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タマ、仲直りする




「はぁ……。どうしよう、陛下に泣いてるところ、見られちゃった……」

「問題はそこじゃないですよ! タマ様!」

いつになく興奮気味のアルテアにそういわれて、私は思わず肩をすくめた。でも、後悔している事は? と言われたら陛下の前で泣いてしまったことなので否定はできない。無言のまま、目の前に置かれたサラダを口の中に含んだ。

陛下の部屋から連れ出してくれたアルテアは、私を食堂に連れてきてくれた。いつもはここで食事をとらないし、おまけに泣いているものだから、食堂にいたたくさんの人が心配して声をかけてくれた。が、アルテアが『心配ない』と言ったので、気を使って距離を置いてくれた。

そのままアルテアとお昼を取っているのだけれど、まだ気持ちの整理が出来ていないせいで気を抜くとすぐに涙があふれそうになる。情けない……。




「いいですかタマ様、悪いのは全て陛下なんです! ていうか、相手はあのミラ様なんですから、陛下が自ら彼女を誘ったというのはあり得ませんから」

「ミラ様って、あの派手な女の人のこと?」

「はい。下半身が蛇で、全身派手な赤色にする魔族なんかミラ様しかいません」

私の話を聞いて憤慨していたアルテアは、自信たっぷりに頷く。そして、いつの間にかさっさと食事を終らせてしまっていた。私といえば、まだ半分は残っている。午後にはロベカルの手伝いをしなくちゃいけないし、いつまでもへこんでいるわけにはいかない。慌てて残りの食事を食べ進めていく。




「タマ様、落ち込むことはありませんよ。あの陛下のことですから、浮気なんて絶対しませんからね」

「というか、まだ陛下とはそういう関係じゃないというか……」

「じゃあさっさと言ってしまいましょうよ! そうしたら万事解決です!」

「でも、もしかしたら私は元の世界に帰っちゃうかもしれないし……」

食べ進めていた手が止まる。ジワリと傷口が広がり、まるで滲むように、胸元に鈍い痛みが広がった。




「……私も、魔族だったら良かったのかなぁ……」

そして、私の親や弟も魔族で、こっちの世界の住人だったら。そうしたら、元の世界に帰るかという選択もしなくていいし、陛下との間に種族の差なんてものも存在してなかったのかもしれない。

私はどんどん大人になって、歳を取っていくのに、陛下たちは何も変わらずにいる。それが、よけいみんなとの違いを見せつけられているかのようで、少し寂しい。

そんな途方もない事を想像していると、ピン、と軽くアルテアにデコピンされた。痛くはなかったけど、びっくりして目をぱちくりさせていると、アルテアは私をまっすぐに見つめてきた。




「そんなことないです。タマ様が人間で、この世界に迷い込んできたから、こうやって出会えることが出来たんです。もちろん、人間が魔族になる方法はたくさんありますし、タマ様さえよかったら魔族になってもいいと私は思います。けど、タマ様が人間でいることが悪いような言い方、止めてください」

「……うん、ありがとう、アルテア」

「さ、陛下に謝罪してもらって、仲直りしに行きましょう!」

「うんっ!」

アルテアに感謝しつつ、しょげそうになる自分を励ます。そうだ、悲しんでばかりじゃしょうがない。ちゃんと陛下とお話しないと、と決意を新たにする。その前に、ロベカルの手伝いをしてからだけどね。







「アルテア、お仕事で忙しいのに、一緒にいてくれてありがとう」

「そんな! 私でよかったら、いつでもお側にいますよ、タマ様」

食事も済ませ、食堂から出る。お昼もだいぶ過ぎてしまっていて、食堂にいる人もまばらだ。アルテアは、私の前に立って腰に手を当て、仁王立ちをした。




「タマ様、何度も言いますが、今回の非は陛下にありますからね。こんなことがまた起こらないように、しっかりと……「タマ!!」」

アルテアの言葉を掻き消すような大声。背後から聞こえたその声は、陛下の声だった。

思わずびくりと肩を揺らす。恐る恐る振り返ると、難しい顔をした陛下が大股でこちらに近づいてきていた。な、なんか、怒ってる?




