タマ、冒険する
小説の削除についてなのですが、削除せずに連載を続けることにしました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
私の名前はタマになった。
本当はタマじゃないけど、タマってことになっている。
だって、へーかたちが私のことを『タマ』って呼ぶから。でもちゃんと殊音って名前も忘れないようにする。だって、こっちはママとパパがつけてくれた名前だから。
どっちも大切な人たちがつけてくれた名前だから、どっちも大事にするの。
そして、私は今日、一大決心をした。
「ろべかるー」
「はい、なんでしょうかタマ様」
図書館の整理をしているロベカルに走り寄る。ロベカルは曲がっている腰を更に曲げて、タマに目線を合わせてくれた。
「ん!」
『紙とペン下さい』って言いたいんだけど、日本語は通じないからもどかしい。仕方がないので、私は紙束とペンを指差してみた。
「ん……?ああ、紙とペンが欲しいのですね」
ロベカルはすぐに察してくれて、私に紙束とペンをくれた。ついでにインクが入ったビンも。
「あり、がと!ろべかる!」
ママに教わったように、しっかりと頭を下げてありがとうと言う。私はすぐに机の上に紙を広げた。
ここの紙は、私が知っているものよりも固くて分厚い。ペンも、なんだか不思議な形をしていて、鉛筆みたいに上手くいかない。下手すると手がインクでベトベトになる。
でも、へーかがくれた可愛い服は汚したくないし、手がベタベタだとへーかは嫌がると思う。へーかに嫌われるのは嫌だ。だって、私はへーかが大好きだから。
でも、へーかも私のことが好きって言ってくれた。だから、私とへーかは、『そーしそーあい』ってやつなのだ!
『できたっ!』
完成した紙を見て、私ははしゃいだ。綺麗に書こうと思っていたけど、やっぱりちょっとインクが擦れている部分もある。あと、手もやっぱり汚れてしまった。あとで洗おう。
「ろべかる!あり、がと!」
本の整理をしていたロベカルに、インクが入ったビンとペンを返した。あ、でもインクもペンも、私の手についていたインクのせいで汚れてしまった。どうしよう……、怒られちゃう?
「ああ、タマ様、少しお待ちください」
ロベカルが少し席を外す。やっぱり、汚したこと怒ってるのかな。でも、他の場所に手を触れたら、もっと汚しちゃうし……。オロオロしてたら、ロベカルが手にタオルを持って帰ってきた。私の手からペンとビンを取って拭い、私の手も拭いてくれた。
「タマ様、お顔も汚れておりますよ」
「んっ」
綺麗な面を出して、ロベカルが顔を拭いてくれた。いつの間に顔についていたんだろう。少し恥ずかしい。
「ありが、と!」
「いえいえ。あとタマ様、これは、紙、ですよ」
ロベカルが紙束を指差して『紙』という言葉を繰り返してくれる。
ロベカルの発音を聞いて、覚えて、私はロベカルの発音を真似した。
「か、む!」
「紙、か、み、です」
「か、かみゅ、かー、み!かみ!」
「そうです!そして、これはペン。ぺん、です」
「ぺ、む、ぺん!」
「そうです!タマ様、良くできました」
ちゃんと言えると、ロベカルは頭を撫でてくれる。もっともっとへーかたちの言葉を覚えて、へーかとたくさん喋れるようになりたいなぁ。
「ありがと!タマ、行く!」
ちゃんとお礼を行って、紙を持って図書館を出る。ロベカルは図書館から出ちゃ行けないとか言わない。私も迷子にならないように注意しながら、大きな廊下を一人で歩く。
『あ、テープもらうの忘れたっ!』
どうしよう、戻ろうかな?
でも、テープが要らないように頑張れば大丈夫かな?
