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「……よく、嘘が下手だって言われません? 泣きそうな顔をして、じゃあねって言われて、はいそーですかって引き下がるほど僕はあなたに無関心ではありません。
そこまで話しておいてどうして僕の前で泣かないんです? 泣きそうなあなたを一人で泣かしたりしません。あなたは素直に僕の腕の中で泣けば良いんだ」
普段は優しい後輩くんの強気な言葉。
普段、どんなに照れ隠しで酷いことを言おうと苛立ちを見せない後輩くんが、私が一人で泣こうとしていたことを見破って、そのことに対して苛立ちを見せていて。
最後は私の意志関係なしに、大学へと逃がさないと言うかのように強く抱きしめられている。……抱きしめられている、そんな事実に心臓が痛いほど胸は高鳴っているのに、不思議と後輩くんの腕の中は気持ちを落ち着かせてくれた。
後輩くんの少し早い鼓動も。
後輩くんの体温も。
少し痛いなと感じる腕の力も。
私を包み込めるくらいの体格差も。
後輩くんの優しい声も。
後輩くんの優しさも、全てがさらにあなたを好きにさせる。
毎日、後輩くんに会うたびに、あなたに対する気持ちは日に日に増していって、それが少し照れくさくて、素直になれなくてつれない態度をとったり、意地悪したりしちゃって。
……大人げなくてごめんね、そう内心では謝れるのに言葉にできない不器用な私を、見捨てないで接してくれるあなたも好きで。
「そうだよ、私はいつだって君の前では嘘つきなの。……今日だけは、嘘をつけないみたい……」
初めて。初めて素直になれた。
素直に、抱きしめてくれている後輩くんのことを抱きしめ返すことが出来た。
そんな私を見て、後輩くんはどんな顔をしているんだろうって気になったけど、怖くて見れなかった。怪訝そうな顔をしてないかとか、困った顔をしてないかとか。
最初は後輩くんばかりのことを気にしてたけど、後から不思議と涙がポロポロと流れてきて、どうしたらいいのかわからず、年下の彼に縋り付くように泣くことしか出来なかった。
そんな私を、後輩くんは何も言わずに泣き止むまで抱きしめてくれていた。