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魔王様、また新年を迎える

陛下や周りの魔族は相変わらずです

我輩がベッドの上でふて腐れていると、いきなりルーベルトが入ってきた。




「陛下、……おや?タマ様は?」

「玉藻前が連れていきおった」

「なるほど。夜会の準備でしょうか。ならば今日の食事は楽しみですね」

嬉しそうに笑うルーベルトを見つめつつ、我輩はため息を吐く。着替えはもう済んでいるのだが、如何せんベッドから腰を上げたくない。




「……ルーベルト」

「はい」

「思うことがあるのだが」

「なんでしょう」

沈黙した室内に、我輩の重いため息が洩れる。頭を抱えて悩む我輩は、意を決して、口を開いた。





「……最近、タマが可愛いすぎて辛い」

「それ去年も聞きました。ついでに言うとその言葉を聞かない年はありませんから大丈夫です。今に始まったことではありません」

「そうではないっ!そうではなくもっと可愛くなってきたと言っておるのだ!!」

「それも毎年言ってますから大丈夫です」

「ぐぬぁ……!!」

ああ言えばこう言うルーベルトが憎らしい。もどかしい衝動に刈られて、思わずガリガリと髪をかき乱した。

最近のタマは、人間界でいうところの成人を迎えたからか、身体付きは大人とほとんど変わりない。ただ、大きなクリッとした瞳は相変わらずだ。

腰まで伸びた柔らかい髪をすいてやると嬉しそうに笑い、鈴の音がなるような声で我輩の名を呼ぶ。

155㎝と少しばかり小柄だが、それもそれで抱きやすくて良い。いつも嬉しそうに笑っており、表情がくるくる変わるのも可愛いらしい。




だから、時々、いや常々思う。

我輩の理性、危うしと。





「そろそろ自制が切れそうだぞルーベルト。一緒に寝ている時に寝言で『へーかぁ……』と呼ばれたときなど、ぐらっときた」

「切れたら言って下さいね。その下半身についているものすっぱり切ってあげますから」

にっこり微笑んで恐ろしいことを抜かすルーベルト。思うのだが、この城に使える輩はどいつもこいつも我輩を魔王として敬っていないのではないか?

特に玉藻前など、我輩とタマの安らぎの一時を邪魔しおって……。




「早く伝えてしまえば良いではないですか。異性として愛しておられるのでしょう?ペットとしてではなく対等な立場になって言ってしまえばよろしいのでは?」

「……だが、」

反論しようとして口をつむる。ルーベルトの言っていることを実行したいと思っているのは、他でもない自分なのだ。

だけど、彼女に手を出すことは出来ない。




「……タマは、いずれ元の世界に帰る身だ。なのに、我輩が止めることなど出来るわけがない」

この11年間、タマを元の世界に帰す方法を求めて魔界中探し回った。北の魔女に会いに行ったり、異界と繋がる泉に向かったり。果ては天界や人間界にも足を運んだ。

だが、タマはまだ帰れずにいる。

そんなタマに想いを告げて、ここに無理矢理留めるようなことはしたくない。





「それにペットだからと一緒に寝れたり膝の上に乗せられるのはなかなか役得で、」

「陛下、それはアウトです」

冷ややかな目線を向けられて、仕方なく口を閉じた。本当に、魔王だというのに遠慮のない奴らだ。




「仕方ない。気分転換に、少し早いが夜会の席に顔を出すか」

「もう大勢来ておりますよ。特に今年は人数が多く、裏方は大忙しです」

「どうせ皆ただ酒を飲みにきたのだろう」

重い腰を上げて扉を開ける。会場から遠いこの場所にも夜会の喧騒が聞こえてくるほどだ。

雪が降っているお陰で昨日よりも寒い廊下を歩く。世話しなく走り回っている裏方の者たちを横目に、会場に足を踏み入れようとした。




「あ!お義父さん!お久しぶりです!」

「……」

最早突っ込む気も失せて、投げやり気味に拳を鳩尾に突き刺す。鳩尾を抉るように殴られたガルドラは、床に四つん這いになってえづいた。

毎年必ず現れるこの変態をいなすことにもだいぶ慣れてしまった我輩である。




「なん、ゲホッ、ウェ……」

「貴様にタマはやらんぞ」

「まっ、タマ様は……!」

「教える義理はない。タマは我輩のものだ」

「ぼ、僕は諦めませんよ!」

ガルドラの横を通り過ぎようとしたら、翼をバッサバッサとはためかせながら勢いよく立ち上がった。その目は今までにないほどキラキラと輝いている。




「タマ様ももう今年で成人!つまりもう結婚できる歳だということ!お義父さん!娘さんを僕に下さぐふぅっ!!」

「凍り漬けにして生き埋めにするぞ貴様」

「去勢しますよ、火蜥蜴風情が」

顔面に我輩の拳、鳩尾にルーベルトの蹴りが突き刺さったガルドラは、壁に突っ込むと静かになった。




「ルーベルト、去勢とはなかなか良い案であるな」

「本気でしようとは思わないで下さいよ。後始末が大変です」

面倒くさそうに顔を歪めたルーベルトが扉を開ける。

がやがやと煩い中、我輩に気がついた魔族は酒を浴びるように飲みつつ挨拶をしてくる。適当に返事をして、我輩は席についた。隣は勿論タマの席であり、今は空席である。




「お、陛下!やっと来たんですか?」

椅子に座った途端に声をかけられ、我輩は顔を上げた。嬉しそうにヘラヘラと笑っていのはノロだった。

顔はほんのりと赤く、既に出来上がっているようだ。少しばかり覚束無い足取りで我輩の横、タマの席とは反対側に座ったノロは、いきなりドボドボと手に持っていた酒瓶を我輩の盃に注いだ。




「貴様が酔うとは、珍しいなノロ」

「まだ酔ってませんー!だってほら、今年でタマは成人でしょ?だから盛大に飲んでたんですよ!」

理由が今一つ分からないが、とりあえずタマが関係していることは分かった。

よもや魔王城にここまで人間の名が上がるようになろうとは誰が予想しただろう。

最初は我輩だけだったのに、チッ……。と独占欲に苛まれ、やさぐれたくもなる。



「タマが成人するからって、結構な人数集まってるらしいですよ?

