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魔王様、夜会に行く

□月△日


朝、いつものようにタマと朝食後のティータイムを楽しんでいたところ、ルーベルトがこんな事を言い出した。




「陛下、ドラーフェ様が主催する夜会が明日行われるのですが、どういたしましょう?」

「……ふむ、あの老いぼれの夜会は明日だったか」

そういえばそんな事もあった気がしたなと考えながら、我輩はティーカップに口をつける。タマの飲み物もフーフーして冷ましてやった我輩は、炎帝と呼ばれるドラゴンの老いぼれを頭に思い描いた。酒と黄金しか頭にないジジイだ。




「そこまで遠くありませんし、明日の公務を終えてからでも」

「行かぬ」

「……」

「……」




我輩の自室に、タマが飲み物をフーフーして冷ます音だけが響いた。




「な、何を言っておられるのですか!ドラーフェ様は陛下をいたく気に入っておられます!顔を見せねば怒ってワンド盆地が火の海になりますよ!?」

「その程度、我輩の魔法で食い止められる。我輩が出掛けたらタマが一人になるだろう。タマが寂しさのあまり死んだらどうする」

「ご心配なく。タマ様のお世話は私が代行します。ついでにタマ様の添い寝も私が行いますので、心置きなく夜会を楽しんできてください」

「余計に行きたくなくなったわ!」

『******?』

どうしたの?とでもいうかのように、タマが我輩を見上げながら首を傾げる。

こんな可愛いタマをルーベルトに預ける?そんな事、この魔王である我輩が許す訳がない。




「じゃあこうしよう、タマが今から我輩かルーベルト、どちらの名前を先に呼ぶかで決めようではないか。

タマが先に我輩の名を呼んだら、我輩は明日の夜会に行かぬ。ルーベルト、お前の名前を呼んだら大人しく夜会に出向こうではないか」

「陛下ともあろう御方が、そのような負け戦を行ってよろしいのですか?タマ様がご自身にしかなついていないとでも?」

「ハッ、そのような戯れ言など聞く気はない。そして、貴様は敗北と共に思い知るのだ。タマが我輩の事をどれだけ崇拝しているのかがなっ!」

睨み合った我輩とルーベルトは、タマを見る。きょとんとした顔で我輩たちを見つめるタマは、




「ろべかる!」

タマが来るのがあんまりにも遅いため、様子を見にきたロベカルを見てそう言った。

青ざめたロベカルが慌てて部屋を出ていった。








次の日の夕方。



「本気ですか?陛下」

「この我輩にそのようなことを申すなルーベルト。我輩は本気だ」

「ですが……、流石にタマ様も連れていくのはどうかと……」

と、ルーベルトは我輩に抱き上げられているタマを見つめつつ唸った。

それはさておき、今日のタマのドレスは藍色である。所々につけられた白のフリルが可愛らしい。そして藍色と言えば我輩の色である。自然とご満悦になる我輩は何も悪くはなかろう。イッツマイカラー。




