第六幕 絆
街灯の明かりに照らされる道を三匹の猫が歩いていた。
「うっ……」
「ギンの兄貴ぃ…大丈夫ッスか?」
リンに受けた傷が痛み、少しよろめいたギンをカイジが心配そうに覗き込む。
「本当に大丈夫?でもあたしを守るために飛び込んだギンちゃん……素敵だったわぁ」
キョンが照れたように身体をクネらせる。
ギンとカイジはそんなキョンを白い目で見た。
「あんなに強いなら誰が助けに飛び込むか!」
そんな不満をギンは飲み込んだ。
リンたちに襲われ窮地に追い込まれた三匹だったが、キョンの強烈な一撃で全ては終わった。
キョンはリンを吹き飛ばすと、ギンの首をくわえて堂々とその場を去った。
その間、リンの子分たちに動ける者はいなかった。
困惑と恐怖で呆然と見送っただけだ。
その後、キョンの家でリンから受けた傷の痛みがある程度治まるまで待った。
おかげですっかり日が落ちてしまっていた。
「さぁ、ここまでくれば大丈夫ね?」
街境の橋まで差し掛かったときにキョンが言ってきた。
「すっかり世話になったな……」
ギンがそう言うとキョンはモジモジと身体をクネらせた。
「いいのよ……ギンちゃんとあたしの仲じゃない」
潤んだ目でギンを見つめる。
「どんな仲だっ!」と突っ込んでやりたくなったが止めておいた。
さすがにリンのようにはなりたくはない。
そのときキョンが橋の向こう、ギンたちの街の方をみて声を上げた。
「あら?何かしら」
キョンの見る方向に目をやると猫の集団が猛烈な勢いで走ってくるのが分かる。
「ん〜……あっ!あれタマの親分たちッスよ」
カイジが言うとおり、集団の先頭を走りギンたちに向かってくるのはタマキだった。
タマキたちは近付いてくると次第に走る速度を落とし、ギンたちの前で止まる。
「おまえたち…無事だったのか」
タマキは肩で息をしながらギンとカイジを交互に見た。
「タマキ……そんなに急いで何してるんだ?」
「バカヤローッ!おまえたちがリンに襲われたっていうからこうして仲間を集めてきたんだ」
もちろん聞いたギンにもそれは分かっていた。
しかし、嬉しさと照れ臭さからそんな聞き方をしてしまう。
「はは、年寄りが無理するな」
ギンが目を細める。
「なんだと!」
肩でまだ息をしながらタマキが目を吊り上げた。
「まぁまぁ、無事なら良かったじゃないですか」
タスケが慌てて間に割って入いる。
「結果オーライ、バックオーライってね?」
タスケに白い目を向け、全員がため息を付き首を左右に振った。
「すっかり仲間が世話になったみたいだな」
タマキがキョンを見る。
「いいのよ」
キョンもタマキを見る。
しばらく二匹はお互いを見ていたが、結局交わした会話はそれだけだった。
タマキとキョン…過去には争いあった二匹。
しかし、ある出来事をきっかけにキョンが街を離れた後も親交を持つ二匹。
そんな二匹には他の者には推し量れない絆があるのだろうとギンは思う。
タマキが振り返り頷くと、それを合図に全員が来た道を戻り始めた。
歩きながらギンは振り返りキョンを見た。
「伝説の猫か……」
その呟きが聞こえたのかカイジが寄ってくる。
「オレ言ったッスよね?家のママさんに去勢されるかもって……」
「あぁ…」
「オレもあぁなるッスかね……」
「……」
それには答えず、ギンは無言でキョンを振り返る。
視線の先では最狂にして最強と恐れられ数々の伝説を残しながら、去勢されたショックにより街を去った悲しいオス猫が、身体をクネらせ笑顔で力いっぱい前脚を振っていた……
深夜の廃工場。
ギンたちの情報により設計依頼主の顔と家は分かった。
キョンとの別れから二日。明日、明朝より作戦は決行される。
ギンは響子のことを考えた。
作戦の準備に追われ、結局は隣街へ行った朝から帰っていない……
心配しているだろうか?泣いているだろうか?そう考えたがギンは頭を振った。
必ず聖地を守る!そうしたら真っ先に帰ろう。
そう決意すると夜空を見上げる。
そこにほ満天の星空が広がっていた……