第2章 1
第2章は、幸人視点です。
よろしくお願いします。
忘れられない恋がある。
それは、僕にとって最初で最期の恋だった。その恋を、未練がましくも忘れられずにいる僕がいる。
……その恋を手放すことを選んだのは僕なのに、僕は彼女を未だに心から愛している。例え、彼女は僕のことを嫌っていたとしても、僕は……。
ーーこの恋を手放すことは出来ない。
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「幸人様、今日の回収分はこれで終わりだ。……また、頬を触ってる。お前ってやつは彼女のこと、本当に好きだな。
CDまで買ってるくらいなら、あの店にまた行ってくれば良いのに。最後に行ったのはいつよ?」
気付けばいつも頬を触ってる。
平手打ちされた時についた傷はとうの昔に消えているのに、指摘されないと気づかないくらいに触れることが癖になってしまっている。
……平手打ちされたとは言え、最初で最後になってしまったけれど、唯一、彼女から僕に触れてくれた瞬間だったから、愛しい彼女と過ごした時が少なかった分、痛い思い出だとしても、愛しく懐かしい思い出だから大切にしたい。
そんな時間を手放すことを決めたのは自分だから、……今更「会いたい」だなんて望めるはずがない。
「あの店に行ったのは、お前と行ったあの一回きり。それ以来行ってない、……行けるはずがない」
だから、僕は相棒の質問にいつも、決まってそう答えるのだ。
毎回、その答えを聞くたびに、呆れたような顔をする相棒。
相棒がそんな顔をする時は、決まって「ヘタレだな、お前は」って内心そう思ってるのを僕は知っている。言われなくてもわかるほどの年月を相棒と過ごしてきたから。
そんなの、言われなくたって自覚してるんだ。振られる勇気がなくて、今更会いに行く根性のないヘタレだって。
……あの人は僕が生きてきた中で一番魅力的な人で、側に行くことが出来ない今でも僕を魅了し続けているからこそ、僕の役目を知られた時の反応が怖くて好きだからこそ側にいられない。
ああ、こう思うとつくづく僕はヘタレだ。しかも、初恋をこじらせ、その恋を終わらせられないヘタレでもある。一人でじめじめとネガティブに考えて、先に進めないでいる根性なし。
こんな奴だと知られたら、ますます先輩に嫌われてしまう。
嫌われるくらいなら……、僕はこのまま初恋をこじらせたまま死にたい。
「馬鹿じゃねーの?」
その一言でわかった。
……当たり前だよね、長年側にいるのは相棒もまた同じ。顔で察しちゃうよね……。
なんて、考えながら黙っていると、そんな僕をお構い無しに話を続けた。
「その顔はどうせ、大事な大事な先輩にくらいなら? 自分の初恋をこじらせたまま考えてんだろ? ヘタレするのもいい加減にしろよ。
嫌いな奴に、弱ってても触れさせると思うのか? お前の大事な先輩はそんなに無防備な奴なのか? 俺から見たらそう見えないね。
あの人は、異性に簡単に触れさせるほど無防備な人じゃないと思うぞ。よっぽど、親しくて、信用できる異性じゃないと触れることも、触れさせることもしない警戒心の強い女性だよ」
その言葉で僕ははっとさせられた。
……そうだった、彼女は怖いことも、辛いことも、一人で立ち向かおうとする強い女性だった。自分が壊れそうになっても、耐えられるそんな人だった。
「……今からでも、遅くないかな……」
そんな僕の自信なさげな言葉に、
「何言ってんだよ、初恋こじらせて一途に想ってんのに今更だろ? 恋人から奪い取る覚悟でいけよ、それくらい好きなんだろ?」
相棒なりの激励の言葉に僕は、
「何年経っても僕にとって一番魅力的な女性は、先輩だけだよ」
そう言葉にして、どれだけの覚悟を持って先輩と向き合うと決めたのか、相棒に見せつけてやれば、ずいぶん長かったなと彼にため息をつかれてしまったのだった。