「あ、タマ様だ」
タマ、という言葉が聞こえて、私はつい声が聞こえた方を見た。そこには、怖い格好をした……、たぶん、男の人たちが立っていた。一人は背中に真っ黒な羽があって、もう一人は腕が四本あった。
最初はやっぱり怖かったけど、でもみんな仮装しているから慣れてきた。それに、みんな見た目よりもいい人だから、大丈夫。
「タマ様って?あれ人間の子供だろ?」
「お前知らないのか?ずいぶんと前から、魔王様が飼っているんだよ」
「へぇ……、なんだ、太らせてから食べるのか?」
「さぁ、でも滅茶苦茶可愛がっているらしくて、タマ様を害したら絶対に殺されるから覚悟しとけって、ルーベルト様が」
なんの話しているんだろう?話すスピードも速いし、あまり単語が聞き取れない。
『どうしたの?』
「うわ、喋った?」
「でもなんて言っているか分かんねぇぞ」
私が話しかけると、ズザザッと後退りされる。私にはあまり関係のないことなのかな?でも取り合えず、私は今やらなくちゃいけないことをやってしまおう。
『じゃーねー!』
「あ!どっかいっちまうけど、大丈夫か?」
「まさか、脱走中か?」
「捕まえたほうがよくねぇ?」
私が走ると、彼らも走る。不思議に思って足を止めると、彼らも止まる。
『むー?』
「お、おいお前捕まえろよ」
「嫌だよ、怪我させたらどうすんだよ殺されるぞ」
「人間って弱いからなぁ……。子供なんて、触ったら壊れそうだし……」
遠慮がちに私を見てくるその人たちに、思わず首を傾げる。何がしたいんだろう?
『もしかして、一緒にいたいの?』
「……疑問形、だよな?」
「と、とりあえず頷いておくか」
こくこくと首を縦に振る男の人たち。そっか、一緒にいたかったからついてきたのか。
私は彼らの間に割って入り、二人の手を握った。これで一緒だね!
『じゃ、行こっ!』
「お、おっ!?」
「おいどうしてこうなった!?」
二人の手を引っ張って、私はどんどん進む。二人の手はおっきくてゴツゴツしてて、本物の岩みたいだった。へーかの手は、指が長くてスベスベな綺麗な手をしている。そんな手で頭をゆっくりなでられると、すごく気持ちいいんだ。
『ここらへんでいいかな?』
だいぶ人通りが多い所に来た。こんなに図書館やへーかの部屋から離れた場所に来たのは初めてだ。ちょっとした冒険気分。大きな門があるから、ここは入り口なのかな?
そこには色んな格好をしている人がいて、中にはお化けみたいな人も、怪獣みたいなわんわんもいる。みんなジロジロ見てくるけど、怖くない。
ほんとはやっぱりちょっと怖いけど、隣におっきな男の人がいるから大丈夫。
『ここにしよ!』
壁に近づいて、紙束をどこに貼ろうか考える。もっと高いところに貼りたいんだけど、私の背じゃどうしても届かない。
『ねーねー、お願いします!抱っこして!』
「な、なんて言っているんだ?」
「この紙を貼りたいんじゃないか?さっきから壁に押し付けてるから……」
ひょいっと紙を奪われて、高めのところに置いてくれた。剥がれない?大丈夫?
「これ、勝手に張り付けていいのか?」
「タマ様が主犯なら、魔王様も怒らないだろ」
四本腕の人が紙を押さえて、羽の人がポッケからチューブみたいのを出した。チューブを押して出てきた、ピンク色のゼリーみたいのを紙に塗りつける。そしてペタッと壁に押し付ければ、紙は剥がれてこなかった。
「ほら、タマ様、これでいいか?」
脇に手を入れられ、そぉっと持ち上げられる。おかげで、張り付けた紙がよく見えた。
うん、斜めってない。
文字もしっかり見えるし、へーかの似顔絵も書いてあるし、『人を探している時の言葉』も入ってる。かんぺきっ!
「ありがと!ありがとー!」
「おお、喋った」
「どういたしましてー」
下ろしてもらってから、ペコリと頭を下げる。二人も頭を下げてくれた。
それから私はもと来た道を歩き始めた。バイバイと手を振ったら、二人も手を振ってくれた。優しい人だ!
「いやぁ、案外、怖がらなかったな」
「人間の子供って、みんなあんな感じなのか?」
「さぁ、タマ様だけじゃね?」
「……ところでこの紙、なんて書いてあるんだ?」
「さぁ……」
二人は貼り付けられた紙を見る。
【はしもとことねは、へーかといます!だれか、ママにつたえてください!
このかおにピンときたら110ばん!】
日本語だけど、私の名前もへーかの名前も入ってる。似顔絵も書いた!
うん、かんぺきだっ!