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魔王様、酔っ払う

へーかが酔っぱらうとこうなる




夜会の後、深夜一時。

魔王城の貴賓室のテラスに連れてこられた我輩は、そこにいるメンバーを見て顔をしかめた。



「……いきなり叩き起こされたからなんだと思って来てみれば……。タマのところに帰る」

「たまにはいいじゃないですか。こうして集まって世間話をするのも楽しいですよ」

渋る我輩を宥めつつ、ルーベルトが我輩に盃を渡す。

貴賓室のテラスには、魔界に名を馳せる権力者たちの姿があった。

魔女の筆頭、エルフの女王、炎帝、インキュバスの王に精霊王、そして吸血鬼の王ルーベルトと魔王である我輩。

満月に照らされるその集団は、はっきり言ってそうそう集まれない、力のある者ばかりだ。




「こうして集まるだなんて、何十年ぶりかねぇ?ヴォルキース、まぁ座りよ」

そう言ってくるくるとワイングラスを回すのは、北の魔女ワグルーテだ。二つ名は、『拒絶の魔女』。

紫色の髪は長く波打っており、垂れ目は深海のような濃い青色をしている。

大きな帽子を被り、豊満な胸を強調する服を着ている彼女は、魔法で宙に浮かせた酒瓶を傾け、我輩の盃に酒を注いだ。

仕方がないので椅子に座ってそれを一気に飲み干してやろうとする。だが、凄まじいほどの強い酒だったようで、思わず途中で飲むのを止めてしまった。その様子を見て、ワグルーテはクックッと小さく笑った。




「む……」

「フフ、豪酒であるヴォルキースでも、流石に火龍の美酒は辛かろうて」

「ワグルーテ、あまり悪ふざけをするのは止めなさい」

ワグルーテをたしなめるのは、エルフの王女ミルティだ。

金色の髪は複雑に編み込まれていて、夜遅くだというのに乱れている様子はない。ぴっちりと胸元まで閉められた衣服は、白と金を基調としていて美しい。翡翠色の瞳が、ワグルーテを冷ややかに見つめた。




「ふん、たかがエルフが、我に口答えするな」

「あら、そのような傲慢な口振りを私にして良いとお思いですか?」

「……おいおい、止めようぜ?酒が不味くなる!」

「あいっかわらず仲悪いんだからなぁ……」

女性二人の喧嘩をたしなめるのは、炎帝のドラーフェとインキュバスの王エフィロス。

ドラーフェはテラスに入ることが出来ないので、テラスに面する庭園に腰を下ろしている。丁度腹から上が我輩たちに見えるようになっており、酒樽片手に文句を言う。

エフィロスは、中性的な顔をしており、女受けが良さそうな優男である。銀色の髪は女のようにサラサラとしていて細く、薄桃色の瞳はいつも気だるげだ。背中には、ナイフのように鋭い、赤黒い翼が生えている。

左頬に不思議な刺青が施されたエフィロスは、いつも胸元が開いた服を好んで着ている。正直タマには絶対に会わせたくない相手である。

喧嘩を仲裁された女性二人は、居心地が悪そうに首を竦めた。



「……一応は謝っておきます」

「……まぁ、酒盛りは楽しむに限るからねぇ。それには……」

舌なめずりをしたワグルーテが、我輩を見てその妖艶な瞳を光らせた。瞬間、ワグルーテの魔法が発動し、黒く鋭い棘が、我輩を囲むように数本空間に現れる。黒曜石のようにキラリと光るそれらは、寸分違わず我輩の首元に向かって飛んだ。



だが、それらは我輩の首を突き破るどころか、皮膚に触れることすら出来ずに砕け散った。




「……北の魔女ワグルーテよ。陛下に危害をこれ以上加えるなら、即刻立ち去れ」

「じゃないと、親衛隊の私たちが黙ってないよ?」

夜の帳よりも漆黒に染まる羽が宙を舞い、光のように輝く鉱石でできた翼が、空気を叩く。

ワグルーテの魔法を破った二人、親衛隊のカロンとメロアが、我輩を庇うように立ち、射抜くような鋭い目でワグルーテを見つめた。




「もうしないさ。お目当ての者が来たんだからねぇ。なぁ、カロンや?

