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魔王様、怒鳴る




ドラーフェが行う夜会は、ただの飲み会と大差はない。

ドラーフェの莫大な財宝の中から、奴の興味が薄れた財宝を資金とし、野外で盛大に飲み食いするだけである。

しかもその飲み会は誰でも参加できるものであるため、この飲み会があるという噂を聞きつけた魔物たちが押し寄せ、毎度お祭り騒ぎとなる。




「ほれタマ、これも食え」

「へぇ、魔王様ペット飼ってるんですかい」

「酒足んねぇぞ!おい!」

「人間の子供なんて始めて見たぜ」

「そういやミラ様がまた男に逃げられたって知ってるか?」

「へーか、******!」

「ん?なんだタマ、我輩にくれるのか?」

「フェン様がまた天界にケンカ売ったらしくてー」

「酒足んねぇっつってんだろっ!」

「酒の肴もなー」

などと、どんちゃん騒ぎと化すのだ。

特に我輩の周りでは、人間の子供であるタマに皆が興味津々らしく、様々な種族が顔を見せにきた。眠気という緩衝材のお陰で、タマもそこそこ魔物の姿に慣れ始めているようだ。魔物たちに見られても、泣き出すことはなかった。

だが、タマが貴様らに慣れたとはいえ、貴様らにタマを触らせはせんぞ。その伸ばした手を退けよ。




「あー!あー!忘れてたぜっ!」

大口開けて酒を飲んでいたドラーフェが、唐突に大きな声を出した。




「ヴォルキース!てめぇに見せてぇもんがあったんだ!おい、ガルドラはどこだ!?」

「は、はい父上!」

地面に直接置かれた大皿を避けながら、一人の少年が慌ててドラーフェに近寄った。

金髪碧眼の少年の頭には、金色の角が生えている。後ろには金色のドラゴンの尻尾が生えていてフラフラ動いていた。まだ若いその少年は、居心地が悪そうにしながらドラーフェの横に立った。




「なんだ、そ奴は」

「俺の16番目の息子だ」

「のわりにはドラゴンらしくないな」

「母親は淫魔だからな。やっと成人したから、お前に会わせてやろうと思ったんだよ」

「は、初めまして魔王陛下。ガルドラと申します」

「ふむ、よろしく頼むぞ」

「は、はい!」

ヒュンヒュンと金色の尻尾が左右に振られる。尻尾が付いている魔物はこうやって感情が分かるのが助かる。タマにも尻尾があれば良いのだが。



「……へーか、*****」

「お、どうしたタマ」

モジモジとしながら、タマが我輩の膝の上から移動した。トイレか?




「ドラーフェ、我輩はタマとトイレに行ってくるぞ」

「あ、あ!なら、僕が行ってきます!」

「…………」

一生懸命手を上げたガルドラに、我輩は何も言えずにいた。ただ役に立ちたいだけだと思うのだが、残念ながらその気遣いは我輩の役には立たぬ。何故なら我輩はタマとは離れたくないからだ。




「おー!頼んだぞガルドラ!」

「…………チッ」

などとドラーフェも便乗してしまう為、仕方なくタマの鎖をガルドラに託す。どうせ、タマは我輩のペットだと散々公言してあるのだ。更に言えば、我輩の紋章が入った首輪もしている。

今更タマを食そうなどという愚か者はおるまい。




「タマに何かあったらその身がくだけ散ると思え、ガルドラ」

「は、はいっ!」

ザァッと顔を青ざめさせたガルドラは、タマを連れて近くの食堂へと足を運んだ。ずっと食堂から目を離すまいと考えていたのだが、唐突に目の前に酒樽が置かれ、その願いは叶わなくなった。



