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魔王様、うちひしがれる



☆月×日



それは、青天の霹靂であった。





「タマ、へーかとおふろいっしょ、やめます」

「…………」

かつーん!と良い音を立てながら、我輩が持っていたペンが床に落ちていった。




「な、え、た、たま……?」

椅子の上で震えることしか出来ない我輩を見つめるタマは、神妙な面持ちのまま立ち上がる。




「きょーからタマ、ひとりではいる!」

「だ、だめだっ!」

考えるよりも先に言葉が出る。つ、ついに親離れなのか?タマはついさっきまで我輩とイチャイチャしていたからその兆候は無いに等しかったというのに。一体なぜ急に。

ハッ!もしや、我輩とタマを引き裂かんとする輩がタマに良からぬ事を囁いて、我輩とタマの関係に亀裂を入れようとしているのでは……?

ゆ、許さん、許さんぞ。きっとタマは我輩と一緒にお風呂に入ることを止めるかどうか、さぞかし悩んだことだろう。そして苦渋の決断をどこぞの輩に迫られたに違いない。誰だ、我輩のタマにそんな事を囁いたのは!

ルーベルト?ノロか?はっ、さてはあのガルドラとかいう畜生かっ!




「だってタマ、へーかとおふろはいるの、はずかしーんだもんっ!」

「……」

予想外の返答に、我輩はまたもや固まった。

なにやら恥ずかしそうに頬を染めるタマは、この話はこれで終わりだとでもいうように我輩の部屋を出ていってしまった。




「……陛下、今までタマ様と二人でお風呂に入っていたのですか?」

「……当たり前の事を聞くなルーベルト。そうに決まっておろう」

「ええ~……、ちょっと引いてもいいですか?」

今まで空気の如く言葉を発しなかったルーベルトが身を引く。何がおかしい。




「タマ様は陛下のペットといえど、人間の雌ですよ?なのに、一緒に入るというのは、倫理的にちょっと……」

「タマと片時も離れたくないという我輩の気持ちが分からぬから、貴様はそう言えるのだ」

憮然としたまま呟くと、ルーベルトは遠い目をした。失礼なやつである。

とにもかくにも、我輩は揺さぶられた心を落ち着かせる為にティーカップを手に取った。甘ったるいミルクティーが、荒れ狂った我輩の心を落ち着かせてくれる。



「ともかく、タマ様が嫌がっているのですから、一緒にお風呂に入ることは止めておいたほうが宜しいのでは?」

「しかし、タマが一人で風呂に入っていて溺れたりしたらだな……」

「それと、前から思っていたのですが、タマ様に侍女をお付けになったらどうでしょう」

パリーン!と、我輩の手から滑り落ちたティーカップが床に当たって砕け散った。

床に散らばった破片とミルクティーに気を配る余裕もなく、我輩は呆然としたまま疑問を口にする。




「……る、ルーベルト、何故そのような事を……?」

「人間は寿命も少なくすぐに成人となります。そうなる前に、女性の世話係りがいた方がタマ様の為ではないですか?そうすれば、タマ様が浴室で溺れる心配もありません」

「タマは我輩のペットぞ!」

「承知しておりますが、現にタマ様は陛下にお風呂を入れてもらうことを拒否しておられます。男性である陛下には言えないことも増えていくのではないでしょうか。そうなった場合、タマ様の近くに女性がいたほうがよろしいのでは?」

「ッ……!!」

思わぬ反撃に、ぐうの音も出ない。

こうして、タマに専属侍女がつくようになったのであった。







「タマ、右からアルテア、カシミア、ルルカだ。今日からタマの専属侍女となる」

「「「よろしくお願いします、タマ様」」」

我輩の膝の上に座るタマに向かって丁寧なお辞儀を披露する三人。タマはこてん、と首を傾げた。

人魚のアルテア、犬の獣人カシミア、三つ目のルルカは揃いのメイド服に身を包んでいるものの、タマは『侍女』というものが何たるかが分からない様子である。




「タマ、タマの世話をしてくれる人と思っておれ」

「タマの、おせわ?」

「そうだ。タマの言うことを何でも聞いてくれる」

タマはふむふむと顎に手を当て考え込む。そしてパッと顔を輝かせた。




「じゃあ、タマのともだち、なって!」

「と、友達、ですか?」

人魚のアルテアが首を傾げる。侍女に友達になってほしいなどと、普通ならば考えまい。が、タマは嬉しそうに瞳を輝かせて我輩の膝の上から下りた。




「タマはタマ!よろしく、ね!」

「は、はい!よろしくお願いしますタマ様!」

「よろしく、おねがいします……」

「タマ様、これからはお風呂はこの四人で入りましょうね」

「そーするー!」




な、なんたる疎外感。




女同士キャッキャと嬉しそうに談笑する姿を見つめながら、我輩は焦燥感に刈られた。

まずい、タマが、我輩のタマが、取られる……!




「タマ!!やはり我輩と風呂に入」

「へーかとは、はずかしーから、やっ!」

「フグゥッ……!!」

絶望してうちひしがれる我輩に、流石のタマもたじろく。タマは我輩が嫌がることは勿論しない、よい子である。自分の羞恥心と我輩のご機嫌、どちらを取るべきか悩んでおるのだろう。

床に這いつくばって低く唸る我輩を前に、タマはオロオロと我輩の回りを回り始めた。




「へ、へーか?どーしたの?ぽんぽんいたい?へーかくるしい?」

「ぐふっ、タマ、苦しいぞ。タマが我輩と風呂に入ってくれないから、死にそうである……」

「……で、でも……」

「あああ死にそう!我輩死にそうっ!」

「陛下、大人げないですよ」

タマを抱き抱えて、アルテアが冷めた瞳で我輩を見下ろす。ショートヘアーでつり目のアルテアは勝ち気である。人を蔑む目で見られると本当に辛い。

だが大人げないとは失礼な。我輩は至って本気である。




「タマ様が私たちと湯に入りたいと仰られているのです。素直に引いてください」

「き、貴様、もしや謀反かっ……!」

「なんでそうなるんですか」

冷静にツッコミを入れるアルテアが『さぁ、お風呂入りましょうねータマ様』と言いながら、タマを抱き抱えて部屋を後にする。

くそうっ!と我輩は思わず床を殴った。

タマが帰ってきたらおもいっきりイチャイチャしてやろうと心に決めた我輩であった。

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