「へ、陛下、あの、さっきの事なんだけど……」

「さっきの奴とは何の関係ももっておらぬ!」

開口一番、陛下はそう言った。

あまりにも必死なその姿に、『本当は違うんじゃないか』なんて疑ってしまう。必死な陛下の姿を見て心がざわついてしまった私は、ついつい少し意地悪な事を言ってしまった。



「……本当に?」

「本当だぞ、タマ」

「……じゃあ、私の方が好き?」

「ああ」

でもその『好き』は、ペットに向ける『好き』じゃないの?

可愛くない事ばかり考えてしまう私が嫌で、ついムキになった私は、




「じゃあ、私のこと、あ、愛してる!?」

「勿論、愛してる」

一人で暴走して、一人で真っ赤になるはめになった。




「ふぇ、な、なっ……」

半分冗談で言ったのに、陛下の表情は真剣そのもので。そんなこと言われて、赤くならないわけがない。動揺して奇声をあげつつ、後ろに数歩交代する。へ、陛下が、私のこと『愛してる』って……! 嘘でも嬉しいけど、そんな嬉しさを噛み締める前に動揺のせいで心臓がおかしくなっている気がする。




「なに当たり前の事を言うのだタマ。我輩はタマの事を愛している。そして、タマを裏切ることは絶対にせぬ。だから、さっきのは、」

「へ、へーかのばかー!!」

これ以上陛下の側にいるのは、命の危機を感じる……!

あまりにも気恥ずかしくって、私はその場から走って逃げ出した。










「……」

「あ~あ、陛下、逃げられてしまいましたね」

タマに逃げられ一人寂しく立ち尽くす我輩に、溜息をついたのはアルテアである。我輩は、そうっと、ゆっくり両手で顔を覆った。



「え? 陛下、もしかして、泣いて、」

「タマ可愛いタマ可愛い真っ赤になったタマ可愛いずっと側に置いておきたい可愛い可愛い撫でくり回して全て我輩のものにしたい」

「……なんですかこの茶番」

「アルテア、我輩は本気であるぞ」

「そっちの方が問題です」

冷たい言葉が我輩に突き刺さるが、今はそれどころではない。早くタマの後を追わねば。




「タマはずっと落ち込んでおったのか?」

「ええ、陛下が女性を寝室に連れ込むだなんて、よほどショックを受けたようですよ。まったく、陛下ともあろうお方が、一体なにをやっているのですか」

「反省しておる。しかし……」

「どうかしましたか?」

「タマが嫉妬してくれておると思うとそれはそれで、」

「怒りますよ」

「冗談だ」

これ以上余計な事を言ったら本当に怒られそうなため、我輩はさっさとタマの後を追った。幸いにも、すぐに見つけることが出来た。あまり人が通らない廊下の隅に蹲っていたのだ。もしや具合が悪いのではと慌てて抱き上げる。タマは、『きゃぁ!』と元気そうな悲鳴を上げた。




「へ、陛下!?」

「タマ、やっと捕まえたぞ」

「え、ちょっと、陛下、」

我輩の腕の中で慌てるタマの顔を至近距離で見つめる。タマの瞳の中に我輩の顔が映り込んでいるのが分かるほど近づく。途端にタマの頬が赤く染まった。




「へ、へーか、ち、ちか、い……」

蚊の鳴くような声を出すタマに、我輩は自分の気持ちを吐露する。



「タマ、あの女とは何の関係も持っておらぬ。あんな奴よりタマの方が可愛いし、タマの方が綺麗だしタマの方が性格もなにもかも優れておる。それになにより、我輩はタマのことが大好きだ。世界で一番!」

「わ、わー! もういい! もういいから!」

「本当か?」

「う、うん! 分かったから!」

真っ赤になってワタワタするタマ。それがまた愛らしくて、思わずぎゅうと抱きしめた。




「タマ、許してくれるか?」

「……」

「タマ?」

「……一緒にチーズケーキ食べてくれたら、許す」

頬を染めつつそう言ったタマを抱きしめる力が、少しばかり強まったのは言うまでもない。





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