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「大丈夫ですか⁉︎」
そう言った彼の声はとても優しくて、穏やかで、なおかつ力強くて忘れられないくらい綺麗で、純粋な音だった。
恐怖でいっぱいだった私の心を、包み込むような安心感を与えてくれたの。
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「痴漢されたぁ⁈
犯人は取り逃がしたの?
捕まったの、どっちなのよ!」
見た目は派手で、言葉もきついが、友達想いな桜野詩憐ちゃんは私の親友で、幼馴染だ。
そこまで私のことを心配してくれるのは嬉しいのだけど、運が良いことに、
「痴漢、捕まったの」
と、言えば詩憐ちゃんは安堵したような表情をした。今まで散々心配かけたから過度に心配させちゃうのは、私がいけないんだけどね?
詩憐ちゃんが、心配するようなことばかりしちゃってごめんね? なんて、聞こえてないけど内心謝ってみる。
「なんで、残念そうなのよ。
のんきすぎて馬鹿になったの?」
相変わらず、最早猛毒レベルの毒舌ね。まあ、昔馴染みだから心配の裏返しだってことはちゃんと分かってるけど。
……詩憐ちゃんは不器用な子で誤解されやすいから、色々損してきたけど、根は良い子だから幸せになって欲しいな〜ってそう願ってる。
ーー詩憐ちゃんも、昔色々と巻き込まれたことがあったから恋したくないって思う気持ちもわかるけど、詩憐ちゃんのことを誤解しないで見ていてくれる人はちゃんといるんだけどな……。
いつまでも見て見ぬ振りをしないで、その人のことを信用しても良いのに……。
……一人は寂しいよ?
なんて、こんなこと言えないから彼が行動する日をのんびりと待っている今日この頃。今日、私は怖い日だと言うのに皮肉なことに……、
「一目惚れしちゃいました……。
痴漢から助けてくれた男子高校生に」
私は年下の男の子に、しかも名前も知らないのにも関わらず、助けられた時に聞いたあの声に聞き惚れたあげく、目を奪われてしまったの。
「それはしょうがないよな、吊り橋効果には抗うこと出来ないよ。でもな、鈍感なあんたが吊り橋効果にドキリッとさせられることなんて一度もなかったし、あんたの鋭すぎる絶対音感に認められる声の持ち主としか考えられないな」
……流石としか思えない位の察しの良さに、思わず気まずくなり、そっぽを向いて見れば、詩憐ちゃんは大きな溜息をついて、
「図星なのね」
とはっきり言われてしまえば、そうだと認めざる終えないじゃないか。
はい、そうですよ〜と図星だと認めようとした時、タイミング良く講師から連絡が来た。弟子である以上、着信スルーする訳にもいかず……、
「せんせ? なんか用ですか?」
私は彼のことを尊敬しているから着信スルーは出来ないと言うのもあるけど、
「最近、調子はどうかなってそう思ってね? バイトも、本屋でも勤めているみたいだし、体調は崩してないか心配になってさ。
あいつも自立して欲しいって思ってるだけなんだよ、それで倒れちゃったら元のこもないのにね。自分で生活費を稼ぐのはきつい?」
父さんの友人でもあるのだ、彼は。
彼は誰かの友人であろうと講義に私情を挟むような人でない。なのに、彼は私に教えてもらえているから、技術を盗めるくらいの立場に居させてもらえるのだから、私は着々と実力をつけることが出来ているんだと思う。
だからと言って、その実力に天狗になって、努力を怠るつもりはないけど。
正直に言えば、二つのバイトを掛け持ちしながら講義を受けるのは辛い。
だけど、二つ目のバイト、本屋のバイトを始めたのは今年、大学三年になってからだから大学一年からきっちり講義を受けてきたため、だいぶ楽にはなっているんだけどね?
私、篠坂篠里は父子家庭だ。だから、生活費を自分で稼ぐことに不満など抱いていないし、今住んでいるアパート代や大学費を払ってもらえているだけ有難いと思っているし、自分の好きなことを学べることを贅沢のようにも思える。
父さんは凄い人だ。
顔が広く、父さんが忙しい時でも私の側に誰かがいてくれるように頼んでくれた優しい人だ。私が師と出会ったのも、こればっかりは親のコネだったけれど、今の弟子の立場を手に入れることが出来たのは、正真正銘私の実力だ。
父さんはある意味有名人だ。
だから、保護者の欄に祖父が名前を書いてくれた。父さんは、何があろうと娘の名前も、祖父の名前も世間に言ったことはなかったから、私はこうして、篠坂理人と言う小説家な父からの親の七光りだと言われずに済んできたんだと思う。
だからね、私は、
「父さんには感謝しています。
バイトの掛け持ちは大変ですけど、だけど社会の大変さはわかったのもありますが、私は父さんの方針に不満を抱いたことはありません。
ちゃんと三時間以上は睡眠とるようにしていますし、栄養バランスにも気をつけるようにしています。これで、ピアノを弾けなくなったり、歌を歌えなくなったりしてしまったらそれこそ、今までの努力が水の泡ですから」
父さんこと尊敬してるから、自分で出来ることは自分でこなしていきたい。怠ることはなく、無理はしない程度にだけどね。
「今日の歌、楽しみにしてるよ」
そう言って、自分の師である神崎新さんは電話を切ってしまった。……ったく、二人して自由人なんだから困っちゃうわ。
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講義も終わり、今日は二時間ほど本屋のバイトのシフトがあるから、慌ててバイト先まで向かえば、いつもの穏やかな口調で誰かと話していた。
……お客様かな……。
なんて、考えながら、
「店長、こんにちはー。二時間しかバイトできなくて申し訳ないです」
と恒例の挨拶をすれば店長は心穏やかにするような笑顔と、優しい声で、
「いーや、忙しいのにごめんね?
あっ、そうそう! この子今日からバイトに入ってくれる草壁幸人くんだよ。君がこのバイトに入ってから初めての後輩くんだよ、よく面倒見てあげてね?」
逆に謝っちゃうのも恒例の挨拶である。
……もう四十代後半のおじさんなはずなのに、首を傾げる姿があざとく感じさせないこの店長が日々の癒しだわ。
なんて考えながら、店長の後ろにいる後輩くんの姿を覗き見てみれば……、
後輩くんの正体を知った時、私の心臓は飛び跳ねているかのように速くなった。




