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彼女の帰る場所

本日2度目の投降です。

「おそいなぁ……」

ロベカルに図書館で本を読んでいてくださいと言われたものの、もうここにある絵本を全て読んでしまったタマは、机に突っ伏した。

元々この図書館に絵本など片手で数えられる程しかなく、回りにある本など今のタマには難しい内容のものばかりで、引っ張り出しては首を傾げて元の場所に戻すしかない。




「……もう、へーかたちのとこ、いっていい、かな」

ついに集中力が切れたタマは、そわそわと落ち着きなく立ち上がり、そおっと図書館を出た。まだ戻っていいとは言われていないけれど、あとどれぐらいかかるのかを聞きにいくことくらいは許してもらえると思ったからだ。

だとしても、勝手に図書館を出たことによる罪悪感のせいで、無意識の内に忍び足になっているタマ。音を立てないように、そぉっとヴォルキースの私室の扉を開けた。




「…………いことではなかろう?ロベカル」

へーかの声だ、とタマは心の中で呟いた。まだヴォルキースたちは会話中らしい。大人しく帰ろうとしたタマの動きを止めるかのように、ロベカルがタマにとって衝撃的な言葉を放つ。




「……恐らく、タマ様は口には出さないものの元の世界に帰りたがっております。しかし、偶然この世界に迷い混んだタマ様が元の世界に帰ることは不可能です。このまま陛下のペットとして育てるというのなら、この世界が彼女の世界ではないことを教えぬ方がよろしいのではないでしょうか」



(かえ、れない……?)

一体、何を言っているんだろう、とタマはぼんやりと考えた。そのくせ身体からは冷や汗が流れて、背筋が凍るのが分かった。

ロベカルが、何を言っているのか分かってしまったのだ。

一瞬にして頭の中を駆け巡るのは、この場所に紛れ込む前の生活のこと。自分の大切な居場所のこと。

あの場所に、帰れない。反射的にタマは扉から離れた。もう、ロベカルの話は聞きたくなかった。信じたくなかった。

未だ聞こえてくるロベカルの言葉をシャットアウトするかのように扉を閉めて、タマは駆け出す。




「は、はぁ、ハッ……!」

一心不乱に駆けて、駆けて。でもどこに行けば帰れるかなんて分からなくて。ずっと前から感じていた不安と恐怖が爆発的に膨れ上がり、タマの心を一気に支配した。足元が崩れていくかのようだった。




「ふ、ぅう……!ふぇっ、ぅ……!!」

ボロボロと大粒の涙を溢しながら、タマは覚束無い足取りで走る。

大声で叫びたかった。ママ、パパ、と。だけど、タマの喉は掠れた小さな嗚咽を紡ぐだけで、まるで喉が潰れてしまったかのように声を出すことが出来なかった。

もうこのままどこへなりとも駆け出したいと考えるタマを食い止めるかのように、力強い声が響いた。



「タマッ!!」

その言葉に、タマはビクリと身体を震わせた。



(ちがう)

自分の名前は、タマじゃない。橋本殊音だ。そう叫ぶ前に、声の主に抱き締められる。いつの間にかタマにとって大切となっていたその人、ヴォルキースの温もりがタマを包む。

いつもなら嬉しいはずなのに、自暴自棄になっているタマは無我夢中でその温もりから離れようと暴れた。



「タマ、落ち着け!」

「いや!へーかはなして!!」

「タマ、」

「タマじゃない!タマは、タマちがうの!タマかえる!ママのとこかえるの!!タマ、タマは……!!」

暴れるタマを抱き締めるヴォルキースの腕に、一瞬だけ力が入る。そして器用にもタマの身体をくるりと回転させ自分と向き合わせて、



言葉を叫ぼうと必死になっているタマの唇を、奪った。




「っ!?」

これに驚いたのは、勿論タマだった。キスくらいは、タマにだって分かる。事実、保育園の時に同じ年長だった男の子にされた覚えがあるからだ。だけど、その時は軽く唇が触れたか触れなかったかぐらい際どいもので、だからぐっと押し付けられ、まるで食べられてしまうとさえ錯覚してしまうかのようなヴォルキースのキスに、タマは頭の中が真っ白になった。

そして、ヴォルキースの後ろにルーベルトとノロの姿があって、二人とも目を丸くして自分たちを見つめていることに気が付き。

どうやって息をすればいいか分からずにさらに困惑して、もぞもぞとようやく動き出した。




「ん、ん~……!」

タマが苦し気に呻くと、ヴォルキースはその唇を放した。ぷはっ、とやっとこ新鮮な空気を吸うことが叶ったタマは、肩で息をしつつ呆然とヴォルキースを見つめる。

ヴォルキースは、いつもと変わらない表情で、そっとタマの涙に濡れた頬を包み込んだ。



「落ち着いたか、タマ」

「……おちついた」

正確に言えば、呆然としていて頭が混乱しているのだが、あんなに大粒の涙はすっかり止まっていた。




「タマ、お前はどうやら、この世界の住人ではないらしい」

優しく説明する、その声色に、タマはまたじわりと涙を浮かべる。そう、この世界に自分の居場所は……、とまた自暴自棄になりかけるタマに、




「だがタマ。お前が望むのであれば、我輩がお前を元の世界に帰す方法を探し出す。それまでは、我輩の側にいろ、タマ」

そう、ヴォルキースは言ってのけた。




「……で、でも」

「なにを不安がる?タマ。我輩を誰だと心得る。黒蒼の魔王ぞ。我輩に出来ぬと思うのか?」

「…………」

「必ずやタマ、お前が望む世界に戻してやろう。それまでは、我輩の側を離れるな。あと、」

ヴォルキースはタマの小さなおでこに、そっとキスを落とす。慈しむその動作と共に、タマが一番望んでいた言葉が落とされた。




「一人で泣くな。全て抱え込むな。我輩を頼れ、タマ」

魔王とは思えぬ優しい言葉に、タマはたまらずヴォルキースにしがみついた。



「ぅ、うぇ……!へーか、へーか!」

「なんだ、タマ」

「ぅ、っく、タマ、こわかった。さみしかった!こわくて、さみしくて……!」

「気づいてやれなくてすまぬ、タマ」

そんなことない。嗚咽に邪魔され言葉に出来ずに、ふるふると頭を横に振る。へーかが謝ることなんて、なに一つなかった。

だって、側にいてくれるだけで、こんなに不安だった自分の心が落ち着くのだ。



そうして、タマは気がつく。

ああ、この人の側にいたいと。ただただ純粋に、この人のことが、だれよりも、特別に好きなのだと。






そうして、タマは初恋というものを知ったのであった。

さて、タマがこの世界が異世界だと分かったところで、幼女編終了です!

もっと書きたかったけど、このままじゃいつまで経ったって恋愛できないですしね(笑)!

ということで、次回から時間は進み、タマは17歳になります。やっと恋愛小説を書いていきたいと思いますm(__)m


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