北の魔女ワグルーテ、エルフの女王ミルティ、インキュバスのエフィロス、さっき天界の奴らもちらほら来てたし、スフィカやセフィーティロもいます」

「なんと、精霊王もか」

タマの顔の広さに驚きを隠せぬ我輩。確かにタマが元の世界に帰る方法を探す為に各地に飛んだが、なぜ我輩が最近会ってもいない奴らとも顔見知りなのだ。解せぬ。




「あ!タマ様だ!」

何者かの声に釣られて顔を上げた。視線を会場内に巡らせると、藍色のドレスを身に纏ったタマがいた。嬉しそうに笑いながら、ダークエルフの一人と会話をしている。

迷わず立ち上がり迎えに行く我輩。話の途中だからと戸惑う我輩ではない。タマに近寄ると、すぐにタマは我輩に気づいて近寄った。ダークエルフに凄く睨み付けられたが、もちろん魔王である我輩が怖じ気づくわけがない。



「タマ、手伝いはもういいのか?」

「うん!玉藻が、もう粗方終わったから、会場に行っていいって言ってくれたの」

グッジョブ玉藻前!と言いたくなるのをぐっと堪えて席につく。するとタイミングを見計らったかのように、様々な料理が運び出され、テーブルに並べられていく。

さて、と一息ついたところで、ワッと大勢の魔族に囲まれた。





「タマ!成人したんだろ?飲めよ!」

「タマ様お酒ー!」

「これなんかおすすめだぞ?」

「わしの持ってきたこの酒は美味だぞ!」

「私たちが持ってきたこの酒の方が飲みやすいわよ?」

「貴様らくどいぞっ!我輩のタマに群れるな!」

ノロを筆頭に、酒瓶を持って集まる魔族。しっしと邪険に扱っても、我輩には興味がないようで誰もこちらを見向きもしない。魔王だというのに、この扱いの雑さには呆れるしかない。




「え、えぇ?お酒、飲めるかなぁ?」

「いけるいける!飲めるって!」

「これ、お主らの飲んでいる酒がタマに飲めるわけがなかろうっ!」

タマの盃に酒を注ごうとしたノロの行動は、料理を持ってきた玉藻前により阻止された。

ノロから酒瓶を奪った玉藻前は、代わりに薄桃色のこじゃれた小瓶をタマの前に置く。




「魔族の飲む酒なんぞ飲んだら倒れてしまうじゃろ。その酒瓶なら、タマも飲めるじゃろう」

「わぁ、ありがとう玉藻!」

嬉しそうに笑うタマ。なるほど、確かに我輩たちが飲む酒は度数200%を簡単に越してしまうため、人間であるタマには辛いのだろう。

我輩はその小瓶を開けて、タマの盃に注いだ。朱色に染まる酒は、見た目はまるでジュースのようであった。



「さぁ飲め、タマ」

「では、いただきます」

少しばかり姿勢を正したタマが、くいっと盃を傾ける。心なしか皆が食い入るように見つめる中、タマは苦い顔をしてチロリと舌を出した。

その舌を舐めたら酒の味がするのだろうかと興味をもったが、我輩の鉄の理性で食い止める。




「うぇ……、苦い……」

「そうかぁ?」

「まぁ、まだタマは17だしのう」

「子供舌?」

「……度数4%?ほぼ水と同じではないか」

「う~……、あと喉がカッてするね、お酒って」

「タマ様はお酒に弱いのではないですか?」

「まぁ飲め飲め!」

「食べ物もあるぞ!」

「あ!タマ様だ!」

「ガルドラ、また貴様か!」

「ああ陛下、喧嘩しちゃだめだよ!」

「酒まだか~」

「愛しのタマ様!ああ可愛いです!」

「貴様本気で去勢するぞぉっ!」

その後は、いつものようにドンチャン騒ぎをして、夜会はお開きとなった。









そうして、夜会がお開きになった後。



「ん~……、へーかぁ……」

頬を赤く染めたタマは、ベッドに横になっていた。

たった一瓶でも酔いは回ったらしく、酔っぱらったタマは我輩が回収した。我輩が着替えて簡単に汗を流し、部屋に戻ってみると、侍女たちが気を聞かせてタマの服を替えた後だった。




「タマ、タマ」

「ん~……?」

静かに揺さぶると、とろんとした目でタマが我輩を見上げる。途端に、このタマの姿を独占しているという事に優越感が生まれてくる。

柔らかそうな唇の隙間から赤い舌がチロリと見えて、思わずその口を味わってしまいたくなる衝動をグッと堪えた。




「へーか……?」

「……なんでもない。寝るぞ、タマ」

我輩がベッドに身体を横たえると、すかさずタマがすりよった。何が嬉しいのか、口角を上げたタマは、




「ねー、へーか」

「ん?なんだタマ」

「……やっぱ、もうちょっとあとでいう。へーかがだいすきだって」

それだけ言ったタマは、満足げに微笑んで我輩の服に顔を埋めてしまう。そしてすぐに、スウスウと規則正しい寝息が聞こえてきた。




「……なるほど、これが生殺しというやつか」

タマの肩まで毛布をかけた我輩は、この胸をかき乱す衝動をどこにぶつけてよいのか分からず苦悩した。




……やはり、タマが最近可愛すぎて辛い。




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