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タマ、もっと冒険する

『ど、どうしよう……』

左を見て、右を見る。誰もいない。後ろも前も見てみる。……誰もいない。

見知らぬ廊下に立ったまま、私は呆然と呟いた。




『……ここ、どこだろう……?』

同じ道を進んでいたはずなのに、いつの間にか知らない場所に来てしまった。気がついた時には、もう知っている道に戻ることも出来なくなっていた。




『…………』

真っ直ぐ進んで、また戻ってみたり、道を戻ってみて、また帰ってきたりを繰り返す。人気がない廊下は少し怖い。知らない場所なら尚更だ。じわりと目に涙が浮かんできてしまって、慌てて服の袖でゴシゴシ拭いた。




『だ、大丈夫!泣かないっ!』

無理矢理元気を出して、勇気も出して前に進む。誰かに会えたら話しかけて、取り合えずへーかの名前を言ってみよう。もしかしたら、へーかのお部屋に連れてってくれるかも。

無意識の内に足早になってしまいつつ、廊下を歩く。誰か、いないかなぁ。





「……ーー!……!」

「……ー!……ー!」

「……ー!…………!」

『あ、人の声だ!』

遠くから、たくさんの声が聞こえてきた。やった!へーかの所に帰れるかもっ!

慌てて声のする方向へ走る。途中どっちの方向か分からないこともありながら走っていたら、開けた屋外に辿り着いた。




『おー!』

乾いた土の上で、たくさんの人たちがチャンバラごっこしてる!

私はあまりやったことないけど、男子の友達がよくやっていた。新聞紙とかを丸めたり、中にはおもちゃの剣でチャンバラごっこするのをたまに見てたから知っている。私の弟の暁人もおもちゃの剣を持っているし。



『話しかけたら怒るかな?』

様子をみながら、誰か暇そうにしている人はいないかなぁと見渡してみる。カンキン、って棒がぶつかる音がちょっとうるさい。




『ぁ、あの人暇そう!』

暇そうに腕組みしながら叫んでいる人を発見した。

目付きはへーかよりも鋭くて怖い。おでこの所にへーかよりも短い尖ったツノがあって、髪の毛は真っ赤っ赤だ。あの仮装は見たことある。鬼の仮装だ。髪の毛は本物みたいにモジャモジャしてないけど。

でも、あんなに大声出しているのに、みんなチャンバラごっこに夢中で誰もあの人のこと見てないや。仲間外れにされちゃったのかな?ちょっとかわいそう。




『すみませんっ!』

「てめぇらそれでも魔王軍かー……、って、あぁ?なんだこいつ」

「へーか!るーべると!」

「……なんだこいつ。俺は陛下でもルーベルトさんでもねぇぞ?」

鬼の人は鋭い目付きを更に鋭くさせて首を傾げた。うーん、やっぱり伝わらないなぁ。




「あ、タマ様だ」

「ほんとだ、タマ様だ。初めて見た」

「何?人間?」

「ちっちぇー」

チャンバラごっこしていた人たちが、何か喋りながら急に私たちの周りに集まりだした。な、なんだか囲まれてしまったぞ……?で、でも怖くないんだから!




「なんだよ、タマ様って」

「ノロ様、ルーベルト様が言っていたじゃないですか。魔王様が飼っているペットですよ、ペット」

「あぁ~、言ってたなそんなこと」

「タマ様を害したら殺すって、陛下が言っていたじゃないですか」

「ふ~ん……」

鬼の人が私を見下ろす。無表情だったのに、急にニタリと笑った。へーかやルーベルトが浮かべる笑みとは正反対の笑顔だ。こ、怖く、ない、もん……。




「ハッ、陛下やルーベルトさんも落ちぶれたもんだな。こんな人間一匹を可愛がるなんてよぉ」

鬼の人が私の頭を片手でガッシと鷲掴む。力が入っていて、ちょっと痛い。私と目線が合うように座り込んだ鬼の人は、キバみたいな八重歯を見せて笑った。




「おい人間。ここはてめぇみてぇな奴がいていい場所じゃねぇんだよっ!さっさと人間界にでも帰れっ!!」

『ひっ……!』

なんて言っているか分からないけど、怒られているのは分かった。反射的に涙が溢れてくる。や、やっぱり、怖い、かも……。

へーか、へーかの所に帰りたい。へーか助けてっ……!




