夏祭り
初めて書いた恋愛小説です。
ちなみに作者は恋愛経験が無い上、恋愛小説を読んだこともない人間です。
従って、全てが作者のユートピア(理想郷)です。
そんなものでも良いと言ってくださる木星級の広い心をお持ちの方、閲覧よろしくお願いします。
「残念だったねぇ……」
先程から黙って俯きっぱなしの私の気を察したように、頼子は心底がっかりした様子で言う。
「うん……」
私の気持ちとは対照的な、明るい調子の音楽と太鼓の音が煩い程聞こえてくる。
「去年は来てたのになぁ。やっぱり高校生にもなれば、町内会の夏祭りなんて参加しないかぁ。うちらは高校生にもなって浴衣来て参上しちゃったけどね」
私を元気付けるように、おちゃらけた台詞を吐く頼子ちゃんは相変わらず優しい。それなのに私は沈んだ気持ちを隠せず、中途半端に引きつった笑顔を浮かべた。
道が2つに分かれたところで、私達はゆったりと足を止めた。
「ごめんねぇ……結局無駄足踏ませちゃったね。」
そんなことない、頼子ちゃんに会えただけで大収穫だよ。言いたかった言葉を口に出せず、とっさに曖昧な返事をしてしまった。
「ここからならもう帰れる?」
祭りに来るとき見かけたコンビニを見つけ、何と無しに頷いた。
「うん、ここまで見送りありがとう。ここからなら何とかなりそう。」
「そっか。気を付けてね、夏鈴は可愛いんだからナンパされないようにね」
「頼子ちゃんこそ。中学時代15回告白されたってギネス記録、未だに破られてないみたいじゃない」
私の突然の仕返しに、頼子ちゃんは不意をつかれたような顔をした。しかし、その表情は直ぐに安堵のものに変わる。
「やっといつもの夏鈴らしくなったじゃん。もっと早くその笑顔みせて欲しかったな」
「ごめんごめん。せっかく頼子ちゃんと祭り来たんだから楽しまなきゃって思って」
「気づくの遅い!!……でも本当、妬いちゃうよ。もはや憎いくらい」
柔らかかった頼子ちゃんの笑顔が急に冷たくなった気がして、思わずまた黙り込んでしまった。
「そんな極上の笑顔、私には滅多に見せてくれないのにさ……アイツなら簡単にアンタの心満たせちゃうんだろうね」
「そんな……」
また反論したいのに、巧い言葉が見つからなくて結局俯いてしまった。私の悪い癖だ。
涙が零れそうになってきて、でも顔を上げるのが怖くて。そんなどうしようもない私の心を静めるように、頼子ちゃんは私の頭に手を置きそっと撫でた。
ゆっくりと頼子ちゃんの目を見ると、目尻を下げさっきと同じように笑っていた。
「冗談だよ。次アイツに会ったら、この手で思いっきりビンタしてやるんだからね!!純粋な乙女をガッカリさせてんじゃねーよ、ってね!!」
私を撫でていた手を思いっきり握り、腰の辺りで構えた。
「それじゃアッパーカットだよ」
私も笑いながら言った。
でもきっと無理だよ、だってあの手はあんなに優しいんだから。
言いたかった本音を、そっと胸の内に閉まった。
「じゃーね。またメール頂戴よ」
頼子ちゃんが笑顔で手を振ってくる。
「うん。バイバイ」
私も同じように手を振り返した。
そして頼子ちゃんに背を向け、ゆっくりと闇夜へ足を踏み出した。
私は今、困り果てていた。先程流れそうになった涙が、もう一度ぶり返す。
“オレンジ色の屋根が見えたら右に曲がる”と覚えていたのだが、暗くて色など全く分からない。携帯のライトを使ってみようにも、電源が切れてしまっていた。この辺りは住宅街になっていて、同じような形の家がずっと並んでいる。
先程まで微かに聞こえていたはずの太鼓の音も、ぴたりと止んでいた。しつこくすら感じていた軽快な音楽も、今では堪らなく恋しい。祭りを催していた公園に戻ろうにも、今どこにいるのかすら分からない。
