【カヤ】 座敷楼 ① 武士
目が覚めると夕方で、そこには知らない町並みがあった。
「そこの娘、見慣れぬ装束だが渡来の者か?」
私に声をかける和服の男を見て、ここは現代ではなく昔の時代なのだと理解さた。
「あの、自分が誰なのかわかりません。なぜここにいるのかもわかりません」
私がそうこたえると、男は考えるそぶりをみせる。
「つまりわかるのは記憶がないということか」
「そうです」
記憶をなくしても、言語は理解出来る。
「私にお前の記憶を取り戻してやることはできん。何分、医者ではないのでな」
警察に届けてくれるわけでもないようだ。
「料理はできるか?」
「はい」
――私は彼に連れられてこられたのは楼閣と呼ばれる時代劇でよく見る花魁がいる場だった。
「私はここの楼主の息子でな、絶賛弟と跡目争い中なんだ」
長い黒髪を一つに結った男、整った顔をしている。
私は着ている服からして学生だった。
昔の人だからいるわけがないけど、やぼったい男ばかりのクラスにいないようなタイプ。
「はあ……そんなに要心するなら今まではどうしてたんですか?」
跡目争いなんて今時珍しい話だ。いや、今時ではなく昔時だけども。
「これまで食事は毒殺やらが相次ぐので自分でやっていたが……」
「なのにどこの馬の骨ともわからない私を信用するんですか?」
男は頬杖をつきながら、フ……と静かに笑った。
「記憶を無くした者ならば、むしろ雑念がなく信用できるからだ」
私は彼の食事掛かりになったらしい。
「あ、楼サマだよ」
着物の女達が歩く彼を見ている。美男だしモテるのはおかしくない。
こっそり聞き耳をたてる。
「どうせすれ違うなら宏サマがよかったねぇ……」
「兄弟なのに宏サマよりよくないしねぇ」
――意外とあまり好かれていないらしい。