やはり、カロンのようなイケメンを眺めながらの酒飲みは止められないねぇ」

「……だから出て来なくてもいいって言ったんだ。どうせ陛下には傷ひとつ付かないだろうし」

「いいじゃんかぁ別に。私もお酒飲みたいし?」

嬉しそうに笑うワグルーテが、カロンに向かって手招きする。

それを無視して鉱石の翼を苛立たしげに震わせたカロンは、飄々とした態度を崩さないメロアを睨み付ける。もっとも、二人とも鈍色の仮面を付けているため、目元は見えないが。

魔王の親衛隊として名を馳せる二人は、『守護のメロア』と『破壊のカロン』という二つ名も有名である。滅多に姿を見せることはないが、その力はここにいる権力者たちに匹敵する。




「……ぁ……ぃ……」

「セフィーティロ様は、早く酒盛りを開始しろと急かしております!」

不思議な模様の仮面を付けた大男と、その肩に止まる片手ほどの妖精が、酒盛りの開始を急かす。銀髪をオールバックにしているセフィーティロは、自分で話すことがない不思議な奴だ。



「そうさのぅ。人も集まったところであるし、さっさと始めようぞ」

ワグルーテがひょいっと指を振るうと、宙に浮いた酒瓶が皆の盃に酒を注ぐ。

誰ともなしに盃を持ち上げ、クッと酒を飲む。



そうして、権力者たちだけの酒盛りが始まった。






最初は、ただの世間話をしていたはずだった。

自身たちの近辺で起こった変化。珍しい話。最近気になること。カロンとメロアとは違い口元も仮面で覆われているセフィーティロはどうやって酒を飲んでいるのかなど。

他愛もない話題はコロコロと変わってゆき、酒の肴をつまみながら飲み交わしていく。

そうしていくうちに、ふとした疑問が口に出た。




「そういえば、エフィロス、セフィーティロ、貴様らは一体いつタマと知り合ったのだ?」

タマが帰る方法を探す為に会いに行ったことがあるワグルーテやミルティ、ドラーフェはともかく、我輩はエフィロスとセフィーティロにはタマを会わせていない。その旨を伝えると、二人は『魔王城に遊びに来たときに会った』とごく当然のように言ってのけた。




「といっても、タマが小さい頃からの知り合いだから、結構付き合いは長いんじゃないかな?」

「……ぉ、……ぁ……」

「セフィーティロ様は、タマ様とは親しくさせてもらっていると仰られております!」

「…………」

我輩の知らぬ所でタマが他の男と会っていたことが気にくわない我輩、エフィロスが持参した『堕落の清酒』を一気飲みする。




「そういえばタマはすっかり大人になったのう?いつぞやの幼き頃が懐かしい」

「私の里にも足を運んで下さりましたが、最近は全然来てくれないではありませんか、陛下」

「タマ様は遊びの為にエルフの里やワグルーテに会いに行った訳ではありませんよ」

不貞腐れる女二人に、ルーベルトが呆れながら説得をした。ふん、そう簡単に我輩のタマを独占されてなるものか。




「……まぁ、タマ様とは文通させてもらっていますから、それで我慢するとしましょう」

「あら、あんたもやっているのかい?あの子との文通」

「まぁ、月に2~3通程度ですけど。そちらも?」

「まぁね。私はカロンとも親しくしたいんだけどねぇ?」

「却下です」

「…………」

文通とかちょっと羨ましいと思った我輩、ミルティが持参した『魔王ころし』を盃に注ぐ。




「そういやぁヴォルキース、いつになったら俺の息子にタマをくれるんだ?」

「やるかぁあ!!」

「そうですよ。あんな蜥蜴にくれてやるくらいなら、まだ陛下の方が2ミリほどましです」

「ルーベルト、貴様それはどういうことだ!」

「タマ様が嫁入りなど、私は認めませんよ」

いかん、ルーベルトが酔ってきおった。




「そういやぁもうそんな歳だね、あの子も」

仮面を外したメロアがしみじみと感傷に浸る。

我輩の親衛隊であるメロアとカロンは、あまりこうやって姿を現すことはないものの、時たまタマと話している姿を見かけたことがある。タマを密かに妹のように感じているメロアにとっても、タマの成人は感慨深いものなのだろう。