「……何をする、ドラーフェ」

「たまにゃあわしの相手をしろヴォルキース!ペットばかりに気を使いおって!」

我輩の目の前にある盃に、一気に透明の酒が注がれた。ドラーフェは自身の盃にも酒を注ぎながら、まるで女のように愚痴を吐いた。




「酒を飲みに来たのに何故飲まん!」

「酒臭いとタマが嫌がるやも知れぬだろう」

「知るかっ!わしとペットどっちが大事だと言うのか!」

「何を言っておる。タマ一択だ」

そうは言いつつ、我輩は注がれた酒に手を付けた。少しばかりトロリとしたそれを、クッと一気に煽れば、喉がカッと暑くなる。




「ふむ、上手い酒だな」

「あったり前だ!ドワーフの酒だぞ!度数450%だ!」

一気に盃の中身を飲み干したドラーフェは、酒ぐさい息を吐いた。若干火が出ているのはご愛嬌である。火が酒に移らないよう、凍らせてやった。




「おめぇ、いつ嫁さん作るんだ?」

「世迷い言を。我輩はまだ447歳ぞ」

「十分だろ!うちのガルドラはまだ80だが、見合いの話は来てんだぜ。もう交尾だって出来るしな」

「ふむ……」

まだ早いと思っている我輩は、曖昧に答えつつ酒に舌づつみを打つ。最近は公務にも慣れ余裕はあるのだが、今の我輩にはタマがいる。

タマが我輩の元にいるようになってから幸せな日々を過ごす我輩に、結婚願望などは生まれては来なかった。

今の我輩はタマのおかげで人生薔薇色モードなのである。




「結婚、か……」

「ただいま帰りました!」

元気なガルドラの声に釣られて振り向く。タマ、帰ってきたかと口にする前に、





ガルドラの尻尾に巻き付かれ、持ち上げられて宙をさ迷うタマを見て、我輩は酒を口から噴き出した。





一瞬にしてタマを奪還した我輩は、ガルドラにかかと落としを食らわせる。

ガツン!と地面に頭をぶつけたガルドラを中心に蜘蛛の巣状に地面がひび割れ、そこで我輩は意識を取り戻した。タマを奪還してからかかと落としまでがほぼ無意識だった。

我輩、自分が恐い。




「ひ、ぐっ、うええっ……!」

地面に突っ伏したガルドラが、地面をゴロゴロしながら泣きじゃくる。ドラゴンは体が強いから、どうせたんこぶ程度で済むだろう。その証拠にドラーフェは自身の息子を助け起こそうとせずに酒を飲んでいる。




「んなことで泣くなガルドラ!転ぶのと大差ねぇだろ!」

「ドラーフェ、貴様が転ぶと地面が蜘蛛の巣状にひび割れるのか?」

「わしが転ぶとクレーターが出来る」

奴ほど図体が大きい奴が転ぶ様を想像し、なるほどと頷いた。確かにクレーターぐらい簡単に出来そうである。




「へーか、めー!」

ガルドラに暴力をふるったことを怒っているのか、タマがそう言った。そして我輩の腕から降りると、仰向けになって泣きじゃくるガルドラに近寄り、座り込む。




『*******!』

何事かを言いながら、タマはガルドラの頭を撫でてやっていた。途端にガルドラは泣くのを止め、我輩はタマの優しさにほっこりした。流石我輩のタマ。天使である。






瞬間、ガルドラの生殖器が臨戦状態となっているのを見て、そのような余裕はなくなった。





「おい貴様!我輩のタマに発情するとはなんたる愚行!!」

「あ、え、ち、違います陛下!!」

「うるさい!貴様に陛下などと呼ばれたくないわっ!!」

「じゃ、じゃあお義父さんっ……!!」

「くびり殺すぞ貴様っ!」

タマを抱き上げつつガルドラから距離を取る。ガルドラは股間を隠しつつ、違うと言いながら我輩のタマに欲情の眼差しを向けてくる。この淫獣、始末してくれるっ!




「ガッハッハ!ヴォルキースの所有物に惚れるなんざ、ガルドラも中々すみにおけねぇなっ!」

「ドラーフェ、貴様の息子だろう!速効処分せよ!」

「へーか、めー!」

「こらタマ、もうそいつをナデナデしようとするでない!喰われるぞ!!」





その後、さっさとラミエルに乗ってタマと一緒に城へと帰る我輩であった。もうあのガルドラとかいう奴には絶対に会わない。金輪際永遠に、だ。

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