name茅:序章 おかえり、再びの選択
パラレルワールド、それは自分と同じ人間が別の地球にはいて、まったく別の人生を歩んでいるという不思議な話。
―――家族とすれ違い、自分を見失った少女がいた。
少女は知らぬ間に入り込んだ異次元の狭間で巡りの番人と名乗る不思議な男と出会う。
巡りの番人は己の罪を見つめろと少女に言った。
取り引きをして、記憶を消去した少女はカヤという名だけを持ち、何度も記憶を消され巡り続けた。
しかしなぜ自分が平行世界を行き来しているのかまったく手がかりがつかめないカヤは、幾度となく旅を続ける。
テレビやオカルト誌の中だけで現実にあるわけもなく。
普通の高校生として生きてきた。
筈だったがパラレルワールドを何度もめぐった。そして、ついに―――――――
「百回目お疲れさま」
白くて長くて浮世離れしたロングヘアと憎たらしい微笑み、これで美青年でなかったら顔面をパンチしていたに違いないほど腹が立つ。
「いい加減もとの生活に返してよ!!」
つい手が出てしまう。
「もとの生活?どれのことだろうね?」
軽く頭を抑えられてパンチは当たらずぐるぐるとローリングしただけ、余裕そうな彼を見ると余計に神経を逆撫でられた。
「君は自分の罪をわかっていないね」
また出た私がどんな罪を犯したっていうの。
簡単に説明すると、私はある日突然“巡り番人”と呼ばれ慕われるこの不思議な男と出会い、無実の罪を着せられ、いくつもの平行世界に飛ばされてしまうようになったのだ。
「平行世界を百回終えたご褒美に落雁と、特別な世界をあげよう」
にこり、笑っているのに恐ろしい。
すごく嫌な予感がする。
「…もう、落雁はもらうけど特別な世界なんていらない!」
手から落雁をうばいとって食べる。
「君、美男は好きだろう?」
唐突になにをいいだすのか、美男、古風な言い方をされて一瞬戸惑った。
「イケメンかあ…人並みに?嫌いな人はいないんじゃない」
ただし目の前の男はのぞいて。
「さあ、次の世界を念じるんだ」
「念じる?」
四つあるうち三つの扉の向こうに、人の姿が見える。
なんだろう。青年―――少年――和服の男性―――あとひとつ最後の扉は閉ざされていて見えない。
この三つの中から私は―――――――