「あの子に話しかけたくてうずうずしていたカロンが懐かしいよ……。タマ様が一人でいるとき、いっつもソワソワしながら、あの子の近くをウロウロして……」

「っ、メロア、それは喋るなっ!」

「ほほう……。カロン、覚えておれよ…………」

いつもは無表情の顔を少し赤らめるカロン。我輩は低く呟いた。

カロンとは近々二人っきりで話す必要があるようだ。主に我輩のタマへのストーカー容疑の件で。

我輩、ドラーフェが持参した『火龍の美酒』を更に追加。






そうして、酒盛り開始から二時間後。

そうしているうちに、完全に酔っ払ってしまった我輩は、だん!と空になった酒瓶をテーブルに叩きつけて、我輩は叫ぶ。



「我輩のタマちゃん可愛いよぉお~~!!」

「うっせぇよヴォルキース!!」

空に向かって叫ぶと、ドラーフェも叫ぶ。気がつけば、ドラーフェとエフィロス、カロンとメロア以外皆へべれけになっていた。




「ふぇ、ぐすっ、みんなさぁ!拒絶の魔女だからどーせ会えないって、会いにきてくれないしぃ!寂しい!われはものっすごく寂しい!!」

「あっははは!いつも高飛車ぶってるからですわ!ざまぁないですっ!」

「ぅわああああん!カロンやぁ~、ミルティがバカにしよるぅ~!」

「絡んで来るな」

「カロン酷い!」

わんわんと泣き叫ぶ今のワグルーテには、もはや魔女の筆頭らしい蠱惑的な様子は見られない。我輩の飲むペースに釣られて飲み過ぎたのが運の尽きだ。




「みんな五月蝿いよ……。優雅に美酒をたしなむことも出来ないの?」

「てめぇが飲んでるのはただのジュースだろうが、エフィロス」

「……ぁ、…………」

「セフィーティロ様が、ご自身の肉体美を披露してくださるそうです!」

「脱ぐなよっ!」

セフィーティロの仮面の隙間から覗き見える頬が、うっすら赤くなっていた。奴は酔うと脱ぐ癖があるらしい。流石に男の裸を眺めながら酒を飲む趣味はない為、ローブの金具部分を凍らせて動かなくさせてやる。




「たく、これくらいで酔うなんざ、らしくないな。特にヴォルキース」

「我輩は酔っておらぬ」

「酔っ払いはみんなそう言うもんだよ。陛下、部屋に戻ろう」

苦笑いを浮かべるメロアが部屋に帰るよう促す。まだもう少し飲んでいたいが、タマの温もりを感じながら眠りに入るのも捨てがたい。そう考えてしまえば、頭の中に思い浮かぶのはタマのことばかりになってしまう。



「ドラーフェ、タマ、タマが」

「おう、どうした?」

「どうしよう、タマが可愛いすぎて辛い」

「……この酔っ払いうぜぇな」

「だけど、あのヴォルキースが人間に恋するなんて、最高に面白いけどね」

クスクス笑うエフィロスが憎たらしい。ペットに恋してなにが悪い。



「ほらほら陛下、ルーベルトも眠ってるし、お開きにしようよ」

「む……」

そういえば隣が静かだと思って見てみれば、テープルに突っ伏してルーベルトが眠りこけていた。もはや吸血鬼の王などという華やかな肩書きの印象はどこにも残っていない。ただの酔いつぶれた長髪だ。




「仕方あるまい、帰るか」

「やだぁカロン帰らないでえぇ!!」

「却下」

「うわあああん!!」

「…………ぃ……ぁ……」

「セフィーティロ様は、私の裸体を見ずに帰るのかと憤慨しております!」

「あーあー、ほら帰るぞー」

「タマに宜しくね?ヴォルキース」

「絶対に嫌だ!!」

エフィロスに向かって叫ぶのと、やっと金具が外れたセフィーティロが脱ぎ始めたのは同時だった。





酔っ払いの面子はエフィロスとドラーフェに任せ、我輩は千鳥足で自室に戻る。

暗がりだろうと、夜目が効く我輩は転びはしない。丸くなって眠るタマの横に潜り込む。




「…………」

柔らかなタマの頬をつつく。起きないことをいいことに、ムニムニと揉んで頬の柔らかさを堪能する。




「フッフッフ」

ひとしきりムニムニして満足した我輩は、タマを抱き締めて眠りについた。



次の日、タマと共に二日酔いに苦しんだのは、言うまでもない。





人物紹介の回になってしまった(泣)

【みんなが酔っぱらうと?】


へーか→タマ可愛いよタマ

タマ→記憶を無くしておやすみなさい

ルーベルト→愚痴ったあとにおやすみなさい

ワグルーテ→泣き上戸

ミルティ→笑い上戸

エフィロス→お酒は飲まない。絶対飲まない

セフィーティロ→脱ぎ魔になる

ドラーフェ→どれだけ飲んでも酔わない



今回出てきたみんなとの出会いは番外編に載せたいなぁと考えてます。

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