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真実

ちょっと短いですけど、分割します。

本日2話投降となるので、お気をつけくださいm(__)m




その違和感は、前々から感じていた。




ヴォルキースたちが住む魔王城は、鼠一匹入ることすら許さない最高の警備を誇る。そこかしこに立つ5メートル級のゴーレムたちが目を光らせており、陛下の私室が近い場所には、親衛隊のカロン、メロアの目がある。

空の利を誇る、烏天狗のメロア。

地の利を誇る、ガーゴイルのカロン。

この魔王城、ましてや、陛下の私室近くの庭園に入り込むことは困難のはずなのだ。






「かけた!」

「おお、見せてくれませんか?タマ様」

「うん!」

机に向かって何かを書いていたタマ様の手元を覗き見る。そこには、以前よりもずっと読みやすくなった文字があった。




「よめる?」

「もちろんでございます。陛下に、ルーベルト様、タマ様に……、私の名前もありますね」

「えへへ!」

嬉しそうに微笑むタマ様の側には、たくさん練習したのか黒く染まった紙束がある。その中に見慣れない言語が見えて、思わずその紙を手繰り寄せた。




「タマ様、これは?」

「これは、たまのなまえ!」

嬉しそうに話してくれるタマ様は、その紙の中に散りばめられている言語を一つ一つ教えてくれた。




「これは、まま、こっちがぱぱで、これがおとーと!」

「ほう……」

『そーたくん、みほちゃん、ふうかちゃん!』

「……」

それぞれの単語を指差しして教えてくれるが、この『魔界の叡智』と呼ばれる私でさえ解読できない文字が連なる。そんなことも気にせず、タマ様は楽しそうに解説をしてくれる。




「みんなの、なまえ!」

「っ、ああ、タマ様は字がお上手ですね」

「ありがと!ろべかるに、たまのとっておき、みせるよ!」

ドレスをまさぐるタマ様の手に、不思議なカードが握られている。光沢があり、可愛らしくデコレーションされたカードには、先程みた文字が書かれていた。




「これね、おとーとにあげる、たんじょーびかーどなの!」

「弟様に、ですか……。……そういえば、タマ様はどうやってここまで来られたのですか?」

「え?……よく、わかんない。たま、ままとあるいてたら、はぐれちゃったの。これをかって、きづいたら、ここにいたの」

「……そう、でしたか……」

しょんぼりしつつ答えてくれるタマ様の頭を撫でつつ、私はこの話に違和感を感じていた。

そう、魔王城は最高の警備を誇る場所だ。

ならば、一体タマ様は、陛下の部屋から一番近い庭園にどうやって入り込んだのだろうか?







夜。


「……違う。これも違う」

しんとした図書館の中で、中央にそびえる木から落ちる光を頼りに、静かに本を読み漁る。

淡い太陽のような光が、発光する木の葉から一つまた一つ降り落ちる。机や床に触れて、それらは音を立てずに弾けて空気に解けていく。




「……やはり、タマ様が扱っていた言語は、人間界にも、魔界にも、天界にさえも存在しない」

分厚い本を閉じて頭を抱える。ならば、一体タマ様はどの地域から、どうやって現れたのだろうか。ふと、私の頭に人間界の勇者召喚の儀式が頭に思い浮かんだ。

異世界から人間を呼び出す儀式では、いきなり人間が現れるのだそうだ。しかも、見たこともない服装をして、聞いたこともない言葉を使うらしい。

まさに、タマ様に当てはまっているではないか。




「……いや、でもまさか」

だが、それでしか説明がつかなかった。

タマ様が、別の異世界から迷い混んできたとしか。

元々、魔界は人間界と比べて魔力の濃さは5倍ほどある。なので、魔力の淀みが出来ることも少なくない。その淀みに溜まった魔力が、何らかの影響で暴発すれば、あるいは……。




「いや、そんなこと、奇跡に近い確立でしか起こり得ない」

ともかく、タマ様がこの世界の人間ではないことは、間違いではない。




そして、彼女が元の世界に帰りたがっているということも。









そうして一晩悩んだ末、ロベカルが向かった先は魔王陛下の私室であった。

タマには図書館に行ってもらい席を外してもらっている。黒蒼の魔王、ヴォルキースは椅子に座り足を組みつつ、ロベカルを神妙な面持ちで見つめた。その隣には、いつものようにルーベルトの姿がある。




「それで、話とはなんだ?ロベカルよ」

「……今から言う言葉は、私の憶測です。ただの予測であり、戯れ言でございます」

「かまわぬ。言え」

有無を言わせぬその一言に、ロベカルは一度深呼吸をした。そうでもしないと、今目の前に座るヴォルキースの威圧感に声が震えてしまいそうだったからだ。




「……タマ様は、恐らく異世界の人間でございます」

ヴォルキースとルーベルトの目が、声もなく見開かれる。それはそうだ、こんな突拍子もない話、いきなり信じられることなどないのだから。




「……ロベカル、それは本当ですか?」

「ですが、それしか可能性はありません。警備が魔界一強固な魔王城、その中でも親衛隊が目を光らせている陛下の私室近くの庭園にタマ様が迷い込むなど、異世界から突然この世界に現れたとしか」

「……それが、貴様の言いたいことではなかろう?ロベカル」

「……恐らく、タマ様は口には出さないものの元の世界に帰りたがっております。しかし、偶然この世界に迷い混んだタマ様が元の世界に帰ることは不可能です。このまま陛下のペットとして育てるというのなら、この世界が彼女の世界ではないことを教えぬ方がよろしいのではないでしょうか」

世の中には、知らない方がよい話などごまんとある。

小さなあの人間が、自分の立場と自分を取り囲む状況に絶望する前に、対策をとるべきだと、ロベカルは考えたのだ。



「タマ様が、彼女の御家族に会えなくなることを知る前に、」

優しい嘘をつくべきでは、というロベカルの言葉は、小さな物音によって遮られた。

はっと三人が物音のした方、ドアを見つめる。しっかり閉まった扉を見つめ、聞き間違いかと首を傾げるロベカルとルーベルト。だが、ヴォルキースだけは、その腰を浮かせて扉を開けた。



「タマッ……!!」





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