「ぅ、くっ……、ひぐ、へーかぁ……」

「「「…………」」」

涙が溢れてくるけど、子供みたいに泣きじゃくりたくなんかない。子供みたいにわんわん泣いたら、へーかは戸惑ってオロオロしちゃうから。だから、私は必死に嗚咽を押し殺して、頬を伝う涙を拭う。




「……あーあ、ノロ様泣かした」

「い、いや、その……。だって、相手は人間だし……」

「でもまだ子供なのに……」

「あんなに恐がっちまって、かわいそう……」

「てかこれ、魔王様に見つかったらヤバイんじゃないっすか?」

「…………」

「…………」

「…………」

顔を見合わせた人たちが、いきなりその場に座り込んだ。




「ぉ、おい泣き止めよ。何も泣くことねぇだろ」

「ほら、なんにも怖いことないって!」

「ノロ様謝っとけ!」

「す、すまねぇ……」

「ほら、怖くないぞ~?」

手をワチャワチャ動かしながら、慌ただしそうに何かを喋る鬼の人と仲間の人たち。何してるんだろう?




「こ、子供をあやすのってどうやるんだ?」

「さ、さぁ……」

「陛下が抱っこしているの見たことあるけど……」

「…………」

「…………」

「…………」

「……ここはノロ様でしょ」

「はぁ!?なんで俺が!」

「ノロ様が泣かせたんだし……」

「……チッ、あぁくそっ!」

鬼の人が頭をガリガリと引っ掻いたと思ったら、いきなり脇に手を入れられ、抱き上げられる。何事かと私は鬼の人の腕の中で固まった。だけど、案外優しく抱き締めてくれる。ビックリして涙が止まっちゃった。




「お、泣き止んだぞ」

「おい、次はどうするんだ?」

「…………」

「…………」

「…………」

「……な、撫でてみるとか?」

「え゛」

「優しくっすよ、優しくっ!」

そぉっと、腫れ物でも触るかのように、鬼の人が私の頭を撫でた。ゴツゴツしていない、まるでへーかの手みたいだ。

もしかして、励ましてくれているのかな。私が泣いたから、心配してくれているのかな?

ちょっと落ち着いてきた私は、目を閉じてふぅ、と息を吐いた。




「「「ぉ、おぉ……」」」

「ほら、もういいか?ガキ」

頭を撫でてくれた鬼の人が私の顔を覗き込む。もう怒ってなさそう。




「ごめん、ありがとー」

「お、おぉ、喋るのか」

「これで殺されずに済みそうだな」

周りの人の顔が安心したように緩む。なんだ、やっぱり怖い人じゃなかったのかな。



「お前陛下の所から逃げてきたのか?」

「散歩なだけかも?」

「魔王様の所に連れていった方がよくないすか?」

「へーか、行く!」

「ほら、本人もそう言ってるし」

「…………」

何を喋っているのか分からないけど、鬼の人がなんだか苦い顔をしている。どうしたんだろう。私持っていたら、手が痛くなっちゃったのかな?




「……も、もうちょっとここに置いといてもいんじゃね?」

「「「…………」」」

「……ノロ様がデレた……」

「怖い……、デレたノロ様怖い……」

「明日は火の塊か氷の塊が降るかも」

「ノロ様が頬染めるの気持ち悪い……」

「で、デレてねぇよ!」

ぎゃあぎゃあと鬼の人が声を荒げた。どうしたのか分からないけど、私の頭を撫でてくれる手は一定の速度で往復する。

そんな時、唐突に声が聞こえた。




「タマ様、帰りますよ」

聞きなれた、少し嗄れた声に私は反応した。

慌てて鬼の人の腕から降りる。私は走ってその人に抱きついた。



「ろべかる!」

「こんな遠くまで、たくさん冒険しましたねぇ」

「ろべかる!へーか、行く!」

「そうですね、陛下が待っております。帰りましょうタマ様。ノロ様、タマ様が御世話になりました」

「「「……ノロ様、ロベカルさんに敗れる……」」」

「てめぇら、ぶっ殺してやる」

低く鬼の人が呟いた。周りの人が悲鳴を上げながら逃げていく。

最初は怖かったけど、案外優しい人たちだったなぁ。ロベカルと手を握って、もう片方の手でバイバイした。鬼の人だけじゃなく、みんなバイバイしてくれた。

良かった、これでへーかの所に帰れるっ!



「てか、ロベカルさんよくここにいるって分かったな」

「お前ロベカルさんの能力知らねぇの?」

「木の魔物ってことしか……」

「ロベカルさんは魔王城の地面や壁に根を這わせて、どこに誰がいるか把握できるんだよ」

「へぇ……」

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