前にも後ろにも進めない。まさに“暗澹冥濛”そのものだ。
勇気を出して道を尋ねようにも人っ子1人通らない。インターフォンを押して聞いてみようにも、少なくても22時を過ぎる現時刻では迷惑そのものだ。そもそも人見知りの激しい私には出来るはずがない。
食べ歩きをしようと買ったはずのかき氷も完全に溶けきり、ただの黄色い水と化していた。渇き切った喉を潤そうと一気に口へと注ぎ込む。砂糖の甘さがじわじわと広がり、口内の砂漠化を促進させる。もう最悪だ。
方向感覚を失い、私は宇宙にいるかのような錯覚に陥っていた。
馴れない下駄に苛虐され続けた足は悲鳴を上げている。私はゆっくりとしゃがんで左足の下駄を脱ぎ、地べたに足をつける。夜だというのに、コンクリート十分に熱を帯びている。今日は熱帯夜だろうか。ぼんやりと現実逃避しかけていた。
「痛いっ!!」
突然の、チクリと突き刺さるような感覚が私を現実に引き戻した。
恐る恐る右足を上げると、真っ暗な夜道に存在を主張するかのように光る硝子の破片を見つけた。どうやら私はこれを踏んづけてしまったようだ。
「誰か助けて……」
悲痛な声に対する返事は無かった。
痛いやら暑いやら怖いやら……。沢山のマイナスな感情が混じり合って、パニックに陥っていた。この闇から、苦衷から抜け出したくて宛も無く走っていた。堪えていた涙も虚しく、号泣している。下駄が地を転げる音も消え、私の叫び声だけが木霊した。
涙で前も見えなくなり、闇雲に疾走していた。いや、この場合は“失踪”だろうか?でもそんなことはどうでも良かった。
――ドン。
突然何かにぶつかり、尻餅をついた。
涙と汗が混じり、ベタベタの顔を上げた。暗くてよく見えないが、人の形をしている。
「迷子かと思ったら迷大人かよ。姉ちゃん大丈夫か」
久々に聞いた誰かの声は、ずっと聞きたくて仕方なかった“アイツ”の声だった。
「ぁっ――」
泣き叫んで喉が枯れたせいか、予期せぬ幸福に驚殺したせいか、声が声にならない。もっとよく見たいのに、腰が抜けて立てない。
もどかしく感じながらも何も出来ずにいる私に、彼は手を差し伸べた。震える手を彼の手に乗せる。求めていた温もりに、再び涙が込み上げてくる。今日は泣いてばかりだ。
彼の手に引っ張られ、私はゆっくりと立ち上がった。
お礼を言うべくすうっと息を吸う。
「夏鈴!!」
いきなり名を呼ばれ、声を出し損ねてしまった。私の口からは空気だけが吐き出される。
「何やってんだよこんな所で!!?」
先程までの何の感情も読み取れない平淡な声に、明らかに狼狽の色が滲んでいる。
「覚えててくれたんだ……」
足の痛みも孤独の恐怖も、一気に消散した。ただただ嬉しくて、泣いたまま笑った。
「当たり前だろ!!だって……」
「どうして?」
続きが待てなくて、ついつい彼を急き立てた。
「鈍くさくて、気が小さくて、いつも泣きそうな顔してて」
「……」
「そんなお前がほっとけなかった」
嬉しくて仕方ないのに、涙が止まらなくて呂律が回らない。
「好きっ、だった。ずっと前からっ」
彼の顔がまともに見れない。また悪い癖が出てしまう。こんな時までだ。
「夏鈴」
名前を呼ばれ、そっと顔を上げる。彼の顔は思いのほか近くにあって、反射的に眼を瞑った。
その瞬間彼の唇が私の唇に触れる。
かき氷よりもずっと温かな甘味に、私の心は満たされた。
閲覧ありがとうございました。
夏祭りの帰りに浮かんだ突発的なネタです。
今後恋愛小説を執筆する時の参考にしたいです。よろしければご意見等、よろしくお願い致します。
お見苦しいもの、大変失礼致しました。




