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魔王様、翻弄される

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「陛下、アザテノ砂漠が沈没しました」

「またか、今年は多いな」

ふぅ、と息を吐く。今年で12回目だ。また前回と同じように仕事を振り分けていく。どうせ今回も二日経てば干上がって元の砂漠に戻るのであろう。



「津波を防ぐ防波堤を作りましょうか?」

「あまり手を入れると先住民のリザードマンが怒るぞ。放っておけ」

「では、天界と人間界からの侵略の話なのですが」

「なんだ、また同盟を組みおって勇者などとくだらぬ者を召喚しよったか?」

「そのような動きがあったことは報告に上がっております。ですが、召喚してみたらネズミが出てきたらしく、失敗したようです」

「ふん、勇者などという者がいない限り、人間界は取るに足らぬ存在。あと5年は野放しにしておいても問題はないだろう」

「では、人間界側の兵士を少し移動させましょうか」




「へーか」

きぃ、と扉が開く音がした。




「む……?」

「あ、タマ様」

振り返ってみれば、タマが扉を少しだけ開けて顔を半分だけ覗かせていた。一人で来たのか、ロベカルの姿はない。




「どうしたタマ、我輩が恋しくなったか?」

ちょいちょいと手招きをしつつ、膝をポンポンと叩く。丁度いい、休憩がてら、タマと遊ぶことにしよう。

だが、タマは扉から体を半分出したまま動かない。こちらを見つつ、口を開けたり閉じたりを繰り返している。




「…………タマ?」

「…………へーか、タマ、すき?」

途切れ途切れの言葉を聞いて、我輩とルーベルトは数度瞬きをした。自身のことと、好き嫌いも言えるようになったか。

そして今の言葉は、『へーかはタマのことがすきか?』という意味なのだろう。我輩は不敵に笑った。




「フッ、何を分かりきったことを。我輩はタマの事が好きだぞ?」

じぃっと見つめるタマにしっかり聞こえるように宣言すれば、ぱぁっとタマが笑顔になった。

花が咲くようなとはこのことを言うのだろう。くりくりの瞳を輝かせ、頬を染めて笑顔になるタマを見ると、自然とこちらも笑顔になる。今までで一番の笑顔だ。



「タマ、へーか、すきっ!」

きゃー、と嬉しそうにそう言ったタマが、パタパタと足音を鳴らして去っていく。我輩は隣に立つルーベルトを見上げた。





「いやそんなどや顔でこっち見られましても」

心底煩わしそうにルーベルトが呟いた。





「フッ、やはりタマは我輩の事を好いておったか」

「あーはいそうですね」

「ルーベルト、悔しいからとそう自棄になるな。タマが我輩の事を一番好いておるのは目に見えておっただろう?」

「いやタマ様は陛下が一番とは言っていませんでしたが」

負け犬の遠吠えを右から左に受け流しつつ、我輩は仕事を再開する。現在進行形で無敵モードの我輩に、勝てる者はいないのだ。









それから一時間後、またタマが我輩の部屋に訪れた。



こんこん、とノックをされ、タマが扉から体を半分だけ出す。先程のようにオドオドとはしておらず、瞳をキラキラ輝かせて我輩を見つめてきた。俗に言う、期待の眼差しだ。




「へーか、タマ、すき?」

先程と同様の質問。何度も確認したいほど、我輩の事が好きなのかタマ。ならば何度も確認させてやろう!




「我輩はタマのことが好きだぞ」

「タマも、へーか、すき!」

嬉しそうに再確認するタマににやけていると、蚊帳の外となっているルーベルトが『陛下、気持ち悪いです』と悔しそうに呟いた。

聞こえんのうっ!そのような負け犬の遠吠え、聞こえんのうっ!




「タマ、へーかきらーいっ!」

「え」

きゃーっと嬉しそうに笑うタマが、爆弾を落として部屋を後にした。




「…………」

「いやそのような世界の終わりみたいな顔されましても」

「貴様こそ嬉しそうににやつくなルーベルトッ!」

ニヤニヤとにやつくルーベルトが心底憎らしい。



「ほらほら陛下、手が止まっておりますよ。さっさと仕事してください」

「ぐっ……!!」

タマに真意を聞こうと立ち上がる我輩を、ルーベルトは無理矢理また椅子に座らせた。

フッ、このような事で動じる我輩ではない。落ち着け我輩。さっきのはあれだ、きっとタマが恥ずかしがってきらいとか言っただけであって、決して我輩の事が嫌いなわけではない。そう、あれはただの……!