「魔物の中には人間を食す者もいます。もしタマ様が食べられでもしたら……」

「そのような事、我輩がさせるとでも思っておるのか、たわけ者。タマにはほれ、」

タマの首につけられた首輪と鎖を見せると、ルーベルトは渋い顔をした。タマの首を締め付けることはなく、だが頭から抜けない程度の絶妙なキツさで首輪をしてやった。




「このようにすれば、我輩とタマが離れることはなかろう」

「……まぁ、そうですけど」

「フッ、では行くぞ!」

意気揚々と、我輩は扉を開ける。二階にある広いテラスには、小型の白いドラゴンが待っていた。その一匹のドラゴンを見て、我輩は片眉を吊り上げた。

鞍や角には赤い布の装飾が施され、尻尾にも金属の装飾品がつけられている。




「なんだ、今日はラミエルか?」

「陛下がいつも乗っているガルバトスは、先日産休に入りましたから」

「ラミエルは気性が荒いのだかな……」

などと話ながらラミエルに近づいていくと……、なにやら、懐が震えている。

不思議に思って懐に目を向けると、タマの顔が恐怖に彩られていた。

目に涙を浮かべ、泣き叫ばないように必死で口を瞑っている。ラミエルに一歩近づけば、ひゅっとか細く喉を鳴らした。




「…………」

「…………」

「……陛下、タマ様がラミエルを怖がっています」

「…………」

「これでは連れていけませんよ、陛下」

「…………タマ、ラミエルは我輩の移動手段の一つに過ぎん。そんなに恐れる事は……」

ラミエルにまた一歩近づく。更に震えが酷くなる。




「…………」

「…………」

「グゥウ……」

その場で固まる我輩とルーベルト。はよしろや、とラミエルが唸った。




「…………陛下、ご決断を」

「…………クッ、やむを得ず」

ここで強制的にタマを連れていってしまえば、タマが我輩の事を嫌いになるやも知れぬ。怖がるタマの鎖をルーベルトに託し、ルーベルトにタマを抱かせる。




「……へーか?」

「タマ、ドラーフェの老いぼれに挨拶をしたらすぐ帰ってくる。それまでの辛抱だ」

我輩を見上げてくるタマを撫でて、我輩はラミエルに近づいた。グウゥ、とラミエルが唸り声を上げ、我輩が乗りやすいように姿勢を低くする。




「へーか?*******?」

「タマ様、お部屋に戻りましょう」

『****!******!』

「あ、タマ様!」

タマがルーベルトの腕から降りて、我輩に駆け寄る。だが、ラミエルがタマを見つめるとびくりと動きを止めてしまった。




「……タマ!我輩のもとに来るがいい!」

ラミエルと我輩を前にしてオロオロするタマ。淡い期待に胸を躍らせつつ、我輩は両手を広げた。

タマは我輩とラミエルを交互に見つめ、そして、悩んだ末てててっと走って我輩の胸に飛び込んだ。勝った。



「タマ……!そこまで我輩の事を……!」

「へーか!*******!」

ラミエルが恐ろしいくせに、それでもなお我輩と共にいたいというのか。じぃんと胸が熱くなる。




「タマよ、貴様の気持ちはよく分かった。我輩と共に行くぞ!タマ!」

「…………いってらっしゃいませ、陛下」

「フハハ!飛べ!ラミエル!」

不貞腐れたルーベルトを置き去りにして、ラミエルは空を飛ぶ。タマがぎゅううとしがみつくのもいとおしく感じる。我輩のローブの中に入れてやりつつ、不敵な笑みがこぼれた。


我輩、もうなにも怖くないっ!

こうして、我輩とタマはドラーフェがいる北の領地へと赴いたのだった。








数分もせずに、我輩たちはドラーフェがいる領地についた。空の上から見ると、広場には既に多くの灯りがついている。気まぐれな奴のことだ、もう酒盛りを始めているのだろう。ゆっくりと速度を落とし、我輩は広場の中央に降り立った。




「タマ、大丈夫か?」

タマに声をかけてみると、タマは我輩を見上げた。やっと地面に降りることができてほっとしているのか、少し目がトロンとしている。




「おぉー!ヴォルキース!やっと来たか!」

ドスン!と地面が震える。見上げてみれば、座っても10メートルはありそうな巨大なドラゴンが鎮座していた。言うまでもない、炎帝のドラーフェである。




「久しいなドラーフェ。まだ酒癖は治らんのか」

「ふん、わしは酒がないと生きていけ……、おい、なんだそれ?」

ドラーフェが我輩の懐を指差す。疲れたのか、眠そうにウトウトするタマのことを言っているのだろう。眠気が緩衝材となっているのか、ドラーフェを見てもタマは泣き出しはしなかった。





「人間か?ああ、わしへの土産か。わしはあまり人間を食わんのだが」

「何故貴様に我輩のタマをやらねばならぬ。タマは我輩のペットぞ」

じとっと睨み付けると、ドラーフェは『ペットォ?』とすっとんきょうな声を上げた。




「人間を?飼ってるのか?」

「フッ、そう言っていられるのも今のうちだぞドラーフェ。タマはルーベルトも懐柔しておる」

「あの無関心野郎が?そんなに人間の子供が可愛いかね?」

「ぬかせ。我輩とルーベルトはタマにメロメロぞ!」

「…………まぁいい、飲めヴォルキース!」

若干残念そうな顔をしたドラーフェは、我輩の前に酒樽を置いた。我輩の背丈よりも大きい酒樽だ。更に酒の肴が山ほど持って来られ、あっという間に我輩とドラーフェの周りは食べ物と酒で埋め尽くされてしまった。




「あ、タマの為のジュースも用意せよ」

無論、タマへの配慮を忘れぬ我輩である。



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