒し、世界に平和をもたらした。
そして、アークフレア王国の国王の地位も、俺が助けたアミタ姫も、そして暗黒竜ファブニールを倒した勇者として、未来永劫語られる、その地位と栄誉の、その全てを、俺のこの手中におさめられるはずだった。
そう、その時までは…。
その日、その時、俺は突然、いわれのない罪を着せられ、捕まるのだった。
「ジークフリート!お前を捕縛する!来い!」
いきなりわけもわからず捕縛され、連れてこられたのは、拷問部屋と呼ばれる一室。
なぜここが拷問部屋と呼ばれるのかというと、ここで凶悪犯罪などを犯した罪人に対して、執拗な拷問が行われるということ。ここでの拷問で、そのまま死んでしまった者たちも数知れずということを聞いていた。
そこに現れたのは、共に冒険の旅をしてきた、カルザスだった。
「ジークフリート。ようこそ。拷問部屋へ。」
そう言うなりカルザスは、いきなり俺を殴りつける。俺は椅子から転げ落ちる。カルザスは俺の胸ぐらをつかみ、さらに殴りつける。
だが、どんなに殴られても平気だ。なにしろ俺は、暗黒竜ファブニールの血を全身に浴び、不死身の体になったのだから。
「そうだったな。お前は暗黒竜ファブニールの血を浴びているのだからな。
しかし、こういうのはどうだ?」
そう言うと、カルザスは何やら特殊な金属でできているらしい、棒のようなものを取り出す。
「くくく…。これはな、暗黒竜ファブニールの血の効力を、無効にする特殊な棒だ!
これを使った瞬間、お前の体は不死身ではなくなるのだ!つまり、お前を殺せるということだ!」
その直後、カルザスはその棒で、ジークフリートを殴りつける。さらにカルザスの取り巻きたちも、ジークフリートを暴行する。
ドッ!ドゴッ!バシッ!ビシッ!
「ぐああっ…!お前…!カルザス…!」
そして俺の体から力がぬけていくような感覚が襲ってきた。これでファブニールの血の効力がなくなり、不死身の体ではなくなったということなのか…。
「俺はお前が気に入らなかった。お前のその生き方、人柄、それに、正義感とか何とか…。
世の中、みんなが平等にとか、自分のことばかり考えず、世のため、人のためとか、聞いてて虫酸が走るんだよ!
そんなものは所詮理想論、きれいごとでしかないんだよ!
きれいな薄皮一枚引っ剥がせば、所詮は私利私欲の亡者。それの何が悪いんだ!
そして自分の考えが他人の考えよりも正しいと、思いたいんだ。
だいたいな、平民のお前が、しかも弱小国アクアレイア王国の出身であるお前が、暗黒竜ファブニールを倒した勇者だと!?笑わせるんじゃねえぞ!」
カルザスは言いたい放題、あーでもない、こーでもないと言い放つ。
「だってそれはしょうがないだろ。実際に暗黒竜ファブニールを倒したのは、この俺なんだからな。」
「なんだとお!?」
カルザスたちはさらに拷問を加えようとするが、さすがにそれだけではかなわないと思い、
「…くっくっくっ…。ならば、これでどうだ!」
カルザスが取り出したのは、聖剣ライトサーベルだった。
「おい待てよ!ライトサーベルは俺の剣だぞ!」
「何言ってやがる。このライトサーベルは、剣の方が装備する人間を選ぶって聞いたぞ。
たった今、ライトサーベルは俺を選んだんだ!」
「……!」
「それとな、お前の愛するアミタ姫も、このカルザスのものだ!
貴様はただの罪人なんだ!伝説の勇者の名を騙る、ふとどき者めが!
おい!お前たち!このふとどき者を、牢屋に入れろ!あとで断頭台にかけてやるからな!
はっはっはっはっは!」
こうして俺は、牢屋に入れられた。
そして処刑の当日。ろくに裁判もせず、俺は断頭台にかけられることになった。
「これより、伝説の勇者の名を騙ったふとどき者、ジークフリートの処刑を行う!」
カルザスが語る。伝説の勇者の名を騙っているのはどっちだよ。俺が暗黒竜ファブニールを倒したんだぞ。とはいっても、今ここで叫んだところで、誰も信用してはくれないだろうがな。
「よし!処刑開始!」
そして…!
ドガッッ!!
俺、ジークフリートは、断頭台にかけられ、処刑された。
これで、アークフレア王国の国王の地位も、伝説の聖剣ライトサーベルも、愛するアミタ姫との結婚も、そして暗黒竜ファブニールを倒した勇者としての地位も、栄誉も、全てを失い、俺は伝説の勇者の名を騙るふとどき者として、いわれのない罪を着せられ、この世から抹殺されることになったのだった…。
その後、カルザスはアミタ姫を無理やり己のものにし、
さらにアークフレア王国の国号を、カルザス帝国と、勝手に変え、俺を慕ってくれていた前国王、つまりアミタ姫の父親をも殺し、国の実権を完全に掌握したのだった。
そればかりか、俺の祖国であるアクアレイア王国を、攻め滅ぼした。
ただただ、アクアレイア王国を、なぶり殺しにしたのだ。
「ふはははは!はーっはっはっは!」
カルザス…。奴こそは、暗黒竜ファブニール以上の、大悪党だ…。
そして俺が気がついた時には、そこは地獄だった。
「なんで…。どうして…。俺が地獄に落ちるんだ…。畜生…。」
俺は怒りに肩を震わせた。
「畜生ぉぉぉーーーっ!!
返せ!俺の全てを返せえーっ!
なんで奴が支配者で、俺が罪人として地獄に落ちなきゃならねえんだー!」
俺は嘆き、叫んだ。
すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「神はとうとうお前を見捨てたか…。」
その声は…!まさか…!暗黒竜ファブニール…!
しかしその風貌は、竜人族の姿だった。
暗黒竜ファブニールは、実は竜人族の王でもあった。
「どうだ?この私と、手を組まないか?」
はあ?いきなり何を言ってやがる。俺はお前を倒した張本人だぞ?
って、他にどうすることもできないので、とりあえずその話にのることにしてみた。
「それで、あんたと手を組むとして、俺はどうすればいいんだ?」
「…殺せ。」
「……!」
「お前を追い落とした者たちを殺すのだ。」
なんか、いかにも暗黒竜らしい物言いだな。なるほどな…。
これで暗黒竜と、その暗黒竜を倒した勇者が手を組むこてになれば、最強のタッグじゃないか。
これで、あのカルザスに、奴に復讐することができる、そのための、これ以上ないような手段を、俺は手にしたということになる…。
次話に続く