「陛下、資料が燃えております」

「…………」

いつの間にか、我輩が持っていた資料が塵と化していた。




「ぐあぁっ!やはりタマに真意を聞いてくるっ!」

「さっき言っておられたではないですか、嫌いと」

「黙れルーベルト!貴様こそタマの眼中にも入っていない事を分かっておるのか!?」

「なっ……!そのようなことは!」

「フッ、好きでも嫌いでもない貴様に笑われるなど、魔王たる我輩にあってはならぬ!更に言えばタマに嫌われるなど、あってはならぬのだ!!」

ルーベルトの静止を振り切り、我輩はタマがいるであろう図書館へと移動する。ロベカルと机に向かって勉強するタマは、我輩に気がつくと嬉しそうに我輩の名を呼んだ。




「へーか!」

「タマ、タマは我輩の事が好きだな!?」

「??」

「好きではないのかっ!?」

「へ、陛下落ち着いて下されっ!」

あまりの錯乱ぶりに、ロベカルが我輩の肩を掴む。その手を振り払う前に、タマが我輩に抱き付いた。




「タマ、へーか、だいすきっ!」

「っ……!!タマッ……!!」

ルーベルトが迎えにくるまで、タマを抱き締めてイチャついていたのは言うまでもない。

遅れて図書館に着いたルーベルトは、タマを膝に乗せて抱き締める我輩を見てため息を吐いた。




「陛下、早く仕事に戻りますよ」

「タマも連れていく」

「そうすると仕事が進まないでしょう。さぁお早く」

「そう嫉妬せずとも良いではないかルーベルト」

「別に嫉妬などしておりませんが」

仏頂面でそのようなことを言われても、全く納得出来ぬ。やはりタマは我輩の事が一番なのだな……。とほっこりしていると、




「ルーベルト、だいすきー!」

「なっ、タマ、浮気は許さんぞ!」

またタマが爆弾発言をして、ルーベルトと口論になった。








「ルーベルト、ふと思ったのだが」

「はい、なんでしょうか」

結局タマを自室に連れ帰った我輩は、ふとこんな事を思った。



「タマに嫌いって言ったらどうなるだろうか」

「…………別にどうもならないのでは?」

ベットの上でスウスウと眠るタマを見ていたら、そんなイタズラ心が芽生えてきた。タマが我輩に冗談でも嫌いと言われた時、一体タマはどんな行動を取るだろうか。

想像してニヤつく我輩は、ソロソロと寝ているタマに近寄った。ルーベルトも無理に止めない所を見るに、タマが一体どんな反応を示すか些か興味があるのだろう。




「タマ、タマ」

「んー、へーか……?」

寝ぼけ眼で我輩を見つめてくるタマに、嫌いなどと心にもない事を言うのは辛い。身が引き裂かれるかのような罪悪感がある。

だがしかし、タマがどのような反応を示すかという好奇心の方が勝った。




「我輩はタマが嫌いだ」

きょとん、とした顔で、タマが我輩を見つめる。




「へーか、タマ、すき、ない?」

「ああ、タマが嫌いだ」

「…………」

何を言われたか分からないという感じのタマは、次の瞬間、その大きな目に涙を溜め始めた。




「な、タマッ!?」

「へ、へーか、タマきらい?すき、ない?」

泣くのを必死に堪えながら、我輩にすがり付くタマ。わんわんと泣き出さない所が健気である。




「うそ!うそだぞタマ!我輩はタマが好きだぞっ!」

「***?へーか、タマ、すき?」

「大好きにきまっておろう!我輩はタマが大好きだ!」

「へーか!タマもすき!」

「タマッ!」

ギュウッと抱き締めてやれば、タマも我輩の背中に手を伸ばそうと必死になる。タマかわいいぞタマ!




「……とりあえず、陛下が苛つくということが分かりました」

ルーベルトの面白くなさそうな声を、我輩はまたスルーした。

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